#26
アンサルド連合公国
過去の名をアルビレオ連合王国と呼ぶ。嘗て、この高潔な血を率いて人類を守る為に人類を率いていた彼の国はその名の通り王族がいた。
彼の国の王族は『勇者』と呼ばれる民を率い、統率する特殊能力を持った血を引き継いでいた。そしてその国家は民を率いる高貴で優秀な血を持って大陸に巨大な覇権国家を形成していた。
今から約五百年前…正確には四七二年前、首都のニュートロイにてとある赤子が生まれた。
その者の名はシャターン・デ・アルビレオ。最後の勇者の称号を引く者にして、最強の勇者と言われた男だ。
生まれた頃、彼の周囲は望まれていなかった。理由は簡単で、彼は当時の勇者であるアルビレオ国王とその愛人の間に設けられた子であったからだ。
勇者というのは基本的にその血を引く者が継承する可能性があった。その為、愛人との子は避けられているのが伝統であった。
当時の正妻は不妊症を患っており、国王は他にも妻がいたが特にその愛人を愛していた。その女性の生まれは下町の宿屋の三姉妹の末っ子であり、貴族の出ではない。しかし、虹の民の血を引いていた事から辛うじて愛人として認められていた。
虹の民とは、旧大陸の北方。ミッドガルドと言う極寒の地に住まう少数民族であり、南方に住まう砂漠の民と同様に珍しい存在であった。精霊眼と呼ばれる特殊な眼を持ち、極地に至った虹の民が神より授かった特殊能力であると言われていた。
精霊眼は、当時は主流であった古代魔法の他人の使用する魔法陣を見る事ができた。古代魔法は使用者以外使用する魔法を視ることは出来ないが、精霊眼のみはその魔法陣を見る事ができた。
そうして特殊な事情で生まれたシャターン、母はシャターンの記憶が無いくらい幼い頃に病魔に倒れ亡くなった。
母を失い、すっかり当時の国王もその残された子供に興味は無かった為、半分王宮内でも忘れ去られた存在であった。
しかし、そんな状況が一変したのは彼が十歳の頃。彼に勇者の能力が顕著したのだ。
離宮の部屋の隅で一日の大半を読書とチェスに費やしていた彼は王宮内で非常に大きな騒動を引き起こした。
何せ愛人との間に生まれた子だ。いくら虹の民の血を持っているとはいえ、母親が貴族では無い事から王族の一人として認めにくい。
しかし、正妻との間に生まれた子は病弱であり、部屋から出ることは無かった。
勇者は一代に一人しか生まれず。初めはシャターンを殺し、次代の勇者の発現を進言する者もいた。
しかしそれを止めたのが隠居をし、シャターンの面倒を見ていた先々代の国王であった。彼はシャターンの突出した指揮官としての能力を見抜いており、事実シャターンにチェスで敵うものは一人もいなかった。現代の価値観で言えばギフテッドにも似た特異的な能力であり、チェスの負け無しの噂は瞬く間に広まった。
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タンッタンッタンッ
学生寮の一室、包丁片手に野菜を切っているのはレオポルト・ウリヤノフ。前世では勇者などと言う、退屈でつまらん役目を負わされた男だ。
彼は包丁を握り、野菜を切っていた。その横ではヴァージニアが魔導コンロで火力を見ていた。最近はIH調理器なる電気で動く家電も存在するが、やっぱり昔からの魔導コンロや火を焚いて作る飯のほうが美味い。
「そっちは?」
「ぼちぼちかな」
男女が台所で共に飯を作ると言うどっかの恋愛漫画とかでありそうな展開だが、そんな関係じゃ無い為大した話もせずただ淡々と料理を作っていた。
必要最低限に荷物しか持って来ておらず、ほとんど何も置かれていない部屋にヴァージニアが『つまらん』と言っていた事には少し反感を覚える。五月蝿え、こっちは来年入ってくる妹の場所を取ってるだけだわ!!
すると部屋の扉が開き、奥からジャクソンとアニが両手に袋を持って入ってきた。
「おーい、買って来たぞ〜」
「お、サンキュー」
此処はレオポルトの寮室。今日はアニの退院祝いでそれぞれ準備をしていた。
「アニが手伝わなくても良かったのに…」
ヴァージニアが呆れた顔でそう言うと、今日の主役である彼女は言う。
「いえいえ、この位はしないと…何だか申し訳なくて…」
そう言い、シーザーサラダの入ったカップをテーブルに置いていく。
彼女の家族が経営していた会社は反政府組織であった黒い骸骨傘下の詐欺グループに乗っ取られ、彼女自身も家族を人質に取られていた。
警察は過去の経歴を洗いざらい調べ上げ、アニの家族も解放された上に会社も元通りに帰って来た。前の通りになるまで時間はかかるかもしれないが、それでも大きな枷は外れた事だろう。
「しかし、此処からデリバリーって案外遠かったな」
「あれ?あんた達スーパーに買い物に行ったんじゃないの?」
「いや、ついでだから直接取りに行ったんだ。その方が安くなるしな」
そう言い、買って来たジュースを冷蔵庫に仕舞いながら話す。するとヴァージニアは小馬鹿にした様子で言う。
「体力馬鹿は違うわねぇ。アニも大変だったでしょう?」
「おい!」
突っ込みをかけるジャクソンを無視してヴァージニアはアニと話す。まだ右手は包帯を巻いたままだが、骨のヒビはほぼ完治していた。治癒魔法を用いた治療で自分で治したと言う。
「治癒魔法と回復魔法は昔から得意でしたから」
得意げに彼女はそう話すとそのままリビングのテーブルに座る。椅子はないので皆で卓を囲んで胡座をかいて並べられたピザやスープ、サラダなどを眺める。
そして四人はそれぞれ飲み物を持つとヴァージニアが音頭を取る。
「それじゃ…退院を祝って乾杯!!」
「「「乾杯!!」」」
三人はグラスを掲げると乾杯をする。この国では飲酒は十八歳からなので、今の自分達は酒を飲むと警察にドナドナされてしまう。
「(こう言う時にビールとかが飲めればな…)」
新大陸には自分の飲んだ事ないバーボンなる酒もあるようで、飲める年齢になれば飲みたいと思っていた。
この前のハロウィンパーティーで何人か飲酒で捕まっており、バッチリ警察指導を受けていた。あの襲撃事件で有耶無耶になると思っていたらしいが、そうは問屋が下さなかった。
「(まぁ、あの委員長が忘れる事も無かろう)」
ルートビアを飲み干し、レオポルトは思う。あの事件もひと段落し、今は十一月に入った。来月に行われるクリスマスパーティーは現在協議中であり、行われるかは未だ不透明。クリスマスパーティーは全校生徒を巻き込んで行われる一大イベントのため、会場は学校全体で行われる。
警備は喧嘩が起こった時に出動する程度であり、全体の警備は半分諦めていた。その為、ハロウィンパーティーの様に駆り出される事も無いわけだ。
「そういえばアニって授業とか大丈夫?」
ヴァージニアがやや心配げに聞く。此処のカリキュラムは基本的にキッチキチだ、三年生がほぼほぼ自由時間となる代わりに一年生の段階からかなり予定が詰まっているのだ。一個でも授業を落とすと成績に影響する可能性がある。既に授業は再開しており、勉学について行けるのか心配な様だが…。
「大丈夫、レオくんが毎日授業プリントを送ってくれたから。一応授業の内容は把握しているよ」
「あっ、じゃあ大丈夫そうね」
「レオが作ったノートなら問題ねぇな」
そう言い、ハンバーガーを頬張るジャクソン。キャベツ溢れているぞ。
「しっかしまぁ…驚いたもんだね。本当に襲ってくるなんて…」
「あぁ、正直自分も話半分に聞いていたから驚いたがな…」
そう言い、テロリストが襲撃して来た日の事を思い出す。あれからもう二週間近く経っているんだもんな…。
「騎兵戦闘車が出て来たから、正直あの学校には軽戦車でも置いてんじゃないかって思ったな」
「同感だな。今度あの糸目の先輩に聞いたらどうだ?あの人なら聞きやすそうだし」
「良いよ良いよ、面倒だし。ってか、一般の学校が戦車持ってたらそれはそれで大問題でしょう」
「ははっ!違ぇねえ」
そう話してレオポルトとジャクソンは盛り上がっていると、横で苦笑しながらヴァージニアは言う。
「男ってこう言うの好きよね〜…」
「あはは…」
そう口にするヴァージニアであったが、彼女は前よりも顔色の良さげなアニの表情を見て内心は嬉しく思っていた。
正直、言われなくともアニの顔を見て何かしらに追われているのだけは実感できた。そしてボロボロのコルトガバメントを見た時、色々と察する事ができた。しかし、それにしては顔色が悪いと思ったが後に情報を知って納得できた。
「(元気そうで何より…)」
楽しげに話しているアニを見てヴァージニアは次にレオポルトを見る。
「(レオが見ていたあの資料は何だったんだろう…?)」
あの日、襲撃後に見た彼の幼馴染という少女。名前は聞いていないが、士官学校の制服を着ていたあの生徒…少し羨ましいと思ったあの生徒に、彼は何かしら調べさせていたらしい。レオポルトが教えてくれることは無かったが、少しだけ気になった。
ミニパーティーが終わり、片付けも終わって皆が帰った後明かりを消した部屋でレオポルトはシャワーを浴び、寝巻きに着替えた後にベランダに出て電話をしていた。相手はドーラであった。
『小父さんから聞いたよ。脅されていた子の会社、立て直しを図るって』
「ああ、俺も聞いている」
彼女の家族の会社は詳しくは知らない。ただ、今は友人の回復を喜ぶだけだ。
あの後、病院で何を話したかは知らないが、退院した時の顔はとても元気そうであった。
「会社の株を少し買おうかどうかも考えているよ」
『おぉ、良いんじゃない?ってか株売ってたんだ…』
「あぁ、この前教えてくれた。この前のニュースで色々と話題になっていたからな。株価はかなり上がっていたぞ」
ニュースで黒い骸骨の被害に遭った会社名が公表されていた。その中にアニの両親の経営していた会社も記されていた。数ある会社の中でも今でも残っている数少ない物であった。炎上商法ではないが、それに似た何かを感じてしまった。
「まぁ、それよりも気になるのは…」
『あの馬鹿どもがなぜ隷属の魔導具を持っていたのか…』
「記憶を見た限り、顔は見えなかったな…」
そう答え、レオポルトは魔法で見たあの男の記憶を思い返す。
基本的に生きている人間に記憶を見る魔法を使うと精神が破壊される危険があるのだが、古代魔法と併用して発動する事で相手の精神を保ったまま意識を別の物に集中させて記憶を覗き見ていた。
そこに映っていたのは金縁のローブを着た時代錯誤の魔導士の様な見た目をしていた。声的に老人の男かもしれないが、魔法で声なんていくらでも変えれるから自信は無い。
「はぁ、それを思うと今ほど古代魔法の練習をしたいと思う事はないな」
『仕方あるまい。ウチらは全盛期の時よりも力は劣っている』
そう言い、ドーラは自室で何かしらの作業をしながら話す。
『何、古代魔法の練習くらいであれば付き合う事は可能だ』
「そんじゃあ、また今度練習相手を頼むよ」
そう言うと、レオポルトは電話を切ってベランダから去っていった。




