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その25 二人静 (4)

「くちおしや。。。。」


扇をへし折ったのは剃髪間もない「おトラ」の母「菊」だった

白い頬をつたう涙

美麗な眉をしかめ

苦悩を表す

眉間の皺は悲しみと相乗する苛立を反映して深く刻まれていた



不慮の病死


栖吉長尾家の当主はあっけなくこの世を去ってしまった



「何故。。。。「虎千代」は死んでしまったのじゃ。。。。」



母の口から出たのは元服を明日にひかえたのに

去年父よりも先に死んでしまった兄の名前だった

聡明で

優しかった兄

剣術も槍術も並々ならぬ強さを持っていた一族の希望であった兄は。。。父と同じく病で世を去っていた


栖吉城表屋敷は急な喪失感をすべてがあらわにしていた

まるで城までもが息絶えたかのような沈黙の中に多くの者たちがいた

家臣団

国人衆

側室たち。。。。


部屋に集まった一族郎党はみな顔は生気を失っていた

加持祈祷かじきとうの願いは叶わなわず

薬師は栃尾から持ち寄った妙薬を何度も飲ませたが。。。父はそのつど弱り

母は手をにぎり声をあげた


「私の命をさしあげます!!戻ってくださいまし!!」


母の目から父の顔に降る大粒の涙

届かない願い

首を振った父の最後の言葉も同じだった




「虎千代。。。何故先に逝った。。。。」




悲しみは深く

苦しみは熱く。。。。迫る恐怖に変わる


葬儀さえままならないほどの「窮乏」

未だ越後は混乱のまっただ中にあり

栖吉は上田の長尾と秘密裏に連携をとり「長尾為景」から「守護代」の地位を奪い取ろうと。。。

そんな矢先の「死」


家臣たちの狼狽

城下に広がる不安

ただ祈る事がおトラに出来る全てだった


喪に服したいという心を抑え

母は城内の全てを手際よく切り盛りしていった

側室腹の男子を迷うことなく

栖吉の次代として継がせた




「オマエには使命がある」



一族が生きる道を探し出した母はおトラを目の前に

集まったみなの前で言った

今や亡き父の座に「当主」として座る母は重い口調でのべた


「長尾為景にオマエを「妻」として差し出す。。。。」



一族たちのどよめ

模索されて「生きる道」は苦渋への階段だった


厳しい表情の御台みだい菊は娘の愕然とした表情をしっかりと見ていた



十二歳。。。。

この年やっと「穢れ」が訪れたばかりのおトラの前にあった運命さだめは過酷なものだった

見る間に初々しい瞳に涙が溜まった

赤い打掛の中に隠れてしまいそうに伏した


「栖吉は。。。為景に屈する。。。」


気の強い母の涙混じりの声


そこかしこと響く

嗚咽

男達はもとより栖吉に侍従する全ての者たちがみな泣いていた

去年まで肩をならべて争えるほどの勢力だった栖吉だったが。。。当主の死によって多くの国人衆が離れてしまい「戦」はもとより「年貢」さえも抑えられない状況になってしまった


小領主の心は移ろいやすい少しの出来事で簡単に家はつぶれる

それが「乱世」



このままいたずらに時がすぎれば

今度はなんの理もなく簡単に滅ぼされてしまう

力を失い混乱から立ち直れない栖吉を「上田長尾家」は見捨てた

「戦」に出られない手駒は足を引くだけの迷惑な存在だったからだ


ならば。。。。それでも。。。同じ長尾に帰属するしか。。。道はなかった


生きるための道。。。。

一族を守るためにはその上に立つ者が犠牲にならねばならぬ時が。。。必ずある



屋敷の広間に集まった者たちすべてが

伏してむせび泣く

おトラを静かに見ていた


正室腹の女子。。。。これ以上の「生け贄」はなかった


おトラ。。。

手が震えていた

兄が死んでしまってから。。。女のもつ「感」というものが鋭くなっていた

祈り続けた

観音菩薩に寝る間など惜しむに足らぬほどの信心で

なのに

恐ろしきは来た。。。。不安を思って過ごしていた日々は現実のものになってしまった



数珠を掴み胸に当てる

鼓動は早鐘。。。。昨日までの敵の元に嫁がねばならぬ少女


「こんな酷い。。。。」


敵に辱めを受けなければ生きられぬのなら。。。。死んでしまいたい

両手を奮わせながらも祈るように目を閉じる

閉じても。。。止まらない涙


その手を

母が掴んだ


「負けてはならん!!」


広間のみなが「敗北」という生きる道にしなだれていた中で声も大きく母は言った


「膝を屈しても頭をさげてはならん!!」


悔しさに心を折り

全てが落ち沈んだ場で母は身を翻し吠えた


「今は。。。。今は屈辱の元に下らねばならねども!!これよりは長尾為景の腹に入り雌伏を待つ身になっただけ!!その一歩として「おトラ」は行く。。みな心せよ!!」


夫なくしたその場で自ら髪を小太刀で切り落とした妻菊姫はその強き気性にまかせ

自分を奮い立たせるように拳を振った




「負けるのではない!!!生きるのだ!!!」




おトラは顔をあげた

「生きなくては。。。」

自分が死ねば一族は路頭に迷ってしまう。。生きる道を選ぶことが「栖吉」という家を生きながらえさせ「戦」を続ける道となる

負けて死ぬのは安いこと。。。。


母の目は心を奮い立たせるために怒ってはいたが。。。涙は隠せてはいなかった


哀れみではなく

自分をみる全ての者たちが「祈っている」事に気がついた

まだ幼い侍女たちも震える手を一心に重ねている



「おトラの信心がきっと栖吉を救う日がくるよ」



優しかった兄の言葉が思い出の中でこだました

涙の目を見開いた


「これが観音菩薩の示された道でございましょう。。みなが祈ったからこそ生きる道が開かれたのです」


強く握られた母の手に頬を寄せて言った


「栖吉は生きるために忍び戦うのです!!ならばこの身を使わす事は私の「出陣」でありましょうや!!」


十二の娘は母の気性を良く受け継いでいた



「よう言うた。。。。」


耐えられぬ感情で母は娘を抱き寄せた

「虎千代が生きておったのなら。。。オマエにこのような思いさせずにすんだ事であろうに。。」


おトラは首を振った


「いいえ兄様なら私の出陣を喜んでくださった事でありましょう!!」


娘の細い身体を強く抱いて母は泣いた

泣いて

泣いて

言った


「よう覚悟を決めてくれた。。。」


その姿に当主の死によって急遽その座に着いた妾腹の兄。。。。

昨日元服したばかりの「景信かげのぶ」が涙ながらも決意の大声を上げた


「栖吉の城はわしが立派に守ります!!姉様を当主とし「力」と成られた暁には全てを上げて戦います!!!」


男衆たちが吠えた

幼い殿君。。姫君の決意に各々が心を立ち上がらせた

その中には「金津新兵衛かなつしんべえ」もいた


御台「菊」は覚悟の歓喜に答えた

素早く振り返り飾り棚にあった小太刀を抜いて


栖吉虎姫すよしとらひめ!!」


美しい両刃の小太刀は鋭く輝く

刃元に刻印された「栖吉虎姫」


「オマエのために拵えた。。。。もしもの時は為景の首をとってまいれ!!」


「母上。。。。。」


母の目に浮かぶいっぱい涙をおトラは自分の瞳を見開いて焼き付けた

温かな手

自分の震える手を強く握った母の手に今一度頬を寄せた



「行って参ります。。。。けっして負けません。。。。。」



幼い姫の言葉に栖吉の衆はみな頭を下げた

ひれ伏しながら口々に言った


「栖吉虎姫!!」

「栖吉虎姫!!」


広間をうめる涙の唱和



それはいまでも忘れない「覚悟」と「決意」の日の事。。。。。



荒波の運命さだめに導かれおトラは為景の元に嫁いだ

そして

為景に。。。。強き男に自らの運命と栖吉の「全て」を賭けた







なのに。。。。。

為景と刀を向け合っている

運命さだめを狂わした女を。。。御簾の影になっている姿を睨んで言った




「決めました。。。。子の名前は「虎千代」。。。。」

大修正



後書きからコンニチワ〜〜〜ヒボシです


先々週ぐらいに

修正をします〜〜〜発言をしましたが

今日「その1 元服(1)」の修正版をupしました


なんと難しい作業だった事でありましょう。。。

一度書いてしまったものを

今一度。。。現在の部分と同じぐらいのテンションで書くという作業はぶっちゃけ無理


めっちゃ疲れましたし

未熟であった自分にバラ鞭(爆)食らわしながらのchampionloadでした(藁)


ところで

大修正ではありましたが

基本的内容自体はあまりかわっていませんからご安心ください

最初の頃の言い回しや

登場した人物を整理し直しただけですから


それでもお時間が許される方がいらっしゃれば読んでいただけたら嬉しいです

ただ

「その1 元服(2)(3)」も修正しないといまいちバラバラな感じにとれてしまうかもしれませんから

もうちょっと待って頂ければ「元服」の章を完全修正できるとおもいます!!


随時

連載と平行してやっていきます!!

ココ何日か多忙でなかなか更新速度が滞りがちですが努めてがんばっていこうとおもっております!!

これからもよろしくお願いします!!!




それではまた後書きでお会いしましょ〜〜〜

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