表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化・コミカライズ進行中】3才児ですが可愛い花嫁がやってきた!と溺愛されてます。しかし私は敵国の最強魔法帝です  作者: 六花きい


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
12/46

12. 魔法帝、眠れない


 魔法帝時代の自分を思い起こし、ロイドの隣をよちよちと歩いていると、廊下の角から子供たちが数名飛び込んでくる。


「あッ!?」


 ロイドの姿を認めた次の瞬間、元気よく駆けていた先頭の少年がつるりと足を滑らせ、盛大にすっ転んだ。


「ぎゃあぁぁッ」

「ももも申し訳ありませんッ」


 悲鳴とともに、庭先や廊下にいた子ども達が、瞬く間に姿を消した。

 冷血将軍の名が囁かれ、柱や植木の陰から、じっとこちらを窺っている。


「大丈夫か?」


 ロイドが手を差し伸べるが、転んだ少年は逃げ遅れてへたり込む。

 返事すら出来ずに、ガクガクと足を震わせている。


 ……これはひどい。


 だがいつものことなのだろう。

 気にする様子もなく、ロイドは平然と院長室へと向かっていく。


 こぢんまりとした部屋をノックするなり、初老の男が笑顔で二人を出迎えた。


「おかげで今年も、子ども達が温かい冬を越せそうです。毎月、匿名でのご寄付……本当に、ありがとうございます」

「そうか」


 白髪まじりの髪を背に束ねた院長が、丁寧に頭を下げる。


 匿名での寄付?

 来客用のカップを受け取るなり、レティシアの耳がぴくりと動く。


「その子も孤児ですかな? わずかですが定員に空きがございます」

「いや、大切な人を手放すつもりはない」


 ぶは、と生暖かい水がレティシアの口から噴き出し、院長の目がまるまると開かれた。

 ロイドは何事もなかったように、レティシアの口元をハンカチで拭う。


 夕暮れに染まるミネルヴァの街は、豊かで、穏やかで、人々が幸せそうに笑っている。

 出会ってこの方おかしな発言も目立つが、民の声に耳を傾け、匿名で寄付をし、子ども達に怯えられても咎めるでもなく平然としている。


 差し込む夕日を頬に受け、ロイドは相変わらずの無表情で、遊ぶ子ども達を眺めていた。



 ***



 アリエッタにピカピカに磨かれ、寝間着に着替えさせてもらう。

 そのままロイドに抱き上げられ、レティシアは寝室へと向かった。


 美味しいご飯でお腹を満たし、今日も大満足。

 寝室に入るなり、そっと下に降ろされる。

 そのままベッドへダイビングしようとしたところで、レティシアの足がぴたりと止まった。


 枕元に、何かが置いてある。

 なんだか見覚えのあるシルエット。


 丸く、茶色く、ぽってりとした小さな耳。

 つぶらな黒い瞳がじっとレティシアを見上げ、おいでと誘っている。


「……ッ」


 露店で見たクマのぬいぐるみ。

 もう、二度と会うことはないと思っていたのに。


 弾かれたようにバッとロイドを振り返ると、腕組みをしたまま壁に凭れ、ただじっとレティシアを見つめていた。


「気に入らなければ捨てていい」


 素っ気ない物言い。それ以上、何も言わない。


「~~ッ、……ッ……」


 そろそろと近付き、恐る恐る、指先でぬいぐるみの耳に触れてみる。

 ふかり、と指先が沈んだ。


 な、なんだこれは!?


 柔らかすぎる。

 想像よりも、ずっとずっと柔らかかった。


 レティシアよりも一回りほど小さい……抱き心地の良いぬいぐるみ。

 両手でそっと持ち上げてみると、心地良い重さが手のひらに伝わってくる。


 つぶらな黒い瞳がこちらを見てきた。

 艶々として、どこかロイドの目に似ている。


「かわいい!」

「……そうか」


 力いっぱい抱きしめれば、もふりと顔が沈み込む。

 ふかふかの毛並みが頬に触れ、柔らかなお日様の匂いが鼻腔をくすぐる。


「ロイド」

「ん?」

「…………ありがと」


 なんとなく顔を上げる気にはなれず、ぬいぐるみに顔を埋めたまま、くぐもった声で礼を言う。

 衣擦れの音がして、次の瞬間、レティシアの身体が宙に浮いた。


 クマのぬいぐるみを間に挟むようにして見下ろせば、初夜にしてレティシアが『きれい』と宣ったロイドの双眸が、覗き込むように自分へ向けられている。


 どさりとベッドに腰かけるなり、ロイドはレティシアを膝の上に乗せた。

 大きな手でそっと頭の上に触れ、ゆっくり、優しく撫でてくれる。


「……ッ」


 認めよう。

 甘やかされている。子ども扱いされている。


 ――大切に、されているのだ。


 胸の奥がじんわりと温かくなって、無性に嬉しい気持ちになる。

 気付いたらレティシアは、ロイドの首にぎゅうっと……衝動的に、抱き着いていた。


「うれしい」


 いつもは微動だにしないロイドが、この時ばかりは身を固くし、息を呑むのが分かった。


「……ありがと」


 小さな声で、もう一度。

 レティシアもまたロイドの首元に顔を埋めたまま、どうしても顔が上げられない。


「愛する妻のためだからな」


 返ってきた答えにギョッとして身体を離すと、今まで見たことのない柔らかな顔で、ロイドの口元が綻んでいた。


 あ、あれ……?

 たったそれだけのことなのに、レティシアはなぜか息ができなくなってしまう。


 顔が熱い。鼓動が、うるさい。

 久しぶりの外出に疲れて、風邪を引いたのだろうか。


 レティシアはトルティア王国に来て初めての、眠れぬ夜を過ごしたのだ。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
「かわいい!」っていうレティシアがかわいい!!!!!!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ