#28
結局、十二月に行われたクリスマスパーティーは規模を大幅に縮小して行われた。先輩曰く『ここ数十年で最もつまらないクリスマスパーティー』と評されるくらいには小さかった。
「やれやれ、あれからは平和で何よりだ」
「あっ、フラグ建築」
帰り道の途中、ジャクソンの呟きにヴァージニアが反応する。
「なんだと?!」
「あっ」
「ん?うわぁっ?!」
レオポルトが言おうとした矢先、ジャクソンは地面のぬかるみに脚を突っ込んでいた。
おそらく今日の朝に軽く降った雨の影響だろう、少し地面に水溜りができていた。
「だははははっ!面白いわね、漫画みたい」
「おいレオ!わかってたら注意しろよ!」
「お前が先行ってんだから無理だろう」
そう言うとレオポルトはツッコミをかけると、ジャクソンは横れた足元をデバイスを使って汚れを落としていた。
「全く、これだから雨は…」
「運動部だと特に汚れそうだよな」
「ああ、お陰で部活動の洗濯機は泥だらけだよ」
ジャクソンはそう答えると四人はそのまま駅まで歩いていた。すると、
ピーッ!
笛を鳴らして走ってくる警官と、その前を走る一人の男。フードをかぶっており、その手には何か包まれた物を抱えていた。
周辺に人の姿はほぼ無く、至って静かな道路だった。
「あれは…」
「まじか…」
「泥棒じゃん」
「嘘…」
しかもその泥棒はこっちに向かって来るときた。
「はぁ、やれやれ…」
そんな光景を見て半分ため息をしながらレオポルトはネクタイを緩める。そしてそのまま輪っかを作って首から抜いた。
「何すんだ?」
「こういうのやってみたかったんだよ」
そう言うとレオポルトは向かってきた男の足目掛けて至近距離でネクタイを投げた。
投げられたネクタイはそのまま縛られ、足がもつれた男はそのままずっこけていた。そして持っていた小包はそのまま放物線を描いて前にすっとんでいた。
「投げ縄か…」
「いいアイデアだろう?」
「っ!お前らっ!!」
ずっこけた男が喚くと、警官が駆け寄ってきた。
「おい手錠だ!」
「は、はいっ!!」
二人の警官が駆け寄ってレオポルトに敬礼をする。その足元では男が手錠をかけられていた。
「ご協力、感謝します」
「いえいえ、これ位は。ただ…」
レオポルトはそう返すと、敬礼をした警官を見ながら聞いた。
正確にはその警官の階級章を見ながら。
「なーんで巡査が巡査部長に命令したんです?」
階級章を見ながらレオポルトは純粋な疑問を投げかけた。その問いかけに警官や、ジャクソン達は一瞬凍りついた。
すると警官はそんな質問に少し強張った声で答えた。
「えぇ、何せ緊急時でしたから…」
「あぁ、そうでしたか。いやはや、すみませんね。少し気になってしまったものですから」
そう言いレオポルトが振り向く直前、彼は警官に聞いた。
「ああそうだ。念の為、警察手帳を見せてもらってもよろしいですか?」
「え?」
その質問に巡査部長の階級章の警官は驚いた表情を見せた。
「それは…」
「できないんですか?」
「…分かりましたよ」
少し不機嫌になりながらその警官は警察手帳をさっと見せると直様閉まってしまった。
「これでよろしいですか?」
「ええ、ありがとうございます。
これであなた達が偽者であると理解しましたから」
「「っ!?」」
その瞬間、警官達は持っていた警察官正式拳銃を手に取って引き金を引こうとしたが。その前に四人は背負っていた武器をそれぞれ向けていた。
アニに関してはコルトガバメントに加えて散弾銃を新たに親から買い与えられていた。
「さぁ、どうする?」
「…」
レオポルトはマシンピストルを構えながら偽警官に話しかける。
するとその警官は隠し持って居たのだろう、手榴弾のピンを抜くと投げつけて来た。
「っ!!伏せろ!!」
そう叫ぶと、一斉に全員が逃げる姿勢をとる。レオポルト自身も咄嗟に近くにいたアニを庇うように反対側に飛び込もうとした瞬間、手榴弾からは真っ白な煙が吹き出した。
「煙幕!」
「ガスかもしれない!」
「一気に吸うな!」
慌てて吹き出た煙幕に鼻と口を覆う。目が痛む様子もなく、催涙ガスでもなさそうだった。
「どかすぞ!」
咄嗟にレオポルトはデバイスを持ち出して風魔法を使って煙幕を吹き飛ばすと、そこに先ほどの偽警官は居なかった。
「逃げたか…」
「なんだったのアイツら?」
ヴァージニアの問いにレオポルトはある人物を見ながら答えた。
「それは、こいつに聞いたらわかる話だろう」
そう言い、彼は地面で手錠をかけられたまま倒れている男を見て居た。
=====
『んで、捕まえた男が持って居た荷物がこれと…』
エイブラハムが横でガスマスクをしながら聞いてくる。その視線の先には昨日、男が抱えていた小包があった。
ここは風紀委員会の所有する押収品管理倉庫であり、管轄区域内で押収した品物を一定期間保管する倉庫だった。
昨日捕まえた男はシュライクが尋問しており、二人の役目は男が持っていた小包の中身の検査だった。
『宛先はありませんね』
『大丈夫なの?』
『爆発物の類ではありません。どの検査にも引っかかってませんから』
そう言い、念のためにつけたガスマスクを外そうか悩みながら小包をゆっくりと開けていく。
押収したこれは一応の検査をかけ、爆発物や毒ガス、生物兵器の可能性はないと判断された。ただ、魔石反応があったので何かしらの魔道具である事を予測していた。
そして小包を開けると、そこにはダチョウの卵のような大きさの唐草模様を模した置物のような魔導具が置かれていた。
『これは…』
『隷属の魔道具ですね』
『!!』
その魔導具を見てエイブラハムの顔が一瞬強張る。
隷属の魔道具は合州国では完全に違法な魔道具としてその一切の所持を禁じられている商品だ。
旧大陸の一部、アンサルド連合公国とゲルマン公国連邦では『スケジュール』と言う形で重度の犯罪者の捕縛のために使用されているくらいだ。
「と言ってもレプリカのようですが…」
ガスマスクをとってレオポルトはそう答えると、そのまま隷属の魔導具の解体を始めて中の感応石の制御盤を見る。
「本物の隷属の魔導具はこの制御盤に魔導はんだとルビーが使われています。ですが、これにはそれが存在していない」
そう言い、ピンセットで制御盤をルーペで確認する。その精密さと知識量にエイブラハムは舌を巻いて居た。
「すごいね君。そんな、警察関係者しか知らなさそうな情報をよく知ってる…」
「まぁ、前々からそう言った魔導具の解体は好きでしたから」
そう言い、彼は押収した隷属の魔導具をネジ一つまで細かく分ける。
昔、魔導具である精密時計を分解して親父に殴られたのはいい思い出である。
「おそらく、これは裏で作られた物でしょう。シリアルナンバーがありません」
企業が制作した品物ではない、お手製の魔道具である確証を得る。
「この前、君の友人が使われたのと…」
「ええ、同じでしょう」
そう言い、隷属の魔導具を破壊したあの日の光景が一瞬脳裏をよぎった。
「さて、分解は終わりました。後はこれがどこで作られたかを解析するだけです」
「そうか…すぐに警察に連絡しよう」
そしてエイブラハムが警察に連絡をしようとした時だった。
「あの男が吐いたぞ」
倉庫の入り口からシュライクがタブレットを持って倉庫に入ってくる。
「男の名はハイラッド・スターロン。ゲルマン出身の移民者で、元は魔導技師だ」
「なんでそいつがこんな違法魔導具を?」
「警察に自主するつもりだったそうよ」
「自主?」
エイブラハムが首を傾げると、彼女は調書を見せた。
「彼、違法で魔導具を製作して居たそうよ?」
「個人の魔導技師って事か?今どき珍しい」
魔導技師と言うのは基本的に魔導具を製作する事を専門にした機械技師だ。旧世界歴から存在し、前世でも優秀な魔導具を作る人材だ。
今では魔導技師と言うのは基本的に大企業に就職し、そこの工場で新規魔導具の開発か製造工場のエンジニアを担当する。個人での魔導具の製造なんて珍しかった。
「それで、その魔導技師が?」
「ああ、とある人物から隷属の魔導具を製作するよう依頼されたそうだ」
「極刑になる可能性があるのに?」
この国で違法で魔導具を製作するとまず間違いなく十年は硬い。
元々、この国は旧大陸からの移民で成り立っている歴史上。移民に関してとやかく言う習慣はないが、強い人種差別の歴史を残すアンサルドやゲルマンからの移民は毛嫌いされることが多い。
ただ、数年前に旧大陸全土で大規模な不況が起こっており、その際に旧大陸から多くの移民が流れ込んでいた。
「夢を追って儚く散った人間ですか…」
「この男も、そのうちの一人だろう」
「悲しいねえ」
分解した魔導具を背に三人は偽警察に追われていた男の情報と、レオポルトの分解した魔導具の情報を共有していた。
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放課後、仕事から解放されたレオポルトは学園都市の西側にある臨海貨物ターミナルを訪れていた。学園都市は西側に西大洋があり、巨大な港が設置されていた。ここは軍港もかねており、時折遠くから合州国海軍の軍艦が見えていた。
彼は私服を着ており、多くのコンテナを積み込んだ貨物列車が行き交う中、ターミナル中央管理所にて伝票を持って待っていると彼の名が放送で呼ばれる。
『番号札四四〇二のお客様〜』
「はーい」
伝票を持ってカウンターに向かうと、係員は携帯の画面を確認した後に彼を外に連れ出した。
「お荷物はこちらにございます」
「ありがとう」
目の前にはカートレインが並んでおり、下ろされていく車も見ていた。
そして、そんな中の一台。漆黒のダッジ・チャージャー型が止まっていた。プッシュバンパーが取り付けられ、天井には何かしら取り付けられて居た痕跡があった。
「では、こちらにサインを」
「はい」
係員のタブレットにサインをすると、そのまま係員は去って行った。
夜の貨物ターミナルに一人、荷物である目の前の車にレオポルトは乗り込むとそのままエンジンをかけた。
「さすがはガソリン車。親父が好きな理由も分からなくはない…か」
ガソリン車特有の野太いエンジン音は運転席に座っていても感じていた。
基本的に電気自動車た魔導自動車はエンジンの音がしない為。時たま走っている音が聞こえずに事故に遭うことがある。しかし、エンジンを積んだガソリン車はそんな心配もいらないと感じながらレオポルトはアクセルを踏んでいた。




