#24
「くそっ!」
灰皿を蹴り飛ばし、黒い骸骨のボスはイラつく。
「情報はいつ来るんだ…!!」
「まぁ待て。現地からの報告が…」
その瞬間、倉庫の外から悲鳴と銃声が響く。
『う、うわぁぁあああああっっ!?』
『な、何だっ!?』
その後に慌てて倉庫に入って来た奴は右腕が食い千切られた様に血を流し、死にかけの様相をしていた。
「ボ、ボス…」
「何があった!?」
「外…に…狼の群れが…」ドサッ
そう言い残して、その男はそのまま倒れた。
突然の事態に外の騒ぎを抑える為にそれぞれ武器を手に取る。狼の群れが襲ってくる事なんて無かったのだが…。
「糞犬どもが」
非常に苛立った様子で外に出ると、そこでは地獄が広がっていた。
「たっ、助け…て…」
「あぁ…痛い……」
「お、俺の…俺の脚がぁ…!!」
そこには無数の黒い影の様な狼とも言えるか分からない群れに次々と襲われ、ジワリジワリと肉を喰われて行き、助けや悲鳴をあげる仲間の姿があった。
そして彼らを襲った狼の群れは仲間を仲良く集団リンチして食糧にしようとしていた。
「何…だ、これは…」
その地獄に一瞬だけ固まると、一匹の狼が男に気づいて視線を向ける。腹の空かした狼の恐ろしさはここに住んでいれば分かる話だ。
「っ!!死ねぇ!!」
男は狼を皆殺しにする勢いで持っていた自動小銃で狼に銃撃する。まともに銃撃をくらい、狼は一瞬怯んだと思ったが…。
「なっ…!?」
狼に当たった銃弾はそのまま吸い込まれる様に消えていき、そのまま狼は襲いかかって来た。
「っ!!」
「兄貴!!」
その瞬間、男を守る様に炎が狼を包んで消えた。
「す、すまねぇ」
そこから男は外の仲間の生存を諦めて倉庫に逃げ込むと、残っていた仲間に言う。
「敵襲だ!仲間を犬の餌にした奴をぶっ殺せ!」
「「「「おぉーーーっ!!」」」」
片手に自動小銃を持って雄叫びを上げると彼らは準備を始める。その中でボスは弟に聞かれる。
「でもどうする?このままだと…」
「ああ、だから頃合いにあれば逃げる。こいつさえ俺の手の中のある限り金は無限に湧いてくる」
そう言い、男は懐から装飾の施された置物の様な物を取り出す。数年前に謎の商人がしつこく言ってきて買った物だが、こいつのおかげ闇金業で大きく儲けられ、奴隷の様に人を使えた。人を隷属させられる事がわかり、こいつを使えば無限に金が湧く打ち出の小槌だ。
これのおかげで元は街のチンピラが集まっていただけの黒の骸骨はここまで巨大な組織となる事ができた。こいつのおかげで金も女も自由に扱えた。
「急げ!敵は目前だ!!」
そう言い、部下は倉庫の一口の前で待ち構えていると一瞬シャッターの向こうが淡く光る。そして、
「「「「うわあぁぁあああっ!?」」」」
眩い閃光と共に倉庫に爆風が押し寄せ、倉庫の手前にいた仲間は消滅し、視界は真っ白になった。
「くそっ!」
爆発の後、倉庫中に埃が舞う中。生き残った者達は息を呑んでこじ開けられた外を見ると真っ黒な深夜の中。
微かな呼吸音と共に埃で隠された向こう側にぼんやりと赤い線が現れた。そしてその明かりに照らされる形で一人の人影が現れた。
「撃てっ!!」
その恐怖に駆られ、一人が叫ぶと一斉に誰もがその影に向かって引き金を弾く。
「ぎゃぁっ!?」
しかし、弾丸は防がれ。お返しに放たれた弾丸は一人の頭を撃ち抜く。
「くそっ!彼奴がっーーっ!?」
物陰に隠れた一人が侵入して来た人物の裏を取った瞬間。彼の頭を散弾の小粒が吹き飛ばした。
「もう一人いるぞ!」
「探せ!何処かにいるは…」パシャッ!
頭を覗かせた瞬間に一人の頭がまた飛ぶ。正面から堂々と入って来た男は仲間の一人の首を掴むと一気にその掴んだ体は中から火を吹いて燃え上がった。
「っ!?!?!?」
そして悶絶の顔で死んでいった仲間をその男は持っていた短機関銃で頭を撃ち抜く。
「っ!!くそっ!」
「逃げよう兄貴!!」
こんな場所で的確に部下は死んでいき、このままでは自分が殺されるのも時間の問題。
「早く!!」
「ちっ…行くぞ…」
奴らが何者なのか分からない。だが、ここまで来たら逃げるしかない。そう思い、裏口から逃げようとした瞬間。
「ひっ!!」
裏口に繋がる通路を塞ぐ様に炎の壁が立ちはだかった。咄嗟に魔法で冷却を試みるも火が収まる様子はない。
「なんて魔力の濃さだ。対応できない!!」
「何だと!?」
魔力切れを起こしたのか、激しく息切れをしている様子の弟を見て男は驚く。それほどの強い魔法……対応できないのがおかしな話だ。
出口を囲まれ、廃倉庫の中で二人の男は足を止めてしまう。燃え盛る炎の中、入り口から一人の男が現れる。
「どうした、何故足を止めた?」
「「っ!?」」
現れた格好を見て二人は驚く。
「馬鹿なっ!?なぜ魔学院の制服を…っ!?」
「ここから三千キロは離れているぞ!?最短でも一日は掛かるはずだ!!」
混乱しているからか、魔学院の制服を着ているだけの民間人とも考えないか…まぁ、普通そんな思考には至らないか…。
ベリザーナと名付けたマチェテを握り、レオポルトは冷静に脳内で考える。
「残っているのはアンタ達だけだ。…さあどうする?」
「っ…!!」
軽く歯噛みし、男は持っていた金ピカに塗装されたコルトパイソンをレオポルトに向けて放つ。
「なっ…!?」
しかし発射された弾丸はレオポルトの眼前でそのまま蒸発をしてしまった。金属が沸騰してしまうほどの熱を囲っている事に驚愕していると、彼は言う。
「悪趣味な銃だな」
「っ!!死ねーーっ!?」
その瞬間、弟の後頭部に銃口が押し当てられる。後ろを咄嗟に振り向くと、そこには回転式散弾銃を片手に持つ一人の少女が立っていた。
「お前っ!?」
「アンタらには色々と聞きたい話があるんだ」
そう言うとその少女は指を軽く鳴らすと、今まで燃え盛っていた炎は何事も無かったかの様に消えた。その隙を狙って少女を撃とうとしたが…。
「これだから馬鹿は困る」
「ぐはっ!」
そう言い、首根っこを掴まれ地面に叩き込まれた。背中にさっきの青年が足で背中を踏みつける形となり、持っていたAKMも赤く灯る山刀で真っ二つに斬られた。弟もさっきの女に倒された様で暗闇の中で悲鳴が上がっていた。
すると男を抑えている青二歳が聞いてくる。
「選べ。情報と貴様の持つ魔導具を渡すか、このまま撃ち殺されるか」
「「っ!?」」
魔道具のことを知っている事に驚いていると、その青二歳は更に続ける。
「あれは貴様らには過ぎた力だ」
「…へっ、餓鬼如きに渡すかよ」
「そうか…なら…」
すると青二歳は指を鳴らすと弟の方から困惑と悲鳴、そして咀嚼音が聞こえて来た。
「な、何だ!?い、嫌だぁぁああ!!!」
弟が喰われている。
音だけでわかる。見えない恐怖、弟の悲鳴、何者かが弟を喰っている音。それだけで男は怒る。
「テメェ!弟に何しやがった!!」
「見て分からんか?貴様の弟は俺の傀儡の餌になっているのさ」
「っ!!」
その顔は薄暗く、暗闇に慣れて来た目でもわかるくらい笑っていた。まるでこの状況を楽しんでいるかの様に…。
「さぁ、選べ。早くしなければ貴様の弟が喰われるぞ」
「っーーー!!!」
言い表せない怒りと、恐怖が男の脳裏を埋め尽くす。真横では弟が青二歳の生み出した傀儡に喰われて悲鳴をあげている。
「助けて!兄貴!うわぁあああっ!!」
しかしここで金を失うのは避けたい。此処は見捨てるか…。
「助けてくれ!…助けろよ!糞野郎がぁっ!!」
息も絶え絶えになりながらそう叫ぶ弟。男は最後に男を見捨てる選択をとった。
「家族より金を取る男…それだけで貴様の正体が判明したな」
「嫌だぁぁぁぁぁぁあああっーーーー…っ!!」
そう叫びながら最後は召喚した狼の群れに喰われて弟は息絶えた。それを見た青二歳は鼻で笑う。
「所詮、貴様の家族愛も金には敵わなかった…と言うわけか…」
そう言うとその男は懐から金色の装飾の施された卵形の置物を取り出すと、月明かりに当てた。
「っ!?いつの間に…!?」
「お前が馬鹿なだけさ。既に取られていることに気付かないとはな…」
そう言うと、月を覆っていた雲が風に流されてその姿がよく見える様になる。
血赤の双眸に、黒曜石の様な黒い髪。弟や部下を喰い殺し、自分を見下す奴。
「っ!!」
仰向けにされ、その男は片手に魔導具を持って聞く。
「さて、こいつは何処で仕入れた?」
さっきの少女から脳天に銃を向けられた状態で聞かれる。
「教えるかよバー…ごふっ!!」
その瞬間、少女に銃床で顔面を殴られ鼻の骨が折れる音がし、鼻血が出る。
「言え、今の貴様にできる事はそれだけだ」
少女からドスの効いた声が響く。そして銃口を向けられた。
「(見た感じ、この女は弱そうだ。人質にとれば…)」
そう感じ、腕を動かしてナイフを手に取ろうとするが…。
「っ!?」
なぜかナイフは取れなかった。
「(なぜだ!?)」
すると青二歳が笑う。
「貴様は未だに気付いていないのか?」
「え…?」
青二歳が目線を下に向け、それに合わせてゆっくりと下を見ると、
そこにあったはずの自分の手と足は何処にもなかった。
「え…?」
その瞬間、とてつもない激痛が身体中を走った。
「あ…ああぁぁあぁぁぁああああぁぁあ!?!?!?!?」
言い難い痛み、恐怖、その全てが一気に襲い掛かり心拍数が極端に上がる。そして廃倉庫の床はどんどん赤く塗装されていく。
「あぁ…あぁ…」
手首も斬り落とされ、四肢から血が溢れる。痛みと恐怖による興奮から心拍数が上がり、鮮血は流れていく一方だ。死に向かう恐怖で男の精神は意図も簡単に壊れた。
「ウヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!」
狂った様に笑い、それを見たレオポルトとドーラは軽く目を閉じた。
「壊れたか…」
「どうする?記憶は…」
「もう見た。これ以上は何も要らない」
「…そう」
短くそう答え、ドーラはそのまま男に向けていた散弾銃の引き金を弾いた。
警察の捜査では記憶を媒介に捜査をする方法がある。つまり、記憶を司る海馬を破壊すれば追跡は出来ない。その対策として優秀な犯罪者は証拠隠滅の方法で脳を吹っ飛ばす事がある。
「お兄ちゃん、その魔導具は…どうするの?」
片手に魔導具を持って廃倉庫を後にするドーラは聞くと、レオポルトは答える。
「本来であれば色々と調べるところだが…こいつはすでに使われている」
中央に収められた魔石を見るとそのまま魔導具を放り投げる。
「今はこうするしかない」
そう言い、放り投げた魔道具の核である魔石にMP9ーNを向けるとそのまま引き金を引いた。
パリンッ
ガラスの割れる様な音と共に核を撃ち抜かれた隷属の魔導具はそのまま制御を失い、小爆発と共に砕け散った。
魔導具は核を破壊すれば自動的に解呪される。とするとあの馬鹿者が従えていた人たちもこれで解放される。
倉庫から必要な物だけを取って収納魔法でしまうと、ふとレオポルトは溢した。
「…誰かの為に人を殺すのも、悪くないな…」
そう呟くとドーラがややジト目で言う。
「あの時のお兄ちゃん、本当の悪魔みたいにノリノリだったよ?」
「そうか?」
「うん、少なくとも私は引いた」
「人の倉庫から武器を掻っ払った時点でお前も同じだろ」
そんな話をしながら二人は燃え盛る倉庫とサイレン音を置き去りにして消えていった。




