その25 二人静 (2)
一月の風。。。
冷たい風は山の頂から少しの雪を軽く運ぶ
はらはらと
「名前を頂いたのでしたね。。」
実はあの日から今までの道程を今やっとゆっくりと邂逅していた
手にしていた扇をおろした
全てが「過ち」であったようにしか思えなかった日々が。。。。色を失い形を失い風に吹かれ壊されていく
この夜の冷たい風に過去は切り裂かれ消えた
酒の壺を横に置いて為景は答えた
「将軍様にも憶えが良いだろう。。。」
京に住まう幕府の長
将軍足利義晴から偏諱を与えられ弥六郎が「晴景」となったのは三年ほど前の事だった
同時についに長尾は「越後」の国主として認められるところまで上り詰めた
「足場は作ったつもりだ。。。それがわしの全てだ。。後は朝廷とのつながりを強くしてその威光をもって国をまとめるだけだ」
冷たい空気で透き通った闇の海に浮かぶ新月に杯を捧げて為景は疲れた身体をさすった
戦う事で精一杯だった生き方
父を急になくしともすれば路頭に迷ってしまいそうだった長尾家を引っ張りココまでやってきた
「百の戦をした男。。。戦鬼為景」
大きな背中も精悍な顔も
余すことなく傷をもち右手は指も揃わぬ状態になっていた
その手に実のは。。。御簾の下から腕を伸ばし手を重ねた
柔らかさのない手
でも温かい
こんな状態の生活ではあったが。。。いつ。。。越後を追われても不思議ではない「上杉」の夫婦をけっして酷く扱ったりはしなかった
長尾の家から自分は投げ出され縋る思いと少しの「希望」を持って上杉に嫁し定実と。。。山有り谷有りの日々
結局為景に頼らざる得なくなったがどれほどに定実が逆らっても決して「殺す」ような事はしなかった
言葉では何を教えるわけではなかった
でも
為景は「出来ること」を十分にしてくれていた
月日がやっとその事を実にも理解させ
過ちは。。。この国の礎に代われる時がやってきた
「私がお役に立てますか。。。」
為景は振り向かずに実の白い柔らかな手を握り替えして言った
「オマエは運強き女だ。。。必ず晴景の力になれる。。。助けてやってくれ」
お互いを慈しむ沈黙
あの時のような身体を結びつける意固地な信頼ではなく
手を重ねること
心はしっかりと繋がっていた
ほんのつかの間の「安らぎ」
永久でも良かった二人の間は屋敷の門前を騒がす警護の者たちの声で実たちを現実に引き戻した
それはやってきた
月を肴に酒を酌み交わした実と為景
御簾だけ隔てられた二人の時間を切り裂いた声に
門衛たちが困り果てる騒ぐ
それは近づいてくる
実にも
騒ぎがこちらに向かっている事はすぐにわかったか
怪訝な表情に一瞬にして変わった為景は何がココに向かっているかを理解した
何人もの門衛が「困惑」の声で走るそれを止めようとするがお構いなしだ
北の屋形の木戸を走り抜けてきた者
煌びやかな打掛を羽織った下は単だけ
その上で素足だ
右手には朱色の刀を持ち
よほど慌てて走って来たのか髪はまとまらずバラバラだが
若さの溢れるしなやかなさが黒髪を踊らせているようにも見える
為景ほど敏感にではなかったが実は目の前にあらわれた「女」が誰かはすぐにわかった
「目」
品が話をしていた印象はそのまま合致したからだ
細く華奢な身体に不自然なほど見開かれた大きな瞳
「おトラ。。。。」
息を切らした妻に為景の顔はよりいっそう疲れを表し溜息まじりの声は愚痴をこぼすようにその「名」を呼んだ
「何しに来た。。。こんなところまで」
まだ年若い彼女は御簾を睨みながら返した
「舞を見られに出かけられたと聞きました」
甲高い声は主人には「大人しく」振る舞った口調で話しを進めている
「ああっ舞を見に来た。。。オマエには関係のない事であろうぞ」
為景の声はあきらかに不機嫌だった
御簾の中の実は「鬼」の声色で話す夫に物怖じ一つ見せずに意見する「おトラ」の姿に驚いた
「舞なら私が踊りましょうに。。。わざわざ城下に出かけられる事などしなくとも」
おトラの目は為景の後ろを睨んだ
実は品の言った言葉の最後
女にとってふさわしくない印象「恐ろしい」という意味が少しわかった
御簾などこの目の前では無意味なのかもしれない。。。。射抜くような目線に身がすくむ
あきらかな「情念」の
あからさまな視線は為景の後ろに隠された「女」である実を刺す
夫婦の間にズレが生じている事を咄嗟に感じ取った
冷たい対面
来るはずのない為景の訪問。。。。。
「オマエが?。。。。オマエは刀を持って練り歩く変わり者。。。舞など無縁であろう」
あざ笑うような為景はそのまま大笑いをしたが
噂に高き栖吉の鬼姫は微動だにせず身体を舞わした
「刀の舞を馳走仕りまする」
そういうと朱色の柄をもつ刀を手早く抜いた
美しい白刃は月の光を蒼く宿し相反する篝火の光で「金色」の刃となった
その剣は大きく円弧を描き光の輪の軌跡を見せる
反射する閃光に
実はあっという間に魅せられた
二尺四寸の剣は軽々と艶やかな蝶の身を飾る
光の演舞
何よりもばたついた「音」をさせないすり足
若さをあらわす豊かな黒髪も活き活きと踊る
いままで見たことのない「剣の舞」に思わず御簾を上げてしまいそうになった
見ずにはいられない
久しく忘れていた「舞」に対する情熱をこの「おトラ」の踊りは呼び起こしていた
「なんと。。。見事。。。。」
板間の限られた場でしか舞ったことのない実にとってこれほど斬新でありながらも所作正しい舞を見るのはひさしぶりで。。。。
「足。。。」
その所作の元である美しい足捌きを確かめようとした実の目に着物の裾が赤く染まっているが見えた
「兄様。。。おトラ様を止めて!!血が止まっておりません!!」
実はすぐさま思い出した
為景が突然あらわれ
おトラがそれに続くというめったにないうえにあり得ない来客が矢継ぎ早にあったせいで忘れていた
おトラは昨日「子」を産んだばかり。。。舞を踊れる身体ではなかった
御簾の後ろから為景の背中を揺さぶった
「やめよ!!」
暗がりの中とはいえさすがに為景も妻の足下に血がこぼれるのを確認して
手をあげて制止しようとした
舞の速度をゆるめながらもけして止まらず
おトラは答えた
「では。。。屋敷に戻ってくださいますか?」
「ああ。。。そのうちにな」
為景の返事は曇っている
妻の言い分を聞こう。。。。という態度ではなさそうだ
おトラ
顔には寒さをふきとばすほど
驚くほどの汗
「脂汗」だ。。。
身に覚えのある痛み
実は自分の腹を押さえた。。。あれは「苦しみ」だった
産んだ後など一月は身動きかなわなかった
あの痛みの中で「舞」など。。。なんと気丈なと思いつつもあまりに冷たい為景を不信にも感じた
「子の誕生をお祝いしてくださいませ!!」
刀を鞘に収めたおトラはふらつきながら懇願した
為景は顔を背けて言った
「祝った。。。」
顔を背ける。。。
実の心にも痛みが走った
「産まれた」子を祝えない。。。親であった。。。自分
その事をおもえば
姫であっても長尾嫡流で産まれたのなら祝えばいい
おトラの気持ちが伝わる
「名を付けてくださいませ!!」
涙の混ざった声が己の身体を奮い立たせながら為景に迫って吠えた
吠えた妻に夫は酒壺を投げつけた
縁側から立ち上がった大男は怒鳴った
「オマエは。。。「あれ」が腹に宿った時「御仏に選ばれた」と言ったが!!腹から出たのは。。。。」
酒壺と一緒に持ってきた杯を地面に叩きつけた
破片は除けた雪の小山に刺さった
言葉を濁した後
思い切ったかのように
「あれは「禍々しい」塊ではないか!!それを祝えだと!!名などオマエが好きにつければよかろうが!!!」
怒り
戦に行くときはむしろ冷徹な「炎」である為景が我を忘れるほどに怒りを発していた
刀にすがりながら身体を崩したおトラは答えた
「いいえ!!「あの子」は御仏に選ばれた子なのです!!いずれ「越後」のために良き仕事をする運命られし子なのです!!」
爛々と燃える瞳は「嘘」を語る目ではなかった
「何か」に怒りを燃やし冷静さを失った為景よりも静かな態度に見える
「何を。。。。何を恐れておいでなのですか。。。望まれし「大器」にございますのよ」
取り付かれたような仕草
両手で子を抱き上げるように見せる
「大器。。。だと。。。恐れだと!!」
言葉尻を噛んだ為景は刀を抜いた
「鬼め!!!」
「なりません!!!」
実は御簾から飛び出し二人の間に走った
為景。。。実。。。。おトラ。。。。動き出した夜
mixi
後書きからコンバンワ〜〜〜ヒボシです
色々と頭を悩ませながら
ブヨブヨと横に成長しながらせっせっと活動中です(爆)
ところでミクシィのコミュというのに「カイビョウヲトラ」を作ってみました(藁)
あれこれHPみたいなのをつくってみたりしていましたが
やっぱり人様のところだし。。。。
つくって何やったらいいのかわからないしなので
とりあえずこういうところでこっそり(藁)
という感じではじめました
ミクシィ。。。。
もしはいってて
興味のある方はコミュ名「カイビョウヲトラ」でいらしてくださいまし〜〜〜welcome〜〜
それではまた
後書きでお会いしましょ〜〜〜