#14
その日、満月の夜の下。国立エディソン魔法科学学院の所有する森林の奥。嘗て使われていた旧校舎、今では人もほとんど近寄らず人目につかない事から校則を守らない不良の溜まり場となっており、学院外でしばしば問題を起こす諸悪の根源でもあった。
取り壊そうにも、取り壊した事で一定数は出てしまう不良が地下化することを恐れ、壊すことが出来ない現状にあった。
そんな蔓性植物が生え散らかす旧校舎。既に多くの窓ガラスが割れてしまっている中、数少なく生き残っていた窓ガラスがたった今、新たに悲鳴と共に割れていた。
「うわぁぁあああっ?!」
飛んでいくように二階から放り投げられた一人の不良生徒はそのままグラウンドに背中から落下して気絶する。
「くっそぉぉ…!!」
「なんて強さだ…」
「強すぎる…!!」
旧校舎の中では片手に金属バットやらナックスダスター。あるいは素手の不良生徒達が目の前に立つ一人の生徒を見る。
「何人やられた?」
「これで四二人…だ」
「嘘だろ…?」
驚愕する不良生徒を相手に一人のそのラフな格好をした様子の一人、頭にペストの医師という仮面を付けているせいで分からないが、おそらく男であろうその人物は右手に襟を掴まれて気絶する一人の不良女子生徒を投げ飛ばす。
「もっと骨のある奴かと思っていたが…」
まるで煽るように鼻で笑う。実際煽っているのだが、それが煽りであるとわかっている状態で目の前の不良生徒達はその事に激昂する。
「奴を倒せっ!!」
「死に晒せぇぇ!!」
「うらぁぁあっ!!」
半分自棄になりながら突貫する不良生徒達。しかし、その男はそんな彼らをあっさりと撃沈する。相手は武器を持っているのにだ。
「さて、次はどいつだ?」
旧校舎にはおよそ百名ほどの不良が居ると聞いている。今倒したのはこれで四五名、まだ半分にも達していない。
「まぁ、そろそろ良いか…」
「「「?」」」
するとその男はニヤリと笑うと両手を地面に付ける。
「俺の練習相手になってくれよ」
そう言うと、両手から魔法陣が浮かび上がり。それを見た不良達は驚愕する。
「「「!?!?!?」」」
その瞬間、旧校舎全体に轟音が響き渡った。
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「ふぁああ…」
授業中、レオポルトは欠伸が漏れてしまう。今は魔法学の講座を受けていた。
「寝不足ですか?」
「そんな所だな。…あぁ、眠ぃ」
正直魔法学に関しては親父に幼い頃から学んでいたから今更基礎部分で学ぶ事なんで無いのだ。
「暇だし次の講座の予習しとこ」
「良いんですか?」
「基礎部分は網羅しているよ。テストに出ても満点の自信あるし」
「へ、へぇ…」
目をパチクリとさせて驚く様子のアニ。まぁ、普通中学校で魔法学なんてやらないからな。せいぜいやるのは初級魔法の練習くらいだろう。
今日は十月四日。入学してから既に一ヶ月が経過した。時の進みとは早いもので、バタバタした一ヶ月を終えてしまった。
「えー、次のように現代魔法は…」
教師の説明を話半分に聞き、レオポルトは次の魔法工学の教科書を見ていた。
「では、レオポルト・ウリヤノフ」
「はい…?」
「この現代魔法の内容を説明しろ」
どうやら別の教科を見ていたのがバレたらしい。ホワイトボードに映し出された魔法陣に差し棒を叩く。言われたからには答えなければならない。一旦席を立ち、魔法陣を一瞥する。
その魔法陣は一目見ただけて現代魔法であると分かり、親父からの教え通りに外殻と内殻の間の刻印を見て判断する。
現代魔法は電子化されている影響で主に外殻から魔法発動の為の魔力供給を行い、内殻にて使用した魔力を魔法に変換する作用を持ち合わせている。そして外殻と内殻の間。俗にいう運命の輪と呼ばれる場所でどのような魔法に変換するかが行われ、発動は中央部の中心核で行われる。
「その魔法陣は点火魔法と延焼魔法、酸素供給魔法を融合させているので、火炎放射系の魔法であると推測されます」
「…完璧だ」
一瞬で見極めた事で、一瞬だけ教室がざわついた。席に座り、再び魔法工学の参考書を読んでいると横でアニが驚いた様子で聞く。
「よくそこまで分かりますね。私、炎系統までしか分からなかったのですが…」
「外殻と内殻の間の運命の輪に記されている模様の見るんだ。そうすれば、何の魔法かは詳しくわかる」
「私にはよく分からないのですが…」
「まぁ、半分は慣れみたいなものだから」
レオポルトは魔法工学の参考書を見ながら軽く答えていた。一瞬で何の魔法かまで見極めたその観察眼にアニは舌を巻いていた。
レオポルトの最も好きな授業は魔法工学の授業である。魔法工学は主に魔導具と呼ばれる魔力を動力源に動く機械を設計、及び制作を行う授業だ。この前の魔導火打石は教師からS判定と言う最も高い評価を貰い、内心ウハウハだった。
二クラス合同ということもあり、ジャクソンやヴァージニアと共に授業を受けられるというのもこの授業が好きな理由の一つだろう。
「今日は魔導機関の授業か……」
「レオの得意分野じゃなかったっけ?」
ヴァージニアがそう聞くと、レオポルトは自信満々で頷く。
「あぁ、魔導機関は整備も楽で良いぞ」
「そもそも魔導機関を整備できる時点で色々とぶっ飛んでいるわね」
「あはは…」
アニは苦笑し、ジャクソン達もレオポルトの魔導機関含めて魔法に関する見地の深さには舌を巻くほどだ。
「レオって何でもできるの?」
「いや、何でもっていうわけでは無いな。苦手なものもあるぞ」
「へぇ、どんなの?」
ヴァージニアのそんな問いかけにレオポルトは首を振る。
「それは言えないな」
「何で?」
「どうせジニーの事だ。その苦手分野を突いてくるだろう?」
「うわ、バレてる」
そう言い、四人は実習室に入る。視線の先に映るのは例の総代様だ。
「またいるよあの連中。懲りないわねぇ」
「どうせお溢れも貰えない電柱でしょうに」
そう言い、実習室の端で屯しているロバートのお溢れをもらおうとする連中を馬鹿馬鹿しく眺める。
「来年はどうするんだろうね?」
その問いはおそらく、来年の受験に備えてロバートが大学受験をするかどうかの話だろう。
「さぁ?俺たちには関係のない話だ」
「まぁ、そうね」
「さ、さっさと授業を終えようぜ」
「はい」
四人はさっさと実習を終えて帰る為に席に付く。目の前に置かれているのは魔導エンジンであった。
「こいつは船外機だな。東洋の瑞穂国のKAMAHA製魔導エンジンだな」
「すげぇ、もうそこまで分んのかよ」
「企業名くらいは分かるわね。ほらここ」
そう言い、魔導エンジンの銘板を指差す。
「KAMAHA製エンジンは低燃費な上に壊れにくい。その癖馬力は高い変態的な魔導エンジンで有名だな」
「確かに、よく見るわね」
そんな話をしていると実習室に教師が入って来て早速今日の内容が発表された。
「今日の授業は卓上に置かれた魔導エンジンの整備だ。各エンジンの破損箇所はそれぞれ別の為、他の班と同じとは限らない。今日の授業はその魔導エンジンの故障箇所を修理、再び動くように整備しろ。では、授業開始」
大雑把な指示だと思いながらも、取り敢えず始めることはエンジンの分解から始まる。
魔導エンジンは内燃機関よりも単純な仕組みをしているので、まず初めに壊れやすい感応石板を確認する。
「此処は壊れていないんだな」
「おっ、流石技術屋。真っ先に確認したね」
「魔導機関の肝は感応石板だ。この精度が細かければ細かいほど高性能なエンジンが作れるからな」
その点、安くて高精度な瑞穂国製の感応石板はアルメリア国内で飛ぶように売れており、慌てて政府も関税を掛けようとしているのは有名な話だ。
「感応石板が壊れていないという事は、魔力供給機か過給機だな」
「とりあえず一旦全部バラしたほうが良くねぇか?」
「そうだな」
するとその時、遠めの座席。例のロバート・E・スコットとその取り巻きの座る座席から手が上がる。そこに教師が確認に行く。
「…合格」
教官からの合格判定…伊達にお金持ちだけのボンボンではないと言うことか。
恐らくは人数をうまく使っての人海戦術によって効率良く点検した結果だろう。それを考えるとロバート・E・スコットと言う男は案外、人を動かすのが得意な人間、と言った所だろうか。
「上手いことやったんだな」
「あんなの無視無視」
「だな、俺たちはやる事をやるだけだ」
そう言い、四人は黙々と作業を続ける。レオポルトの班の魔導エンジンの故障箇所は過給機であり、修理は案外時間がかかりそうだった。部品も足りなかった為にどうしたものかと考えたが、そこでヴァージニアが起点を効かせた。はんだを使って欠損部位の修復と溶接を行ったのだ。おかげで時間は非常に短縮でき、試運転をした上で問題ないと判断して教官を呼んだ。
「なるほど、過給機の欠損部位にはんだをね…」
一瞬見られただけではんだを使ったことが見破られてしまった。そこは流石と言うべきだろう。過給機の中でもそこは問題ないと判断してに結果だが…
「まぁ、今日はこれで合格としましょう。…ふふっ、面白いわね」
そう言い、教師は少しだけ笑う。どう言うことかと疑問に思うと教師は言う。
「貴方ってお父さんと同じ事をしているのね」
「え?父を知っているのですか?」
「ええ、もちろん」
そう言うと、教官は懐かしむ様に当時の状況を口にする。
「今でも覚えているわよ。あの時はまだ魔導機関が一般的じゃなかったから内燃機関だったけど、同じ過給機が壊れていてね。その時、貴方達みたいにはんだを使って直していたのよ」
エンジンを触り、その時のことを鮮明に思い出す。
「ただ、あの時は内燃機関だったから不合格にしたけど」
「そうですか…」
そりゃそうだ。魔導エンジンの過給機は半分おまけだが、内燃機関の過給機は重要な部品だ。そんな所をはんだで誤魔化したらあの時代だったら鉄拳制裁が飛ぶレベルだぞ。
「あら、貴方達の班も不合格にしていいのよ?」
「勘弁してほしいです。ただでさえ過給機の部品が足りないんですよ?」
「あら、そうだったの?」
「はい」
「それは申し訳ないことをしたわね」
そう答えると、教師は電話で部品の注文を入れていた。部品の数くらいは把握しておいて欲しいものだが…。
「おかしいわね。外注業者に頼んだものだと思っていたのだけれど…」
そう言って教師は首を傾げつつも俺たちの班に合格の印を渡した。




