#18
十月二九日
間も無く教会のイベントであるハロウィンが始まるこの頃。始業前、レオポルトは学内の工場でパーツの組み立てをしていた。
「ごめんなさい。色々と任せてしまって…」
「良いんだよ。こう言うのは下手に自分でやらずに、慣れている人に任せた方が良い」
何度も頭を下げて申し訳なさそうにするアニにそう言い、レオポルトはアニの拳銃の整備を淡々と進めていた。
前々からアニの持つガバメントに一抹の不安を抱えていたレオポルトは清掃道具一式を持ち出してアニの持つ拳銃の整備を申し出た。なんと言うか、不良品を持っているのを見ると整備せずにはいられないのだ。
分解して、必要なパーツを作ったりして最終的にはブルーイングまで施し銃身を確認する。
「よし、こんぐらいで良いだろう」
「すごいですね。全部一から組み直して…」
「何、手慣れたもんよ」
ブルーイングの作業なんか楽しいし。鉄の酸化被膜のおかげで全体的にやや青みがかった色に見える様になった綺麗なガバメントを見て満足げに油で汚れた布を置く。組み立てた銃は最後にスライドを引き、薬室を軽く確認する。
「後で射撃して見てくれ。照準がズレる場合は、また言ってくれ」
「分かりました。…すみません、色々と迷惑をかけてしまった様で…」
「良いんだよ。元々不良品を見たら直さずにはいられない男なもんでね」
そう言い、清掃道具一式を片付けているとレオポルトはさらに続けて言う。
「困ったことがあれば何か言えよ。解決できる部分があれば相談くらいは乗れるからな」
前世でも似た様な事を言った。しかし、あの頃はただ言うだけで実行したことはなかった。今思うととんでもねぇクソ野郎だなと感じながらレオポルトは片づけ終える。
「そう、ですか…」
レオポルトの言葉にアニは少し何か引っ掛かりを覚える様な言い方で答え、レオポルトは少しだけ首を傾げた。だいたいこう言う時は何かしらの隠し事がある場合が多いが…。まぁ、あまり突っ込まない方が良いだろう。女性にガツガツ詰め寄るのは無粋と言うものだ。
「どうした?」
「え?」
「いや、何か考えているみたいだったけど…」
「あ、いえ、大したことではないので…」
そう答えると、アニは整備されたガバメントを受け取るとそのまま工場を後にして行った。
一年生は基礎教育の関係から必須授業がてんこ盛りであり、一つでも落とせば授業についていけなくなる場合がある。高校留年は殆ど無いとは言え、無いわけではないのでそんな馬鹿な事は勘弁と大体は必死こいて授業について行く。かく言う自分も機械系の授業はしっかりと聞いている。魔法学に関しては親父が専門的な知識を幼い頃からみっちり教わっていたので、高等科で学ぶ部分はほぼ全て網羅していた。
今日は中間考査の成績が出る日だ。個人の携帯にのみ自分の成績が開示され、順位も発表される。
「…」
成績を確認し、レオポルトは電源を落とすとそのまま席を立つ。ショルダーホルスターには銃を装備し、腰には鞘に入れられた切れないマチェテをぶら下げていた。
「ようレオ。成績は見たか?」
「あぁ」
「どうだったよ?」
「言うわけねえだろが」
呼びかけてきたジャクソンにそう答えると彼はややつまら無さそうな顔をする。
「俺は人の成績を聞かない代わりの自分の成績も言わない主義なんでな」
「じゃあ、俺は言ったらお前も言うのか?」
「いや?言うつもりはないが?」
そんな話をしながら二人は窓際の通路を歩く。此処にヴァージニアやアニは居ない。なぜ居ないのか、理由は簡単だった。
「まさか二人とも駆り出されるとは思わなかったな」
「と言うか、有志でハロウィンパーティーじゃなかったのか?」
「まぁ、良いじゃねえか。俺達もどうせパーティーにはお呼ばれするんだ」
そう、学生主導で行うハロウィンパーティーの準備に二人も駆り出されていたのだ。学校の宴会場を借りて、他学年も入り混じった状態で行う大規模なものだ。二人は会場の設営のために部活動の方から呼び出しを受けたらしい。
来月にはクリスマスパーティーや年明けのパーティーも立て続けに行われると言うのに随分と羽振りが良さそうな気もするが…。
「参加費も掛かるらしいから、自由参加なんだろ?」
「あぁ…と言ってもどうせ風紀委員は会場警護のために駆り出されるだろうよ」
「おぉ、忙しいな」
「まぁ、名前を貸している様な状態だから。そう言う時以外お呼ばれしないのもありがたい点だよ」
そう答え、レオポルト達は校舎を移動する。今は休憩時間だ。次は講演ホールに行って授業の為、眠たくならないかが心配な所だ。
放課後
久々に風紀委員会に顔を出したレオポルトはそこで委員長に言われて書類の片付けをしていた。
「やぁ、レオ君」
「…何です?」
仕事中に話しかけてくるのはこの人、エイブラハムだ。仕事の邪魔をするだけならつまみ出してやると思いながら聞き流すように書類を片付ける。
「あれからどうだい?」
聞いているのは恐らく、家に泥棒が入った一件だろう。あれ以降、泥棒に入られた形跡もないので半分忘れかけていた。
「特に異変はありません。至って平穏です」
「はぁ、それなら良かった…最近は色々とピリついているからね」
「?それはどう言う…」
すると、エイブラハムは困った顔で話し出す。
「最近、学校に侵入しようとする輩が多くてね。対応に困っているんだよ」
「侵入者ですか…」
「結構警察に捕まっているんだけどね」
「別に実害が出ていないのであれば良いのでは?」
「いや、生徒を誘拐する可能性が浮上しているんだよ。実際、何人かは襲われたって聞いているしね」
「なるほど…」
それは確かに良くない雰囲気だ。すでに襲われたと言う情報が入っているのであれば、警戒した方が良さそうだ。
「一応、集団で帰る様に注意喚起はしているんだけどね」
「学内の空気も悪くなりますしね」
「そうそう…あぁ、あとついでに調べようと思っている話があるんだけどさ」
「?」
思い出した様にエイブラハムは口を開く。
「この前、旧校舎に行ったでしょう?」
「はい、そうですね」
「なーんか最近、あそこで暴れている人が居るらしいんだよね」
「暴れている?」
レオポルトが首を傾げるとエイブラハムは頷きながら答える。
「そう、そこで最近大暴れした生徒がいるらしくてね。救護室に大量に担ぎ込まれたって話だよ。この前保健室の先生が怒鳴り込みに来てたよ」
「そうなんですか…」
「旧校舎に巡回に行くことがあってその生徒を見かけたら報告宜しくねぇ」
「分かりました」
軽く頷くと、レオポルトは風紀委員会本部の倉庫に向かう。必要な備品が置いてあると記載されていたからだ。
「相変わらず汚いですね」
「仕方ないよ。みんな忙しいから滅多に掃除しないもの」
そう言い、ダンボールや埃まみれの倉庫を見て顔を思わず顰めてしまう。こうも汚いと掃除をしたくなってしまうのは癖なのだろうか。
「たまに掃除をするんだけどねぇ」
「自分が片付けをしても良いですか?」
レオポルトはあまりにも埃が酷いために聞いてしまうと、エイブラハムは頷いた。
「良いよ。ついでに僕も手伝おうか?」
「良いんですか?確か先輩、今日は巡回の担当じゃあ…」
「大丈夫大丈夫」
「…(本当かなぁ…)」
面倒なことにならなければ良いやと、内心ため息を漏らしながらレオポルトとエイブラハムは早速倉庫の清掃を始める。まずは床に散らばっているダンボールの片付けから入り、箱の中身を見たりしていた。
「うわ、新品のグリスがこんなに…」
「こっちは研磨剤だよ」
箱の中身を見て発掘現場のようになっていると内心思う。しかも結構良いやつだし。
「ってか、こんなの此処に置くなよ…」
「どっかの押収品じゃない?」
そう言い、倉庫のダンボールの下から出てきたエ○本を見ながら二人は狼狽えることなく、まるでゴミを見たように後ろに放り投げる。レオポルトは魔導機関、エイブラハムは筋肉フェチを患っているのでエ○本が出ていたところで…と言う有様だった。
「ダストシュートって何処にありましたっけ?」
「廊下を出た先にあるよ」
ダンボールを縛り、レオポルトは倉庫の外にダンボールの山を積み上げていく。掃除用ロボットが地面を走って押してくる埃を吸い上げる。正直棚の整備も、と考えると結構遅くなりそうだと感じてしまう。
「ん?」
箱から出したグリスや研磨剤、ブラシやクリーニングロッドなど。指定された位置に物を入れる。その中でレオポルトはとある銃が丸ごと仕舞ってあるガンラックと、弾薬の箱を見つける。
「これは…」
ガンラックが丸ごと置いてあるから珍しいと思っていると、後ろからエイブラハムが覗き込んだ。
「それ何?」
「倉庫に放置されていた拳銃みたいですね」
「あぁ〜、昔使っていた装備かな?」
ガンラックも含めて丸々置いてある時点で珍しいものだが…。
「S&W M686ですね。バレル長は4インチでしょうか…」
「多分、今のUMPになる前の風紀委員の装備なんだろうね」
現在、風紀委員会に所属する部員の主な装備は短機関銃だ。短機関銃を標準装備している時点でだいぶヤバい気がするが、これでもこの学校が歩んできた歴史上、仕方のない事かもしれない。
何かと機密情報を持っている割には防御力の薄い魔学院は何かと情報を欲する国内の反政府組織や国外のスパイ組織から襲撃を受けていた。それらを迎撃する為に隣接する士官学校との連携を密にし、装備の質を上げるなどの努力を行うしか守る方法は無い。
政府としても国家の機密情報を漏らさないための努力は怠っていないと思われるが、それでも限界がある。
「置いてある弾薬は.357マグナム弾ですね」
「この拳銃用の弾薬だね」
「どうしますか?」
「うーん、此処にあるって事は今は使われなくなった装備ってことだもんなぁ…」
「でも結構な数がありますよ?リボルバーは信頼性も抜群ですし。それに、弾薬もまだまだ使えそうですし」
ずっと日陰に置かれていたからか、弾薬が劣化している様子は見られない為、すぐに使うことができる。状態も少し整備すれば良さそうだ。
「取り敢えず本部に置いていこう。いつか使えるかもしれないし」
「じゃあ、軽い整備はやっておきますね」
「頼むね」
そう言い、目の前に置かれている回転式拳銃のガンラックを運び出そうとした時。倉庫の入り口から怒号が響いた。
「おい貴様ら!」
振り返ると倉庫の入り口にはシュライクが立っていた。何事かと思っていると、シュライクは片手にとある一冊の本を持って問いかける。
「風紀委員会本部でこいつを使うとは…随分と度胸があるじゃ無いか。えぇ?」
それは先ほど興味無いと言って放り投げたエ○本であった。それを見てレオポルトとエイブラハムは顔面が真っ青になったのであった。




