太陽が見守る町で:玲奈
ピピピピピ。
律儀に規則正しい騒音を振り撒きながらケータイが振動する。
「むぅ…。」
億劫に画面を操作し、5分後にアラームをセットし直して私は微睡む。
二学期に入ってから起床時間が遅くなっている気がする。6時半に起きていたのが、今では
7時前に起きるのが日課になっている。
ピピピピピ。
やかましいアラームを消し、私はベッドから出る。
「寒っ。」
まだ10月の初めだというのに残暑というものは感じられず、朝は肌寒い。
何か着るのも面倒だし、タオルケットでいっか。
「もふ。」
タオルケットをかぶり、部屋を出た。ああ、寒い。凍え死んじゃいそう…。
「いつまで寝ぼけてんだ。」
「寝ぼけてないよ、寒いんだよ。」
「だったら何か着ればいいだろう。高校生にもなってみっともないぞ玲奈。」
朝だけの安心させる低い声で話す私のお父さん。皆に言わせればイケメンなんだけど厳しい。
寒がってる愛娘から防寒具であるタオルケットを剥ぐくらい厳しい。
「寒いよぉぉぉぉぉ…。」
「朝食はもうできてるぞ。今日はバジルソーセージだったな。」
ああ、お父さんの好物か。美味しいんだけど私はあまり好きじゃない。
「今日はもう出かけるの?」
朝スーツ姿で玄関に立つ父を見ればそう思うしかない気がする。
「ああ、一応会議でな。ったく月曜の朝くらいのんびりしたいってものだよ。」
私に愚痴るお父さん。この図は如何なものか。
「そ、いってらっしゃい。寒いよぉぉぉぉ…。」
「いってきます。風邪ひかないようにな。」
手のタオルケットを私に放り投げ、お父さん扉を開け外に出た瞬間、冷たい冷気が体を撫でた。
「にゃぁぁっ!!」
急いでタオルケットをかぶり、リビングに入る。
「わぁぁ、暖かい…。」
「おはよう、最近起きるの遅いわよ。」
父が厳しければ母が厳しくなるのは自然なのかな…。
「いや、寒いじゃん。」
「そこ、即答しない。」
そんな会話をしながら席につく。
「お父さんの大好物…。」
「結構用意したのだけどねえ…、あの人あれだけ食べて大丈夫かしら…。」
お父さんは好きな物を食べる時、吐く寸前まで手が止まらない。なのに健康体なのだから世の中不公平だ。
パリッとした皮から肉汁と一緒にバジルの香りが肉の臭さと脂っこさを中和する。
美味しいんだけど…、クセになってしまいそうだから好きじゃない。
サラダとオレンジジュース、ビスケットを食べ終えて私は席を立つ。
「ごちそうさまでした。」
「はいはい、いってらっしゃい。」
食器をキッチンに片づけたお母さんはそそくさと出かけてしまう。
近所のママ達の会合という名のお茶会だそうだ。
タオルケットをかぶりながら、私は思う。
好きな人以外に恋ができるなら、私はこんな日常に恋するんだろうな…って。