#17
「んあ?」
携帯の鳴る音で目が覚める。嫌な夢を見ていた気がするが、電話の相手を見て一瞬驚きながら電話に出る。
「よう、久々だな」
相手は幼馴染のネルであった。彼女は別れた頃と変わらない様子で話す。
『あ、もしもし?いきなりで悪いんだけどさ。今から空いてる?』
「ああ、特に予定はないぞ」
そう答えると、ネルは少し嬉しげな声を出した。
『おっ!本当?じゃあ、ちょっと久々に三人で集まらない?』
「良いぞ、場所は?」
『私たちが此処にきて初めて入った食堂で』
「了解」
電話を切り、レオポルトは時間を確認する。
「午後七時か…結構寝ちまったな」
最後に見た時間が昼前だった事を考慮すると相当疲れてしまっていた様だ。
「泥棒には何も取られていなかったから良いものの…ちょっと分かりやすい仕掛けでもしとくか」
レオポルトはもし泥棒が入ってもすぐに逃げ出しそうな物…正確に言うと玄関の真ん前にがっつりカメラを置いておくのだ。相手が手練であればすぐさま気づく様な悪戯だが、こんくらいで十分だろう。
「よし…ってもう行かないとな」
レオポルトは外に出ると言う事で雑多な私服に着替えて寮を出て行く。
指定された店は此処に初めてきた時に入った食堂だ。店の前で待っていると、遠くから自分を呼ぶ声が聞こえる。
「おーい!レオ〜!!」
この溌剌とした声は間違いない。彼女だ。
「よう、ネル。久々…だな」
そこに現れたネルの姿に一瞬だけ驚く。何せ、彼女の風格はこの一ヶ月で大きく変わっていたからだ。
「痩せたな」
まず初めに漏れた言葉がこれだ。唐突にそんな事を言われたネルは一瞬驚くも嬉しそうにしていた。
「あら、本当?自覚あんまりないんだけどな〜」
「どちらかと言うと肉がついたと言うべきか」
「そりゃまあ運動していますからね」
背中にはあの狙撃銃を背負い、一ヶ月前よりも大人びた女性の様になった気がするネルを見ながらレオポルトは聞く。
「ヘンリーは?」
「もう直ぐ来るはずよ」
そう言った瞬間、二人の後ろから声が割り込む。
「ごめん、遅くなった」
そこには、半自動散弾銃を持ち。別れた時には掛けていなかった眼鏡をつけたヘンリーの姿が。久しぶりの再会だと言うのに、レオポルトは真っ先に聞いてしまった。
「ヘンリー、その眼鏡は?」
「え?あぁ…最近目が疲れやすくなっちゃったからね。伊達眼鏡みたいな物だよ」
「なるほどね」
三人揃ったと言う事で一行は店の中に入るとそこで各々久々の再会に花を咲かせていた。
「「「乾杯!!」」」
ネルがコーラ、レオポルトはルートビア、ヘンリーはマウンテンデューとそれぞれの個性が出る炭酸飲料で乾杯する。どれもそれぞれが昔から愛飲する飲み物であった。
「どうだい学校の様子は?」
「うまくやっていけているよ。新しい友人もできたしね」
「ネルは?」
「私も大体同じ感じ。士官学校に入って友人もできたわよ。…まぁ、ただほぼ女の子しかいないけど」
「仕方ないさ。士官学校は公共風俗の関係で男女の関係には煩いからな」
「はえ〜、相変わらず物知りな事で」
店に入り、取り敢えず注文を入れると感心した様子でコーラを一口流し込む。
「レオも同じ感じ?」
「そうだな。…ついでに親父の過去も聞けたし」
「え?そうなの!聞かせて聞かせて!」
「…後悔するかもしれんぞ?」
「良いよ別に。積もる話なんか一杯あるんだし」
ネルがせがみ、仕方ないと感じながらレオポルトは父がしでかしてきた黒歴史を話した。
「あははははっ!!」
「す、すごい事をしていたんだね」
「何が若気の至りだってんだ」
話を聞き、ネルは目に涙を浮かべて大笑いし、ヘンリーは苦笑する。
「義父さんって爪痕を残したわね」
「爪痕どころか、伝説の人とかしているよ」
そう言い、呆れた様子で注文したピザを口に頬張ると、ヘンリーはやや驚いた顔で言う。
「で,驚いたなぁ。まさかレオが風紀委員をしているだなんて」
「半分は親父のせいだと思う」
「うーん、それは否めないわね」
ラーメンを食べながらネルはそう言い、ヘンリーも否定はしないご様子。
「まぁ、元々入りたかった魔導具設計局には入れたから良いんだがな」
「へぇ、よかったじゃん。好きな部活で」
三人は積もる話をして時間がどんどんすぎて行く。
「ネルはなんか部活に入っているのか?」
「私?入っているわよ。ボクシング部に」
「ボクシングに?へぇ、強そうだなぁ…」
言われてみると、ネルにボクシングは似合うかもしれない。ジャクソンやヴァージニアと同じく、それをやっている姿が目に浮かぶ。
「そう言うヘンリーはどうなんだよ」
「僕かい?うちの学校は部活動の代わりに店をやっていたりするからね」
「店?」
ネルが聞くと、ヘンリーはわかりやすく教えてくれた。
「商工学園の部活動はそれぞれが学園内のモールで店舗経営をしているんだ。そこで店ごとに売り上げを出したりして、専門的な知識や流行を確認したりバイトをするんだ。申請すれば新たな店舗も立ち上げられるしね」
「へぇ、そうなんだ…」
商工学園にも独特のルールがあるのだと感心して、頷く。
「それで、ヘンリーは何の仕事を?」
「僕はガンショップに務めることになったよ」
「「ガンショップ…!!」」
まさかの勤務先に驚いてしまうが、ヘンリーはそこで店の様子などを話す。
「これが意外と良いんだよ。此処だと一定の需要がある上に給料も良いからね〜」
「他に兼部はしていないのか?」
「いやいや、むしろうちの学校だと兼部は当たり前だよ。僕も他に本屋とアパレル、薬局を兼部しているよ」
「四つも兼部しているのか…すげぇな」
しれっとえげつない量の兼部をしていると思うと、ネルが突っ込む。
「もうそれバイトじゃないの?」
「実質バイトだよ。仕事したらお金もらえるし」
そう答えると、レオポルトは指を降りながらヘンリーの兼部している部活動を数える。
「ガンショップに本屋にアパレル、そして薬局…点でバラバラな業種だな」
「残念ながら行きたかった銀行員には選抜試験で落ちちゃったけどね」
少しだけ悔しげに語るヘンリーに、レオポルトとネルは激励する。
「まぁ、次の機会があるさ」
「頑張ってね」
「うん、来月にはまたあるから。その時にまた挑戦するつもりだよ」
選抜試験って、まじで就活のまんまだなと感じながらレオポルトはピザの次に蕎麦を啜る。三人のテーブルには多くの皿が乗っかり、周囲の人間も何事かと言った様子で時折見てきていた。
「すみませーん、マウンテンステーキ一つ!」
横でネルが今さっきまで食べていたジャンボラーメンを完食し終え、次にまた同じ様な大食いメニューを注文していた。その様子に周囲の人間は勿論ざわついていた。
「おいおい、まだ食う気か?」
「当たり前じゃん。ようやく取れた休みよ?外の美味しいものは食べられる時に食べなきゃ」
「なんか言っていることが囚人か何かに聞こえてくるよ?」
「そう?」
元々大食い傾向のあったネルの症状はどうやら悪化している様だ。どんどん消えて行く大食いメニューに店側の店員も驚いちゃっているよ…。
そして出てきた山みたいに聳えるステーキに山をネルは齧り付く。もう慣れた光景故にレオポルト達もその光景をスルーして話を続ける。
「今度ヘンリーが働いているところを見に行こうかな?」
「おぉ、是非おいでよ。うちの学校のモールは基本的に出入りできるし、友人価格で安くしとくよ」
「おっ、そいつは良い話だな」
そんなこんなで話に盛り上がっているとネルが半分愚痴る様に話し始める。
「いいなぁ、二人は楽しそうで」
「ネルはどうなの?」
「来る日も来る日も校舎の周りを走り続けているわよ。たまに射撃訓練はするけど、本格的な行軍訓練とかはもうちょっと先からだってさ」
「大変そうだね」
そう言うとネルはステーキを噛み千切って食べる。
「あったり前よ。あのクソ教官め、自分が失恋したからってその事を忘れるために訓練量を増やしやがって…!!」
それは相当恨みが籠った様子で話す。でもそれは理不尽だと確かに叫びたくなる内容だ。
「おまけに座学の装備品の使い方も結構大変だしさ」
「あぁ…それは大変そうだね」
傍に置いてある狙撃銃を見ながらその時の様子を想像してヘンリーは納得する。
「射撃訓練の方はどうなんだ?」
「教官にムカついたから満点で合格してやったわ」
「うおっ!めちゃくちゃすごいじゃん!」
確かにすごい。確か射撃訓練って滅多に満点を取れないはずだが…。
「おかげで私は狙撃兵部隊の教育をできる様になりました〜!」
「すごいな。狙撃兵教育なんて、よっぽど優秀じゃないとできないだろうに」
「まあね」
そう言うと、ネルは狙撃銃を見る。入学前に購入した、彼女にとっての相棒だ。彼女が狙撃兵の教育を受けたいと思ったのは…。
「この子を使いたいから頑張れたのもあるかもしれないね」
「…そうか」
少しだけレオポルトも口角が上がる。こう言う目的のために真っ直ぐ行動できる人間は上の人間からも好かれる事だろう。ヴァージニアやジャクソンとも違う、彼女しか持たない素直さと言うのもあの二人組とネル達を分ける要因の一つなのだろう。
中学校ではほぼ毎日顔を合わせていた為に、こうして集まると此処にきたのがつい昨日のことの様にも思えてしまう。
「ふぃ〜、ご馳走様」
机に大量の皿を積み上げた状態でネルは満足げな顔をする。過食症じゃないかとも疑ってしまうレベルの食事量だが、これでも全て消化している所が恐ろしい。そして蓄えられた栄養は恐らく胸部装甲に蓄えられるのだろう。
そんな勝手な妄想をしながらレオポルト達は代金をそれぞれ払って店を後にする。
「次はどこに行く?」
「そうだな…食った直後だし二次会ってのもなぁ…」
まだまだ積もる話はあるし、明日も休日だ。
「あっ!カラオケとかは?」
「おっ、良いじゃん!行こう!行こう!」
こりゃまた徹夜することになりそうだと感じながらも、まだ幼馴染と話していたいと思うレオポルト達はそのままカラオケ屋に梯子をしに向かった。




