#23
「ーーあっ」
目が覚めると、白い天井とカーテンが見えた。
「此処は…」
周りを見回すとカーテンが完全に閉じられ、よく見ると自分は頭に軽く包帯を巻いていた。しかし外では少し騒がしい様子だ。
「…」
どう言う事だと困惑していると、ベットの脇に何かが置かれている事に気がついた。それは自分がレオポルトに直してもらったM1911A1と、もう一つ。てっぺんに宝石の付いた真鍮製のロケットだった。
「っ!?これって…!!」
見覚えがあるからこそ、アニは驚いているとカーテンの外から声がかけられた。
『アニ・シコルスキーさん?』
「は、はいっ!」
いきなりの出来事に変な声が溢れてしまうと、カーテンが開かれ看護師の他に一人のトレンチコートを着た長い鼻が特徴の男性が入ってきた。誰だろうと内心震えていると、その男の人は自己紹介をした。
「失礼、私はこう言う者です」
そう言って胸ポケットから二つ折りの身分証明証を見せた。
連邦保安局
FSSとも言われる合州国の警察機関の一つだ。国内の治安維持を一手に担い、テロ、スパイ、政府の汚職、複数の州に渡る広域事件、強盗事件などの捜査を担当する。
そんな所から来た人物がわざわざ自分を尋ねてくる理由なんて…。正直に答えるしか無い、だって自分には何も…。
「今日、貴方にお伺いしましたのは。二日前、国内の反政府組織『黒い骸骨』が壊滅し、その傘下にあった闇金業者の名簿に貴方の名前が記載されていたためです」
「…え?」
耳を疑う話だ。今、何とこの人は言ったのだ?
「そして『黒い骸骨』は違法魔導具の所持していた事が判明し、その魔導具の副作用で暫く眠っていたのでなかなかお話が聞けなかったのですが…まぁ、とにかく無事で何よりです」
「???」
困惑していると、その男の人は名刺を渡すとそのまま部屋を後にした。
「では、今日はこれにて。数日は事情聴取の為に毎日訪れますので」
「は、はぁい…?」
====
気絶したアニを見ながらレオポルトは無線を入れる。
「こちら巡回12、郊外にて負傷者発見。至急応援を」
『了解、そちらに人員を送る』
至る所で救急車が走り抜け、中には消防車も出動する中。レオポルトは裏路地の更に奥に両腕を折った男を連れていく。
「起きろ」
何度か往復でビンタをかまし、気絶していた男を目覚めさせる。目隠しをしているのでこちらの姿は見えていない。
「なっ!てめっ…ぐあっ!!」
間言わず後頭部に銃口が向けられ、首をネクタイで縛り首にされた状態でそのまま足を折り曲げて正座をさせられる。
「くっ…かっ…」
「情報を吐け。今の貴様の出来る事はそれだけだ…」
ゆっくりとネクタイの縛る力を加えて行き、首をジワリジワリと締められていく感覚に男は恐怖する。後頭部に銃を押し当てられ、いつでも殺せる状態。このまま締め殺されるくらいなら…。
「わ、分かった!!言う!言えばいいんだろ!?」
そう言うと締められる力が抜け、そこから男は情報をレオポルトの質問通りに答えて言った。
「お前は何者だ?」
「く、黒い骸骨…」
「貴様の親玉の位置は?」
「バ、バリスコ山道近くの…廃倉庫」
必要な情報を聞き終え、レオポルトは口を開く。
「そうか…協力に感謝する」ダンッ!!
その瞬間、引き金を彼は引き、男の顔はマグナム弾の貫通で柘榴が弾ける様に吹き飛んだ。
「ーーーすまない、親友の弱みを食いものにして弄ぶ輩は始末しなければ気が済まない主義なんでね」
非常に冷えた目で冷徹にそう言い残すと至る所に付いた血を消し、ネクタイを結び直すと電話をかけた。
「…もしもし?」
電話に出たのはドーラであった。時差の関係上、向こうは日暮れが近い。
「はいはい、どしたの?」
『今、何している?』
「え?家でゆっくりしているけど?」
ドーラは家で来年の受験に備えて参考書を開いている中。夕焼け色の空の元、電話でそう答えるとレオポルトが要件を伝える。
『ドーラ、すまんが手伝って欲しい。頼めるか?』
兄妹だ、兄の声色的に何をして欲しいのかは手に取るように分かる。前世がどうであれ、今は家族であり大好きで尊敬できる兄だ。そんな人からの願いに応えないわけはない。
「何をして欲しいの?」
『人助けだ』
「了解…お兄ちゃんってよく変な事に巻き込まれるねぇ」
『うっせえ』
咄嗟に反論するレオポルトに少しだけドーラは笑う。
「ふふっ、まあ良いよ。何処に行けば?」
『バリスコ山道の入り口で落ち合おう』
「オッケー、バリスコ山道ね…」
地図アプリで座標を確認すると彼女は部屋に置かれている、銃身を切り詰めて持ち運びやすくした回転式散弾銃を持ち、そして3Dプリンターで作った自作のムーンクリップに五発装填された12ゲージ散弾の入った肩掛けバッグを持って部屋を出る。
「母さん、ちょっと出かけてくる」
「はーい、遅いなら連絡を頂戴ね」
「分かった〜」
そう言い家を出て、ドーラは住宅街の静かな街の人の少ない公園に移動すると目を閉じて左手を軽く地面につけると、脳内でイメージを作る。
「座標、バリスコ山道入口。…転送対象、ドーラ・ウリヤノフ」
すると地面に使用者しか見えないとても複雑な魔法陣が光り輝き、青白い閃光を放つ。
「座標固定、転送開始」
その瞬間、ドーラの姿は霧が掛かったように公園から消えて行った。
転送した先で五分ほど待つと、バリスコ山道の方から一人の人影が現れた。それを見てドーラはやや苦笑する。
「お兄ちゃん…まさかそれで行く気?」
「?」
現れたレオポルトは魔学院の制服のままであり、特徴的な血赤の双眸と黒曜石の様な髪は変わらない。
「はぁ…せめて着替えてくれば良かったものを…」
「別に良いだろう。どうせ全員しばくんだ」
そう言い、レオポルトは片手にマチェテを持って答える。
「それは?」
「警棒」
そう言うと、刃の部分が赤熱する。それを見てドーラはやや苦笑した。
「はーん、ヒヒイロカネの熱伝導性の高さを使った高周波ブレードってとこ?」
「当たり…さすがだな」
「当たり前よ。誰の妹だと思ってんのよ」
そう言うと二人は不敵に笑い、そのまま山道に入っていく。
「敵は?」
「ざっと六十名」
「余裕ね、倒し甲斐がある」
そう言い、ドーラはクリップを押し込んでリボルバーを押し込む。先ほど山道から現れたと言う事はすでに偵察をしてきたと言う事。前世からの長い付き合い、お互いの考えは手に取るように分かる。
「因みに全員しばく理由は?」
「…他人を食いもんに命を弄ぶ為」
「…成程」
その時のレオポルトの表情を見てドーラは納得する。それほどの極悪人という事。
「情けは要らん。おまけに、厄介な物を持っていた」
「?」
ドーラは首を傾げるとレオポルトは言う。
「奴ら、何処から魔道具を仕入れていた。それも隷属の魔導具をな…」
「っ!?何と卑劣な…!!」
その道具の名を聞き、途端にドーラは憤慨する。それは、今では持っているだけで罪になる代物だからだ。
隷属の魔導具とはその名の通り使用する事で他者を奴隷の様に扱う事ができ、叛逆しよう物なら仕掛けられた魔法が発動して体に苦痛を与える物だ。前世では犯罪者や奴隷の管理に使われていたが、その悲惨さから二人は毛嫌いしていた。
「奴らが持つには過ぎた代物だ。だから目的は…」
「隷属の魔導具の破壊、もしくは奪取」
「出来るなら出所追跡だな」
そう言うと、二人は情報通り山道沿いの廃倉庫を一望できる場所に辿り着く。
「なるほど、こりゃ相当な人数だ」
「どうりで装甲車を仕入れられる訳だ」
明らかに過剰とも言える蓄えられた武器を見てドーラとレオポルトはそれぞれ呟くと腕を鳴らす。
「さて…参りますか」
レオポルトはそこで首を鳴らすと両手を地面に置いた。
====
「どうですか?」
「さっぱりだ」
無数のパトカーが山道に停車し、規制線も敷かれていた。すると捜査官の一人が近づいて司法解剖の結果を持ってきた。
「遺体の損壊具合からして、何かしらの獣に喰われた可能性が高いとの事です」
「獣?銃で武装していると言うのにか?」
「噛み跡からして狼に近い犬科のソレであると…」
「…」
検死官からの報告を受け、その男。トレンチコートを着た伸びた鼻が特徴の男は腕を組んで考え込んでいると警官の一人が伝えに来た。
「警部、専門家が到着したと…」
「おぉ、来たか。随分と遅かったじゃないか。案内してくれ」
「はっ!」
そう言い、その捜査官の元に一人の男がやって来ると嬉しそうに手を差し出した。
「やぁ、久々だな。カール」
そう言い、専門家として現場に招かれたのはあのカール・ウリヤノフであった。彼は警部と呼ばれた男を見て再会を喜んで同じ様に腕を出すと握手をした。
「俺を呼び出すとは、中々やってくれるではないか。旧友」
「何、学生時代は散々迷惑をかけられたんだ。我慢しろ」
そう言うと、カールはその男…カムチャル・ノースロップを見て少しほくそ笑んだ。彼はFSS捜査官であり、階級は警部であった。
「現場はこれか?」
「ああ、古代魔法研究の第一人者であるお前なら…と思ったんだが」
「俺より、俺の子供の方が詳しいよ」
そう言い、足元にある一つの黒い物体を目にする。何だと眺めていると、カムチャルが教える。
「そいつは反政府組織『黒の骸骨』の構成員の一人だったものだ」
「…」
それは見るも無惨な姿となった人の成れの果てであった。
「残された遺留品から元は黒犬の獣人だ」
「なるほど…」
遺体を確認し、カールは軽く黙祷するとそのまま遺体の痕跡などを記した資料を確認する。
「…」
「どうだ?」
カムチャルが聞くと、カールは資料を返して地面に手を触れて目を閉じる。
古代魔法とは、目に見えぬ地脈の力を感じ、それらの力を利用する事。そう言うふうに考えられている。そして古代魔法の調査はこの様にして行われる。
「…なるほど」
目を開け、カールはカムチャルに言う。
「ここで古代魔法が使われた事実は確かだ」
「おぉ!そうか!」
古代魔法は使用者との繋がりが強く現れる。使用がわかれば、追跡は簡単となる。
「だが…」
「?」
しかしそこでカールは続ける。
「この古代魔法は未知の技術技術が使われている。追跡は不可能だ」
「何っ!?」
カムチャルは驚くと、カールは端的に答える。
「俺でも追跡は無理だ。流石に未知の技術相手には俺もお手上げだ」
そう言うとカールはそこらじゅうに大量に存在する遺体を眺めながらそう呟いた。




