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その28 祈り

あけましておめでとうございます!!!

今年が皆様にとって良い年である事を祈ります!!!

ヒボシ

ジンは「寅」の刻に禅を組み心を穏やかにまとめていた

心穏やかに。。。。

少し前までの喧噪からまず自分の気持ちをまとめる作業に入っていた




「オマエに何が出来る?」


ジンの申し出に真っ先に答えたのは段蔵だった

焦燥しきった表情に苛立ち

いつもなら誰よりも皮肉屋である段蔵に「余裕」はなかった

そのままジンに殴りかかろうとするほどに


その勢いを止めたのは実乃だった

段蔵の肩を押さえ真っ直ぐジンに聞いた


「動かせるのか。。。。」



重臣として幾度もの折衝を重ねたが影トラの心を動かす事は出来なかった実乃

万策尽きた状態の今

最後の一手として陣江を見ている


「この戦が避けられないのなら。。それでも。。生きなければならないのだから。。」



今やっとまとまった気持ちをうまく実乃に告げる事はできなかったが

真っ直ぐな目で


「とにかくトラと話しをさせてください」


頭を下げた


実乃は何も言わなかった

段蔵にも何も言わせなかった

ただたくさんの目が陣江を見つめ。。。。「祈る」想いが集まっていた

その中をゆっくりとあるいた

陣江は「気がついた」のだ


弥太郎に抱かれ泣き続けていたつやの頭をかがんで撫でた

縋る目線は。。。ただただ。。。。


「祈って。。。。つや」


悲しみに濡れた瞳を優しく指で拭って立ち上がった

もう向かうべき所を目で見据えていた






薄明の近づく刻

私は何にも祈らずただ静かな闇の中に心を置いていた

「戦え」

心はいつもそうささやく

まるで悪鬼の巣くう心をもつ私


そんなものに身をまかせ戦っていいわけがない

相手は「兄」だ

それが許されるのなら。。。。

私の心に「義」はない。。。。



「義」は無い

なのにココの全て

栃尾の全ての者たちは。。。。。「苦しんでいる」?


どうして

どうなっているのか

どうしていいのかがわからない


私は虚ろに静かに燃える灯籠を眺めていた




「トラ。。。。トラ。。。。」


聞き慣れた声

草木に朝が訪れぬ刻に外から私を呼ぶ

すぐにわかった


障子に手をかけながら答えた


「ジン。。。。。」


開けた戸から入り込む冷たい風

山を通る冬の気配が私の身体を震えさせた


「ジン」


目の前にたったジンは作務衣姿のまま近づくと言った


「臭うぞ」

鼻をつまみ手で仰いで見せた

「なんてかっこしてるんだよ」

軽口のまま


私の姿は屋敷の中にいたとしても破れ坊主のような「なり」になっていた


「何しに来た。。。」

私は「臭う」という言葉に反応して自分の着物を改めたが

何の意味もなくジンがココにきたとは。。。すでに思えなくなっていてそのままきつく質問した


「別に何も。。。会いに来たんだよ」

私の反応を意に介さない様子で両手を揚げると返す言葉で聞いた


「トラは何やってるの?そんなかっこで」



「私は。。。何もしてない。。。。」


言い返されれば。。。何もしていない

ただ虚空を眺めるようにしか過ごせなかった昨日の夜

私の中の考えは何もまとまらずただ「迷い」の中にいた



「祈らなかったのか。。。」

「何に祈るんだ?」


不信心な答え

息が詰まってしまっている


急に怒りが私の中に湧き上がった


ジンの後ろに気配。。。。


色々な者たちが私の「説得」に来たがついにジンをココに来させた。。。

今まで会う事だってままならなかったジンをココによこしてまで私に「戦」をさせようとしている者たちの心根に腹が立った


「それで。。。。何しに来た?」


唸るように低く言う

ココから早くたちされ!!

ココからいなくなれ!!と薄ら暗い衝動が拳を硬く握らせ私は吠えた


「戦しろって!!!戦しろって言いにきたんだろ!!誰に頼まれてこんなところまで上がってきた!!」


勢いジンの真ん前に立った

生意気に私より背の高いジンの顎先に怒鳴ったがジンは「努めて」落ち着いたように首を振り


「どうして戦出来ないんだ?」

どうしてだと。。。。。

思いは言葉より先に手に走ったそのまま目の前にあるジンの顔を殴った


「兄上と戦しろと。。。そんな事あっていいわけのない事に。。。オマエにはわからないのか!!」


もう一度振りかぶった私の拳を受け止めたジンは答えた

「オマエの気持ちは。。。多少はわかるけど「戦」しろって言いに来たわけじゃない!!」


ジンの大きな手が私の腕を掴んだまま顔を寄せた

息がかかるほどの位置で口元少しの血を流しながらもそれにかまわず


「戦しろなんて。。。。絶対に言わない」


目と目を合わす

嘘のない目

それは。。。わかる


身体を振って掴まれた腕を取り戻した


「じゃあ何しに来たんだ?」


少しだけ離れたお互い

ジンは私に殴られた口元を手で拭い


「助けたい。。。。。とは思わないのか?」


鼻で笑った

卑屈に自分を表す方法しか私に出来なかった

そんな事を今更言われなく立って。。。「なんとかしたい」という気持ちがいつだって渦巻いていた

でも

それが兄を討たなければならない「戦」だなんて。。。。



なんたる「不義」でしかない行為だ


「助けたいさ。。。」

唇を噛みしめながら小さく答えた


いきなりジンは目の前にズイと近づいて大声で言った


「だったら助けろよ!!」


それは私の怒りの火種にさらに油を注ぐ行為

「だまれ!!」

襟首をヒッ捕まえた

力任せに拳を揚げて殴りかかった

その手を今度はジンが捕まえた

捕まえられた事で身体を絡めそのまま足を引っかけ蹴倒した

思い切り仰向けに倒れたジンに乗りかかって今度こそはずさぬ勢いで振りかぶった


「それが簡単にできるんだったら!!!こんな事に!!!」


乱打

当たる当たらないなど関係ないとにかく

叩かなければ「怒り」を納められない!!

口から血しぶきを飛ばしながらもジンは「反抗」した

もみ合うようにお互いの身体を引き離さぬように


「何を助けるんだ!!!言ってみろ!!!」





「祈っている者を助けろ!!!」




「祈り」。。。。。

私の中の怒りに突き進む衝動が止まった

方襟を捕まえられたままのジンの手が私の肩を覆う


「難しい事じゃない。。。ココで「救い」を祈っている者を助ければイイ」


止まった拳

初めて周りを見回した

屋敷の周りに感じた人の姿がやっと視界に入った


多くの者たちが見つめていた事に気がついた

侍女たち

おせん。。。多英。。。。猪。。。直江の妻もみな各々の姿で

胸を押さえたり膝をついたままの状態で。。。。


「祈っている。。。。?」


首を振った

平伏している実乃。。。。金津。。。段蔵。。。やたろー


「祈っている者を助けるのは御仏の心に添うも同じ事。。。違うか?」


救いを求める祈り

たくさんの手が。。。手を合わせている


でも。。。私には





つや。。。。。

真ん前にいる小さな花

ひたむきで正直な心

震える手を一心に合わせた姿


「宝あげるから。。。みんな助けて。。。」


「助けて。。。と。。。」

ジンの手が私の頬に涙を掬う

「助けるんだ。。。。オマエならできる」


「あなたならできる」


あの言葉がかさなる混乱がうち続いた「越後」の中で死していった者たちの願い「祈り」は

夢の中。。私に迫っていた手が折り重なった手が。。。

しっかりと会わされていた事に気がついた


祈る者たちが救われないのだったら何のための「御仏の心」か。。。。。


そんな事に気がつけなかった

御仏に深く仕えた私がそんな大切な事に気がつけなかった

これほどに民草に苦痛をもたらしている「兄」が「守護代」が正しいのか。。。

などと

愚問だ


「助けて。。。おトラ様」


つやの言葉がこだまし

純然たる祈りは届いた



心に染みいるようにそれは届いた

涙はもう止まらず


私は叫んだ

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