表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
116/190

その24 月華 (11)

月華終章。。。

up後またも修正などもしましたがとりあえずこの章が終われて良かったです

実様の過去。。。届きましたでしようか。。。

八月ついに守護上杉房能うえすぎふさよしは関東への敗走途中越後国東頸城郡松之山で自刃した



守護を追い落とし足利幕府を驚かせた激戦は「長尾守護代家」に軍配が上がったが

その中身はけして「楽」な戦いではなかった

「上杉」も「長尾」も「揚北」も

どれもこれもの国人衆,豪族衆

複雑な思いの混ざり合った戦いは。。。「越後」の最大の傷となり


これ以降「混迷」の「戦」へ突入して行く事になる





「どうして。。。私なのですか。。。」

七月から向こう温かくはならなかった夏が降らせ続ける雨の下

戦場からもどってきた為景の言葉に裏屋敷の片隅にひっそりと暮らしていた鈴姫は泣きそうになりながら答えた

顔に切り傷も生々しく

戦の先頭をきるという大役をこなした長尾家新当主は顎をさすりながら答えた



「上杉定実殿がそう願っている」



戦に一段落がついた今

上杉も新しい当主を頂いていた


新守護上杉定実しんしゅごうえすぎさだざね


長尾は越後の大半を占める「守護代家」という大豪族だが。。。。

これほどの戦の堰を切ったのに「一致」はしていなかった

敵対する「親族衆」

上田長尾宗家の者たち

栖吉長尾家



そういう「外野」を抑えるためにも為景率いる「長尾家」が守護との関係の本流である事実質「守護代」である事を示めし今一度「上杉との「えにし」」を強固にするための新たな「血縁」を結ぶ必要があった

幸いに定実は為景の申し出を快くいれてくれてはいたが


為景家臣団から「鈴姫」を押す者はいなかった



御台の言葉ではないが

鈴姫には「悪評」が張られていた




「役立たず」と


事前に大殿(能景)の危機を察知する事も出来ないばかりか「縁」の基本である「子作り」を拒んだという不出来さ。。。

そして

「身分不相応」という血の問題などで


新たな血縁を結ぶのに不適切と「断」じられていた


悪評の事もあったが鈴姫の現在の身の上の事も想えば。。。無骨な為景にも温情が働いたのか。。新たに「正室」を定実に送りたいと打診した


返事は



「鈴姫を。。。我が妻を戻して頂きたい」


という意外にも思える返答だった



「定実様が。。。?」


雨降りの日とはいえ蒸し暑い中「打掛」をしっかりと纏った鈴姫は驚いた

同じように片目をつむりながらも返答に驚いた事を為景は表してみせた


「オマエでなければ「妻」は娶らぬ。。。とまで言っている」


驚きに追い打ちをかける言葉だった

鈴姫は困惑した

今日為景がココに来る事を知った時。。。。自分の身体に起こった事を告げなくてはと悩み抜いていたがそんな事は吹き飛んでしまった

「何故?」

結局何が良かったのかがわからなかった定実との「夫婦」という関係

どうして。。。

今になってまで自分をそれほどまでに求めるのか


「私はどうしたらいいのですか。。。兄様。。」


腹に宿る子。。。

これは間違いなく為景の子供だった

それを話せば上杉に戻れなど言えない話だ

事が意外な方向に進み始めている以上もはや躊躇は出来ない


鈴は打掛け前を開こうとした


「長尾の家にいるのも辛かろう。。。母上の事も。他の者の事もある。。上杉に行くのは良いことかもしれんぞ」



それは

残酷な言葉

為景はあっさりと鈴姫に上杉に帰れと言った



為景にしてみれば鈴姫をいつまでも屋敷に置いておく事に良い事はなかった

父の残した側室たちが鈴を目の敵にしている今

政治的でもない「女」の諍いまでも面倒をみるのは。。。厄介事でしかなかったからだ



逆に鈴姫が恋われているのなら新たな「花」を捧げる必要もなく「好都合」な「取引」だ


鈴はお腹を押さえて部屋を出て行こうとする為景に縋った


「兄様。。。聞いてください!!!」


為景は手で「待て」と合図して言った


「求められるほどの「妻」とは果報であろう。。。話し合ってみれば良い。。今日屋敷にいらっしゃるから」


だけど手をのばし為景の足を捕まえて鈴は言った


「あの日の事を。。。「私を欲しい」と言ったこと。。。お忘れですか?」


すがる鈴の必死な言葉に為景は止まり向き直った

「忘れてははおらん。。。。」

返された言葉に鈴は頷きながら「腹」を見せようとした時

いくさ人の研ぎ澄まされた目の為景は冷たく。。。それでも威厳のある態度で言った


「忘れてはおらんさ。。オマエはわしに「武運」を授けた。。それに従いわしは今以上に戦う。。。オマエも残された「勤め」を果たせ!!」


愕然。。。

あれは一夜の夢。。。

とまどいが口をふさぐ

驚く言葉を放ったまま。。。何事もなかったかのように渡りに向かった


「鈴姫よ。。。これは長尾当主としての命令だ。。理解せよ」


顔は悲しくも見えたが。。。


捨てられた。。。。

花は闇にまたも捨てられてしまった。。。。

雨は為景の足音を速やかに消していき

鈴姫の口に登った言葉も。。。行き場をなくしてしまった





「落ち着きましたか。。。」


為景が退出した後

数刻もたたぬうちに鈴姫の部屋にやってきた「定実」は優しかった

たった少しの刻の間で自分の行く末が闇に「暗転」した事に

悔しくて

悲しくて

涙した顔を見られたくなかった

だから顔を伏せて。。。


定実に返事できない

言葉がでない


胸がキリキリと痛む


為景の言葉から。。。もはや長尾に居場所など「皆無」

どうしたって上杉に行かなければならない。。

なのに

この身には。。。



「覚悟」は浮遊しどこにもと止まれない雲のようだ


声を詰まらせている鈴姫の姿を定実は決して責めようとしない

優しい目で見ている

そういう人ということは。。。少ない「夫婦生活」の間でわかってはいたが今はそれが怖かった


すがらなければ。。。一人でなど生きられない



不意に。。。考えまでもが闇にとらわれる

隠せる。。。。

不謹慎な思いに良心は反して深く着物の前を閉ざす

でもどうしたらいいの。。。


二人きり向きあった状態で声がでない



「まだ具合が悪そうだね」


黙り込んだままの鈴姫の前に定実は小箱を取り出した

「気臥せりに効くらしい薬師くすしに作らせたものだよ。。。」


そのまま小箱を前に出して続けた


「あの日はそなたを助けにいけなくてすまなかった。。。為景殿にお任せはしたがそちの事忘れたわけではない事信じて欲しい。。。その。。。侍女を亡くしてしまった事は。。。本当に申し訳なく思っている」



言葉の少ない男



定実は姫に頭を下げた。。。無理してでも自分に言葉を選びながら話しかけながら。。。

あの日の事を。。。。

「薬。。。。」


やっとで口から出た言葉はてんで的はずれな返事だった


「そう都から取り寄せた物だよ」

温かい手が鈴姫の手をとり薬を渡した



なんで。。

なんでだろう

どうして



この人は優しいの。。。。


涙がこぼれた


「痛むのか?」


手をとった定実は心配そうに鈴姫に聞いた




「痛みます。。。。」

胸を押さえて答えた

心が。。。心が痛くて。。。千切れてしまう。。。


「ゆっくり休みなさい」

涙を拭う手の主は優しく答えた


流され続けた自分を支えてくれる最後の手なのかもしれない

汚かろうが生きなければならない「勤め」がある。。

この人を。。。


騙す。。。。。出来ない。。。。


「どうして。。。私なのですか。。。。」

混乱していた

やりきれない気持ちが本音を聞きたくて隠しきれない想いを溢れさせた

どうして自分を選んだのか聞きたかった


「欲しい」と言ってくれた男に捨てられたばかりの心は

自分を求める男にその「真意」を問いつめていた


定実の顔は不思議そうに鈴姫を見ている


「教えてください!!!どうして私でなくてはいけなかったのですか?」


鈴姫でなければ「縁」を結ばない

そこまで言った理由を

今ココではっきりと聞きたい

定実の肩にしがみついた


「私にどんな「価値」があるのですか!!」


華奢な鈴の身体を支えた定実は少しおどろいたように鈴を見つめた

「価値。。。?そんなふうに思った事はないので。。。」

震える声

涙目の鈴姫を落ち着かせるように肩を抱いて定実は話した


「わしは。。。養子として上杉様の家に入りました」


鈴姫は初めて定実の身の上を知った

まるで。。。自分と同じような運命に導かれ「捧げられて」上杉の家に入った定実の人生


名ばかりの息子には何の力もなく

零落していく上杉を誰よりも間近で見続けるという日々

ただ寂れた名門と共に

死んでゆく日々


それは上杉に嫁した時の鈴姫の境遇にあまりにも似ていた



「あの日。。あの宴でそなたに会えたこと。。今でも昨日の事のように思い出す」

産まれて初めて

いや

上杉に入って初めて「我が儘」を言った

長尾から「嫁」を貰う事がどんな事につながっていくか。。。それに「謀」があるとしても



「そなたを手に入れたかった。。。」


真摯な定実の目は

潤む涙に溺れてしまいそうな鈴姫を一心に見つめた


「どうして。。。上杉様を裏切ってまで。。。」


胸に抱きかかえられながら鈴は聞き返した





「心を奪われた。。。。」





「姫よ。。。そなたに心を奪われた時から。。わしはやっと生きる道を見つけた」


へたくそな言葉



言葉の少ない男。。。。


「そなたを愛している。。。そなたと共に過ごせる日々があるのならそれを「価値」ともいえましょうや」


言葉は。。。嘘かも。。。

それでも

定実の不器用な言葉は「不器用」だからこそ届いた


もう涙を止められなかった

優しさの中にずっと抱きしめられていた。。。その事にやっと気がついた

照れて顔を真っ赤にした年上の夫

頭を振りとまどう仕草


夫の。。。腕は鈴姫を抱きしめた慈しむように髪を撫でながら

恥ずかしそうに上を見ながら


「子を作りましょう。。。上杉と長尾の橋渡しをする子を。。。共に生きるために」


笑顔は続けた


「きっとそなたに似て美しい子になる。。その時その子と共に「舞って」くださいな」。。貴女は永久に天女として」




鈴姫はその場でひれ伏した

自分を上回る大きな生き方。。。「舞」を捨てろとこの人は言わなかった。。

やっと。。

やっと。。。

「上杉に。。。貴方の元に置いてください。。。。そして貴方の名前を下さいな。。」

定実は笑顔で返した

「わしの近くに居てくだされ。。。」



その日

鈴姫は定実と生きる事を決めた

名を夫から一字下賜され「みのり」と改め長尾との決別を決めた

静養と大殿。。母の供養をする事を隠れ蓑に出産までを長尾で過ごし

その後上杉に嫁していった

子の事は定実には。。。言えなかった




ただ一つの過ちは為景に託した

届かぬ想い。。。


後書きからコンニチワ。。。ヒボシです

のっけから元気なくてすいません


というか

月華終章で色々なものを使い切ってしまった感じです

なのに

全然気持ちが届かない事に「自己嫌悪」にも近い。。。モヤモヤの中にいます


何かがいつもたらない

だから

良くならない


常に自分を叩く事を修練し

喜びには素直でありたいと想っているのですが。。。。。いかんともしがたい苦痛



実様を書くにあたって

かなりのバイタリティを使い「同化」しようと努めた結果だと思うのですが

それでもまだ

足りないと感じるのです



今はかなり不安の中におります

これは届くのだろうか。。。。こういう想いは届くのだろうか?

試行錯誤しながらも


なんとか書き続けていきたいと思っております



この数日間励ましのメールを送って下さったみなさまに感謝しつつ

最後まで。。。がんばっていこうと思ってます

ありがとうございます

本当にありがとうございます




火星明楽

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ネット小説ランキング>歴史部門>「カイビョウヲトラ」に投票 ネット小説の人気投票です。投票していただけると励みになります。 人気サイトランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ