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その3 栃尾城(2)

「ジーン!!!」

響く

天井の高い蒸し風呂だ


「ジーン!!!」

大きな声を出さなくたって良く聞こえてそうだ


「何?」

あわてて走ってきたジンが

蒸し風呂の戸口で答えた




「一緒にはいろう!!背中をながしてくれ!!」

実は前日の野武士との果たし合いでかぶった「血」がまだキレイにぬぐえていなくて

髪もゴワゴワ

顔もベタベタの状態だった


食事の支度をさせてくれた

実乃は

顔を見て察してくれたのか

この大変な時に「風呂」の支度も調えてくれたいた



なんともありがたいことだ



「一緒に?」

素っ頓狂な声がかえってきた

「おうよ!」



「一緒にか?」

戸口に立ったままもう一度同じ事を答えたジンに

「寺にいた頃のように一緒にだ!」

私は久しぶりに,のびのびした気持ちだった


寺にいた頃

十歳を越えたあたりから

ジンや他の修行僧と風呂に入る事はなくなった

というか

別室で「たらい」に入る生活になっていた


湯を浴びられるのは贅沢な事だ



贅沢な事をしているのだから

それに文句を言うものではないのだけど。。。。


修練の後

仲間たちと背中を流しあっていた時の事を思うと寂しかった



もちろん

その頃

私の身体には「変化」が出始めていて。。。

なんとなくそれが「原因」になっている事はわかってはいたが

それでも

共に風呂に入れない事は

何か「欠けて」しまった気持ちにさせていた




十歳の私には「迷い」がたくさんあった。。。

あったなぁ。。。

そんな事を思い出しながら


今も

「迷って」ばっかだ。。と

一人はにかんだ

頑張らねば。。。


それにしても遅いジンを

もう一度大声を響かせて呼んだ


「おい!!早く入れよ!!」





しばらく

戸口でゴソゴソとしていたジンが

褌一枚で入ってきた


「ひろいな。。」

「広いだろ!」

暗い岩室の上の方が

意図的にか,抜かれていて「夜空」が見える

空を見ながら

いそいそとジンは湯につかった


栃尾の宝

温泉は身体にも心にも優しい湯だった


「ジン。。。。」


何故か顔をこっちに向けないジンの顔を覗き込んだ


「ジン。。。何かいるのか?」

「いや。。まあ。。」

顔の向いている方を見るが。。何もいない

「静かな夜もいいなぁって。。。。」

何かぎこちない


どうした?

いぶかしく思ったが

情緒を楽しむというものもあるだろうと思い

少し,湯に浮かんだ


上がって

「さあ!!流してくれ!!」

と呼んだ

ジンはゆっくりあがってくると

背中を流してくれた

やはり大きな手だ。。。

だが流し方は優しい

「よし!!次は私がしよう!!」

向き直って桶を用意した


ジンの背中。。。。。

大きな背中だ

「ジン。。。また背が高くなっただろ?」

「そうか?」

湯で流しながら

その身体をしげしげと見た

腕も,足も

何もかもが,がっしりしたジンの身体は修行だけで作られたとは思えないほど

立派なものだった


羨ましい

私ももっと立派な身体になりたい

そんな決意を言った


「私もがんばって大きくになるぞ」

拳に力をこめて


ジンはおちゃらけて返した

「トラは兵法をがんばった方がいいんじゃねーの?」

「ぬかせ!!それは十分に学んでいるさ!!」



心がはずんだ

こうやって仲間たちと修練をつみ

語り合った日の事を思い出した


ジンの前に回って言った

「明日からはもっと学ぶぞ「禅」も「武」も!!」


ジンは顔を真っ赤にしながら言った

「もちろん。。。がんばろう。。」

「覇気がないぞ!!」

そう言うと肩を組んだ





いい夜だ!!



私はこれからくる「苦難」にたいする備えに邁進する事を誓った


だが

これから訪れる苦難は私の想像を遙かに上回ってゆく事になった

今日のような平穏な日は。。。。


もう

訪れないかのように。。。。

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