その26 激流 (2)
栃尾の屋敷の中は朝なく夜なく騒がしくなってしまっていた
私はそういう音で「事態」が相変わらず収束されていない事に気がつく
兄上からの手紙は一行に届く気配はなかったが
そういう物を待っている。。。。という態度が事態を悪化かさせているようにも思えた
良い方に物事は進んではくれていない。。。
私が「覚悟」を示さなくてはいけない
ここ何日かの読経でようやく私は一つの結論に至った
「覚悟」だ
小太刀を取り出した
「栖吉虎姫」
母上が願う安住がこんな事ではなかったと。。。
こんなふうに越後を騒がす事を私にしろと。。。そんな風に思ってこの小太刀を渡されたわけではなかったであろうに。。。
きっと今頃
心を痛めておられる。。。。
私は。。。。ただ越後を。。。「良いこと」と信じていた
涙がこぼれた
何度も思った。。。。「間違った」
何度もの「戦」は
おりかさなった私の「間違い」だった
兄上が望んでいた「平安」は「戦」によってなされるものではなかった
だから私の「戦」は間違っていた。。。
ただ
ただ
越後に住む全ての者達に「平安」が訪れる事を願い走り続けた。。。「つもり」だった
だけど
「戦」に行くのは私の「修羅」の心のなせる業
敵の死を笑い
その首を取り相手を討ち果たす事が「闇」にとらわれた自分を喜びに導くという。。。
修羅道の「鬼」だ
そうなる道にしか繋がらなかった
これほどに血にまみれた姿をみれば
その姿を人がみれば「謀反」の気を感じるのも。。。否定はできないのかもしれない。。。。
手の甲で涙を拭った
何度も祈り何度も。。。泣いた
袖も涙で濡れて冷たい
それでも「越後」を思って戦ったのです。。。
こんな苦しい気持ちが兄上に届いてくれる事を信じていたが
そういう他力本願な思いでは。。。きっと許されない事だ
手紙のお返事がくる前に
その前に。。。。。「覚悟」を示さなければ。。。。
小太刀を抜いた
心はもう決まっている
刃を高くかかげた
「陣触れがでた?」
朝餉の膳を前にした実乃は
挨拶もせず
飯の時さえも惜しみ自分の元に参上した段蔵に顔を近づけて聞いた
「春日山からの正式な使者が来るのは一月以内。。。その前に直江様からの使いが来るハズですが。。。」
さしもの段蔵の顔にも焦りが見られた
いつものように斜に構えた
不敵に距離を保った話し方はしなかった
それほど切迫している事は。。。。実乃にもわかった
影働きで段蔵が使っている者たちが栃尾城総構えを出入りしている
最近は二日に一度の頻度で「報」は届けられていた
「それはいつ出た話だ?」
実乃は膳を遠ざけた
もはや悠長に飯など食らっている場合ではないという態度が勢いよく膳を飛ばし箸を転がした
二日前に無かった「報告」が
突然現れたのだから当然飯ごときで話しを中断など出来ない
「少なくとも五日前には内々に発されていたものと。。。。」
「五日。。。。」
まったく急だ
「誰と戦う。。。。?」
実乃は。。。わかっていても自分に問うた
「栃尾」が。。。。守護代様にとって目障りなものになり。。。それで。。
頭に廻る危機。。。
「明確な「相手」や「真意」については直江様の使いを待つほかないか。。」
間を持たそうとする実乃に段蔵は首を振った
「相手は守護代様です。。。。そして「敵」は我らと定められたのです」
影の働きをする者である段蔵は「曖昧」な事は言わない
実乃が栃尾の当主としてあるまじき「目を反らそう」とした事に素早く釘を刺した
「すまぬ。。。」
実乃は大きく首を振った
逃げられぬ現実と向かい合うために
しかし心に走る波を抑える事はさしもの「熊」実乃でも容易ではなかった手は転がした箸を掴み忙しなく床を鳴らした
「戦の支度はせねばなりません」
段蔵は冷徹だ
必要である事を明確に相手にたたき込むために無駄な言葉はしゃべらない
「わかった。。」
「栖吉はどうでますか?」
緊迫する間
動き出した「戦」に立ち向かわなくてはならない
まだ落ち着きを取り戻せない実乃に
段蔵は段蔵なりの支度があるからか矢継ぎ早に聞いた
「栖吉は。。。今のままでは動かん。。。。」
飛ばした膳に残った湯を啜って実乃は段蔵に答えた
「影トラ様が先陣に起たねば栖吉は動かない」
顔をつきあわす
段蔵はズイと身体事前に出た
「動かさねばなりません。。。。このまま「逆賊」として死にますか?」
実乃は箸をへし折った
祈るように手を合わす
「このことまだ誰にも言ってはならんぞ。。。」
時間は。。。味方してはくれない
守護代からの「陣触れ」であるのなら
いくら実乃が個人的に口をとざしたとしても。。。三日もしないうちに「金津」や「弥太郎」に知れてしまうだろう
しかし無用に城内に騒ぎを起こしたら「まとまり」はすぐに無くなってしまう
段蔵は無言で了解した
「影トラ様は?」
督促の言葉
もうわかっていた
言われるまでもない。。。。。
この「戦」は「影トラ」無しでおこなってはいけない
栃尾はここ近年の中では「越後」で一番戦をしてきた者たちだ
強さにおいては
守護代軍の「数頼り」などに弱気になったりはしない
だが「御旗(みはた」無しでは戦えない
「逆賊」。。。越後に対する「逆臣」となってしまってでは話しにならない
「御旗。。。影トラ」
「御旗」が必要
現守護代に立ち向かうのは「強き男」の血をもつ同じ長尾の「影トラ」でなくては
今まで栃尾に参勤した豪族。。国人衆を従わせる事ができないどころか
周りから一斉にそっぽむかれ滅ぼされかねない。。。
強き当主を求めていた実乃たちの
これは「望んでいた」戦い
しかしあまりにも
激流の始まり
実乃は腰をあげた
段蔵も立ち上がった
「わしが今からお話しをする」
実乃の顔には「覚悟」があった
「戦」はもう止められないのだ
「影トラ様。。。。。。」
いつもの時間を少し過ぎていた
実乃の声が部屋の前から私を呼んだ
「実乃。。。。ちょうどよいところに来た。。。頼みがあった」
私は腰を上げ部屋の戸を開けた
廊下に平伏したままの実乃の前に包みを置いていった
「これを守護代様の元に届けて欲しい」
「もはや守護代様にそのような。。。。。」
いつもより怒った口調で顔を上げた実乃の声が止まった
私を見て目が大きく開かれている
「覚悟を示した。。。私は仏門に帰る」
私は髷を切り落としたざんばら頭をなでて言った
こうする事が必要だっと「信じていた」
実乃は目の前に置かれた包みを開いた
私の櫛が入った手紙
「何故。。。。」
実乃の手が震え包みを胸にあてて吠えた
「このような事をされても「戦」を避ける事など!!もはやできません!!!」
そういうと櫛と手紙を投げ捨てた
「守護代様は昨日陣触れをだされました!!「栃尾討伐」の触れをだされたのです!!」
心に亀裂
息が止まる
投げ出された私の髪を見ながら
「嘘だ。。。。」
やっとで私は声を出した
「嘘ではありません!!戦うしかないのです!!!」
実乃の目を見た
涙を流す真っ赤にそまった顔
「どうして。。。」
胸を締められる痛み
なんのご返事もいただけなかったのに。。。何故討伐。。。。
願いや祈りごっちゃごちゃになった「想い」が壊れて闇に流される
呆然としている私に実乃は詰め寄っていった
「我ら栃尾衆は影トラ様の元。。戦わねばならないのです!!!」
耳を押さえた
何が起こってる?どうしてそんな事になった?
「誰と戦うんだ!!!!」
髪を振り乱すように頭を振った
涙が滝のようにあふれ出る締め上げられた心が破裂した
「誰と!!!誰と!!!誰と戦うんだ!!!」
嗚咽に押し出された喉を通る言葉はすり切れている
髪を掻きむしり地団駄を踏む
混乱。。。と。。。こみ上げるもの。。。
実乃は部屋に逃げようとする私の足下に迫って言った
「守護代様とです!!」
真っ直ぐに私を見る涙の目
これが「真実」なのだと
よろけた身体が戸にあたる
「守護代様?。。。守護代様と?何で?。。。。」
兄上。。。。。
縋る実乃の手を払った
部屋に走り戸を閉め
そのままくずれ膝をついた。。。。
「嫌。。。。嫌だ!!!」
私は泣き叫んだ
いまさら。。。思い出編(月華と二人静)の人物評(藁)
ちゃ〜〜す後書きからこんにちは〜〜ヒボシです
師走です。。。
私もいつになく無駄にいそがしくなってなかなか更新できませんでした。。。
改訂,修正もぼちぼちやってますので色々と混乱してたり(藁)
とのあえず
月華と二人静ではかけなかった登場人物たちの紹介をいまさら書いておきますぅぅ〜〜
鈴姫(実様)
長尾能景と格下の側室との間に産まれた美女(藁)
女の子だったのにもかかわらず可愛がられ「教養」を与えられたのは
超美女のうえ気だての優しかった母のおかげ
その溺愛が都の女御との交友に繋がって「舞」の世界に繋がるのだが
身の程以上の物を得てしまっていた事に気がつけなかった事が不幸の始まりだった
御簾に隔てられた間がらではあったが
実は「晴景」のおかーさま。。。。それが虎御前との因縁の元でもあった
長尾為景
能景の無念から窮地に立たされた長尾家を路頭に迷わす事なく纏め上げ
「下克上」によりついに守護を追い落とした
一代英傑
だが
本心から戦ばかりを願ったわけでない。。。戦わざる得なくなった人でもある
孤高の心の支えとして「女」を抱いた
その一人に「鈴姫」がいたが
これは鈴姫の舞に「武」を見たからでもあった
要は「縁起」でもあったがその軽はずみな行動(注,本人的にはそんなつもりはなかったし実は鈴姫に好意があったわけでもなかった)の結果。。。
虎御前の事を愛していたかは不明。。。。。
おトラ(虎御前)
栖吉長尾の家長の突然死によって存続の危機にあった一族を救うために為景に嫁したおトラ
敵の元に自らの身を差し出すという
最悪の条件下での結婚に何を見いだしたか?
発言からすると為景の事を愛していたようだが
「落胤」である晴景の存在を知ってしまった事で彼女の。。。想いが狂ってしまう
復讐のための「トラ」なのか?
現在も不敵に春日山に君臨する
品
鈴姫侍女
現在は実様付き女房
能房の襲撃で下郎に狼藉を受け左頬に刀傷を持つ彼女はそれ以降も実に一心に仕える
現在では一族の者たちもともを従え仕えている
上杉定実
名目上「越後守護職」である彼は現在はほぼ幽閉憂いにあっている
実共々直江津と春日山城下の屋敷を行き来する日々
定実もかつての戦で身体を悪くして今は職務事態に出ることもままならなくなってしまっている
そのため現在は実様が「守護」の職務をしている
若き日に鈴姫に「天女」を見た彼は養子の身で有りながらも婚儀を推し進めた
当初はその想いに鈴姫が気がつかず
行き違ってしまったりもしたが今は夫婦仲は円満
しかし。。。。実様の子の事は知らないハズで
その事が今後どうなるのか。。。
小蝶(実様母様)
本編では名前を出すタイミングが見あたらずただ母様となってしまった人(爆)
能景最後の側室で地方豪族の娘だった
大変美女(藁)そのうえ控えめで気だての良かった彼女を能景は大いに愛しその子である鈴姫に惜しみなく「教養」を与えた
そんな姿を微笑ましく見たいられる事だけが幸せだった彼女の人生は本心から能景が全てだった
能景死後。。。。寵愛を受けた彼女の苦難は計り知れず
そしてそれは心の支えを失った彼女を死に走らせてしまう事になる
菊姫(虎御前母様)
現在も栖吉の重鎮として睨んでます(藁)
虎御前の人格形成においてこの母の気性は絶対に遺伝していると思う(藁)
愛にも情熱的だったこの方の話し。。。もっと書きたかった(藁)
長尾晴景
為景と。。。。実様の間に産まれた子
が
本人は「母を知らない」と言っている
長尾による越後統一を推し進めるために為景は晴景に家督を譲る
それは次代として守護代の職が長尾為景の家系の物である事を示すためでもあったが。。。
母無し子というレッテルを貼られてしまっていた晴景様の尽力では
長尾の他家はもとより地方の国人衆の心は動かなかった
そして今
「正統なる嫡子」という大儀を振りかざす虎御前との対立により
影トラと激突する事になる
いよいよ
米山合戦に入っていくための大事なエピソードでした
ヒボシも色々な根性(藁)使い切って書いたからいまさらの紹介でしたが
これから年末にかけてがんばってかきつづていこうとおもいます〜〜〜
頑張ります!!!
それではまた後書きでお会いしましょ〜〜〜