その5 朝焼け
栃尾城にやって来てすぐに色々な事が起こった
私がココに来たことを見透かしていたというように
いわゆる「挑発」というのが
門前に
何本もの「矢」をいかけられていたのは
ココにきた当日の夜
翌朝の出来事だった
それはわかりやすく
何本もいたずらに連ねられていた
次の日には城から見える位置で「焼き討ち」があった
城下より遠くに見える
小高い丘の向こうではあったが
その煙は黒く
その匂いは。。
言い難い
「肉」の焼け爛れる吐き気をもよおすものだった
とても気持ちの悪い出来事。。。
陰鬱な気持ちと
怒りと不安。。。
城の近くで起こる「危機」
続いて三日目の朝
騒がしさに城壁から下を見下ろした
栃尾の城は急な坂をともなう山城だから
下をみれば何がおこっているか?
すぐにわかる
外塀の近くで数人の人だかりができていた
ジンと一緒に急いで降りていくと
槍を担いだやたろーの後に数人の老人とススまみれになった子供たちがいた
「どうした?」
やたろーはいつもの癖でゆっくりとした口調で答えた
「家を焼かれたって。。。」
子供達はみんな泣いている
すぐに解った
「焼き討ち」だ
昨日のか?
胸がざわついた
気持ちがはやる。。。
私が来たことを良く思っていない者たちの仕業だ
何故こんな事を?
栃尾までの道中でも
何度となく
この結果ともいうべき「死」の姿を見てきた
「倅と娘を殺されました。。。」
私より
いくつも小さなからだになってしまった老夫婦が
殴り倒された生々しい怪我を老婆に抑えてもらいながら老人は言った
その目は打ちくぼみ
涙は見えなかった
嗄れたその顔は疲労と苦しみで澱んでしまっていた
悲しい黒い色の目だ
泣く子供たちを
やたろーがしゃがんであやした
子供達。。。。
「おかあちゃんが。。。おかあちゃんが。。。」
口々に親を呼ぶ子供達
中には何もはおらず裸,裸足の子供もいた
幼い少女が私の袖を引いた
指をくわえ何を言うわけでもなく
汚れた顔のまま
きっと
ずっと泣いていたんだ
顔じゅうに涙を流したんだ
その後にススが付きドロドロになってしまっている
なんて事を。。。。
髪をなでた
小さな身体
その目で両親の「死」を見た?。。
泣きはらしたであろう目は空虚だった
心が?
身体が?
何かに締め上げられるような「痛み」が。。。
そして
どこか
どす黒い感覚が。。。
どうしてこんな事が許されるの?
「やたろー中に連れて行くんだ!!飯の支度と湯の用意を!」
城から出てきた侍女たちにも声をかけた
「怪我を見て!子供達を。。」
背中をまるめ
よろよろと歩く老人たちと,子供たちを座敷に連れて行くように言った
こみあげるものは
悲しみ。。。。
いや
悲しみを越え「怒り」がわきあがった
「これが武士のする事か?」
「三条衆ですな。。」
いつのまにか隣に実乃が立っていた
むきかえって聞いた
「こんな事がいつも?!」
実乃の顔にも深い悲しみがでていた
そして「苦痛」が眉間に深いシワとなって出ていた
耳に聞いていた事が目の前に現れた
師の言葉がうかんだ
「現世の事も学ばねば。。。」
こんな
非道の世界をどう学べと?
あの子たちの目を見て「何」をしろと?
「これがこの地の現状です。。。」
もう一度実乃を見た
苦しんでいる?
「長い間,父君為景様が「越後」という国を抑えていらっしゃいました。。。今その枷がはずれそうになっているのです」
「兄が。。。」
言葉につまった
寺にいたときはこんな事,気がつきもしなかった
兄が治世を請け負い
「良く動いている」と信じていた
だけど
現実は違った
それはもう十分すぎるほどわかった
この地は「死」であふれている
死を作り出す者たちが横行している
守護代はそれを止めることがまったく出来ていない
「現守護代様の力は,この中郡を抑えられていません」
実乃はつづけた
「奴らは「長尾」の力を試しているのです」
「試す?」
心に怒りの炎が揺れる
「栃尾に来た「影トラ様」をどれほどの者と。。。。試しているのです」
「何故?」
実乃は言葉を止めて
屋敷に導かれる
先ほどの子供たちを見ながら
「これ以上あのような子たちを増やさぬように戦わねばなりません」
どす黒い「意志」が渦巻く
私は
父を。。。
まったく憶えていない
やたろー達の罵倒した「非道の戦鬼」とも言われた父は
間違ってはいなかった?
父のした事が正しくてそれを継がなければならない
今「大切」な事は。。。
やらねばならぬ事は。。。
わかっていても。。。
私は落ち込んだ気持ちでいっぱいになり,実乃に背を向け
とぼとぼと城に歩いた
ココに来たことで「守護代,長尾」の旗がたった
なのに争いが止むことはない
「争いたくない」
まだ心が定まっていなかった
「争い」
それは
あまりにも御仏の教えとは違う別世界だ
なのに
私の
心にとぐろを巻く黒い意識は
告げる
「戦え」と
気持ちが悪い!!
額が割れんばかりに痛む
何故に領民を苦しませ
平穏なる「統治」を拒む
何故に長尾を拒み
争いをしかけるか
ドロドロとした意識がいよいよ明確になりはじめている
門をくぐったところで
さきほどの女の子がしゃがんでいた
「これ。。早く屋敷にいきなさい。。」
手を引こうと差し出すと
首を振った
「かか様が来てないの。。。」
涙がこぼれた
まだ
「死」がわからない?
彼女の目が城門の外を見ている
戻らない「母」を待っている
しゃがんで手を引き
その手に合わせるように自分の手を重ねた
「御仏の元に。。。」
不思議そうな顔をする少女
「かか様は。。。」
「浄土に導かれる。。。必ず。。」
背中を押してあげた
「さぁ湯につかって。。顔を綺麗にして。。」
見あげた空は見事な朝焼けだった
涙は止めどなくこぼれた
でも
わかった
私がやらなければならない事が
もはや躊躇などしていてはいけない
現世で行われている蛮行を止める事が
私の仕事だ
兄の手が届かないのならば
代わってやるしかない
あんな凄惨な光景を
切られるような痛みをだれにも。。。あの幼女にも
二度と味合わせたくない!!
「闇」は来た
心に真っ黒に降り立った
「試す」だと。。。。
その蛮行を!
その卑下したる行いで私。。。試すとは!!
絶対に許さない
私は向き直った
栃尾の家臣たちが立ちが揃い
実乃が待っている
みんな私の言葉をまっていた
そうだ
ココでするべき事
私に科せられた仕事
私は少し笑った
そして静かに言葉を発した
「実乃。。もはや許す事はない!!攻勢にそなえよ!!」
戦おう
争おう
この民草のために
心に誓った
メラメラと燃える「黒い意志」に私は従った
毎度
後書きで言い訳してます
とにかく
書きたいという気持ち先行で書いてはいるのですが
やはり
とびとびな部分があったりで
そのたびに「修正」をしています
毎日
一から現状の最後の章までを一通り読みます
修正するために。。。
筋書きあっても足りない事は山ほど。。。
がんばっていきますので
優しい気持ちで見てやってください
修正後の方もヒマがあったら読んでやってください
より「わかりやすく」なっていれば幸いです