表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
101/190

その22 ゆらぎ (4)

比翼連理ひよくれんり。。。。頼朝よりともに。。義経よしつね。。。殊勝な手紙よのぉ。。」



深まる秋の夕日が届く表屋敷の一室で

届いたばかりの「影トラ」の親書に目を通した晴景はるかげは満足そうな笑みを浮かべて言った

丁寧に書き連ねた内容が「へりくだり」の態度を見せれば見せるほど思うつぼとにやけた



影トラは自分を「十分」に恐れている事がわかった。。。。

言うだけでも笑いがこみ上げてしまう気分だった



例年なら季節の変わり目に

身体の調子を悪くしていたであろう晴景だったが

注意をしているのか

まだ秋口だと言うのに厚着をした状態で文台の上の手紙を投げ捨て立ち上がると部屋の中を行ったり来たりしてみた


心はいつになく高揚していた

胸に手をあてて高まりを再度確認する

思い出すにこの感覚は


父,為景と山河を走り回っていた時のあの感じに似ているようで

無為にも着物の帯や足下を注意して見たり

確かめたりする


ココは「戦場」という認識からか


自分の身なりが「不用意」な事になっていないかを。。。確かめる


病を得るようになった時よりまぶたはいつも重く

眠りの時間が多かった事が嘘のように活き活きとしている



「軽い。。。」


腕を挙げまわしてみる

調子は悪くない。。。。

自分の四肢が「健全」な状態に保たれている事に喜びを憶えたのは久しぶりだったのだろう


手を開いたり閉じたりしてみて

何度か自分に向かって頷いた


今。。。かつての「戦乱」の越後を駆け回った頃に自分が心身共に戻ってきた事。。。歓喜した



水丸みずまる。。。」


先ほど投げた「影トラ」の親書を持って部屋に入り

後ろに控える小姓の「水丸」に自信に満ちた声をかけた

去年に比べると一回りは身の丈を大きくし子供だった顔は精悍な顔になり始めている彼はすぐに返事した


「その後「政景まさかげ」はどうしている」



今までとは比べ物にならないほどの「生気」を溢れさせている晴景の姿に羨望の目を向けながら

それでもまだ幼さを残す「声変わり」のしていない声で質問に答えた


「最初の「親書」を諸将に飛ばした事を咎められて以降大人しくしておられます」



咎めたわけではなかった

あの形ばかりデカイ粗暴な男は春日山に本格的に入城してすぐに「馬鹿」な手紙を書いた


「守護代に組みせず我に従え」


「弱った」晴景の姿を見て「侮った」態度

根回しをするにしろあんまりな「手紙」だった

が「物」は使いようと考えた晴景は「変な噂」が耳に入った。。。と称し政景に釘を刺しておいたのだ


「その後の「手紙」はどうなった?」


晴景の「知謀」を目の当たりにする喜びに踊る声を抑えながら水丸は答えた


「仰せの通り。。偽造して二回ほど同じ文を同じ「諸将」にを撒いてあります「困惑」は隠せない様子。。。みな沈黙の中におります」

「良いな。。。」


酒をそれほど嗜まない晴景ではあったが大いに飲みたい気分になっている

手に取るようにわかるから

あれはやはり「単純」な男だ。。。気が楽で良い物だとせせら笑った


あんな内容の手紙を貰った諸将はどう思う事だろう

とりあえずは「混乱」する

誰もが「出方」を見るために「静かになる」



守護代はどお出るか。。。と



しかしの沈黙

なのに

同じ内容の文が「督促」のように届く。。。。


不安を煽る

そしてそれは「政景」の信頼をガタガタに壊していく

守護代存命のうちにあんな「不徳」の手紙を乱発する者に誰が信頼を寄せるものか。。。



そういう不安定に便乗する者を炙り出すための巧妙な「罠」として

政景のアホな手紙を利用してやった




「宇佐見は動いたか?」


陽は落ちれども赤く染まり始めた木々の葉を余裕の態度で眺めながら聞いた

水丸はこれぞと晴景の足下まで近寄って小声で答えた


「動きました。。。」

戸に置いた手のまま下に控える水丸の嬉々とした表情

その目を見て答えた

「良い報告だ」



おそらく

どの諸将も「手紙」に関しては「無視」を決め込もうとしていた事だろう

しかし

「宇佐見」は動くと読んでいた

あの怪聞に釣られ絶対に何かをする



怪聞。。流言。。。




「長尾影トラは守護代の地位を狙って候」




宇佐見のものである事を晴景は見破っていた

戸を閉めて

注いであった水を飲んだ

考えを廻らし頭を使うと喉が渇く。。。



もはや「影トラ」は敵ではなくなった

手紙の内容からも「服従」一心

わざわざ疑いをかけられるような動きはとらない


「しょせん女。。。謀には弱かったな。。。」



宇佐見が「嗾ける(けしかける)」ような怪聞を発した事

それが

影トラにとって「見えない恐怖」になった

影トラのもつ「忠義」の心をうまく利用した策だった


だから

急ぎの手紙を送ってきた


「謀反の心は決してありません」




晴景の思案は高みに登りつつある

秘めやかに

涼やかに


進む


後何手で詰められるか

政景をどうやって「懐柔」してやろうか。。。それさえ「謀」という名の「お楽しみ」になっている


目を鋭くし

あの「不徳」の手紙のを読む

粗暴で乱暴な書きくちの筆

政景の内面。。。。。荒々しい「戦」心をよく表している



晴景は薄い笑みをたやさず考えを続ける


そんな荒々しさを

今更内政不安になっている「諸将」達が望むか?

その心に吹き溜まる「嵐」を受け入れる者がどこにいる?


望むことはない。。。。

望まれない「当主」だ。。。。


もろい「器」だ



あの「アホ」な手紙の事が広く伝わっている

わざわざ周りを不安にさせるような「督促状」の事を突けば


言い訳では済むまい

一度でもあんな手紙をだしてしまった事が「運」を見放す結果になった事を大声で笑ってやろう


もはや

この「戦」の勝敗は見えてきていた



政景という「力」を「知略」で押しつぶせる。。。。確信




その時に諸将の目に映るのは「心強き守護代」

力など

振りかざさなくとも「治世」を司る姿をもつ自分に向けられる「目」は


なんと

心地よいものか


「宇佐見殿の処遇はいかがされますか?」

自信に満ちた笑みの晴景に水丸も感化されている

そつなく任務をこなそうと

その威光に従おうと前にでて聞く


「ほっておけ。。。」



考えるまでもない宇佐見はどちらかの陣営に自分を「売り込もう」としている

馬鹿な

古めかしい「軍学者」だ

こちらから手をさしのべて「禄」を保証してやる事などない


憤り

宇佐見。。。己の軍学に酔い。。。そして溺れ死ぬがいい


「つまらぬ輩はほっておけ」


そう言うと水丸の肩を掴んだ

つかまれた手に確実な「力」を感じながらも水丸は職務を続ける


「政景殿のご内儀「綾姫」様がご登城される件はどうしますか?」


「ほっておけ」


水丸に顔を近づけ頬を撫でながら返事する

この上

「人質」まで持参してくれるとは。。。。ほとほとマヌケなり。。。政景。。。。

「綾」は元々長尾為景の子だ

親族のつながりで言えば政景など。。。。逆にこの春日山の籠に入ってきたアホウドリだ



「水丸。。。ねやに参る。。。共をせよ」


晴景は知謀の高ぶりをまだ人前に表さない

それは「仕上げ」の時に。。。。

存分に「偉大な守護代」としてみなの前で発現させるためにあるからだと信じていた

だから

高ぶる心で水丸を「抱く」


先を歩く晴景の後ろに従う水丸は

閨に呼ばれる事が至上の喜び


この優れた知謀の主に心も体も抱かれ「情」を得られる至福に顔を赤らめながら従った


自分が「強き男」の胸の中に入れる事。。。。それが「絆」

この方に仕える

心して



晴景は屋敷の渡りを行く中星空を見ながら誰に言うでもなく



「存分に可愛がってやろうぞ!」

と吠えた

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ネット小説ランキング>歴史部門>「カイビョウヲトラ」に投票 ネット小説の人気投票です。投票していただけると励みになります。 人気サイトランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ