#33
この世界に数多に存在する種族。人、エルフ、ドワーフ、吸血鬼、獣人、オーク等々…。この世界には実に多くの人型の種族が存在している。特に獣人に至ってはその種類は千差万別、元はと言えば魔族だって山羊の獣人だ。
神話によると、それら種族は神が人を元に作り出した存在であると言われている。
その神は荒れ果てていたこの星に自然の恵みを与え、その際に世界に新たな力と種を持ち込んだ。それが今ある核エネルギーと言う風に言われている。
なんでも異界より持ち込んだ技術であり、この力により。この世界は大きく発展したと言う。
獣人はその元となった動物の特性を持つものが多く。馬であれば丈夫な脚と草食な食生活、虎であれば大きく伸びた犬歯で肉食な食生活などと、その様相は実に多彩であった。
我が母国で有る合州国において、憲法の前文にはこう記されている。
『合州国に属する民は如何なる理由があっても、種族を理由に差別してはならない。そして、この国の市民には自由に生きる権利が与えられる』
憲法にも明記されている種族間の差別の禁止。自由の民、自由の国を国是とする合州国は世界から見ると一攫千金を狙えるドリーム国家に見える事だろう。
しかし、その実際は実にシビアな様相を見せている。
ある時に大金持ちだった人間が、一週間後には道端で物乞いをしている事だってある。その逆もまた然り。
資本主義は飽く無き物欲の象徴である。それ故に合州国の自由の民は自由経済の中で狂喜乱舞、阿鼻叫喚の天国と地獄の様相を呈していた。
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新世界歴四五一年 五月六日
エディソン魔法科学学院 第三実験区画
合州国の研究者育成のための国立機関にはもちろん実験区画が存在し、その広大な土地を用いての実験場が多く存在していた。通常は学校に使用許可を求めれば実験区画は解放され、自由に使うことができる。そしてその大きさ故に時折他学園からも間借りすることがあった。
そんな中でもこの第三実験区画は他の場所と違って特殊な構造をしていた。
「トリチウム注入」
「了解、トリチウムを注入します」
目の前の星型エンジンのような見た目の巨大な機械に轟々と音が鳴り響く。
作業している生徒達は全員が白い防護服を羽織り、この実験区画は完全地下化されていた。
その理由は簡単で、ここは主に核実験用に整備された特別な実験区画だからだ。
おそらく、俺たちが転生する際に見たあの女神が我々に与えたと思われる技術。核エネルギーはこの世界に恵みをもたらしていた。
元より、その創造神が異界より多くの技術と生命の種を持ち込んだと言われており、そのうちの一つが獣人や魔物だと言う。
「核融合炉、反応を始めました」
「各作業員は実験区画より一時退避」
「了解」
「防護フィールド展開中」
操作室でウィリアムとマリーナが責任者として魔道具設計局の部員を退避させる。現在二人は卒論の題材として魔導核融合炉の実験を行なっていた。
核融合炉は嘗てより研究され、理論はすでに多くが立証されていた。その内、二人はデューテリウムとトリチウムを使うD-T反応と呼ばれる最も反応しやすい方法で核融合炉を設計していた。
「すげぇ…」
「部員全員を使っての実験だ。大掛かりになる」
操作室でレオポルトの呟きにウィリアムがそう答える。今実験区画にある巨大な機械は分校であるグラハム工業学校製の核融合炉であった。本当はD-3He反応で行きたかったらしいが、ヘリウム3が入手できなかった事からD-T反応炉となったらしい。
「おい、エネルギーはどうなっている」
「はっ、問題ありません」
「中の中性子は?」
「中性子漏れは確認されていません」
「よし、そのまま反応を続けろ」
一応の監督で実験中は教師がいる。理由は実験中に何かミスがあった時用の指導の為である。
核融合炉自体は既に多くの発電所で使われている技術ではあるが、改良は進められており、より効率的な核融合炉の開発は推奨されていた。
そして今日の実験も上場に進み、核融合炉の実験は予定通りに進んでいた。
「こうも実験が上手くいくと、逆に恐ろしく感じるな」
「そうなのか?」
「まぁ、予定は遅れる事が多いですからね」
「いいじゃん、予定通りなら」
カフェでレオポルトの溢した言葉にアニ達はそれぞれそう反応する。
「でもすげえな。そんな実験に参加できるのは」
「まあ、俺は一年生だからほぼ見てるだけだけどな」
ジャクソンにそう答えるとレオポルトはルートビアを飲む。もはや慣れた光景で、いつもの飲み物だ。
「第三実験区画は学院の中でも唯一完全地下化された核防護の揃った施設だ。実験中は入るのに特殊な鍵と、特定の人物以外に入ることは許可されない」
「おお…」
「厳重な警備なのね」
「ああ、所々に監視カメラが置かれているからな」
そう話すとジャクソンは当たり前と言った様子で話す。
「まあ、核爆発なんて起こったらたまったもんじゃねえしな」
「ああ、その為に第三実験区画は学院から離れた場所にある」
「専用の道路があるんだっけか?」
核実験の為に人のいない場所まで離れた場所にある第三実験区画。厳重な警備は学院にあるサーバールームと同程度のものだった。自走タレットも展開した厳重な警備網を敷いている。
「おかげで実験場に行くのに車だよ」
「はははっ、そいつぁ大変だ」
そんな事を話しながら四人は談笑に浸る。皆学校の寮にて生活しており、帰る場所も時間も好きにできた。
「しかし、半年も暮らすとこの生活にも慣れるもんだな」
「そうですね。一人暮らしって結構心配しますよね」
「まあ、掃除を定期的にしないとえらい事になるがな」
寮といってもマンションみたいにデッカい学生寮はなんと言うか、色々と大変なのだ。
「さて、そろそろ帰るかな」
「おっ、もうそんな時間?」
時計を見ながらヴァージニアはそう答えると、思っていたよりも時間が経っている事に気づいた。
「おお、思っていたより時間が経っていたんだな」
「お話が盛り上がっちゃいましたね」
そんな事を話しながら代金を支払い、帰宅の途に着く。
「今日は行かなくていいのか?」
「ああ、今日は当直じゃないんでね」
レオポルトはそう答えるとヴァージニアがその苦労を労る。
「レオも大変ねえ」
「だが、大学で融通してもらえるならいい投資だよ」
「わあ、それは強いですね」
アニは大学に行ける道が見えるその未来に少しだけ羨望の目を向けていた。
「んじゃ、今日もお願いね〜」
「はいはい」
「お願いします」
「はいよ」
そしてアニとヴァージニアはレオポルトの乗るチャージャーに乗り込む。
「んじゃ、送迎頑張れよ」
「お前も途中まで同じ道だろうが」
ジャクソンにそうツッコミを入れると、彼はバイクにまたがる。彼の愛車のハーレーは二人乗りできないが、行き先が同じと言うことで車通学を始めた辺りからレオポルトがアニ達を寮まで送っていた。
「相変わらず装備がごちゃごちゃしているわね」
「そりゃあ、元はパトカーだからな」
「官給のお下がり品かぁ…」
そう溢すヴァージニアは新品のレザーの座席のクッションを押す。
「中はある程度張り替えている。文句言うな」
「はいはい、分かっているわよ」
ヴァージニアはそう答えていた。元より文句を言うつもりはさらさらなかった。
帰宅途中、前をレオポルトの乗るチャージャー、後ろをジャクソンの乗るWLAが追従していた。元々は軍用バイクのWLA、それを意識してかジャクソンはバイクをオリーブドラブに塗装していた。前方にはM4を入れる特製のガンラックや後ろにはリアバックも完備していた。
「ん?」
そんなジャクソンはインカム付きのヘルメットを被り、車を追っかけているとそこで違和感を感じた。
「すまん、止まってくれ」
『了解』
そこで道端に車を停めると、中からレオポルトが窓を開けた。
「どうした?」
「さっき裏路地に入ってく変な影見なかったか?」
「え?」
ジャクソンの言葉に後ろにいたヴァージニアが首を傾げた。
「そんなのあったかな?アニは見た?」
「ええ、どうでしょうか…」
記憶を探って二人は首を傾げていると、レオポルトは歩道を見ながら呟く。
「…降りようか」
「え?」
「歩道、よく見てみろ」
彼にそう言われ、目を細めてよく見てみるとそこには小さく血痕が残っていた。
「っ!!」
「念の為、応援呼んでおこう」
車の無線を使ってレオポルトは応援要請を出すと車を降りる。
「銃を持っておけ」
「分かっているわよ」
「私も行きます」
アニもそう言い手に散弾銃を持つ。そして四人は銃を持った状態で血痕の残る裏路地に向かって行った。
「念の為、障壁魔法を」
「了解」
四人はそれぞれデバイスを使って淡い紫色の魔力の盾を展開する。
薄暗い裏路地の中を慎重に四人は進んでいると、路地に積まれた一つのゴミ袋の山が音を立てて崩れた。
カチャカチャッ
反射的にそのゴミ山に向けて銃口を向けると、その中から現れた人物にヴァージニアが驚いた声を上げた。
「こ、子供?!」
そこには尖った耳が特徴的な一人の獣人の子供がいた。服は使い古され、見るからに貧相な様子だった。
「狐の獣人か…」
「かなり衰弱していますね」
そう言いながらアニは解析魔法を使ってその子供の状態を見ると、救急隊を待っていられないのかすぐさま回復魔法と治癒魔法を使っていた。
「それほどか?」
「はい、体がかなり衰弱しています。もう少し遅れていれば手遅れだったかもしれません」
「…そうか」
自分にかつて課せられた魔法があった過去の影響で、アニは得意魔法である回復魔法と治癒魔法の勉強を熱心に学んでいた。それ故に簡単な治療はできるほどまで成長していた。そんな彼女がそう溢すくらいな状態に一瞬冷や汗が出た。
「応援が来る。とりあえずその子供を運ぼう」
「そうだな」
そう話すと、路地の前に車が止まり。腕章をつけた数人の生徒が近づいてきた。
「こっちだ!」
そして見つけた子供を運びながら見つけた経緯を話すと、応援に来た生徒達は納得した様子で見つけた子供を乗ってきた警備車に乗せて搬送していた。




