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その24 月華 (9)

長尾の屋敷について一月ひとつき

鈴姫は立ち上がる事もままならない状態だった

屋敷の中は相変わらずの喧噪が響いて事態が収拾されていない事を物語っていた

そんな晴れた日に

母は一度だけ忍ぶように顔を見せ


言葉は少なかったが「死ね」と言った時の目はなくただ優しく娘の髪を撫でた


「女は好きには生きられぬのです。。。強くなっておくれ」


そういうと静かに涙を落とした

鈴は母に何も言えなかった

部屋を出てゆく母の姿が小さく見えて。。。。母の背負った「苦しみ」を感じ

余計に言葉はでない。。。



色々な疲労が吹き出して身体を覆うおもりのようにな日々

数日。。目を覚ますことなく微睡みの中にいたが

「品(しな」の声が遠のいた事で。。。「恐怖」が蘇り目をさました



宿下がりをしようとしていた彼女を引き留めた



「お願い。。。近くにいて」



顔に怪我を負ってしまったことで表向きに働く事は出来ないと品は申し訳なさそうに言った

おそらく「見苦しい」と家中の者に言われたのだろう



それでも頼んだ

あの業火の炎の中をともに手を携えココまできた

どこまでも苦難を共にしてくれたのは「品」だけだった

最後の時。。。。



「死ね」と言われたときも。。。躊躇なく手を握ってしてくれたのは品だけ


母はココにはもうこない。。。突き放された今

品がいなくなってしまったら。。。

誰も助けてくれないのでは。。。と悲しくて怖くて



震える声で頼んだ


「ココにいて。。。私のために。。。ココにいて。。。」



生気の戻らない顔に涙を溜めた瞳で懇願する鈴姫の手を握って品は答えた


「このような醜女しこめになってしまった私に。。もったいないお言葉。。。最後まで喜んでお仕えさせて頂きます」


しっかりと握り替えした手で誓った


「品は鈴姫様以外にはお仕えしたくありませんから」

互いに溢れる涙で手を取り合った





数日

春の風が吹く春日山の屋敷の中で

やっと自分の身の上に起こった「事実」が少しずつ耳に入るようになった


父の死


この「戦」の原因になった出来事

品が色々な場所で拾ってきた話しや近習きんじゅから聞いた話でわかった事実は鈴姫が上杉で生活を始めた二月ふたつき後にはおこっていたのだ

定実さだざねの元に嫁した日からすると

父,能景よしかげが亡くなったのはその直後の出来事だった



そんな事は何も知らされていなかった


父の死は「上杉房能うえすぎふさよし」の「はかりごと」だった。。。。

去年

越前での一向一揆は最大の規模でこの地を揺るがしていた

その「後詰め」。。。。

勢力としての「提携」の意味が鈴姫の婚儀にはあったのだ



だが

親族の契りを結んだ長尾を「上杉」は早々裏切った


いや「裏切る」機会をうかがっていた

あの澱んだ目を持つ房能は守護の権利の多くを長尾に剥奪されていた事を根に持っていた

武勲のない者。。。。

力のない者。。。。

自分では何もできなかったこの男はそれでも「欲」だけはしっかりと残っていた


いつか復権するという「欲」



それが「神保氏」の「能景抹殺」という甘い言葉に乗ってやってきた時に行動となって表れた


一揆勢の鎮圧のために出兵した能景の救援。。「後詰め」を絶った。。。。

助力の要請を「握りつぶされた」能景は百姓の手にかかって無念の最後を迎えた




しかし

房能の考えは甘かった

守護上杉の当主房能は一時的な「感情」で長尾に牙を剥き「勝ち」に酔ったが


しょせん「戦」の趨勢に「無能」な者の激情。。。

自分の心に起こった「復権」という波にさえ乗り損なっていた

そんな堕落した守護とは違い

長尾には「戦鬼いくさおに」が残っていた

長尾家当主の非業の最期にお家の混乱は逃れられない「ハズ」だった

だが

すでに父に信任されていたこの男の存在が混乱を許さなかった



為景は野生の風貌の下に「理性」を持っていた



各地に散らばっていた「長尾」の一族を能景の「葬儀」にかこつけて春日山に集結させた

だから

普段なら顔を合わす事のない「正室」「側室」が一同に会していたのだ



「定実様の助力を待ったそうです」


一族に起こった事件の経緯を未だ呆然と聞いていた鈴の耳になつかしい「夫」の名前が聞こえた

品の顔を見返して聞いた

「定実様を?」


鈴の身体を手桶に分けた湯で拭いていた品は答えた



「守護様の速やかな「隠居」を求めていたそうです。。そのお仕事を定実様が長尾のためにしていてくださったそうです」



そういえば定実は年が明けてからは

鈴姫の住む屋敷にはなかなかこられない状態が続いていた


鈴も小首を傾げ少し考えてみた

あの頃から。。。。屋敷の周りには護衛が増えていた

あれは自分を閉じこめるため。。。逃がさぬようにするためのものだと思っていた



「その「隠居」の事で定実様は房能様とぶつかってしまい上杉の家の中では険悪な関係になってしまったそうで。。。」



鈴姫の右手を丁寧にぬぐいながら品は

あの日の事を思い浮かべている姫の顔を見た


「だから護衛が増えていたの。。。?」

「そのようです。。鈴姫様に「あの」房能が何をするかわからない。。だから警護を増やしていたようです」



。。。。

定実。。。。

鈴姫にとっては自分から「舞」を奪った一人

その夫は長尾のために養父である房能との折半役をしていた


「でも。。。。」



まだ割り切れない感情をこぼしてしまった鈴姫に品も思い出すのも辛いあの日の事を拾い上げて

それで

聞き及んだ事実と摺り合わせて悲しそうに言った


「間に合わなかったのです。。。」




守護の地位を「隠居」して定実に譲渡する事で今回の「不手際」を許す


という為景の要求を房能は受け入れなかった

いや

一度牙を剥いてしまった「男」は戻れないところまで「怒り」の感情に染まってしまっていた

その怒りの矛先は自分より


「弱い者」に向かった



そういうところからして房能は「戦」のあり方を知らなすぎた

それが鈴姫の屋敷への「暴挙」だった



「屋敷に向かってきた房能様の軍勢を前面で抑えたのが定実様で。。。その間を縫って為景様が助けに来てくださったのです」


身体を拭き終わった品が着物を鈴の肩にかけながら

品自身も感慨深いものだったのかゆくっりとした口調でつづけた




「今も長尾と上杉の良き関係のために交渉を続けてくださっているそうです」

「。。。。。」



鈴はうまい返答ができなかった

自分は夫に裏切られたとさえ思っていた

きっと品もそう思っていたに違いない。。。


自分の不遜な態度に腹を立てて。。。。


小さな考えしか浮かばなかった自分が恥ずかしくなって余計に返事ができなかった



定実は自分を守るめに働いていた

それどころか長尾との関係のために奔走していた

鈴は俯いた

絹を合わせながらただその場で頭を垂れた


どう表していいかわからない感情だった

今定実と会ったら。。。どうしたらいいのか。。。。






しかし

この日が鈴姫にとって長尾での最後の「安息」となった

翌日から続く出来事に目を回し

生きていく事の苦悩の中に引き戻されていく


ついに

交渉に応じる事のなかった房能を為景は征伐する事を決定する

その

旗印として「新守護上杉定実」があった


夏をまたず「長尾守護代軍」は「前守護上杉房能軍」と激突

直江津にあった守護府を陥落させ房能を敗走させた


天下に例のない「下克上」を為景は実践してみせた




そして

その報告が春日山に届いた日

「戦勝」に湧く屋敷の一角で

鈴姫の母は自刃した。。。。。能景の後を追う事と。。。娘の罪をあがなうために

上杉房能様。。。。


後書きからコンバンワ〜〜〜ヒボシです


ここ何日か寝られない日々が続いていて。。。

クスリのんじゃおうか?とかヤバイ気持ちになっているのを抑えつつ深夜に更新中です(藁)


さて

上杉定実様おとーさま房能様

「カイビョウヲトラ」ではけっちょんけっちょんなキャラに描かれてしまってますが

史実では。。。

やっぱり長尾家に対していい感情はもってらっしゃらなかったようです

定実様も実の息子ではなく

房能様自身の前越後守護に「養子」として入ったって経緯があったりで「親子」っていう

意思の疎通は。。。。あまりできていなかった感じです


ただ

房能様は「上杉房能公を偲んで」と題し今も祀られており

奥様「綾子」様の「舞」などが奉納されてもいます

いろんな理由で廃位をよぎなくされた方でしたがそんな方も偲び今も会を開き舞を奉納するという

日本人の心の深さが。。。美しいと思います


彼は

武力を奪われた守護でしたが

能や舞を愛した良き方だったそうです

だから

「舞姫」だった鈴姫様に辛く当たってしまったのかもしれません

武門の者が舞まで奪ってしまう。。。て



そんなこんなで「月華編」まだしばらく続くかな?

実様。。。悲しい過去いっぱいですいませんな感じですが

ヒボシも涙しながらがんばって書きつづって行きますのでよろしくお願いします!!!



それではまた後書きでお会いしましょ〜〜〜

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