表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化・コミカライズ進行中】3才児ですが可愛い花嫁がやってきた!と溺愛されてます。しかし私は敵国の最強魔法帝です  作者: 六花きい


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
18/46

18. セシリオ辺境伯家の押しかけペット


 帰宅後すぐ、レティシアはロイドの膝の上にいた。


 ――相変わらず機密書類が見放題。

 レティシアはお絵描き用の羊皮紙に落書きをしながら、横目でその書類を盗み見る。


 通商条約の草案、のようだ。

 自国内での魔石充足が難しいため、複数国で取り決めをし、輸入することにしたらしい。


 ……ん?


 『第七条。魔石の輸出上限について』

 とある記載を見咎め、レティシアは身を乗り出した。


 数字と単位が、巧妙にずれている。

 一見すると問題ないように見えるが、よく読めば特定の国が際限なく買い増しできる抜け穴があった。


 意図的か、それとも単純なる誤表記か。

 どちらにせよ、このまま締結すれば後々面倒なことになる。


 こういう時、幼児の身体は不便だな。

 教えてあげたいのは山々だが、如何せん設定は文字が読めない三歳児。


 だが放っておくにはインパクトが大きい。


 レティシアはおもむろに、ロイドが持っていた条約書類へ、ぺたりと手を伸ばした。

 ロイドの制止を無視し、書類をずるずると引き寄せる。


「レティ、それは触っては――」

「ここでかきたい」


 先ほどまで落書きしていた羊皮紙を、書類の上に広げた。

 普段我儘を言わないレティシアが珍しく要望を口にしたためか、ロイドは止めようと伸ばした手を所在なく宙に彷徨わせる。


 馬鹿だな。我儘など放っておいて、さっさと取り上げてしまえばいいのに。


 レティシアは口元を綻ばせ、重ねた羊皮紙にグルリと大きな円を描いた。

 勿論、鼻唄も忘れない。

 続けて羊皮紙にぐるぐると小さな丸を書いていき、つるんとはみ出たふりをして、書類の第七条に丸をした。


「あっ、こら」


 さすがに注意する声が頭の上で聞こえるが、知ったことではない。

 レティシアは再び書類に視線を落とし、またぐるぐると丸を書いた。


 今後は問題個所が目に留まるように。でもやり過ぎないように。


「……?」


 ロイドが、静かに書類を手に取った。

 第七条。数字と単位。もう一度、ゆっくりと読む。

 続く条文をしばらく眺めて、眉根を寄せた。


「……これは?」


 ロイドの声がピンと張り詰める。

 レティシアの手の下から書類を抜き出し、ゆっくりとページを遡っていく。


 長い沈黙とともに、丁寧に読み直しているところを見ると、問題の箇所に無事気付けたようだ。

 良かった良かったとレティシアは安堵の息を吐き、自分が描いた羊皮紙の絵を、満足げに天井へかざした。


「ろいど、あたらしいかみ、ほしい」

「ああ、そうだな。今持ってこさせよう」


 レティシアはすっかり興味を失ったような顔で、少しだけ開いていた余白に、今度はネコを書いてみる。

 ほどなくして羊皮紙の片隅に、――不細工なネコの絵が完成した。



 ***



(ヴェリアル……ヴェリアル、いるか?)


 ロイドのいないタイミングを見計らって、ヴェリアルを呼ぶ。

 従属契約をしているため、相手の魔力さえ検知できれば、いつでも傍に呼び出せるはず。


 目論見通り、ぽん、弾けるような小気味良いと音とともに、ぶさねこヴェリアルが現れた。


(それにしても、なんだその不細工な姿は)

《うるさい! 従属獣は主に引きずられると知らんのか!? お前のせいだ。お前がいつまでも幼児のままでいるからだ。あげく吾輩の魔力を奪いおって……悪魔か貴様は!?》

(この程度の魔力で、か? 聖獣様のくせに情けないことだ)

《根こそぎ奪ったのはお前だろうがッ!》


 ぷりぷりしながら怒るヴェリアルを放置して、レティシアは思考を巡らせる。


 自分がいなくなった後、魔法国の運営に必要な業務が滞ってはいないか。

 頻出する魔獣達が、街に出て悪さをしていないか。

 挙げれば枚挙に暇はなく、心配の種は尽きないのだ。


(それで、魔法国はどうなっている?)

《国中パニックだ。幼児のままでいいから、早く帰ってこい。ディーンが暴走している》

(だろうな。魔法国にいても定期的に構ってやらないと、騒ぎ出す男だ)


 ため息しか出ないが、今できることは何もない。


(クロニクルに任せるしかないが……ディーンのおもりは大変だろうな)


 落ちてきたメガネを人差し指で押し上げながら、いつもキリキリと胃を痛めているクロニクルが目に浮かぶ。

 ディーン起因の面倒ごとをいつも一手に引き受ける、誠実で使い勝手のいい副師団長だ。


《魔法師団に、何か伝言はあるか?》

(もうじき魔力が戻る。自力で帰るから、探さなくていいとディーンに伝えておけ)

《……あの男はどうするつもりだ?》

(あの男?)

《とぼけるな。幼女のお前を妻だと宣言した、頭のアレなあの将軍だ。よもや魔法帝だとバレてないだろうな!?》

(バレてるわけがないだろう。魔法国の皆には、まだ何も伝えるなよ)


 面倒くさいことになるからな、と独り言ち、ヴェリアルから奪った魔力を練り上げて、指先から魔石を作り出した。


 国によっては金の何倍もの価格で取引されることもある。

 だが魔石の流通力は極めて少なく、たまに魔獣の死体から見つかる程度。

 その価値は極めて高いが、魔力量の多い者なら自力で錬成できるという事実は、ほとんど知られていない。


「分かったら行け」


 虫でも追い払うようにひらひらと手を振り、レティシアは錬成したばかりの魔石をヴェリアルに与えた。

 ぽん、とまた音がして……ヴェリアルの姿が消える。


 無事でいると知れば騒ぐこともないだろう。

 心の仕えはすべてなくなり、あとは魔力を戻すだけ。


 改めて認識した、その二時間後。

 ――夕食前のことだった。

 部屋でぼんやりしていたレティシアの目の前で、だらりとヴェリアルが寝転んでいる。


(……おい、伝言はどうした)

《すぐ傍に綺麗な泉を見つけた。魔塔にある水盤を通して送ったから、もう済んだ》

(ほぅ? さすがヴェリアル、仕事が早い。それは何よりだが、なぜここにいる?)

《お前に何かあったら、魔法国は一大事だからな。護衛もかねて、傍にいてやる。あの男がどれだけ危険か知らぬわけではあるまい。配下の騎士達が負傷しても気にも留めず、三日三晩、常軌を逸したように剣を振り続けるようなヤツだぞ?》


 そんな危険な男を野放しにするわけにはいかない、ということのようだ。


(噂は噂だ。配下を見捨てるタイプの男ではないし、良識もある。気にし過ぎだ)

《お前、ちょっとおかしいぞ? 敵国の将軍を庇うなんて……すでに相当毒されてるじゃないか! なんて計算高い男なんだ……よもや魔法帝を篭絡するとは。心配したとおりだ》

(で? 本当は何をしに戻ってきたんだ?)

《……腹ごしらえがしたい》


 最小限の動きで魔法国への伝言を済ませ、すぐさま戻ってきたヴェリアル。

 本当の目的は、セシリオ辺境伯家の豪華ディナーであるらしい。


《食糧庫に、なんと魚の干物があった。それも滅多に手に入らない、トビウオだ。ここの料理長はなかなかセンスがいい。今夜はあれを出せ。無理なら新鮮な鶏肉でもいい》

(お前、ここのメシが食いたいだけだろう?)

《……》

(まあいい。聞くだけ聞いてみるが、ダメならすぐに魔法国へ帰るんだぞ?)

《……》


 今日だけだからな? と念を押し、レティシアは小さく息を吐く。

 そして夕食のお迎えに来てくれたロイドに、拾ったネコに餌をあげてもいいか聞いてみた。


 今日だけでいい。ダメならダメで、それでもいい。

 ご飯を抜いたところで死にはしないし、ダメならすぐに帰国してもらえばいいだけだ。


 そんなことを考えていたのだが、思っていた以上にロイドはレティシアに甘かった。


「ん? 別に構わないが……今日だけでいいのか?」

「うん」

「では同じ部屋で過ごせるよう、アリエッタに伝えておこう」

「ごはんも、おいしいやつ」

「分かった。ネコ用の特別メニューを、用意しておこう。名前は決まったのか?」

「ヴぇりある」

「…………そうか」


 最後は若干間があったが、かくしてヴェリアルは一日限定、セシリオ辺境伯家のペットになったのである。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ