#39
基本的に主席の生徒は各学園の生徒会に入る事が多い。
こういった学校運営に関わるような場所に所属することは、自分がどれだけ使えるかなどを示すための良い判断材料となるため、まぁまず誘われたら断る理由はない。
将来を考えるのであれば、生徒会に勧誘されたら。加入するのが普通だ。
「おはよ〜」
「おう、今日はこっちなんだな」
ジムで朝のトレーニングをしていたレオポルトはそこでヴァージニアと顔を合わせる。いつもは部活動の方で持っているジムに行くので少々珍しいと思っていた。
「ええ、ちょっと寝坊しちゃってね」
「なるほど」
ランニングマシーンを走りきり、機械を降りた彼はそのまま使い古されたジムの椅子に腰をかけるとヴァージニアが少し驚きの様子で口にした。
「レオって、次席だったんだね」
「…なんだ、聞いていたのか」
「偶々ね」
彼女はそう答えながらトレーニング器具を起動させると、少し興味深そうに聞いてきた。
「何で教えてくれなかったの?」
「交友関係を持つのにその情報はいるか?」
「どうせなら教えてくれたって良いじゃん」
「所詮は次席だぞ?」
レオポルト自身はあまり気にした素振りというか、次席と言うものに固執している雰囲気はなかったが。それを聞いたヴァージニアはやや呆れたように言う。
「次席って普通は取らないの」
「まぁ、なんでも二番手は覚えられないものさ」
「それはそうだけど…」
それでもやや不満げな様子の彼女は彼が今まで言ってこなかった事実に文句を言う。
「一言くらい言ってくれりゃあ色々と頼ったのにさぁ」
「すでに頼りまくっているじゃないか」
呆れた口調でレオポルトはトレーニングを終えたヴァージニアに彼女の持ってきた水筒を軽く投げつけると、ヴァージニアは中身のスポーツドリンクを飲み始めていた。
「んでさ、一つ聞きたいんだけど」
「何だ?」
朝のトレーニングを終え、その後のシャワーや着替えを済ませた二人は後者に向かう途中。ヴァージニアは気になった事があった。
「次席になった理由ってさ、もしかして…」
「…まぁ、思っている通りだろうよ」
半ば諦めた表情でレオポルトはため息を吐くと、ヴァージニアは少し笑っていた。
「ほほぅ、そっか……」
「嫌な事考えているな?」
「さぁね〜♪」
イイ笑みを浮かべる彼女に絶対碌なこと考えていないなと呆れてしまうレオポルト。すると反対から見知った人物が声をかけてきた。
「ん?よぅ、二人で朝帰りか」
ジャクソンだ。彼もおそらく部活の方で持っているジムの方でトレーニングをしていたのだろう、体が少し熱っていた。
「は?」
「んなわけあるかよ馬鹿」
そんなジャクソンの冗談にヴァージニアはややキレ気味に、レオポルトは軽く流す程度で答えるとジャクソンはやや苦笑していた。
「ははは…ひっでぇや」
相変わらずの反応に彼はもはや慣れたなとも思っているとそこにアニもやってくる。
「おはようございます皆さん」
「お!おはよ〜」
そしてそこでいつもの四人が集まると、ここぞと言わんばかりにヴァージニアは朝の一件を話した。
「ねえ聞いてよ、こいつったらさーー」
なお、朝の一件を知った二人は驚き呆れながらも、どこか納得した表情を見せていた。
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放課後、今日の担当である例の核融合炉の設置された第三実験区画にて、レオポルトは他数名の生徒と共にウィリアムやマリーナと共に魔導核融合炉の反応試験を見ていた。
正直、今の核融合炉でも十分都市の電力を賄う事ができるが。先輩たちの目的は家庭でも安全に使える発電機のような核融合炉の開発らしい。
ワイヤレス給電が主要となり、すでにこの国から電線という設備が消えたこの時代。今度は発電所要らずの設備を作ろうとしている事実にレオポルトは毎度の事ながら時代の変革を感じる。
「実験は始めますか?」
「ああ、いつも通り頼む」
ウィリアムやマリーンが制御室に座って他の三年生も忙しそうにして作業に当たっており、一・二年生はその補佐として制御室で仕事を行なっていた。
魔導具設計局が総力を上げて行なっている魔導核融合炉実験は実験を始めて一ヶ月ほどだが。今の時点で大きな異常は確認されておらず、ほとんどが正常値範囲内だった。
「グラハムには感謝だな」
「ええ、本当にね」
そんな事を後ろで話していると、レオポルトは数あるメーターのうちの一つが気になった。
「このメーターは…」
それは核融合炉内の魔力値を示すメーターが通常よりも高まっていた事だった。
「部長、ここの数値が少し高くありませんか?」
「?ああこれか」
するとその数値を見たマリーンは納得した上で言った。
「今朝方、グラハム分校の生徒が魔石を補充しに来たんだ」
「にしては量が多くありませんか?」
「今度グラハム分校で大規模な展示会をする影響でしばらく来れないから、多めに補充したと聞いている」
「なるほど…」
グラハム工業高校はエディソン魔法科学学院を中心とした学園地区に存在する高校で、学校全体が工場になっている事で有名な学校だ。
エディソンが基礎技術の発明をしているのであれば、グラハム工業高校はそれら新技術を用いた装置の発明を行なっていると言ったところだ。
そしてグラハム工業高校では主に核に関する精密機械の設計と製造を行なっている。同地区には他にもそれぞれ専門の製造工場が存在しており、魔学院から発注を受けては依頼された実験装置を納入するのが工業高校の主な役割の一つだ。
より現場に近い、実践的な授業内容のため。生徒数でいうと魔学院の人数よりも多い。
「まぁ、実験に大きな支障は無いさ。不安か?」
「いえ、大丈夫です」
理由を知り、それ以上踏み込むつもりはなかったレオポルトはそのまま自分に割り当てられた仕事をこなしていた。
その日の夜、今日の担当ということでレオポルトは警備担当としてベリザーナとMP-9Nを装備していた。
元々魔導具設計局に所属している生徒全員で作業に当たっているこの新型魔導核融合炉の実験であるが、正直レオポルトは自身の研究が上手くいか無かった場合に大学に進学するためのサブの踏み台であった。
「今回の巡回ルートは…」
元々この国の風習で大規模な実験に参加した魔学院の生徒は連名で研究結果を残す。そして連名で名前の乗った生徒は大学に入るときに多少の融通が効く。
ただの大学受験もあるにはあるが、高校生までに何かの発明を行い。それが認められれば大学に入学することができる。なんとも発明家には優しくも残酷なシステムだ。
「うしっ、行くか」
軽く気を引き締めなおした彼はベリザーナを確認した。
オリハルコンとヒヒイロカネを使用して製作したこのマチェテは心鉄にオリハルコンを使用し、皮鉄にヒヒイロカネを使用しており。さらにその上から刻印魔法を用いていた。
今でこそ、広く流通している二つの金属だが。前世の技術力ではどちらもそれほど広く流通して居なかったのを覚えている。
両金属ともに魔石と感応石を使用した合金であり、前者は魔力伝導率が通常の金属よりも高く、後者は熱伝導率が圧倒的に高い。
このマチェテはオリジナルで製作した学校の生徒として初めて作った魔導具だ。元々実家でも何個か指導を受けながら魔導具作ったりして、それが父の名前で世に出されたこともあったが、あの時はドーラの助けもあって色々と捗ったものだ。
そしてマチェテは我が合州国軍も採用している優秀な刀剣だ。銃火器が発達した現代においても時たま発生する近接戦に対応するために世界中に存在する刀剣の中から使いやすさを選んだものだった。
ただし、自分の作ったベリザーナや制作中のドーラ専用の片手剣は量産は絶対無理だと内心思っていた。だって作んのめんどくさいもん。
「異常無しか…」
巡回ポイントである実験区画の警備を行なっている途中、彼は腰に下げている緋色が特徴的なベリザーナの刀身を触る。
ベリザーナは刀身部分が軽く潰されており、その所為で切れない。その代わりに刻印魔法が打ち込まれ、打刻部分に魔導はんだが流されていた。そして表面は薄くシリコンでコーティングしていた。
その為、ベリザーナの刀身部分に唐草模様に似た銀色の模様が浮かんでおり、そこに魔力を流せば打刻魔法の発熱魔法が起動し、ヒヒイロカネの脅威的な熱伝導率が一瞬で刀身を赤く燃ゆる灼熱の金属に変貌させる。言い換えるなら、擬似的な高周波ブレードに変貌するのだ。
「さて、こっちは…」
そして最後の巡回を終え、最後にレオポルトは目を閉じて壁に背を預けた。
その瞬間、見えたのは窓辺の上に立つ小鳥の視線だった。ここはとある警察署の窓の外、例のエリカと呼ばれていた少女が今は収容されている警察署だ。
病院にて毒物を撃ち込まれた彼女は病状が回復したのち、安全のために警察で保護を受けると同時に、彼女がなぜあの場所に居たのかなどを聴取する為だった。
コンコンッ
窓辺に降りて窓ガラスを軽く小突くと、部屋の中にいた少女はその鳥の存在に気づくと少し嬉しげに窓を開けると中に招き入れていた。
「また来たのか」
可愛い奴めという表情で恐らく今日の夕飯だったのだろう米粒の塊を出すと、文鳥はそれを啄んで食べており。エリカはそれを見て文鳥の頭を撫でていた。
この閉鎖的な警察署において少女が唯一巣の姿を見せて居たのはこの目の前にいる文鳥だけだった。
たまに自分の様子を見にくる気の良い初老の『けいぶ』と言われていた男がいるが、私はどうすればいいか分から無かった。
少女はとある場所で大きな仕事を終えた後、いきなり知らない場所に連れてこられた。そして命からがら逃げ出した先で気を失ってしまった。
そして次に見えた景色に驚き、そして警戒しており。多くの大人が私を見ており、『POLICE』と書かれた服を着た大人に末恐ろしくなってしまい、何も言い出せなかった。ただ、今まで来ていたボロ服ではなく。綺麗な服に着替えさせられたり、毎日三回の飯が出ている事には少しだけ居心地がよかった。
カチャッ
すると部屋の扉がいきなり開き。咄嗟に慌てて少女は文鳥を背中に隠した。
入ってきたのは二人組の大人であり、そこには紺色の『POLICE』の文字が縫われた制服を着ていた。
「夜遅くにすみません」
「…何?」
その大人の問いかけに警戒した表情で睨みつけると、その警官は少女にゆっくりと近づくとまた続けて口を開く。
「至急、私たちについてきてもらえますかな?」
「…」
またいつもの奴かと思い、内心ため息が漏れながらその警官の手を取ろうとした瞬間、
「気をつけな」
少女は腕をグッと後ろから掴まれ、そこから一人の男の声が聞こえた。




