#2
今から何百年も昔、まだ新大陸が悪魔の大地として誰も上陸しなかった頃。
歴代最強と謳われた勇者シャターンと、同じく歴代最高の実力を持つ魔王ジブリール。その二人の対決が最終局面を迎えようとしていた。
大剣を振り、重い甲冑を見に纏う一人の青年。
それに相対するは黒を基調とする比較的軽装な一人の人物。
双方血を流し、息も絶え絶えになりながら戦う。
「そこまでして戦うか。シャターン」
「…それはこっちの台詞だ。ジブリール」
外では喧騒が響き、誰かが死ぬ声が響く。
流れる血を拭う力すら惜しい現状。部屋に飛び散る血の量はもはや失血死をしても可笑しくは無い。
「さぁ、最後の戦いと行こうぜ」
「…望むところ」
短く答えた後、帝城の玉座の間に剣と魔法のぶつかる音が聞こえる。
長年何度もぶつかり合った仇敵だ。お互いに攻撃の方法を知っているからこそ、その対処法も理解していた。
伝承では二百年と続いていると言われている、魔族と呼ばれる人種との争い。その結末は、
「まさか…こうなるとはな」
「…ああ、そうだな」
ヘルムート帝城。魔族が主に納めるリヴァイアン帝国の首都にある帝族が住まうこの城で、今現在。長年に渡る戦争の決着がついた。
地面に倒れる勇者と魔王と呼ばれるそれぞれの国の次期王となる二人は地面に横たわる。周囲では喧騒の声がまだ響いていた。
床の絨毯に染み渡る赤い池。それを見てもう助からないと悟ったシャターンは全ての武器を捨て、倒れたまま口を開く。
「このままではこの国の政治は終わりだ」
「…」
すると徐にシャターンは最後の力を振り絞って立ち上がる。
「っ!?」
その事に驚くジブリールであったが、もう動けない。確実に仕留める気かと思い、反射的に魔法を発動しようとしたが…。
「これが…この国を生き残らせる…最善の方法だ」
そう言うと、シャターンは腹にジブリールの使っていた杖が刺さったまま外にゆっくりと歩き出す。
ジブリールの側にはシャターンの使っていた大剣が転がっていた。彼が一体何をするのか、なんとなく理解出来たからだ。
そして外のバルコニーにまで出た勇者はそのまま力を使い果たし、そのまま自然の重力に身を任せると、そのまま長年見てきた古びて傷ついた鎧ごとバルコニーから消えていった。
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目が覚めると、そこは何も無い空間だった。
「(ここは…)」
その空間を見て、勇者は納得する。
「(死んだか…)」
ここは死後の世界とでも言うべき場所なのだろう。正直バルコニーまで向かったことした覚えていないが、そっから先の事は一切不明だ。あのまま落下して死んでいると良いが…。
「大丈夫ですよ」
「っ!?」
ふと聞いた事ない声が後ろから聞こえる。反射的にその方角を見ると、そこでは一人の女性が立っていた。
その姿は神話などでよく見た神の姿に似ていた。
するとその女性(?)と思わしき人物は何かに気づいた様子で安堵した様子を見せた。
「なんとか捕まりましたね」
「?」
すると、その人物は俺の目の前に一つの人魂のような物を見せつける用に見せた。
「!?」
それを見て、反射的に俺は反応してしまった。なぜなら、そこに居るのは先ほどまで戦っていた仇敵であったからだ。
「…(死んだのか?)」
そんな疑問にその人物は答える。
「ええ、貴方も。この人も。今までの激戦で亡くなりました」
冷徹に真実を伝えるその人物は何者なのか。少なくとも聖書などでは見た事がない、この人物は…
「そうですね…強いて言うならば創造神とでもお呼び下さい」
自らを創造神と名乗る目の前の女性は俺たちに言う。
「貴方がたはあの戦闘の末、亡くなりました」
声は聞こえない。聞こえると言うよりは脳に直接響くと言う方が正しい。
「そしてここは死後の世界、とでも思ってください」
創造神はそう答えると、次に俺たちに向かって言う。
「時間がありませんので手短に言わせていただきます。今から貴方がたには未来の世界に行ってもらいます」
「!?」
未来だと?あの世界での自分の役割は終わったのだ。もうやる事は…
「貴方達は幸せな家庭を望んだ事はありませんか?」
「…」
創造神はそう聞き、一瞬だけ黙ってしまう。心当たりが無いわけではなかったから。
「貴方達には今までの名誉も全て捨ててもらった状態で、新たな生活をする権利があります。どうです?今までの全ての功績を投げやり、全て捨てた全くの無の状態で暮らす新たな生活」
創造神はそこから捲し立てるように続けて話す。
「貴方の望んだ世界が見えるかも知れませんよ?」
そんな無垢な子供がするような荒唐無稽にも聞こえた提案に俺達はその手を取る事を決めたのだった。
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自分やドーラが前世の記憶を取り戻したのはそれぞれがちょうど十歳の誕生日を迎えた後の話だ。いきなり多くの情報が入った所為か、熱が数日下がらず。暫くは記憶が混乱していた。
「あの熱は酷かったな。四十度の高熱を叩き出し、熱で錯乱したかと思った」
自宅の部屋の中、当時の状況をドーラは語る。今はエディソン魔法科学学院、通称魔学院の入学試験の為の勉強中であるが、そんな事お構い無しに入って来たこの妹は手に持っていた林檎を魔法で宙に浮かせていた。学校でやる初歩的な魔法の練習だ。
「それはお前にも言える事だぞドーラ。先に経験していなければ俺だって対処できなかったぞ」
「あら、心配してくれるの?」
「当たり前だ」
レオポルトはそう断言すると、ドーラは嬉しそうに口角が少し上がると机に向かったままのレオポルトはそんなドーラに言う。
「さっ、話が終わったなら出て行ってくれ。俺は今勉強中なんだ」
「はいはーい。また夕食の時間になったら呼びにくるよ」
そう言うとドーラは部屋を出て行った。その様子を見届けながら、レオポルトは一瞬だけ走らせていたペンを止めると外の静かな住宅街を眺めていた。
それから少し経ち、家の前に一台の自家用車が止まる。液体魔石を燃料とする少し古い魔導車だ。ここ最近は排ガス規制の関係でバッテリーを搭載する物や魔石を消耗する車両が多い。
魔石とは、鉱山や魔物と呼ばれる生物が体内に保有する特別な鉱石である。体内に出来る性質から鯨の龍涎香の様な物であると考えられており、大気中に浮遊する魔力と呼ばれる魔法の発動する媒介が結晶化した物である。最近は人工魔石が大量に生産されているので、前よりも一般的に使われる物となっていた。
魔力の濃い場所では人体内にも魔石を生成してしまう事があり、そういった場所ではガスマスクの着用が義務付けられている。
また、魔石とは別に感応石と呼ばれる太古より使われてきた石材もある。感応石は言ってしまえば魔石を制御する制御装置であり、携帯で言うならば集積回路の様な物だ。感応石の主な材料は魔石と石英。人工魔石の触媒にもなる事から需要が無くなることはない。
そして、魔石と感応石を混ぜ込んだ物として精霊石と呼ばれる物があるが、これは最早超高級品である為まず市場に出回ることすら珍しいレベルだ。
「帰ったぞ」
車を車庫に停めて、家に入ってきたのは金髪碧眼が特徴的な男。今の父親であるカール・ウリヤノフだ。仕事が多忙で、三日ぶりに帰宅できた父はとても疲れている様子だった。
「お帰り〜!」
「お帰りなさい」
答えるはドーラと、台所で包丁を握る女性。母のメルセデス・ウリヤノフだ。母は魔族の血が強く、頭にカールした羊の角が生えていた。俺は母、ドーラは父に似た見た目をしていた。
「レオは何処だ?」
「今は部屋で勉強中ですよ」
「勉強?」
「どうやら魔学院を目指すそうで」
そう言うと、カールはやや驚いた顔をした。
「そうか…彼奴も魔学院に…」
そう呟くとカールは少し嬉しそうな様子を浮かべながらレオポルトの部屋のある場所を見ていた。
「ドーラ、そろそろ夕食ができるから。レオを呼んできて」
「分かった」
そう答え、ドーラは階段を上がっていく。その様子を見ながらメルセデスは口を開く。
「レオが魔学院に行くと言ってから、あの子も同じ場所を目指すって言っていたわ」
「ほぅ、そうなのか…」
出されたコーヒーを飲みながら答えると、メルセデスは問いかける。
「懐かしい?」
「…あぁ、そうだな」
今は魔法技術者として働くカール。彼は仲睦まじい子供達を見て、懐かしむ顔をしていた。
「そりゃ、俺の母校に息子が行くんだ。嬉しく無いはずがない」
「ふふっ、それもそうですね」
そう答えると、階段を降りてくる子供達を待っていた。
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レオポルトが魔学院に進学を決めてから、色々と忙しい日々を送った。
時には勉強をする為にネルやヘンリーの家に行ったりして、受験勉強をして。受験に必要な専門的な勉強以外は三人で苦労しあった。
そして迎えた受験日、筆記試験は順調に進んだ。あとは実技だが…
「初めっ!」
試験内容は魔導機関の組み立てであった。魔導機関はその名の通り、魔石を消耗して動く機械である。最近は一般的な物であったが、少し前まで…人工魔石が一般に出回る前は高級品の一つとして数えられていた。それまでは内燃機関が主流で、その前は蒸気機関が主流であった。
技術屋の息子として生まれた自分にとっては魔導機関の組み立てなんぞ手慣れた物で、親父は内燃機関が好きだから古い内燃機関に乗っていた。
「(俺は魔導機関の方が整備が楽で好きなんだがな…)」
魔導機関の欠点は制御をほぼ全て感応石に頼る事になるため、感応石板が壊れれば魔導機関も全く動かなくなる。その為、魔導機関には必ず予備の感応石板が搭載されており、いざとなれば別の感応石板を持ってくれば良かった。
「(次の試験は魔法のテストか…)」
魔法…と言ってもこの時代、魔法発動の為に杖を使う事はほぼ無い。何故なら、最近の魔導書は全てデジタル化され杖も短い十センチほどの棒の見た目をしていた。
「(はえ〜、未来って便利なもんだ)」
一々詠唱なんてしなくとも勝手に杖の中の感応石が脳波を感じて魔法を発動してくれるのだから。
実技試験のあとは面接で、何人かの試験官を相手に幾つかの質問に答え。そのまま受験は終わりを迎えた。




