その24 月華 (6)
扇を右手に。。。。
左手に刀を携えた
どんな状態にあっても自分の最後を彩ってくれるものは「舞」だと信じていた
それがこんなに早くに訪れてしまう事は考えられなかったが
落ち着いた表情で丸く大きく夜に浮かぶ「月」を見てそんな希望は叶わないと鈴姫は確認した
闇の空
夜の月
枝にに炎を飾った梅の舞台を見渡した
立つ姿に「怯え」はなかった覚悟というものを決めていた
このまま
慌てた姿で逃げたして上杉の下郎達に辱めを受けるなど。。。「美しくない」
そう思えば自然の顔に笑みは戻った
この「舞台」は最高
あたりはもとより門の外にも火は溢れ出しているに違いない
兵達が押し合う声が聞こえる
熱風が吹きあげ木々に芽吹きだした命を焼き天高く巻き上げてゆく
若い命は春を待たずに花を咲かすことなく飛び立ってゆく
その道に鈴姫は立っていた
浄土に向かう「炎の道」に
渡り廊下にも屋敷の屋根にも全てが崩れ落ちてゆく
これが始まりで「終わり」
誰の手も届かない「美しい死」を迎えられる
支度は整った
「定実さま。。。」
目の前をゆらゆらと彩る炎を目に宿して思い出したのは「夫」なる人の事だった
信じていた。。いやあの人だけは。。信じられた
いまさら我が儘な物言いにしか聞こえないだろう
さんざんその「愛」を拒んできた
あなたは。。。それでも貴方だけは。。。。。
手をとり優しく自分に向きあってくれていた
でも
その心に自分が触れようとはしなかった
触れる事ができなかった
それほどに自分の支えにまでなっていた「舞」を奪われたという気持ちに整理をつけられなかった
目を閉じて自分のしてきた「愚行」を思いだして。。。。
「いいえお慕いなどしていませんでしたわ。。。」
うっすらと浮かぶ涙で決別の言葉をもらした
そう
父.能景の謀に自分は捧げられた
その身を
定実が娶るなどと言わなければこんな責め苦に遭わずにすんだ
そう思おう
割り切れた気持ちで堂々と前に歩を進めた
鈴姫は自分の胸を押さえてみた
早まる鼓動。。。高まる気持ち。。。四方を囲む炎のお囃子たち
崩れゆく家屋の素晴らしき雅楽
定実の事も。。。父の事も
もはやそんな「小事」は過去になった
闇に浮かび上がる美しき花
炎を纏った梅の木の前でクルリと身体を回した
もはや火を「熱い」と感じようとは思わなかったこの熱が己の「血」とさえ思った
間近に飛ぶ火の粉がキラキラとまるで桜の花びらのように輝いて見えた。。。。目に映る世界は絢爛たる終焉
「降る花。。。。」
鈴の視界は急に開けた
身の回りに注ぐのは「熱き花びら」
夜の果てに訪れた最後の舞台
「ええ!!ただ会いたかったのでございますよ!!」
手を開き赤から紫そして漆黒に続く空に伸ばし
月に吠えた
会いたかった
女御様との約束「京」へ!!花の都に行きたかった
ただ知りたかった
美しい舞のある都を
爛漫に咲き誇る桜の下で「五節舞」を踊る
美しき舞姫たちと
薄氷の上を軽やかに舞う鶴がごとく
身体をしならせ扇を舞わせ火の粉花びらを扇で仰ぐ
撒かれた煌めきは天女の羽衣のように美しく鈴姫の身の周りを漂った
こみ上げる思いが紡ぎ出され舞へと昇華される
それは
悲しみも
喜びも
憎しみも
楽しみも
全ての感情を尖らせ紡ぎ合わせてゆく
一人でいられない
誰もがそう
私もそう私を支えたのは「舞」
貴方は?
そうあなたにとってそれは「私」だった?
「上杉」の家を窮屈そうにしていた貴方に優しさをわけてあげられたのなら
傷つけ合うような生き方を
あなたに押し付けなくても済んだのかも
もっともっと「分かち合えた」かも
でもこれが貴方の最後の仕打ち。。。。。
鈴姫の身体の奥に押さえつけていたものが暴れ出していた
終わる命を惜しまずに現したい
打ち掛けが肩から滑り落ちる勢いで腕を回し激しい「波」を描く
それは侍女たちに伝わった
香奈はいつのまにか脇差しを下ろして鼓を打っていた
最愛の姫君最後の舞に
己の始末の脇差しは無粋にしか見えなかった
愛した姫の命は
大胆に「舞」の世界に燃え尽きようとしている
「最後までお供致します。。。その玉の緒が絶える時まで。。。」
母の言葉に長刀を構えたまま品も言った
「家宝者にございます。。。今生の舞。。美しゅうございます。。。」
鈴姫は笑っていた
自分の愛したものに殉ずる事にこの上のない喜びを見いだしていた
手を回し
羽根をもつ者達のように白い翼はしなやかに熱の風を踊る
火の弾ける音は鼓の音にかさなりザワザワと近づく「崩壊」が気持ちを高みに上げてゆく
抱きしめて
願うように手を重ね羽ばたく仕草で打ち掛けを動かす
「月よ。。。月よ。。。お慕い申し上げます。。もうすぐそちらに参ります」
輝く月に触れようと手を精一杯伸ばす
そして心を覆っていた「憂鬱」の蓋は吹き飛ばされた
「私に触れて!!!」
狂うように髪を揺らす
刀を滑らかにすべらす
梅を侵す炎を切り落とすと
打ち掛けの袖に火の粉が踊る
鈴姫の身を「星」は美しく飾った
「私は花。。。私は舞。。。ここに生きた」
留まらぬ勢い左手の刀を投げ捨てた
後は燃え尽きてしまうだけ
喜びの世界へ
衵扇を祈るように手に添え真っ赤に燃え上がる梅の前で踊り続けた
屋敷の渡りがついに崩落した時
ひときわ大きな「怒声」が響いた
その声に香奈は鼓を投げ刀を拾った
品も同じく「幽玄」な舞の世界から意識を引き戻し身構えた
大鎧を纏った男に連れられた集団は「上杉」の旗指し長槍を身構えて進んできた
「あそだ!!」
中庭の反対側に現れた集団の大半は粗野な下郎だった
踊る鈴とその前を守る侍女を見るとみな顔をほころばせ
口々に下品な言葉を吐きながら進んできた
顔に表れるほどの「下郎」
「殺してもいいなら。。。犯してもいいんだべ。。。。」
「姫様かぁ。。。たまらんのぉ。。」
先頭の男は手で下郎をなだめていった
「姫にあるのは「死」だけだ。。手出しするな」
言い伏せられながらも
屋敷を侵す侵入者たちの目はぎらついていた
「侍女でもええがぁ。。。」
これみよがしの欲望をはき出す
しかし
くだらない下世話な声は鈴姫の耳には届かなかった
夢を見るように舞い続ける
もちろんその姿を香奈も品もわかっている
最後まで
燃え尽きるまで踊るであろう事も
「姫様。。。最後の時は」
先に下郎を抑えるために走っていった品の後
残った香奈は鈴姫の前に控え「脇差し」を投げて言った
鈴もわかっていた微笑みを返して言った
「火の門は開かれました。。。私はそこに行きますから。。。心配しないで」
足下までもを火で囲まれた鈴は。。信じられないぐらいに穏やかな顔だった
「心おきなく舞ってください香奈がお守りいします限り。。。」
そこまで言って香奈は堪えられない涙を落とした
鈴が幼少の頃から仕えている彼女に。。。可憐な姫の最後はあんまりだった
だがそれでも勤めを果たさんと立ち上がった
「それでは!!」
毅然とした香奈はすでに下郎と長刀で打ち合っている品に向かって走っていった
悲鳴と怒声
何合も斬り合わせられぬうちに香奈は腹を槍で突き通され崩れた
品は男達に取り押さえられ長刀を奪われて囲まれた
「姫様!!姫様!!!」
男達の手でめちゃくちゃに身体を押さえつけられた品の悲鳴が響き渡る
それでも鈴姫はゆっくりと動いた
左に脇差しを持ち
長い睫毛は微動だにせず
「私は舞に死ぬ。。。。それでもよいなら供をせよ」
すでに鈴姫の周りは火の海になっていて
男達が近づける場所ではなかった
鈴自身も打ち掛けに火を纏い炎の一部と化している
しかしその姿は。。。。ただ美しい
大鎧の男は見とれていた
その姿に鈴は手招きした
「誘いの巫女」は優しく招く
何事もなかったかのようにひらりと身体を回した
「狂ったか。。。。」
大鎧の男は弓をつがえた
あくまで命を奪う。。。。仕留めに来た役目を果たすために
静かに目を閉じた
「お供しようぞ!!!天女よ!!!」
天地を割る声が響いた
やたろ〜〜
後書きからコンニチワ〜〜ヒボシです
ここのところはずっと鈴姫事。。「実」様の過去で進行しているカイビョウヲトラでございますぅ
これから。。。
まだ色々あるのですが。。
なかなか幸せじゃなかった実様の娘時代。。
やっぱり人には経験を支える過去があって現状を成り立たせるという部分があるので
しっかりと書きつづっていこうとおもいます
ところで
メッセージいただいたのですが
表記の事です
やたろーは
正式名称(藁)
小嶋弥太郎。。または小嶋忠一というのが名前です
が。。。
ココでは「やたろー」というふうに書かれてます
えっと深い意味はないのですが「やたろー」というふうに書いているのは
彼自身が自己紹介の時にまのびた感じに自分の名前を言った。。。
という事と
ほんとは「のんびりさん」である事を現したかったからです(あらわれてませんが(藁))
後の言い訳は(藁)つやとの会話で大人と子供。。。ってのを感じてほしかったってところで
彼の名前はいずれちゃんと「弥太郎」になっていくとおもいます〜〜〜
もひとつ!!
本庄実乃
正式には?(ほんじょうさねより)と言うらしい。。。。
これは私が「カイビョウヲトラ」を書くときの資料集めをしたとき彼の書状に「実乃」というサインがしてあった事に由来します
初期Wikipediaにも実は「実乃」と乗っていたのですが。。。。最近更新されてしまったのか。。。消えてました(涙)
ただ名前で検索すると本庄実乃(ほんじょうじつの。。ほんじょうさねより)どちらもでてきます
どちらとも「越後の武将」とかかれ同一人物とされています
と
また言い訳をかいてしまいましたが(爆)
本音は語呂でした「さねよりさん」。。。
って言うより「じつのさん」って感じが「栃尾のおとーさん」みたいでいいかな〜〜って感じでした「苦労してそうで(藁)」
影トラは少し意味があってそうしたのですが
多分に遊び心もいれて楽しんで書いておりますのでこんな感じで。。。タハハハハ
これからも
色々な質問,疑問ともどもお待ちしております!!!
実に楽しんでお待ちしております!!!(藁)
それではまた後書きでお会いしましょ〜〜〜〜