#8
「ちょっと!どう言うことよ!!」
食堂を出て、外を歩くヴァージニアは不満を漏らしながらレオポルトに食ってかかる。
「まぁまぁ、落ち着け」
「何処が落ち着けるって言うのよ!!」
「話を聞けば馬鹿馬鹿しく思うぞ」
「どう言うことだ?」
ジャクソンの問いにレオポルトは歩きながら説明する。
「これも親父から聞いた話なんだが。ああ言う成績上位者は成績の他に寄付も含まれているんだとさ」
「寄付?」
「そう、面接の時に聞かれなかったか?慈善事業団体だったりに寄付とかしていないかって?」
「あぁ、そう言やあそんな事も聞かれたな」
思い返す用に呟くと、レオポルトは続けて言う。
「んで、そこで寄付をしたと言われるとその団体名や寄付した金額を聞かされ、それが本物であるとわかると一気に成績上位者に仲間入りって訳さ」
「何よそれ!?信じらんない!!」
するとヴァージニアが声を上げて叫ぶ。しかし、そんな彼女にレオポルトは非常に冷ややかな声で言う。
「確かにジニーはそう思うかもしれないが、ここは国立の高校。どれだけ国に奉仕出来るかも試される場所ってこと」
「国に奉仕?」
「そう、俺たちは合州国市民。生きること以外にどれだけ国に奉仕出来るか。それが自分の頭脳か、親の資金源か」
「あぁ、なるほど。そう言う事ですか」
「ん?どう言うことだ?」
理解して手を叩くアニと、首を傾げるジャクソン。すると、アニが詳しい解説をした。
「要するに寄付をすれば、どれだけ家に資金源があるか分かりますし。寄付をしてお金を放出する事はお金を回らせる事になって国の経済が周ります。国の経済が回る事で国は発展していきます。だから、寄付をする事は国に奉仕する事と同じってことです」
「あぁ!そう言う事か!!」
分かりやすい説明に納得したジャクソンは要約する。
「つまり、寄付した金額が多ければそれだけ学校側にもよく受けるって事か」
「そう言う事だ。だから成績上位者になりたい輩で、試験結果が思う様にいかない場合は適当な慈善団体か研究施設に寄付すれば良い」
「それって親の金の有無で決まる様なもんじゃん!ズルい!!」
ヴァージニアの意見も尤もだ。だが、研究をするにしたって最近はとにかく金の掛かるものが多いのも事実。研究機関にとっても寄付してもらう事は嬉しい事でもあるのだ。
「まぁ、でも俺たちが学生中に何かしらの論文一本を書けば大学には入れるし、何なら論文が認められればさっきの連中の言ってたクラブにも入ることができる」
「詳しいわねぇ〜…」
「レオの親父さんがここに居たんだっけか?」
「そうらしいんだけどね」
「そうらしい?」
アニの疑問にレオポルトは困惑した様子で答える。
「詳しく話さないんだよ。学園都市にいた事以外は全く」
「ふーん」
ヴァージニアは少し気になった様子を見せつつもあまり興味はない返事をしていた。
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それから、レオポルト達はそれぞれ気になった施設を回っていき、時間はあっという間に過ぎていった。
「新入生は部活に入ることが義務付けられているみたいですね」
「何処にするとか決めないとね」
「やっぱり運動部か?」
「そうだねー」
見た目的にも運動系がよく似合いそうなヴァージニアは頷く。それを言うならジャクソンも結構運動部の方が良さそうだが。
「レオはどんな部活に入るか決めた?」
「そうだな…」
部活動の一覧を見ながら校舎を歩いていると…
「うわ、またやっているよ」
前には十人ほどの集団と女生徒達が何やら言い争いをしていた。
「そっちが悪いんでしょ!!いきなり現れて!!」
「何だと!?そっちからぶつかって来たんじゃないか!!」
言い争った原因は出会い頭の衝突の様で、結構派手にぶつかったのだろう。少し離れた位置に女生徒が座り、その周りを他の生徒が介護している様だ。
周りの生徒は仲裁に入る様子も無く、言い争いはエスカレートするばかりだ。触らぬものに祟りなし、その場を離れようとした時。
「謝りなさいよ!!」
「チッ…五月蝿いなぁ!!」
そう言い、我慢なら無くなった一人が片手に携帯を取り出し。一瞬で魔法を発動させようとしている事に気づいた。
「っ!?不味い!!」
反射的に懐の銃を取り出そうとしたその瞬間。
「ぎゃぁぁあああっ!!??」
魔法を発動させようとした生徒がスタンガンを喰らった様に悲鳴をあげて倒れる。するとそこに複数の生徒が集まる。白色の校章の入った制帽を被り、制服には腕章が付けられ、生徒の多くはH&K UMP短機関銃で装備していた。
「は、離せよっ!!」
取り押さえられ、喚くがそんな事お構いなしだった。
「ったく、入学二日目で問題を起こす気か?馬鹿者」
取り押さえた一人がそう言うと、校庭に一人の生徒が近づいてくる。その姿をみて、一斉に全員が目線を向けた。
「学内における特定事項以外で無許可における対人目的の魔法の使用は校則において厳しく罰せられるのは知っているだろう?」
すると、犬の獣人である彼女は片手に珍しい四式自動小銃を持っていた。顔つきから瑞穂国の人の血が入っているのだろう。あの顔は入学式でも見たことのある顔だ。
「確かにあの人は…」
入学式で何と言っていたか?確か…
「おいおい。ありゃ、風紀委員だぜ」
「あぁ…」
思い出した。彼女は…
「風紀委員会委員長のシュライク・アリサカですね」
すると、ヴァージニアが思い出した様子で話す。
「あぁ、知ってる!ドレッドノートってあだ名がつけられている人でしょ!」
ドレッドノート…恐れ知らずの異名を持つ生徒か…。
「とんでもなく強いらしくって、二十人がかりでも倒せないとか」
「はえー、そんな強えんだ」
「だからって喧嘩売らないほうがいいよ?」
「俺はそんな喧嘩っ早くねえよ」
突っ込みをかけると、先ほど魔法を発動させようとした生徒は未遂と言うことで釈放されていた。
「次に魔法を発動させようとした場合は、問答無用で牢屋に入れる事を覚えておけ」
そう言い残し、風紀委員会は散り始めた。
風紀委員会は魔学院や各学校に於ける警察機構の様なもので、魔法を使ったテロを異様なまでに警戒しており。一万人近くいる高等科には五百名ほどが在籍していると聞いている。実働部隊は青と白ストライプの腕章を付けていた。
「凄い手際だったな」
「ああ、訓練されているんだろうな」
風紀委員の役割は学内の治安維持や校則違反抑制が主な任務であり、機密情報管理は国のお仕事で風紀委員会にとっては二の次である。生徒会も存在しており、そっちは学校内の校則の採択や運営方針を決めるのが主な仕事である。
違反者は酷い場合は警察に突き出して少年院にドナドナされるが、大体は反省文か監獄と呼ばれる隔離施設にぶち込まれる。
「やれやれ、あの集団にだけは関わりたくないね」
そう呟くとヴァージニア達も頷きながら帰って行った。
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風紀委員の巡回を終え、サイエンスセンタービルにある風紀委員会本部でシュライクは今日の業務を終える。
「お疲れ様です。委員長」
そう声をかけるのは高身長の好青年だ。彼は風紀委員会副委員長のエイブラハム・ボーイングである。エイブラハムに声をかけられ、シュライクは軽くため息を吐く。
「まだ揉め事が少なくて良いわね」
「ははっ、それはそうですね。でも、委員長的には忙しい方が好きなのでは?」
「そんな私は戦闘狂じゃ無い」
「おっと、これは失礼」
そんな軽口を叩いていると、シュライクはパソコンを開いて新入生のリストを見始める。今日の業務は終わっているはずだが…。
「良い人材でも見つけました?」
「そんな所だ」
写真付きの名簿表をスクロールして眺めていると、とある人物の欄でシュライクの指が止まった。
「この生徒だ」
「名前は…レオポルト・ウリヤノフですか。…新入生ですね」
「あぁ…」
個人情報の欄をクリックし、詳しい情報を見る。
「素行は至って良好ですね。大きな問題はなさそうで…」
すると、両親の欄を見て一瞬だけエイブラハムは目を大きく見開き、シュライクは見つめたまま眉ひとつ動かなかった。
「親はあのカール・ウリヤノフ…苗字が同じだとは思っていましたが…」
「はっ、面白い。あの暴君の息子とはな」
「古い先生だと苦情が飛んで来そうですね」
エイブラハムは苦笑しながら言い、レオポルトの個人情報を閉じていた。
「先ほど巡回中に見かけたが、反射神経は完璧だった。おまけに脇腹に拳銃を抱えている」
「拳銃ですか…恐らくは父親に言われたんでしょうね」
「親の入れ知恵か」
エイブラハムは推測を口にすると、シュライクは軽く手を組んで呟く。
「今度、勧誘をして見るか…」
「宜しいので?」
その問いにシュライクは口を開く。
「実力も良し。素行も良し。今の時期に囲んでおいた方がグレる事もあるまい」
「なるほど予防接種みたいなものですか」
「良い例えだな」
シュライクは椅子を回して外を眺めながら考え事をしていた。
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学校帰り。学園都市内のコンピュータ店に入った。
「おっ、新作が出ている」
店の中で分解されたパーツを確認しながらレオポルトはその商品を手に取る。
「この前纏った金も入ったしな…」
高校に入って止めた株を元手に手に入れた資金でレオポルトは例のトランクパソコンを完成させる為のパーツを購入していた。
まだ授業始まっていないが、工作機械くらいは借りることが出来るかと考えながら店を出て帰る途中。妙な光景を目にした。
『止めて下さい!』
声がしたのはビルの間の裏路地だ。悲鳴に近い様な声が聞こえたが、何事だろうか。
声のした方に向かって裏路地を進むと、そこでは変質者が一人の女生徒に襲い掛かろうとしていた。
「ったく、嫌な予感だけは当たる」
小声でそう呟くと、レオポルトは荷物を傍に置いてそのまま飛び出すと男の首目掛けて一髪蹴りを喰らわした。
「ごっ!?」
一発KOされて倒れた男を他所にレオポルトは襲われていた少女を見る。
「大丈夫か?…って、あれ?」
「え?」
その顔を見た時にレオポルトとその女生徒は固まった。
「何でアニがここに?」
そこにはへたり込んだアニが座っていた。




