#4
新世界歴四五〇年 九月一日
リイノイ州 シカワ飛行客船発着場
レオポルト達が学園都市では必需品であると言う銃器を購入してから二週間が経った。あれから色々と準備も進め、学生寮の確保や制服の仕立てなど入学に必要な事を全てやり終え、後は直接学園都市に向かうだけとなった。
「気をつけてね」
母からそう言われ、レオポルトは頷く。学園都市までは飛行客船で向かう。飛行機より時間は掛かるものの、何よりお値段が安い移動手段だ。別の所ではネルやヘンリーも見送りを受けており、五人も兄姉がいるネルに至っては盛大な見送りを受けていた。
「たまには帰って来てね」
「ああ、分かった」
母の横でドーラが言う。
「父さんにも宜しくって伝えておいて」
「ええ」
片手には向こうに到着するまでに必要な衣服や日常品。そして魔学院の制服を仕舞っていた。父は仕事に行っており、この場にはいなかった。
「行って来ます」
「「行ってらっしゃい」」
そう答え、レオポルトは荷物と飛行客船に乗り込む為のチケットを持ってゲートに向かう。他の二人も同じように家族に見送られながら客船に乗り込むゲートを通過して行く。
「ふぅ…いよいよか」
「まさか三人とも御三家に行けるとも思ってなかったしね」
「ああ、そうだな…」
どこか感慨深く思いながら三人は客船の中でも最も安い場所に向かう。
銃は分解して持ち込んでいるネルとヘンリー。自分の銃はマシンピストルと言われるレベルなので、鞄の中に分解せずとも入れる事ができた。その為、二人よりも荷物は少なかった。
「ここか…」
チケットで座席を確認すると、そこは蛸部屋ほどではないが、個室では無いエコノミー座席があった。
「足は伸ばせそうでよかった」
「でも誰かが常に荷物番しておいたほうが良さそうだね」
そう言い、三人はそれぞれ荷物を一旦置く。客船が出航するまで時間がある。それまでは談笑でもして居ようかと思った。
「学園都市か…ネットとかでしかみた事ないからなぁ…」
「仕方ないよ。学園都市自体がそもそもデカいんだから…」
トランプでポーカーに興じながら三人は話す。
これから向かう学園都市内の学校は全寮制であり、それぞれの学校ごとに寮が整備されている。
学園都市は御三家以外にも分校があり、内部でも学科ごとに専攻内容も変わってくる。高等科の三年間は同じ内容を受けるが、四年生からの大学科からはそれぞれ専攻試験を受ける事となる。
八年生から二年間は大学院と呼ばれるひたすらに研究しかしない学園に入り、論文を書けば博士号を手に入れることができる。しかし、この論文がすごく厳しい為に大学院では留年する人しか居ないとか何とか。まぁ、大学科も大学院も入るのは選択制なので卒業認定は貰えることができる。
「何せ、巨大なキャンパスが三つもある学校だからね。おまけに士官学校と魔学院には巨大な森もある訳だし」
「それを考えると商工学園って小さいのかな?」
「いや、その代わり学内にショッピングモールやら商業施設が多いからあんまり大きさ的には変わらんと思うぞ?」
カードを交換しながらレオポルトが答える。先ほどアナウンスが鳴り、飛行客船が離陸した。
客船の行き先は学園都市である為、同い年と思われる少年少女が多く乗り込んでおり、恐らくは俺たちと同じ入学生だろう。
「なるほど、親父が車が必須だって言ったのがわかる気がするよ」
何しろ、新入生だけで一万人近い人数が入るんだ。学園全体では三万人を超える。それが三つ、つまり御三家だけでも九万人の学生が住まうのだから学園都市と言われるだけはある。
「それに、学園都市は何も学生だけじゃない。教師や都市の中で働く人もいる。それを含めたらもっと数が多いだろうな」
学園都市には御三家の分校も数多く存在する。そして、それらも含めれば確かに都市と言っても差し支えないだろう。
「あぁ、早く着かないかなぁ」
「まあまあ、明日には到着するから」
入学式は明後日。客船の到着は明日なのでそれまでに荷物とかを寮に運んだりしておかなければならない。サイドカーはドーラに譲ったので、向こうで新たに車でも見つけようかと考えていた。流石にサイドカーは客船に積めなかった…。
「これから寮生活か…」
「何だか、初めての感覚だよね」
「早めの一人暮らしと思っとけば良いんじゃない?」
カードを交換し、ネルはニヤリと笑う。
「フラッシュ」
「すまんな。フルハウスだ」
「フォーカード」
「「何っ!?」」
最後にヘンリーの出した役に二人は目を見開いていた。
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『間も無く、学園都市発着場。学園都市発着場です。お忘れ物の無いようーー』
飛行客船のアナウンスが鳴り、それぞれ荷物を持って降りる準備をする。飛行客船での一泊はあっという間に終わり、飛行客船は徐々に降下していた。
「そろそろ行くぞ」
「ちょっと待って!!」
ネルはそう返すと、慌てた様子で荷物を片付けていた。相変わらず女子の荷物は如何してこうも多いのか…。
「相変わらずだね。ネルは」
「士官学校に入ったら滅茶苦茶に怒られそうだよな」
既に準備を終えたヘンリーとレオポルトはそう話していると、窓を覗いたヘンリーが思わずこぼす。
「うわっ、凄…」
「?」
ヘンリーの後を追うように窓の外を見ると、その光景にレオポルトは思わず息を呑んでしまった。
「すげぇ…」
そこには人が胡麻サイズほどになる程の無数のビルが立ち並び、自分たちの暮らして来たあの住宅街よりもよっぽど未来的で、モノレールや自動車が走り回っていた。街には人が歩き、大都会である事を示していた。
「これが…学園都市…」
国内最高峰の頭脳が集まるこの国で最も発展した場所。今日からここが、俺たちの住む街となる。
発着場に着陸し、飛行客船を降りた三人は空港の中を歩く。そこには多くの入学生や制服を着た人々が歩き、とても混雑していた。
そして制服を着ている人達は当たり前のように背中や腰に銃をぶら下げていた。
「入学式は明日。寮に入れるのは入学式の後だから…」
「今日はホテル泊まりだな」
「予約は?」
「してある」
「じゃあ、まずはそこに行って荷物を置こう」
三人は頷くと荷物を持って発着場を後にする。入り口のタクシー乗り場からタクシーに乗り込み、中が無人であることにまず驚いた。
「すげぇ、無人タクシーだ」
「未来だ…」
「行き先を設定したら自動で向かってくれるらしいよ?」
「便利だな」
父からあんまり学園都市の話を聞かなかった為にこう言うのですら新鮮に感じてしまう。今日泊まる予定のホテルを設定し、タクシーは発着場を後にする。
街には多くの車が走っているのにも関わらず、空気は綺麗だ。それもその筈で。
「すげぇっ!最新式の魔導車に電気自動車ばかりだ」
レオポルトが窓の外を走る車を見ながらそんな風に言葉を漏らしていた。レオポルトの興奮している様子を見て、後ろではネルとヘンリーは苦笑していた。
「流石は技術者の息子」
「レオって昔からああ言う機械系は大好きだったもんね」
街を眺めながら二人は珍しく興奮しているレオポルトに少し微笑ましく見ていた。
エディソン魔法科学学院
アルメリア合州国の技術者育成の為の教育機関の一つであり、魔法学や科学力を発展させる為の学校である。御三家の中では最も新しい学園であり、そのキャンパスは士官学校についで二番目に大きく、中には巨大な実験場や研究施設が数多く設置されていた。
名前はアルメリア合州国にかつて存在した発明王ハドウィック・A・エディソンに肖って名付けられた。敷地内には多くの超高層ビルが立ち並び、近未来的な様相を見せていた。
キャンパス内の移動は学園内を走るバスかモノレールが車のない生徒では当たり前だった。学内には草木も生え、近未来の街がそのまま埋め込まれているようだった。
「基本的な移動が車とはね…」
そう苦笑しながらレオポルトは携帯で地図を確認しながら呟く。制服は着ておらず、スーツのままだが、懐には短機関銃を仕舞っていた。だって先輩達はみんな武器を持っているし…。
今は明日の入学式の為の下見に来ており、既に外では明日の入学式のための準備が行われていた。
時刻は夕方、ホテルからここまで来る道のりを確認し終えていた。
「親父が免許の講習があると言ったのも納得だな」
そう呟き、レオポルトはそのまま学園を去って行った。
学校の下見を終え、ホテルに帰って来たレオポルト達は近くのレストランに入った。
「いや〜、学校見て来たけど…凄かったね」
「同感だよ。迫力があったなぁ…」
二人とも同じ言葉が漏れる。そりゃそうだ、あんなデカいキャンパスなんて自分達の通っていた中学校がまるで犬小屋みたいに思えてしまう。
「ここでの移動の基本が車やバイクなんだ。そりゃ大きいだろうさ」
出て来たパスタやグラタン、ハンバーガーを口に入れながら答えるとネルが聞いてくる。
「そう言えばあのサイドカーは持ってこなかったの?」
「最初に持って来ても駐車する場所がないんだってさ。なんか駐車場を使うための許可証がいるみたいでさ」
「あぁ、なるほど…」
これから自分達は寮生活が始まる。そしてここは既に学園都市の敷地だ。何をするにしたって許可が必要な上に、まだ入学式が始まっていないから、自分達はまだ学校の生徒じゃ無い。この街にあるホテルは早めに来た新入生や保護者などが宿泊する為に用意されているのだろう。ここのレストランにもレオポルト達と同じ新入生と思われる人が多くやって来ていた。
「とにかく人が多すぎて大変だったよ」
「それは同感だね。特に田舎出の僕達だとね…」
そしてここでの特徴も一目でわかる。
「本当に先輩とかはみんな銃を持っているんだね」
「それだけ危ないってことでしょ。レオのお父さんのおかげだね」
そう言い、テーブルの横に普通に置いてあるガンラックを見ていた。
「空港でも結構銃を持っている人がいて驚いちゃったなぁ…」
「そうだね。事前に銃を買っておいて正解だったかも」
それぞれ狙撃銃と散弾銃を買った二人はそう話し、食事を終えると取り敢えず明日の入学式に備えて眠りに付くのだった。




