#20
十月三一日
コンペンションホール
その日、昼から生徒会主催のハロウィンパーティーが開かれていた。元は旧大陸からの移民が持ち込んだ行事であったが、次第にアルメリア全体に広まり。今では合州国の行事の一つであり。新入生にとっては初の大規模イベントであった。
大勢の生徒が集まり、会場内は盛り上がっていた。結構参加費高かったような気がするが…。
「ふぁぁ…」
会場の外、無線機を付けてレオポルトは軽く欠伸が出てしまう。このパーティーで揉め事が起こった際のバックアップ兼見回りをしているのは風紀委員会で、レオポルトも呼び出しを受けたのだ。
「ったく、暇そうねぇ」
「っ!?何だジニーとジャックか…」
「よっ、探すの結構大変だったぜ」
片手にベーパーバックを持って現れたのはヴァージニアとジャクソンだった。二人はレオポルトを見つけるとそのまま人気のない場所に移動させた。
「レオが暫く警備するって聞いてね」
「持って来ておいたぜ」
「おぉっ!!」
そう言い、二人の持っていたペーパーバックにはパンプキンパイやピザなどのおそらく会場内に置かれていたのだろう料理の数々であった。
「せっかくお金払ったって聞いているから勿体無いって思ってね」
「おぉ、感謝するよ」
そう言い、少し目を輝かせて少々汚いが手でパイを手に取って食べていた。
「ありがとう。会場内の歓声を聞きながらの警護もなかなか辛くてね」
「oh…そいつはキツイな…」
「中も結構色々あったから特にねぇ…」
そう言いながら二人は会場の方を眺める。今あそこには大体四千人程の生徒が集まっており、パーティーを楽しんでいた。今日は学校の授業もなく、パーティーに参加しない者も一定数はいた。
「アニは?」
「ん?あぁ、なんか今日は来ないっていってたよ。風邪を引いたとか何とか…」
「風邪か…結構早い時期に引いてんだな」
「今度見舞いとか行こうかな?」
そう答えるとジャクソンが聞く。
「でもあいつの寮部屋って何処なんだ?」
「あら、あんた見舞いに行くの?そう言う柄じゃないと思っていたけど…あっ!もしかして!!」
「馬鹿野郎、俺が色目使うと思うか?彼奴に」
「運動部って精力お化けって聞いたことあるけど?」
「んな訳あるか!!」
そう話し、レオポルトは叫ぶが少しだけ思う部分はあった。
アニの実家は経済的な余裕が無いと聞いた。学校に通うにも奨学金で何とかなっていると言うが…。しかし、此処での銃の携帯は必須である事は有名な話だ。だが、その銃ですら彼女は不満足の状態だ。見ているこっちが心配になる。
「それを思うとレオってお人好しよな」
「?」
徐にジャクソンが口を開く。その言葉にレオポルト自身は首を傾げ、ヴァージニアは頷いた。
「そうね、レオは見た目に反して意外とお人好しだから…」
「そうか?」
「いやいや、普通壊れている他人に銃なんてわざわざ整備しないから…」
苦笑気味にジャクソンは言うと、レオポルトは納得した。
「いやぁ、あんな不良品を堂々と持ち歩かれたら気にならないか?」
「うんまぁ…気持ちはわかるけが…」
「そして直すからには完璧にしなければ」
「うーん、分かるけどねぇ…」
「つまりはそう言う事だ」
レオポルトははっきりと答えるとジャクソンは軽く頭を抱えた。
「まぁ、アニだったから良かったが…」
「まぁ、不良品を持っている時点でそもそもあれだけどね…」
おそらくは二人も気付いている。アニの経済状況はあまりよろしく無いことぐらいは。だからあまり触れないではいるのだろう。その事はひしひしと伝わってくる。
此処の学校には実に多くの生徒がやってくる。そしてその中には人生の一発逆転を狙って来る者も多い。
「そう言えば、二人って銃を持っているのか?」
ふとレオポルトは思う。そう言えば二人が銃を持っているところを見たことがないと。そう思って二人に問いかけると、彼らは頷いた。
「おう、一応持っているぞ」
「まぁ、いつもロッカーにしまっているから滅多に持ち出さないけど」
「そうなのか…」
少し驚きながら答えると、ジャクソンが呆れた様子で言う。
「お前みたいにマシンピストルを常に持ち歩かねぇよ」
「そうそう…てかそもそも学内で持っている人ってほぼいないんじゃ無い?」
「言われてみれば…」
街に繰り出すとほぼほぼ持っている印象だが、言われてみると学内で使っている印象はない。学内ではあんまり銃を持っての揉め事がないからだろうか。
「風紀委員は威圧も兼ねて持っているけどよ」
「仕方あるまい。風紀委員は揉め事防止も兼ねているんだ」
そう答えるとヴァージニアはやや呆れも混ざった様子で答える。
「先生も忙しいからね。この前も授業すっぽかしていたし」
「おかげでこっちはほぼ授業が進んでいない状況」
「だから俺に授業プリント貰いに来たのか」
「そゆこと」
此処の学校の教師の一部は研究員の人物もいる。そのため、研究が捗らなかったりすると授業をすっぽかす事もままある。
生徒にとっては嬉しい話かもしれないが授業が進まないと定期考査で泣き目をする羽目になり、最悪補習に引っ掛かる事になる。だから本来は代理の教師が来たりするが、連絡が行き届いていないと教師が来ないと言う事態に発展する。実際、ジェイムズ先生も何度か授業すっぽかしているし…。
「いやぁ、あのプリントのおかげで小テストも何とかなったから助かった。感謝するぜ」
「あぁ、役に立ったなら何よりだ」
「レオってまとめ方も上手くて助かるよ。この前の小テストなんか私満点取れたし」
「そうか…」
するとヴァージニアが少し詰め寄る感じでレオポルトに聞く。
「ねぇ、ひょっとしてレオって優秀なんじゃない?」
「そうか?」
「じゃなきゃあんな綺麗な授業ノートも書けないだろ」
そう言い、二人はレオポルトのこの前の考査の成績を聞いてこようとするがレオポルトは抵抗をした。
「言っておくが成績は言わないぞ。俺は他人の成績を聞かない代わりに自分の言わない主義だからな」
「ちぇっ、ケチだなぁ…」
つまらなさそうに口を尖らせるヴァージニアに
「順位でそんな自慢することか?就職に関係わけあるまいし…」
「うーん、それ言われちゃうとさ…」
「いや、でも成績で就職のアレとか決まるだろう?おまけに大学も…」
ジャクソンがそう話した瞬間、レオポルトの無線に連絡が入る。
『巡回中の役員に連絡。会場内で揉め事だ。近くにいる者は仲裁に迎え』
連絡が届き、レオポルトは食べていたパンプキンパイを置くと席を立つ。
「あれ?どうしたの?」
「仕事だ。会場内で揉め事だとさ。行って来る」
「おう、気をつけてこいよ」
そう言い、レオポルトは席を立って会場に入って行った。
「だぁ!くっそ!離せよ!」
「はいはい、大人しくして下さいね」
興奮状態の二年生を掴んで連行する。ったく、誰だよ会場に酒持ち込んだのは。確かシードルとかの度数の低い酒しか配っていないはずだぞ。と言うかそもそもビール飲んだら法律違反だし。
「俺は何もしてないぞぉ!!」
「あーあー、だいぶ出来上がってんぞコイツ」
「酔いやすい体質…」
「じゃ無いな。どっかの誰かがシードル以外の酒持ち込んでいるぞ」
先輩がそうボヤくとレオポルトは聞いた。
「摘発しますか?」
しかし、先輩は首を横に振った。
「無理だ。コンペンションホールの中から探すだけで一苦労だと言うのに…」
「ビールは三年のアルフォードがくれたぞぉ〜、お前らも要るかぁ〜?」
「「…」」
まさかの自白である。よっぽど強い酒を入れられたのだろうか。それともコイツがおバカなのか…。どちらにせよ犯人探しは早く終わりそうだ。
「探しますか?」
「いや、三年のアルフォードなら見当がつく。お前はそのまま酔っ払いを部屋に突っ込んどけ」
「分かりました」
そう言うとレオポルトは酔っ払いを学校の指導室と呼ばれる部屋にぶち込むために先輩を担いでいた。こう言う先輩とかを条件さえ揃えばぞんざいに扱っても怒られないのが風紀委員の特権だ。
「(あんまり特権と言えるかは分からないけど…)」
そんな事を思いながらレオポルトは出来上がった先輩を既に何人か倒れている指導室に放り込むとそのまま会場に戻り始めた。
会場に戻る途中、レオポルトは会場に料理を運ぶ配達員を見ていた。
「あれ?デリバリーなんて頼んだか?」
と言うかこの会場にデリバリーなんて呼ぶ必要あるだろうか。おまけに注文した数もあまりにも少なすぎる。
「誰か個人で頼んだのか…?いや、そもそも…」
今の時間は部外者は入れないはずだ。
「ちょっと失礼」
「「「「!?」」」」
配達員の前に割り込む形でレオポルトは配達員達に話しかける。
「今の時間、学外の人間は立ち入り禁止なのですか…」
「あぁ、そうでしたか。此処に注文が入っていたのでお届けに来たのですが…」
「なるほどなるほど…では外の警備員にはお話を付けたのですね」
「…はい」
話を聞き、レオポルトは頷くと更に聞いた。
「注文をしたのは誰ですか?」
「個人情報なので…」
「学校の校則上、この時間にデリバリーは禁止なんですよ」
「しかし、代金をお支払い頂かなければ…着払いにしているので」
「規則は規則です。注文した者を取り締まるのが自分の役目ですので…それに、この先は数千人の生徒が集まっています。その中からどうやって探すのですか?」
「それは…」
幾つか問答し、レオポルトの問い掛けに配達員は返答に困っているとレオポルトは更に続ける。
「注文番号さえ教えて頂ければ私が会場にアナウンスをしますので、お教え頂けませんか?」
「…無理です」
「うーん、困ったなぁ…」
軽く頭を掻いてレオポルトは眉を顰める。
「まぁ、兎に角このままだと此処を通す事はできません」
「っ!?何故ですか?!」
「規則ですので。…もし良ければ自分が払いましょうか?」
「結構です、自分がきちんとお客様にお届けします…が、」
成程、つまりコイツらは…。
「その隠し持っている銃は何のためでしょうか?」
「「「っ!?」」」
「くっ…!!」
四人いた内の三人が驚いた表情となって最後尾にいた男を見た。彼の手にはこっそりと拳銃が握られ、レオポルトの指摘を受けた途端銃口を突きつけて引き金を引いた。




