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その30 鼓動 (6)

「時」は近づいている


私は静かに目をつむったまま支度に入っていた

半刻前

まだ薄暗い夜の峠を「政景軍」は越えた


私には足音までもが明確に聞こえてくるような静けさ


「かもじはどうしましょうか」


鎧姿のまま

私の着付けを整えていた猪が髷を落とし短くなってしまった私の髪を櫛で整えながら聞いた


「いらないよ。。。すぐに邪魔になってしまうだろうし」

「でも後ろにだけは着けた方が「女」らしくて良うございますよ」


打掛を着る

政景殿を私の「面前」に引き出し直接会話をするための「策」

そのために御婆様に「打掛」を所望し急遽だったが間に合わせた

「女であれば侮ってご自身で影トラ様に近づいて来ましょう」


私の評判は「戦働き」をする女

鎧を纏っていては「戦うこと」を意思表示してしまう事になり話し合えない。。。「会見」出来ないだろうと段蔵は言い

この「奇策」を採用したのだが



初めて「女装束」を纏う私が。。。。

猪は何が嬉しいのか色々と「余計な物」を着けようとしていた

すぐ横で「かもじ」を持って私の返事を待つ猪に。。。うつむいて渋々返事した


「じゃあ。。。。邪魔にならない程度で。。。」

「はい!」


打掛を着る前の最後の小袖に手を通し

「もし。。。。会見が悪い方向に動いたら。。。打掛はダメになってしまうかも。。。」


髪を整えながら少し浮かれた感じの

猪に小声で

「そんな事にならないように「事」が起こったらすぐにでも私が回収致しますわ」

テキパキと仕事をする手を止めた猪は

「ダメ」と声にこそ出さなかったが目で「汚しても怒りますよ」と。。。。


「戦」の全面に起つ大仕事なのに。。。と私は少しむくれて見せたが

それでも善処すると告げた


「わかったよ」


すべてが滞りなく整った時

近づくその時のために

祈りのために猪を下がらせた


下がった猪が開けた戸の向こうにざわめきは

這うように静かに

それでも熱く「戦」の時のために走っているのが聞こえた


戸口は閉じられ

それらの音が遮られて

私は

深く目をとじ己の胸の奥に向かって語りかけた


「闇」と話し合うために

今まで

今日まで


「兄と戦う事」で「闇の意識」に飲まれまいとしてきた


それ故か?「彼」は現れなかった

でも

やはり戦う事になった時


きっと。。。

この「戦」の時「彼」はやってくる

私の心にやってくる

ならばまずそれが何なのかも知りたい


私に「戦え」と告げる声はいったい。。。それは「義」なのか

それとも「炎獄」の誘いなのか

「味方なのか?敵なのか?」という事を



「これは正しいのか」


数珠を通した手を重ね

やたろーが弥平に作らせてきた観音菩薩の小さな姿に祈った


「これは正しいのか?」

深く

心の内側に話しかけた



「彼は正しいのか?」

隙間風に身体が震えた

頭に中

闇に浮かぶ炎が答える

閉じた目の裏にに火花が走る


「彼は正しいのか?」


もう一度


「政景殿が?それとも兄上が?」


私は理論的に答えを求めていたいつものように「曖昧」な返事は。。。今は絶対に欲しくなかった

私の中に住まう者よ。。。


「彼らが正義か?」


痛み

答えは的確だった

彼らは正しく義を成していない。。。それが私の「怒り」に繋がっていく

何故

疲弊した国民を助けない

何故

収穫という大事な時期を乱してまで「戦」を望んでいる


何故

私に敵意を向ける?


「オマエは不義か?」


闇は問いかけた

いな!!」


私は助けたい

私は

私と共に生き祈った者たちを助けたい



不義とは

このバカげた「長尾影トラは守護代の地位を狙って候」という風評に軽々しく心を躍らせた者たち

許すことはできない事




「許すな!!」



燃え上がった炎は熱い声を響かせた

身体の隅々に稲妻を走らせた

「許すな。。。。。許すな?。。。。。言うたな。。。」


そうだ

許して良いわけはない

そんなものが横行してしまうほど「惰弱」な治世を許して良いわけがない


確信。。。。少ない時間であっが「彼」に不義はなかった


この「闇」は私の敵ではない

私の中にある「闇の意識」は正しきを知る力になる者だ



「申し上げます!長尾政景殿率いる守護代軍およそ四千後詰めに千。。峠を越え砦前に表れました!!」


背中に使い番の声が

状況を知らせた

身体はふわりと揺れる


「わかった。。。」


落ち着いた口調覚悟は定まっている

使い番に声を返した


砦の中はみなが忙しく走り回り始めていた

朝の薄墨はその幕を引き上げ

闇は山の尾根に消えていった


「戦え!!」


闇は吠える

助けるために


「戦え」

「戦え!!」


響く闇の声に私は声を出して復唱した

全てを痺れさせていく声は続ける


「戦え!!」

そうだ義を守るために!!

「清浄」なる正しき取り戻すために!!


「戦え!!!」

声を荒げる




「あなたならそれができる」




頭の中

深紅の火花は煌々と美しく弾けた


同時に巻き付けていた数珠は切れ輝く瑪瑙メノウは星のごとく散華した


「百八の。。。。。」





「影トラ様!!!」


ゆらりと私に「闇」が溶け込んだのを見越していたかのように

実乃の声が呼ぶ

全ては整った

立ち上がる


すでに猪は近くに控えている

小屋の戸を開けた

眩しく差し込む朝日の下に歩を進める


並ぶ「栃尾衆」。。

戻らぬ大戦の日々は今始まる


私は大きな声で告げた


「共に戦え!!!私と共に!!!」と







朝靄の山中を越え「守護代軍」はついに栃尾領内先端にできた出城を望む場所に到着していた


「すぐに降伏の使者を送って来る事でしょう」


政景の馬廻りを共にする近習の若者は顎をツンとあげた顔で言った


峠を越える時に細心注意を働かせ

後詰めと本陣を置き歩を進める全軍に緊張を行き渡らせようとしている老臣達の慎重さとは反し

政景の周りは騒がしかった

この「戦」が終われば守護代の周りを固める若衆達の態度はあきらかに浮ついていた

必要以上に主君にさえずりはやし立てている


「あんな見窄らしい砦で何ができましょうや」

緊張のない緩んだ声


「大軍をこのまま突き進ませひと思いに「守護代様」の力を見せられたらよろしいのでは」

煌びやかに光る「戦」を知らぬ鎧


いや

少なくとも元服後「戦」には何度かでた事はあるだろう近習たちだったが

見たことのない大軍を率いた事で誰も彼もが舞い上がってしまっていた

それは

政景もかわらぬ事だった


「堂々と進むのだ!!」

声をあげ指揮する姿に口をすっぱくするほどに注意を受けていた事などすっかり消し飛んでいる

手をふり大きく自分わ見せる


「怖がらせてやる」


息を巻いていた

左右の陣を守り軍団を動かしていく「樋口」と「国分」

しかし道には何も罠はなく静かなものだった

「罠」などない。。。。

何度もの報告

今まで沈黙を守っていた「栃尾」に策があるとは考えられない



誰もが浮き足立つほどの規模での「戦」


この眼前に広がる軍団を見て

すぐにでもあの「戦鬼」の家臣だった本庄実乃が「生意気」な小娘「影トラ」をつれて

足下にひれ伏す事が望みだ


政景も顎をあげ己の尊厳を締めそうとさらに前に進んだ


昨晩

使い番からの知らせでは突き出しで作られた砦には粗末ながらも四つの「高井楼たかせいろう」が確認され栃尾が迫る「守護代軍」に対して「備えている」という見方は十分にあったが


「城人」の姿を多く確認する事もなく

作られた櫓は灌木のように枯れた台座を持った粗末な物である事もわかっていた

それがもともとの「備え」の砦であって

急遽抵抗のために「作られた」物とはあまりにも考えられない粗品だった



どちらにしても政景まさかげには「栃尾」に集められる「兵」がおらず苦肉の策としての

見窄みすぼらしい「張りぼて」の砦に

顎を突き出した口元だけを笑わせて見せた


峠までの行軍陣形で

二翼の二千の部隊。。自分を守る二千で十分に「脅し」は効いているとさえ思っていた


「あれは?」



近習の「勝六しょうろく」が指さした砦の頭を目の前にしたとき

冷たい風に

小さく揺れる「本庄」の旗とその両端に「長尾守護代家」の旗を見たときに

少しの警戒と

怒りが揺れた



「やる気か。。。。」


砦を睨みながら拳を強く握り替えした政景は唸るように家臣に言った

報告は受けた時から彼の機嫌は坂を転がるがごとく悪い方に下っていた

見かけ今は笑って見せているが


自分としては

妻の「優しい」心遣いを理解しその妹である影トラに「最大限」の温情を示してやった


「不遜な態度であります!!籾潰してしまいましょう!!」


政景の心を読み取ったかのように勝六が叫んだが

その手を「彦五郎ひこごろう」が止めた


しかし

近習の声は政景の怒りに十分な火をつけていた


目の前に挑発的にゆれる「守護代旗」

拳を馬具にぶつけて苛立ちを周りを囲む家臣たちに知らせながら

大きな体に艶やかな錦の具足を纏った政景は後ろに控える老臣に怒鳴った


「射かけろ!!」

大柄な男の甲高い声

それにあわせ慌ただしく同じ言葉を連呼する近習達だが

手をあげすでに「臨戦」を望む主に老臣は馬ごと近づくと声を下げて答えた


「まだです。。。いきなり仕掛けてしまえば名を落とされますぞ。。」

忠告「国分」は静かに滾りを抑えた口調で

ココまで大きく「守護代旗」をふり「次期守護代」を宣伝するようにやってきたのだから

いまさら「勝ち急ぐ」必要など。。。

登り懸かった血の気を抑えた

樋口の言葉を政景は受け入れ

使者を立てようとしたときだった



「殿!!あれに!!」


ざわめきが波のように広がる

若い使い番が示す指の先を政景は見た


目線の先

砦の門は開かれ現れたのは。。。。


赤い打掛に身を包んだ「影トラ」であった

炭化おにぎり(藁)


ちゃ〜〜後書きからコンニチワヒボシです

ものすごい久しぶりに後書きに登場です(藁)

新春しばらく落ち着いたペースで書いてきましたが今度は年度末という波に溺れそうです



社会人辛い


そんな中ニュースで

「御館の乱」のあった屋敷跡から「炭化したおにぎり」が発見された!!!

というのを見ました


え〜〜と

上の乱は直接「トラ」には関係ないのですが

間接的には大きく関わった乱で。。。。


というか

跡継ぎ争いの舞台となった場所ですよ!!

そこからおにぎり発見!!!

すごいですね!!びっくり!!



やっぱり最後は屋敷ごともやされてしまったからかおにぎり「炭化」していたなんて。。。。

しかし!!!

しらべた結果このおにぎり君「銀しゃり」だったそうで

当時のお米って「雑穀米」っていうのが定番だったのに

すでに!!!トラの次代にはしっかり「白米」(注,完全な白米は技術的に手間がかかるから当時の米の主流は玄米。。または胚芽米に他の五穀がまざった物だったのではと言われている)

メインで食べていたって事ですか?



ぬ〜〜やるなトラ(藁)

やるな米所(越後は後の新潟県)


ところでこまごまと

当時の越後の石高なんかをしらべているのですが

当時はまだ信濃川が。。。。ぐるぐる蛇行しまくっていた(爆)時期が多く

越後は沼地の多い土地だったようです

だから米だけでの「年貢」計算の上での内政が出来上がっていたとは思いがたいです


ですが

トラの頃。。一般的に上杉謙信は「戦」上手の内政下手と言われていますが

経済政策としていろんな事に力を入れてます

事実

金持ち大名だったトラ

朝廷に何度も貢ぎ物もしているし「青そ」の売買や塩や米などの北国貿易

そういう自然界の貿易物資に加え「金山」を持つという鉱物資源などにも恵まれて

「戦」に必要な「戦費」に困った事はなかったようです



だから

きっちり精米された「銀しゃり」だったのか?(藁)

質素な生活してそうなトラ。。。お米は真っ白だったのか?

知りたい(藁)


そんな事を考えた午後でした



ではまた後書きでお会いしましょ〜〜〜〜

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