その31 護摩 (2)
全然関係ないですが
今日は竹中半兵衛が稲葉山城の乗っ取りをやらかした日です(藁)
すごい事件だったんでしょうね〜〜〜
長尾政景は自分の目の前で起こっている事がまったく理解できていなかった
面前での影トラとの対談
姫装束の女に
「くだらない男」
と罵倒された事で頭には烈火のごとく血がのぼり。。。。
そこから押し寄せた「怒り」の感情で呂律が回らなった事を隠すため
「態度」で自分の怒りを表そうと刀に手を掛けた時だった
「戦え!!!」
という影トラの大号令に続く
津波のような「怒号」で身体はまったく動かなくなってしまった
声の波にはっきり飲まれ
大男の身体は硬直し「戦」という海にただ愕然とする事で精一杯になってしまっていた
逆に影トラは「遊戯」でも始めるかのように満面の笑みを打掛を揺らした姿のまま見せた
蒼天は青く雲のない心
獰猛な牙の「天女」は空を泳ぐ
真っ直ぐに天をつかむほどに
のばされていた右手は白く美しい
まるで「誘い」。。。天への誘い(いざない)の指は
鋭く振り落とされた
突然の雷鳴は響き
雷は落ちた
「放て!!!」
影トラの声は事の成り行きを見守って気抜けしていた全ての者たちの心を裂いた
政景の怒声を凌駕する
甲高い声は彼の後ろに控えた五千の全軍を震撼させた
何かに「飲み込まれた」
政景はもはや意識までもが飲み込まれた状態になっている
清々しいほど澄み渡った青い空に「火」を伴った矢が真っ直ぐな輝線を描いて広がった
流星に
目を見張り
すでに
声は無く
ただ見とれてしまう
が
いきなり政景の身体をは引っ張られた
「老臣」国分が忠告の仲裁をいれる。。。などという生優しいものではなかった
力任せに襟首をひっぱられ馬から下ろされ
身体ごと地面に叩きつけられた
急に身体に走った
痛みで悶絶していたところを
「伏せよ!!殿を守れ!!!」
という
国分の老人とは思えぬような大声で政景の耳は痺れた
それでも「現実」が見えなかった
見えない
見えない事を振り払うように慌てた
「なんだ!!何が!!」
「楯!!!楯!!!」
自分の周り近習たちが楯を頭上にかぶせ火矢の防戦をしている
政景の上がった頭をまたも国分が抑え続けて指示した
「彦五郎!!!どこにいるか!!」
「ココにおります!!」
父親佐渡守に呼びつけられたのは政景とあまり年に差違ない男だった
見をひくく
火矢からの守りに楯をあげたまま走り近づいた
顔には
父親ゆずりの慎重過ぎる眉間の皺。。。まるで若さを否定するかのように入っている
その色黒の男は政景を守るように楯を構えながらも父の元にすべりこんだ
「殿を連れて後退しろ!!ココはわしが守る!!」
我を見失っていた政景はただ「後退」という言葉にだけ噛みついた
「待て!!下がらんぞ!!ココから一歩でも!!」
若さが止まらない
血の気だけが突然噛みつかれた自分に「怒り」を注いで走らせている
だが
それを止めるのが積み重ねた経験で戦う「老臣」の勤め
国分は政景の口を「強く」ふさいだ
「殿が指揮をとるためにさがらんでどうするのですか!!ココでまず部隊を立て直すのはわしの役目にございます!!」
諫言を大きく伝えるが
ふさがれた手をはね上げた政景は目をぎらつかせて吠えた
「影トラをひれ伏させてやる!!」
国分は
未だ事態の把握が出来ていない政景の襟首を容赦なく掴んだ
「戦はもう始まってございます!!気を確かに!!冷静になりなされ!!」
首根っこを食い込むほど強く掴まれたことでやっと政景は「戦」が始まっていた事に周りを見回した
自分が多くの近習に守られている事に
そして
身体はすでに汗だくになって「戦場」という状況に反応していた事に気がついた
自分を落ち着かせるために少しゆっくりとした動作で
額を拭う
目頭を押さえて
それでも
「声」が聞こえる
未だ砦の前で「指揮」を奮う影トラを睨みながらも我に返った
「下がる!!国分任せたぞ!!」
地べたに落ちて汚した身体を払い矢の雨の中を近習と後方へ走った
その後ろ
急ぎお供しようとした息子を父はつかみ止めた
「殿と共に峠付近まで後退しろ」
先に進んだ政景の後ろ姿を追おうとしていた「彦五郎」は驚いて切り返した
「後方に殿が戻り次第全軍で攻撃にうつるのでは?」
意見が終わる前に父親は息子の頬を音高く殴った
「たわけ!!敵の「挑発」に乗ってはならん!!」
そのまま目を怒らせたまま彦五郎に顔を寄せて続けた
「これほどにわれらを「呼ぶ」理由はあの砦の向こうに「何か」あるからだ!!わかるか?「戦」の潮流は今我らに向かって流れておらん!!」
殴られたまま
まだ目を白黒させている彦五郎の首を掴んで
「復唱しろ!!」
未だ状況の理解に苦しんでいる息子の額に己の額を打ち付けた
まるで
頭の中の指示を直接たたき込むかのように
彦五郎は
痛みで顔をしかめながらも返した
「砦の向こうには。。。何かがあるから我らを「挑発」している。。。です!」
「そうだ!!」
息子の返事を確認して砦に向かって指さした
「いいか。。。我らの位置からでは高台にある砦の向こうに「敵」がどれほどの軍勢をもっいるかさえわからない状況だ。。わしはココに前衛の二隊を残し様子を伺いながら防戦するオマエは殿を峠まで後退させた後「退路」を確保するのだ!!」
「後退後に退路を確保?」
またも疑問を挟んだ息子を父はまたも殴った
「復唱しろ!!」
大事な事を。。。
この混乱状態では息子は指示を忘れてしまうかも知れない
父は息子の身体に刻みつけるように手を挙げた
「父上が二隊を残し防戦。。我らは殿と共に後退その後退路の確保!!」
彦五郎もやっとその教え方を思い出したのか的確な復唱をした
「そうだ!!退路を確保するのは「栖吉」の出方が不明だからだ。これほどに「強気」な影トラ。。。栖吉が黙っているとは思えない。。峠を「敵」に抑えられたら我らの逃げ道がなくなる。。峠に方円の陣を敷くべし!!」
今度は父の言葉の後すぐに彦五郎は復唱した
「栖吉を警戒するために峠にて陣を組みます!!!同時に退路の確保を!!」
「良し!!」
慌てていた息子の目が「いくさ人」の面構えに戻った事をお互いが確認した
国分は掴んでいた息子の肩を放し政景の下がった後を追わせた
姿が見えなくなる前に
顔を砦に向け
己の仕事に意識を戻した
楯を自分で持ち大きな声で二隊に向かって叫んだ
「楯挙げ!!!火矢を防ぎつつ!!落ち着いて陣形を整えよ!!」
先頭に立ち上がった国文にあわてふためいて指示を飛ばし合っていた足軽達が背筋を正した
すぐに足軽頭の「室坂」が横についた
「どうでますか?」
小男の室坂は右頬の傷をさすりながらそれでも国分寄りに楯を並べた状態で指示仰いだ
「火矢がまばらになるまでに隊列を戻す事に専念しろ!!数では絶対我らが勝っているのだ!!そんなに長く矢を飛ばし続けることはできないハズだ!!慌ててはならん!!」
室坂に指示
前衛を揃えだした
やっと軍団は機能し始めたのだ
「たかだか。。これだけの事」
国分は唇を噛んだ
これだけの事に最初で躓いて大騒ぎだった
それでも突然「逃走」する者がでなかったのは国文の姿が前面に残ったおかげとも言い切れた
それほどに危険な混乱の状態だった
あの状態が回避できなかったのなら
砦に「呼び込まれる」までもなく多大な被害を出していたかもしれなかった
大きく息を吹いた国文は
弓の準備をしながら
目の前未だ砦の門も閉めず「火矢」の指示を続ける影トラを睨んだ
「恐ろしいヤツだ「肝」の座り方が半端じゃない」
肝を見比べる事ができるのなら政景など勝負にならないぐらいだと素直に思った
「仕寄りはどうします?」
「準備はしろ。。。だがまずは弓合戦だ。。勝手に前にでるな仕寄る時はわしの指示を待て」
年寄りの割りには歯切れのよい言葉で指示を出す
こんな時に息が上がっていては「恥」
そうだ「戦」は始まったばかりだ
「子守」から解放された国分の目は輝いた
「やってくれる。。。ひさびさに熱うなったわ。。。」
目頭と額を一拭い
出揃った弓たちを見た
「良いか?」
足下に控えた室坂も燃えていた
「揃いました!!いつでも!!」
楯手を前に弓を構えた国分は叫んだ
「全陣構え!!!」
その声に影トラが国分を見た
砦の前とその下の間
影トラは笑う
その笑顔に彼は
「戦はこうでなくてはおもしろくない。。。。」
つがえた矢に己の「意気込み」を吹きかけた
「放て!!!」
老将の怒号
守護代軍反撃の矢が飛び出した