#31
四月二十日
そのニュースは衝撃を持って伝えられた。
『東大洋を航行中だった第三空中艦隊が何者かの攻撃により損傷をしたと国防省より発表がありました』
ニュースは合州国空艦軍の艦隊が攻撃を受けた事を発表して居た。
そのニュースにいくら反対側の海の出来事とは言え無関係とは言えなかった。
「反対側の海で戦闘が…」
「誰の攻撃なんだろうね?」
「今の所は見当もつかないな…」
食堂でレオポルト達はそう話す。
朝っぱらから永遠の続くこのニュースに今日の生徒たちは釘付けだった。
『政府はこの攻撃を諸外国からの脅威と判断し、調査を進めているという事です』
報道ではそのように話しているが、アニはやや心配げに呟く。
「戦争になるんでしょうか?」
「ならねぇよ」
そんな彼女の心配をレオポルトは両断する。
「考えてもみろ。この国は今や経済大国、旧大陸のどっかの国が戦争をふっかけてきた所で損しかない」
「そうね、これが数百年前とかだったらもうちょっと違ったかもしれないけど」
ヴァージニアが乗っかってくると、ジャクソンは少し首を傾げつつもその後納得した表情を浮かべだ。
「ああ、旧大陸に貸した金か」
そこでテオポルドは頷いた。
「そう。数年前、旧大陸で起こった不況時に各国は大小様々な金額の金を合州国から借り入れた」
「その負債はまた返済し切れていない。変動相場制とは言え、今もっとも価値が安定しているのが合州国ダラ」
「なるほど、合州国に戦争を仕掛けたら貸した金以上にお金がかかってしまうわけですね」
「おまけに戦争でダラの信用が落ちれば世界中で不況になるだろうよ」
そうなればどうなるか分かったもんじゃない。
世界的な不況の見舞われれば、戦争をおっ始めた国にだって影響が出てしまう。そんな危険を冒してまで合州国を攻めるよりも、対等な関係を築いていた方がはるかに建設的であった。
「少なくとも、戦争を吹っかけてくるのはよっぽどの馬鹿か何かしらのでかい意図があっての行動かも知れないな」
そう言うと、彼はトレーを片付けに席を立った。
放課後
レオポルトは兼部…と言うよりほぼこっちメインの魔導具設計局の部室に入る。
「入りまーす」
「遅いぞ!」
「あー、すんませーん」
ウィリアムに怒鳴られ、彼は平謝りしながら設計局の会合に少し遅れて参加する。
「では、会議を始めるとしよう」
そしてレオポルトが入ってきたのを見たマリーナは部員全員にある設計図を見せた。
「今回、私たちの卒論である魔導核融合炉の設計図だ。安全対策、並びに施設の使用許可は貰ってきた」
そう答えると、部員たちは一斉に騒ついた。
なにせ、部長と副部長の卒論の内容が話題の夢のエネルギーだ。既に核分裂型の核炉は存在していたが、放射性物質の影響が暗示されており。事実、今まで世界中でそれら事故が起こっており、それらは問題となっていた。
そんな中、核分裂型よりも安全な核融合型の魔導炉はまさに画期的な発明だ。一応理論は確立しているので、あとは機材さえ何とかなれば…。
「場所は第三実験区画。これからはそっちに通ってくれ。資材や機材の搬入もそちらで行う」
「スケジュールは既に組んでいる。試作品完成予定は一ヶ月後、それまでの各員の配置だ」
「それまでみんなよろしく頼むわね」
「「「「「了解です!」」」」」
魔導具設計局の部員数はおよそ百名、恐らく三年生全体での連名なのだろう。恐らく、それでも十分卒論には最適な内容だ。いや、もしかするとエネルギー公社に就職すらできるかも知れない。
「それから、夜中の施錠を徹底してくれ。私たちも泊まり込みをする予定だけど、不審者が入らないようにね」
「あと俺たちの言う事をしっかり聞け。ミスとお前らまで被曝する危険がある」
ウィリアムの注意を聞き、一気にここにいる全員の気が引き締まる。そりゃそうだ。被曝なんてしたらあっという間に死んでしまう。
いくら核融合炉が安全とはいえ、それが核分裂型に比べればと言うだけで。生身のまま突撃したら危険な事に変わりはない。
そんな実験だからこそ、学校側も核防護装備のある区画を貸したのだろう。
基本的に障壁魔法を展開すれば放射能汚染も防げるが、デバイスの反応速度を比べると防護服を着ておいた方がなお良い。
「実験場に入る際は防護服を着た後に入って」
マリーナはそう念を押して言うと、会議は次に彼女たち三年生が提唱する新たな魔導核融合炉の設計の説明をし始めた。
そして数時間に及ぶ会議が終わり、部活のシフト表も受け取った彼は学院内の工場に入る。
「さてと、今日も始めますかね」
彼は自分の工具箱を手にしながら先程自販機で購入したアルミニウム合金を持ってハンマーを手に持つ。
そして断続的にハンマーの叩く音が聞こえ、購入したアルミニウム金属の成形を行う。
元より、魔導具設計局は部員の作りたいものを自由に作る部活だった。ああ勿論、魔導具条約に違反する物を作ったら警察案件だが…。
「(やはり作るのは楽しい…)」
工具箱自体は親父のお下がり品だが、使いこなされて来ただけあってか手にしっかりとはまるものがある。
二年生になればもっと必要な道具も増えてくるが、それら全て既卒生でその頃からほとんどカリキュラムが変わっていないお陰でそれほど新規で購入する必要がなさそうだ。
「何を作っているんだ?」
「ん?」
ハンマーで金属を形作っていると後ろから不意に声をかけられ、その方を向くと。そこにはジャクソンが立っていた。
「ああ、ジャックか。何でここに?」
「いやぁ、皆で帰ろうと思って探していたんだが…」
「部活は?」
「休んだ。しばらく試合もないしな」
彼はそう答えると、眩しばかりに白い歯を見せた。
そんな様子の彼にレオポルトは少し申し訳なさそうに答える。
「すまんね。今日から俺はまた工作の時間さ」
「はえー、何作り出したんだ?」
そこで聞かれたので、金属板を持ちながらレオポルトは答えた。
「妹のプレゼント」
「おぉ!さすがはシスコン」
「誰がシスコンだボケ」
いや、他人に妹の写真を見せながら二時間語った時点で重症だぞ。
「ってか、妹のプレゼントって。誕生日いつなんだ?」
「そうだな…大体十月…」
「半年も先じゃねえかよ」
思わずジャックは今日の日にちを思い出すと、レオポルトは軽く反論した。
「そのくらいかけないと完成しないんだよ」
「どんな複雑な設計だよ…」
少なくとも今から作らないと間に合わないくらい複雑なものでも作るなんて馬鹿じゃないのかとも思ってしまう。
「魔石爆弾でも作るきか?」
「やったら国際法違反でお陀仏だよ」
そんな軽口を言い合っていると、ジャクソンは徐に口にする。
「こういう、作るのが得意な家族がいると。飽きることはなさそうだな」
「そうか?」
思わずそう聞き返すと、ジャクソンは想像の中で応える。
「いやぁ、だって何かものが欲しいって思っても自前で作れるならいらないじゃん?」
「まぁ…そうかもな」
少なくとも家では確かに子供の頃から木を削って家具とか作ってネル達にプレゼントとかよくしていたな。二人ともよく喜んでれたから作りがいがあった。
「おまけにお前の言ってた幼馴染の女の子。可愛かったなぁ…」
横でジャクソンがそう呟くと、レオポルトはそこで彼の内心を一瞬で理解するとそこで彼に一言、残酷な現実を突きつける。
「ちなみに言うと、あいつと付き合うのは無理だぜ」
「…ゑ?」
ジャクソンは『お前は何を言っているんだ?』と言う表情でレオポルトを見た。その表情は鳩が豆鉄砲を喰らったような表情をしていた。
すまない、だが言わないと後々に面倒なことになるんだ。ジャクソンがストーカーにならないようにするために彼は敢えてキッパリと処断するかの如く続けて言う。
「だってアイツ。既に彼氏いるし」
「え?…は?まじ?」
「まじまじ。俺も知ってるくらいだし」
「…」
そこでジャクソンは衝撃を受けたような目でレオポルトを見た。まあ、平均くらいに整った顔にあのボンキュッボンの体型だ。誰かしらの目に留まるわけで…。
「ご愁傷さん」
「そ…そんなぁぁぁぁあああ!!」
戦う前に負けていたジャクソンはそんな失恋に会えなく沈没していた。
「おい!相手は誰なんだ?!」
「言うわけないだろう?お前のことだから殺しに行きそうだよ」
「そんなことするわけないだろう?!…まあ、挨拶くらいは」
「それ違う挨拶だろ」
思わず肩を掴んで聞いてきた彼にレオポルトは思わずそう答えてしまう。
すると一目惚れした相手に既に彼氏がいたことがよっぽどショックだったのか、肩をジャクソンはガックリと落としていた。
「(すまんね)」
レオポルトは内心南無三をすると頽れるジャクソンを見ていた。
ちなみにネルの彼氏とはヘンリーの事だ。御三家に入る時にヘンリーが顔を真っ赤にしながら告白していたのを彼は知っていたし、むしろ二人の舞台を作ったのはレオポルトとドーラだった。
「(ああ、そういえば今度ヘンリーの店に行かないとな)」
モルガン商工学園は学校自体が巨大なショッピングモールであり、中に大小さまざまな店が並んでいた。
中には生徒が運営する銀行があり、学園都市内での金の管理を行ったりしていた。
営業時間は年中無休であり、ここで揃わない物は無いほど充実していた。ヘンリー曰く、一年かけても全ての店を周りきれるかどうか分からないらしい。
「忙しくて一度も行けていないな…」
「ん?どこか行くのか?」
「ああ、モルガンの方にな…」
そう応えると、彼は納得した上で。前に行ったことがあるのだろう、その時の景色を思い出していた。
「ああ、あそこか。あそこはデカかったな」
「行ったことあるのか?」
「ああ、前に部活の備品を買いにな」
「どんな感じだ?」
そこでレオポルトが聞くと、ジャクソンはかなりアバウトな感想を伝える。
「うーん、とにかくデカくて色々あるな。ホームセンターにスーパーに…あと遊園地とか水族館とか」
「すげえな」
「ああ、兎に角大量の店があって。スポーツ店だけでも何十店舗もあったぞ」
「へぇ…」
色々な娯楽品があるのだなと思っていると、彼はさらに続けて言う。
「正直、どこで授業やっているんだろうと思うくらいには…」
「まあ、元々経済学を学ぶための学校だしな」
「俺たちの実習授業的な?」
「そうそう。デザイナーとかセンスがいる時あるだろう?」
「ああ、確かに」
そこで納得が言った様子でジャクソンは答えると、そのままレオポルトのそばを離れる。どうやら失恋した一件は踏ん切れたっぽそうだ。
もしくは忘れたかのどっちか…できれば前者であって欲しい。




