#30
新世界歴四五一年 四月十七日
学園都市 市街地
多くの学園が集まるこの地でも学園のみがあるわけではない。その都市に住まう住民もいるわけで、それらの人々の居住区となっている場所があった。
住んでいるのは住民や教師、そしてその家族だ。
そしてそんな静かな住宅街の中を一台の乗用車が走る。
「なるほど。ここは住宅地か…」
ダッジ・チャージャーを運転しながらレオポルトは閑静な住宅街を眺める。
ここは学園とは違い、一般の街であり警察が手を出しやすい場所だった。
学園内では一種の治外法権であり、警察も手を出しづらい状況の中。学園都市内ではほぼ唯一に近い、警察が事件に積極的に介入できるこの市街地で、その事件は起こった。
「違法魔導具の製作か…」
違法魔導具の製作。
それはこの国において…いや、魔導具条約に署名した全ての国々において重罪である。
魔導具条約は人道的見地により、どのような状況下でも対象の効果を持つ魔導具の制作や所持の一切を禁ずる国際条約だ。
特定の対象を強制的に服従させたり、不特定多数に強制的に魔法を発動したり、苦しみや痛みを与える魔導具の禁止などであった。
戦時国際法のような国際慣習法のようなものであり、それをただ成文化しただけではある。
「犯人は夢の散った移民か…」
移民による犯罪者の増加。
現在この国が抱えている問題である。
旧大陸では、新大陸に存在する合州国は『自由の大地』として夢の溢れる国であると言われているそうだ。
数年前に不況となった旧大陸からは多くの移民希望者が合州国を訪れているようだが、国内に移民が大勢来ると国内経済にも影響が生まれる為、政府は移民に対し制限を加えた。
そしてその煽りを受けて移民をしてきたは良いものの、職にありつけなかった人間はホームレスとして街を彷徨うか、市民権獲得の為に軍人となる。
そうした準国籍と呼ばれる合州国特有の制度は移民と合州国市民の軋轢を生んでいた。
合州国の社会からあぶれた移民の行き着く先は裏社会や犯罪組織であった。
その為、ここ最近は全土において犯罪組織の増長や犯罪率の増加が問題視されていた。
政府には未だ手付かずの地である極寒の北方大陸に開拓団として移民を派遣するなどの提案がされているようだ。
移民局のあるリトル・オイスター島にはそう言った移民制限の煽りを受けて第三国に移送される移民達で溢れかえっていた。
「まぁ、俺がどうこうできる話でもないな…」
レオポルトの家も先祖を辿ると移民ではあるが、何百年も昔の話であり。すっかり合州国の国民であった。
中心部の摩天楼が立ち並ぶ場所と違い、静かな住宅街は時折ジョギングする人の姿や庭で遊ぶ子供などがいるいたって普通の場所だった。
「いっその事、大金持ちとお友達にでもなりたい気分だな…」
レオポルトは実に合州国国民らしいありもしない妄想を抱きながら車を走らせていた。
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合州国は歴史上初めて、生活必需品以外の嗜好品を一般人が買える社会を作り出した。
また、世界で最も金の動きが激しい国としても合州国は有名だ。今でこそ落ち着いているが、数十年前まで合州国の経済は鰻登りだった。
悪魔の大地に棲む怪物とまで旧大陸の国々から蔑まれていた合州国は、今や世界一の経済大国としてのし上がっていた。
国内では大陸を横断する道路や鉄道、航空機や飛行客船による空路が建設され。国内経済は急速に成長していた。
そして、それら国内の発展と防衛を目的に国を造った先駆者らによって作られた街こそが学園都市だ。
美しい程区画整備された街。都市を縫うように走るモノレールや高架鉄道、自動運転のタクシーや乗用車。多くの人と情報、技術がここに集積されていた。
学園都市は連邦軍の士官学校も備えており、現在合州国軍を成している陸軍、海軍、空軍、海兵軍、空艦軍な其々の基地や駐屯地が存在していた。
空艦軍とは主に空中艦を保有する軍のことであり。元は海軍の管轄下にあったのが細分化したものだった。
空中艦は航空機に比べて鈍足ではあるものの、圧倒的な火力と耐久力を兼ね備えていた。その為、ミサイル技術が発展した現代でもアーセナルシップ構想の元、両大洋に航空機用の空中移動要塞として今でも空中軍艦が残っていた。
東大洋洋上
モンタナ級空中戦艦『ニューハンプシャー』
合州国が最後に建造した戦艦級の空中艦。元は洋上艦に名付けられる予定たっだ名前を、そのまま譲り受けたこの艦は砲撃力と航空機運用能力の双方に長けた合州国最強の空中戦艦だった。
同型艦は四隻存在し、本艦は東大洋洋上にて本国防衛の任に就いていた。
「間も無く、警戒部隊が帰還します」
「了解、着艦準備を進めろ」
空艦軍兵士が接近してくる戦闘機を確認する。レーダーで合州国製マルチロール機の編隊を確認し、着艦灯を点灯させる。
「……ん?」
「どうした?」
その違和感を感じたのは編隊が接近してきた時だった。
「変です。無線に応答しません」
「どう言うことだ?」
「無線の故障かもしれません」
士官は着艦の合図を送るための無線に編隊が応じない事に疑問を覚えていた。
そして、それら編隊が接近してくると。驚くべき異変が起こった。
「レーダ照射?!」
「撃ってきます!!」
「何だとっ!?」
その瞬間。警報と共にレーダーに映る編隊からミサイルが発射された。
「CIWS発射!迎撃しろ!!」
CICであわてて迎撃が行われ、空中艦隊はミサイル迎撃に当たる。
「くそっ!どこの奇襲攻撃だ?!」
「新たなミサイル接近!」
「迎撃!撃ち返せ!!」
艦隊のミサイル発射器から迎撃ミサイルやCIWSが発射され、ミサイルの迎撃を行う。
艦隊は戦闘体制に移り、初めにミサイルを発射して来た編隊に攻撃命令を出した。
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四月十八日
学園都市 魔学院
学園内でウィンチ付き軍用カーゴトラックをレオポルトは取ったばかりの免許を使って運転する。
このトラックは軍の旧式の払い下げ品であり、同型のトラックは部活動などでも所有して居た。
「ほほ〜、上達したんじゃない?」
「そうですか?」
ハンドルを回しながらエイブラハムの問いかけにレオポルトは答える。
先日は愛車を走らせ、車の運転に慣れて居た。
この国では十六歳から免許を取得することができ、かく言うレオポルト自身も大型車までの免許をすでに取得して居た。
「それじゃあこのまま風紀委員の車庫に行ってもらおうか」
「分かりました」
そして今日はトラックの荷台に荷物を積み込んだ状態で風紀委員の所有する倉庫へと向かって行く。
今日は風紀委員の保有する車両の確認と、トラックの運転に慣れる為に訪れていた。
風紀委員は騎兵戦闘車を保有しているのは聞いているが、他にも幾つかの防衛用の車両を装備しているそうで、少し気になるところだった。
「そう言えばコンペの方はどうなんですか?」
レオポルトが聞くと、エイブラハムは答える。
「今の所は順調だね〜」
「先輩は何の研究でしたっけ?」
「僕は魔法が人体に及ぼす影響の研究だね」
エイブラハムはそう答えると椅子に座ったまま手を後ろにやって居た。彼やシュライクは三年生で、半年後には卒業だ。
卒業後の進路は大学進学か就職の二つであり、一部の人以外は大学に進学する事が多い。
そして大学進学のためには受験勉強をしなければならない訳だが、何かしらの論文を持ち込み。それが大学の教師に受けたら大学内部での進級にも影響してくる為、論文制作は必須だった。
そして横にいるエイブラハムの研究は現代魔法における魔法使用が人体に及ぼす影響と言う、ややマニアックとも言える部類だった。
「前々から気になって居た事でね。ほら、身体強化魔法とか使った後の反動ってあまり感じなかったりするじゃん。普通ならその反動がある筈なのに」
「アドレナリンが出ているからとかではなく?」
「うーん、僕的には違うと踏んでいるんだ。だって使用後に筋肉痛で苦しむ時もあるからさ」
「ああ、確かにそうですね」
そんなエイブラハムと現代魔法の不思議を語りながらトラックを運転していると、学園内のとある場所でトラックを止めた。
「着いたよ。ここが風紀委員の車庫だ」
「かなり大きいんですね…」
そこには大きな倉庫であり、シャッターが閉じられ。時折、風紀委員の自動車部門の生徒が車庫に移動して居た。
「まぁ、ここには装甲車も置いているくらいだしな」
「騎兵戦闘車がいる時点でおかしな話ですもん。そりゃ」
風紀委員の副委員長を務めるエイブラハムの優秀な部下となったレオポルトはこの半年はエイブラハムの教育を施されていた。
他にも何人かの新入生が風紀委員に加入しており、多くは支給された短機関銃を使用して居た。
「ここが風紀委員の所有する車庫で、この学園では唯一戦闘車両が保管されている場所だね」
「へぇ……」
半年目にして初めて入った風紀委員の車庫。そこには騎兵戦闘車に加え、他にも軍の払い下げ品が置かれて居た。
「軽戦車軽戦車まであるんですか…?!」
レオポルトはその中に停車している軽戦車に驚きと苦笑をしてしまう。
前にジャクソンと冗談めいて言って居たが、まさか本当に軽戦車を保有しているとは…。
「そうさ、最近は出番が無いけど前まではよく出動して居たんだってさ」
「ここ、士官学校じゃありませんよね?」
「いやいや、士官学校なら主力戦車とかが置いてあるよ」
「現行戦車じゃないですかやだー」
レオポルトはそう返してしまうと、エイブラハムと共に車両の確認を行う。
今日の仕事は巡回任務の代わりに風紀委員の車両の確認だった。その為、タブレットで車両の盗難などされといないかの確認が定期的に行われて居た。
「…よし、全車両の確認終わりました」
「お、早いね流石だよ」
そう言い、保有車両の確認を終えると二人は車庫を後にする。
帰り道、エイブラハムはレオポルトに言う。
「あっ、そう言えばさ。前に旧校舎に行ったよね?」
「はい、それがどうか?」
レオポルトが聞くと、エイブラハムは彼に言う。
「ここ最近、旧校舎で暴れている人がいるらしいくて。よく救急搬送されているんだ」
「はぁ…」
何の話かと思っていると、エイブラハムはレオポルトに言った。
「もし、旧校舎で暴れている人を見つけたら報告してね」
「分かりました」
レオポルトは頷くと、トラックを校舎まで走らせて居た。




