#6
ジェイムスの話が終わり、生徒達が一斉に出ていく中。レオポルトは席に座ったまま動かない。
「あれ?行かないんですか?」
「ん?いや、ちょっとこいつをよく見ようと思ってね」
そう言い、渡された学生証を凝視していた。そして凝視したレオポルトは学生証の裏面を見る。
「…ははーん、なるほどね」
裏面を見た瞬間、レオポルトはニヤリと笑った。
「何かわかったんですか?」
「ああ」
そう答えるとアニは驚いた表情を浮かべた。
「み、見ただけでわかるんですか?!」
「まぁ、何となくだがな」
これも親父に色々と魔導具を触らせてくれた賜物だろう。
「どんなものが入っているんですか?」
「まぁ、それは移動しながら話すよ」
そう言うと学生証を持ちながらレオポルトは教室を出る。
教室を出てジャクソン達と合流したレオポルト達は移動する。
「へぇ、学生証が魔導具なの?」
「そんな所だな」
ヴァージニアが学生証を掲げながらそう口にすると、レオポルトは答える。
「ってかどこに行くんだ?」
そこでジャクソンが聞くと、レオポルトは携帯で地図を確認しながら答える。
「この先だ。親父がここは人が少ないからおすすめだと聞いていたぞ」
「え?でもここって…」
エレベーターで登った先、アニは固まった。だってここは…
「おいおい、職員室の前かよ…」
学生証登録のための機械は事務室前にあると言われており、今頃事務室の前は大混乱だろう。しかし、親父の助言で職員室前にも一台だけ編入した生徒ように学生証登録のための機械が置いてあると聞いていた。
「だけど、ガラガラで良いわね。レオのお父さんに感謝だ」
「ってかレオの親父ってここの出身なのか?」
「さあ?ってか、早速あだ名で呼ぶか…」
「あれ?そう言うの気にするタイプ?」
「いや、そうわけでは無いが…」
そう言い、学生証登録をしている中。レオポルトはそう答える。
「せっかく友人になったんだし、私のことはジニーって呼んでよ」
「ああ、よろしくな」
「俺もジャックて呼んでくれよ」
「よろしく、ジャック」
そう言い、学生証登録を済ませ。四人はそのまま事務室で混雑する生徒達を横目に初日の学校を後にした。
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帰宅途中、ヴァージニアが話しかける。
「ねえ、少し寄り道していかない?」
「寄り道?」
レオポルトの問いにヴァージニアは頷く。
「そうそう、私さ。ちょっと早めにここに来たからいい店を見つけたんだ」
「どんな店なんです?」
「軽食とか、スイーツもあったわね」
そこでレオポルトは聞く。
「そこにルートビアはあるのか?」
「あぁ、あったわね…ってかレオってあれ好きなの?」
やや疑念の混じった様子で聞き返すも、とりあえずその店に行くことにするのだった。
店に入り、メニュー表を確認する。どうやらここは喫茶店のようで、軽食やスイーツも用意された学生御用達のようであった。
女子達はケーキを注文し、レオポルトはルートビア。ジャクソンはコーヒーを注文していた。そして注文した物が出てきて、それぞれ口にすると早速ヴァージニアが聞いてくる。
「んで、これが魔導具って本当なの?」
その問いかけにレオポルトは頷く。
「ああ、こいつはなかなか凄いぞ。何せ、この薄さに感応石のチップが埋め込まれているんだ」
「感応石が?」
学生証を見回しながら聞くヴァージニアにレオポルトは頷いて答える。
「ああ、通常のICタイプのカードだと複製できて偽造も出来るからな。魔力波を記憶させる感応石が埋め込まれているこの学生証は民製品ではなかなか出回っていない。それにこの薄さの感応石チップだ。この精度で量産できるのは流石は魔学院だ」
解説を終えると、ジャクソンが興味深そうに呟いた。
「へぇ…詳しいなレオは」
「まぁ、好きな分野だしな」
「凄いですね。一目見ただけで分かるなんて…」
アニがレオポルトの観察眼を褒めると、ヴァージニアが聞く。
「この学生証になんか効果があるらしいけど。どんなのが仕込まれているの?」
そんな問いにレオポルトは再び感応石チップを観察した。
「そうだな…ちょっと待ってくれ」
レオポルトは気になり、取り出したルーペを使ってチップの中身を見始める。
「…随分色々と盛り込んでいるな。障壁魔法に身体強化魔法。後は治癒魔法だな。全部旧大陸系の刻印魔法だな」
「よく刻印魔法なんか覚えているわね…」
ルーペを使っただけでここまで分かるレオポルトの知識量にヴァージニアは苦笑してしまっていた。
「でも、刻印魔法は技術者になるには必要な技術ですよ?」
「分かってんだけどさぁ〜、あんな数覚えられないよ」
「それは同感できる」
「えぇ〜、アンタと一緒ならもっとやり込もう」
「なんだとこの野郎!!」
「「あはは…」」
そんな風に話しながら四人は喫茶店で暫く盛り上がっていた。
少し経ち、四人は店で会計を済ませるとそのまま寮に向かうバスに乗り込む。
「寮って言っても何万人も暮らすから広いんだよなぁ…」
「そりゃ寮ある地区には二つの駅舎があるからな」
「早く免許がとりたいところですね」
「早く俺のバイク来ねえかなぁ…」
帰り道、四人はそんな事を話す。この学園都市に通う学生の殆どは寮暮らしだ。かく言うレオポルト達も全員寮暮らしである。
「寮って言ってもマンションが沢山並んでいるような物なんでしょ?部屋見つかるかな…」
「一応学年ごとに寮は固められているらしいがな」
「それでもよ。それに、学生専用の通信アプリも必要になってくるしさ…」
「それは別に良いじゃ無いですか?学校からの連絡もすぐに行きますし」
アニがそう答えると、バスが停車する。このバスも学生寮地区一帯を走り回る特別便だ。数は少ないが、必ずモノレール駅まで運んでくれるので免許がないうちはよく使う事だろう。
「やっぱりサイドカー持ってこようかな…」
この移動を見て、レオポルトは内心そう感じていた。
それから寮の場所はバラバラだったので、そこで別れたレオポルトは一人寮の一室に入る。荷物は事前に預けていたので部屋に運ばれていすはずだ。元々少なかったので、引越し業者も楽だっただろう。
「ここが俺の家か…」
扉を開け、一国城主になった気分で部屋に入ると。そこには一通りの家具が置かれ。リビングや台所、寝室も完備されていた。
「ははっ、随分良い部屋を借りてくれたんだな」
親父にしてはなんだか大盤振る舞いな気もするが。
「へぇ、テレビも完備されているのか」
そう呟き、壁に取り付けられているテレビを付ける。今日の報道がされており、入学式の報道が主にされていた。
「これじゃあ特にデカい荷物もいらないな」
制服を脱ぎ、リビングのテーブルにトランクを置く。夕食は…カップラーメンで良いや。
ホルスターを外し、机に置き。いつも持つ茶色の革製トランクでは無く、引越し業者に運んで貰った黒色の革製トランクを開ける。
中身はパソコン。それもレオポルトが自作した物でAR携帯機器を取り付ければ何処でも通信ができる物だ。コツコツ小遣いを貯めて作り上げた一品で、拡張できる部分はまだ多くあった。と言うか小遣いが足りなくてまだ完成系には程遠かった。
「さてと、最近の株価でも確認しようかなぁ〜…」
レオポルトはパソコンの画面を見ながらキーボードを叩いていた。
やっているのは趣味と小遣い稼ぎの為にしている株価の売買だ。堅実にやって来たおかげで元手の倍以上の稼ぎをしていた。
「そろそろ潮時かなぁ…」
中学校に入って始めた株だが。高校にも入るし、十分儲かった。こ今の持ち株を全て売れば、今まで買えなかったCPUが手に入る。
「全部売っちまえば良いや」
そう決断し、レオポルトはキーボードを弾いてこの際一気に全ての持ち株を売り飛ばしていた。
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その頃、レオポルト達が入った喫茶店では一人の魔学院の生徒が店の扉を叩いていた。
入ってきたのは魔学院の制服を羽織り、青色の学年カラーであり。犬の獣人の特徴である尖った黒い耳が良く映えていた。その鋭い目は人を怖気さすことが出来る程だった。側には四式自動小銃が置かれ、彼女の愛中であると一目で分かる。
「マスター」
「おや、今日は遅かったようだね」
店の店主も慣れた様子で聞くと、その女性はカウンターに座りながら一言。
「違反者を取り押さえるのに時間がかかってね」
「そりゃあ、大変だ」
店主は台所で食材を切り、持ってきた土鍋に出汁を入れて火を付ける。
今の時間、店は本来は空いていないのだが。とある組織だけは営業時間外でもこの店の店主は対応してくれる。
「はい、お待ちどう」
店主はそう言い、その女性の前に土鍋に入ったうどんを出した。するとその女生徒は箸を使ってそのうどんを食べ始める。
「近頃はどうだい?何か問題は?」
夕食のうどんを食べながらその女生徒は聞くと、店主はグラスを拭きながら答える。
「特に困ったことはないねぇ。入学式があったからか、至って静かだよ」
「そうか…それなら良い…これからまた不穏な空気に成るからな」
そう言いながらうどんを食べていると、ふと店主は思い出したように口にする。
「そう言えば今日、珍しい子が来たよ」
「珍しい?」
女生徒が聞くと店主はその時の状況を思い返しながら答える。
「新入生だったよ。緑色の学年カラーで、ルートビアを頼んでいた。その子は友人と一緒にこの店にやって来て、一目見ただけで学生証の仕組みとか効力を口にしていたよ」
「新入生でか?あの噂の主席かい?」
「いや、テレビに映っていた子じゃなかったよ。でも、あれは相当な実力を持っているよ。刻印魔法に詳しそうだったからね」
「そうか…」
しばし考えた後、その女生徒は店主に聞く。
「マスター。その子名前は分かるかい?」
「いや、名前は見てないね。ただ…友人からはレオって呼ばれていたよ」
「分かった…ありがとう」
鍋の中身を全て食べ終え、席を立ったその女生徒に店主は聞く。
「何をする気だい?」
するとその女生徒は不敵に笑う。
「何、私もその生徒が気になっただけさ」
そう言い残すとその女生徒は代金を払った後に店を後にした。




