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【書籍化進行中】3才児ですが可愛い花嫁がやってきた!と溺愛されてます。しかし私は敵国の最強魔法帝です  作者: 六花きい


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39. 幸せにすると言ったのに


 奥行きのあるソファーにゆったりと腰を掛け、ロイドは先ほどから手元の酒をくゆらせていた。


 体半分寝そべるような体制でも、余裕を持ってくつろげる。

 侍女のアリエッタに無理を言って、溺れるほど飲んでも十分余るほどの、酒やつまみを用意させた。


「久しぶりだからか、随分と強く感じるな」


 いつも飲んでいたはずの酒が喉を焼き、上手いはずのツマミは、不自然なほど喉につかえる。


 あれから、何日経ったのか。

 指折り数えようとして、やめた。

 静かすぎるくらいの夜だが、虫の声が耳に心地よく、ふと顔を横向ければこれ以上ないほど丸い月が目に入る。


 突然召喚されて、同意もなく辺境伯の嫁にされたのだ。

 それも敵国の、冷血将軍などと呼ばれる……何ひとつ面白みのない男のもとへ。


 ——言えば良かったのに。

 そう思わなくもないが、相談などできるはずもなかったのだろう。


「身を護る術のない状況で、正体を明かすことなどできるはずもないな」


 魔力測定器が見たことがないほど明るく光り、特大の攻撃魔法を容易く行使した。

 さらに不細工な飼いネコは、まさかの聖獣ヴェリアル。

 それにあいつは、――あのディーンとかいう男は、何だ?


「我が愛しの姫……?」


 長年ともに過ごしてきた者達特有の気安さがあり、とても仲が良さそうに見えた。

 魔法帝が結婚しているという話は聞いたことがないので、となると婚約者だろうか。


 考えた瞬間、胸の中が、ちりりと焦げ付くように痛くなる。

 魔法帝とは知らないまでも、専属侍女アリエッタは、あの夜の美女がレティシアだと知っていたのだろう。


 怒る気にもなれないが、もっと早く気付けていればとため息が出る。

 ――すべてが、繋がっていく。


 見ず知らずの美女に惹かれてしまったと絶望したが、すべてレティシアだったのだ。

 結局、幼女の姿でも、大人の姿でも、同じ人間にずっと惹かれていた。


 ……気付くのが遅すぎる。

 ロイドはベッドに向かうなり、クマを手元に引き寄せた。

 レティシアお気に入りのぬいぐるみ。ぎゅうっと抱きしめて、嬉しそうに頬を赤らめていた。


「解放してやる? ……そんなことを頼んだ覚えはない」


 クマのぬいぐるみをギロリと睨むなり、両手で頬をぐにりと押しつぶす。


「……幸せにすると言ったのに」


 結局、傷つけてしまった。

 ふとすると、『この結婚は無効だ』と言ったレティシアの顔を思い出してしまう。


 ロイドはしばらくクマと無言で向き合ってから、観念したように仰向けに倒れ込んだ。



 ***



 翌日から、ロイドは仕事に打ち込んだ。

 追い立てられるように、とにかく働いた。


 報告書を書く。次の遠征計画を立て、訓練に顔を出す。

 業者との交渉、魔獣の討伐指示、領内の視察計画。手が空けば剣も振るう。


 夜が明ける前に起き出して、また夜が更けても手を止めない。

 動いている間は、余計なことを考えずに済む。


 屋敷に籠もり、休みも取らずに働き続けた。食事は、運ばれてきたものを口に入れるだけ。

 何を食べても味がしないから、どうでもいい。


「旦那様」


 最近、気付けば難しい顔をしているアリエッタが、珍しく執務室を訪ねてきた。


「少しは召し上がらないと、身体を壊してしまいます。昨日の夕食も、ほとんど残されていました。このままでは――」

「……問題ない」

「どうかお休みになってください」

「アリエッタ、くだらない話をしに来たなら出ていけ。仕事がある」


 睡眠不足で頭が回らなくなってきたロイドの前に、アリエッタはずいっと皿を差し出した。


「……なんだ、これは」

「レティシア様がお好きだったものです」


 アリエッタはそう言って、皿をその場において部屋を出る。

 一人残されたロイドは、しばらくその菓子を見つめていた。


「……甘い」


 一口齧ると、久しぶりに味がする。

 窓の外では、庭師が花壇の手入れをしている。レティシアお気に入りの、白い花。


 余計な心配だとは思うが、魔法国で、レティシアはちゃんと食事を取っているだろうか。

 自分みたく、無理をしていないだろうか。


 ロイドは菓子を食べ終えてから、ゆっくりと立ち上がった。

 部屋の隅には、小さな、子ども用の靴下が一足。

 いつもレティシアが放り投げていくため、アリエッタが片付けようとしたが、何となくそのままにしておいたものだ。


 ロイドはそれを引き出しにしまい、久しぶりにすっきりとした気持ちで、窓の前で伸びをしたのである――。







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ロイドくん、……もしかして初恋ですか?
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