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その24 月華 (4)

愛する人と結ばれる。。。。

そんな事が叶えられる時はけっして訪れない


女はいつも「貢ぎ物」として男の元に嫁していった


そしてそれはいつだって「幸せ」とはほど遠い場所にあるものだった


定実の父。。。。房能。。。。

その人は鈴姫の目から見てもいかがわしい人物だった「婚儀」に反対していた事は輿入れしたその日に知った

四方を御簾で覆った部屋は

武家屋敷とはほど遠い作りで襖の無い大部屋にあつまる者の大半は「上杉」の親族衆だった


「長尾の女を上杉に娶るなどと。。。。」


祝言もまだ半ばのうちに酒に酔った房能ふさよしが愚痴りだした

公家かぶれの房能は自分の趣味を前面に出した祝言の場で毒づいた

その「毒」に上杉の親族衆はこれ見よがしな「悪態」を

ボソボソと話した


「田舎娘などどこで拾ってきたものか。。。」

「大方上杉に媚びを売った浮かれ女であろう。。。。」


御簾の中の鈴には信じられない事だった

これほど望まれていないのに

父の「命令」に従ってココに来た

自分の「夢」をいとも簡単に断ち切られて。。。ココに来た



なのに



こぼれそうな涙を抑えるのが精一杯の

まだ十四歳の娘に

目の前で酒の入った壺を回しながら嗄れた爛れた声を荒げて房能は言った


「鈴姫は舞の名手と聞いている!!是非にこの場で舞ってくれ!!」



鼻を真っ赤にした「好色」そうな目は鈴の身体をなめ回すように近づき

御簾の中に入ってきた

公家かぶれで「武」からほど遠い房能は「女色」に十分に溺れていた


「ふぅん。。田舎侍の娘にしては色も白い。。おとなしいのぉ。。」


酒臭い息をわざと吹きかけると

鈴のか細い手を握り

怯える身体をひっぱりあげた


「はよう舞え!!」


鈴姫の小さな身体ははね上げられ御簾の外に放り出された

回りは見たことのない男達

誰も彼もがこの小さな「姫君」を嘲った表情で見ていた


近くに座っていた房能の親族衆は騒ぎたてた

「ほほぅこれはこれは小さき姫様じゃのぉ」

「こんな女で「子」が産めるのか?」

口々に「罵倒」に準ずる言葉を平然と投げかけた


震える身体で立っているのがやっとの鈴の前で房能は酒を持ちながらクルリと身体を回した


「はよう踊れ。。。」


その目は鈴姫を蔑んでいた

顎を汚らしい手で掴まれた


「飲まぬば踊れぬのか?」


猪口ちょこを口の前に持ってきた

それを鈴が首をひねってかわすと

手を放したそのままその場で一度クルリと自分の身体を回して見せた

醜く肥え太った房能は足取りもドタバタと何回かまわって見せて

今度は鈴の肩を力一杯ひっつかまえた


激痛が入る

逃げだそうと身体を引いたが脂ぎった手は肩を放さなかった


「上杉の当主であるわしに「舞」を踊らせて。。ぬしは知らん顔かぁ?」


そういうと汚らしい歯をむき出しにして鈴の打掛をはぎ取ろうとした


「脱げ!!こんな贅沢な物を着ているから踊れぬのであろう!!」


着物をひっぱられついに鈴は倒れ込んでしまった

当主の「乱行」を誰も止めようとはしなかった

それどころかはやし立てた


「そうだ!!そうだ!!田舎娘がそんな豪奢な着物をきているから踊れぬのじゃ!!」

「脱げ!!脱げ!!真っ裸で踊れ!!」


襟を強く引っ張られ少しはだけた肩に「欲情」を露わにした房能が舌なめずりをして迫った

「いやぁ。。」

堪えられない涙をこぼした鈴



誰もが事の成り行きを「楽しんで」いたその場に酒壺が投げ飛ばされた

御簾の中の新郎が身を乗りだし始めたその時だった


「戯れも。。。そのあたりに」


祝言の間に集められていた一同は下座にすわる男に気がついた

列席の一番末に座っているというのに身体の大きさからか房能の目には近くに座っているようにも見えた

声は太く「怒り」を十分に纏った「武士もののふ」の姿にさっきまで叫声をあげていた上杉の者たちは静まりかえった

杯をあげ酒を一気に飲み干した男は

恐れる事なく続けた



「格調高き公家のしきたりがこんなにおもしろくもない「座興」とは。。。なんとしたものか?」


そう言うと

猪口を床に投げ捨てた


うずくまった鈴は涙声で助けを請うた


「兄様。。。為景兄様。。。。助けて。。。。」


晴れ着を汚されうずくまった鈴の上に着物がかぶさった

夫となる人。。定実の着物だった

右手に抜きかかった太刀を構えたままで鈴の手を引いた


「鈴姫。。。早くこちらに」


房能が為景に驚き呆然としている間に定実は鈴を御簾の中に連れ戻した



それを確認して

為景はゆっくりと立ち上がった

身の丈とその大きさに房能は「恐怖」した

もとより「戦鬼為景いくさおにためかげ」の名は聞き及んでいた

父をも凌駕する「戦績」をすでに誇り

素手で相手を縊り殺すと噂までされていた


今年三十六歳になる長尾守護代家の嫡男は畏怖堂々とした姿で

房能の前に進んできた


「まっ。。。待て。。。。冗談じゃ」


乱行で姫を笑い者にしてしまった事実の手前

本来なら守護の面前に向かってくる事など許されないハズの為景を叱る事のできなくなった房能は

迫る「獣」に恐怖してその場に尻餅をついて倒れた


倒れた房能を見下すように覗いた為景は

その場にしゃがみこみ。。。酒の息を吹きかけながらは顔を睨んで言った



「それほどに「舞」を所望でしたのならばこの為景が「剣の舞」をいつでも。。。どこでも。。。踊ってさしあげましょうや」


と顎をあげ

軽く笑みをうかべながら脇差しに手をかけた

本人は軽く笑ったつもりでも

大男に見下ろされた房能には獲物に向かって牙を剥いた山犬ようにも見えたようだった

斬られるのではという恐れで腰は立たなくなってしまっていた


「あいゃ。。。いやいや。。ちょっと酒が入り過ぎた。。」


だぶついた二重顎の皺にまで冷や汗と脂を吹き出した房能の前に為景は酒壺を差し出して言った


「酒ですか。。。。いやいや酒ですなぁ。。。」



この祝言の酒さえ落ちぶれた上杉では支度する事ができなかったのだ

為景が運んだ酒で酔って「乱行」。。。。


引きつった顔の房能にもはや言い訳は浮かばなかった

目の前に出された壺に震える手で杯を差し出した

その姿は誰の目にも「哀れ」な姿にしか映らなかった

そして

この関係がまさに「越後」の守護と守護代の関係の縮図である事に上杉の親族衆は苦虫をかみつぶした気持ちになったが。。。。



さすがに匂うほどの「殺気」を纏った為景に言い逆らう者は誰もいなかった


「良い酒は久しぶりで。。。。まこと。。すまぬ事を。。。」


静まりかえった場で

歯までを震え上がらせた房能に為景はあらためて頭を伏せ

「怒」を隠さぬ声で高々と宣言した



長尾能景ながおよしかげの娘。。。我が妹。。鈴姫の事。。。しかとお頼みいたしましたぞ」






定実と部屋に戻った鈴はただ泣いていた声を上げては嘲られ

晴れ着を乱された辱めに耐えられず

涙は止まることなく溢れ続けた


「鈴姫。。すまぬ。。すまぬ。。」


震える肩を定実は何度もさすった


「もう二度とあんな事はさせない。。絶対そなたにあんな思いはさせない。。。」


定実の必死の慰めも耳には届かなかった

自分の置かれた運命がただ呪わしかった


父のくだされた命令があまりにも酷い事に涙した

婚儀という「謀」に自分が捧げられた事を呪った


この日以来鈴姫は今まで手から決して放さなかった衵扇あこめおうぎを嫁入り道具の葛籠。。その奥深くにしまい二度と舞わないと誓った

辱めを受ける自分を救い出す事もできない情けない夫と見も知らぬ土地で過ごす日々に何の希望も「幸せ」も見いだせなかった


。。。。


せめて夫になる人が兄「為景」のような「強い男」であったのならと。。。。叶わぬ願いの中に沈んでいった

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