#13
九月二六日
兼部して居る魔導具設計局に、オリハルコンなどの高級品を仕入れた翌日。昨日の部活は資材の搬入で終わってしまい、対して何も出来なかったと思って居ると、早朝に風紀委員の呼び出しを喰らってしまった。
「何があったんですか?」
学校に飛んで来て状況を聞く、場所は学校のサーバールーム。そこには既に大勢の人が集まり、その中には警察の姿もあった。
「おぉ、早いね」
そんんな中、エイブラハムは手を上げて手招きする。
「おはよう御座います。エイブラハム先輩」
「固いねぇ。もっと崩れても良いのに」
「こんな状況でもケロリとしている先輩の方が心配になって来ますよ」
「相変わらずキツイねぇ…」
飄々としたいつもの姿勢を崩さずに答えると、早速詳しい話をしてくれた。後輩だからって贔屓しないで全て教えてくれる点ではありがたい。
「昨晩、何者かがサーバールームに侵入して情報を抜き取ろうとした可能性がある」
「可能性?」
その疑問にエイブラハムもお手上げと言った様子で続ける。
「何も盗まれなかったんだ。ファイヤーウォール第一層を突破しただけでそのまま消えていったんだよ」
「?」
「因みに、監視カメラは何らかの魔法を使われた影響でこんなものしか撮れなかったけど…」
そう言い、現像された一枚の写真を見せて来た。そこには一部だけが真っ黒になった映像があり、何も映っていなかった。
「これが?」
「うん、監視カメラに介入してるくらいだから。まぁ、まず間違いなく犯罪をしようとしていたんだろうけどね…」
「意図が分かりませんね…」
「一応、何か仕込んでいないかを調べている最中だよ」
そう言い、サーバールームの管理室で画面と睨み合っているサーバー管理を主に仕事とする設計局の生徒と教師が確認をしていた。
「サーバーの点検、終わりました」
「うむ、ご苦労だった」
「特に異変はありませんでした。サーバーに何か仕込まれた形跡もありません」
シュライクが応答し、サーバーゼミと教師は去って行く。地下のサーバールームには国の機密情報にアクセスできる機器であり、直接的な侵入も外部からのクラッキングも完璧に防ぐ仕様になっている。RWSもサーバールームに至る通路に設置されており、守りは万全である。
「何かあるかもしれませんので、我々は暫くは此処に常駐します」
「分かりました。こちらからも何人か人員を送ります」
「宜しくお願いします」
サーバー管理のためにプログラミング設計局が常駐し。もしもの場合に備え、風紀委員会からも人員を派遣することが決まった。此処は機密情報に抵触する情報も含まれており、まず入ることは殆どない。
魔学院は学園都市の中では最もテロ行為を受けやすい施設である。理由としては簡単で、商工学園は主に経済の動きや多くの資本があるが、情報は無い。
かと言って士官学校に攻撃を加えても、待っているのは訓練兵や軍人、充実した装備による応戦だ。ミンチより酷い状況になるのは火を守るよりも明らかになるわけで。
その点魔学院は装備はそこそこ、情報はデータサーバーにたんまり。大抵の諸外国は技術を欲する為に、魔学院はよく狙われていた。機密情報とは主に古代魔法に関する研究や現代魔法に関する新技術などだ。まぁ、今の時代。古代魔法に関する技術が最も狙われやすいと相場が決まっているので、狙いは古代魔法の研究成果だろうと思われている。
「やれやれ、新学期早々忙しくなるねぇ」
「仕方ありませんよ。侵入者が出た以上、警戒するに越した事はありませんから」
風紀委員会本部から教室に降りる途中、そんな話をするエイブラハムとレオポルト。そしてエレベーターに乗り込んだ二人はそのまま別の階のボタンを押す。
基本的にサイエンスセンタービルには観光客専用のエレベーターと生徒専用エレベーターと分かれている。なので基本的に観光客と生徒がかち合うことは無いようになっている。
そして、サイエンスセンタービルの最上層にはレストランがあるので、一部業者も此処には出入りしていた。ただまぁ、そう言った業者も地下のサーバールームには構造上入れないので基本的にサーバールームに入るの人物は不審者として扱われる事が多い。
高速エレベーターはぐんぐん地上に落下して行き、二十階で一旦停止する。
「じゃあ、僕は此処だから。またね〜」
そう言って先にエイブラハムがエレベーターから降りる。他に乗る生徒は無いために珍しく一人でエレベーターに乗っていた。何と無く独り占めしているようで心が弾むような気もしてしまうが、レオポルトはそんなことも気にせずに窓の外の景色を眺める。
「…今は何時くらいかな」
ふと腕時計を確認する。此処と地元では時差があるせいで電話する時も少し考えなければならない。時刻を見て問題ないと判断し、レオポルトはAR端末を付けると電話をかけた。数コールの後、電話に出たのは我が妹のドーラだった。
「もしもし?」
『あー、もしもし。お兄ちゃん、どうしたの?』
いつも通りの優しい妹の声だ。これで元魔王だなんて考えられないレベルだ。
「あぁ、久々に話がしたいと思ったからな」
『何、ホームシックにでもなった?』
「いやいや、こっちでも上手くやれているからそこは心配すんな」
『じゃあ何で電話して来たのよ。こっちは今、学校に行く途中だってのにさ』
そう言い、少し間を置きながら答え、尚且つ何か擦れる音も聞こえる事からおそらくは制服に着替えている最中なのだろう。一瞬申し訳ないと思いながらも、レオポルトはエレベーターに一人の状況だからこそ話せる家族の会話をしていた。
「そっちの方はどうだ?」
『お兄ちゃんがお父さんを怒鳴り散らしてから、散々お母さんがお父さんをいびっている以外は特に問題ないよ』
「母さんがか…」
それは楽しくやっているだろうなと感じる。親父とお袋の出会いは仕事先だと聞いている。元々は会社の受付嬢をしていた母に親父が一目惚れしたと言う。そしてそのまま結婚をして俺達を産んだ。
お袋は魔族と吸血鬼の混血だ。母の面影をよく写し、黒髪に血赤の双眸を持つ俺はどちらかと言うと魔族寄りの体質を持ち合わせていた。反対にドーラは親父にそっくりでドワーフやエルフ。人やホビットなどの多様な血が混ざり合っている、銀髪に天藍の双眸、そして尖った耳が特徴的だ。
『お父さん、お兄ちゃんに叱られて二日くらい落ち込んでいたし』
「あれは親父のせいだろう」
『うん、だから自業自得って言ったらそのまま寝込んじゃってさ』
「おいおい、トドメを刺すなよ…」
レオポルトは苦笑しているとエレベーターが到着し、そのままレオポルトはエレベーターを降りる。外の喧騒もノイズキャンセラーで掻き消し、レオポルトはドーラと話し続ける。
『だって、あれは誰がどう見たってお父さんが悪いでしょう』
「まぁ、そうなんだがな…」
親父はドーラを溺愛している。そんな娘から自業自得なんて言われたら寝込むのも理解できる。
『そっちはどうなの?お兄ちゃん』
「まぁ、ぼちぼちやって行けているよ。新しい友人もできたしな」
『おぉ、そうなんだ!』
「敷地も広いし、今まで出会って来た人たちも良い人ばかりだったよ」
そう言い、いつも飄々としている男子生徒や痴話喧嘩をよくする同級生。口は悪くとも新入生の事をよく考えている職人先輩などを思い返す。
学校が始まって間も無く一ヶ月に近くなるが、良い関係を持てていると感じる。
「少なくとも、此処だったら俺の夢も叶えられるんじゃないかって思えるよ」
『そっか…それは良い事だね』
「ああ…」
少しだけ口角を上げてビルの窓際に立って遠くを眺める。そして電話越しで、ドーラも学校生活を楽しんでいる様子のレオポルトを想像して少し嬉しそうにしながら答える。
『たまには家に帰って来てよ?』
「ああ、長期休暇になったら帰るつもりさ」
そう答えると、突如後ろから飛び掛かれる。
「よっ!何してんの?」
飛びかかって来たのはヴァージニアだ。後ろを見るとジャクソンやアニもおり、こちらを見ていた。そんな三人を見て少し驚いた後に答える。
「…家族に電話だよ」
「えっ!家族!?もしかして例の妹?」
「そんな所だ」
「えぇ、レオの妹なら変わってよ〜」
「無理だな」
「えっ!何で!!」
妙に戯れついている様子を聞き、ドーラは少し微笑んだ様子でレオポルトに言う。
『じゃあね、お兄ちゃん』
「ああ、またな」
「あっ、ちょっと!!」
そして通話が切れ、その事を察したヴァージニアは不満げにレオポルトに文句を言う。
「勝手に電話を切らないでよ!」
「仕方ないだろう。向こうが勝手に切ったんだから」
「ひっどーい!」
ギャーギャー文句を言うヴァージニアを軽くあしらいながらレオポルトは教室に向かって歩く。
教室に向かう途中、ヴァージニアが口を開く。
「そう言えば聞いたんだけどさ、なんかサーバールームに侵入者が出たんだって?」
「もう知っているのか?」
「いや、朝早くに警察とかが来てたから結構話題になっているよ」
それもそうか。俺も早朝に呼ばれたし、確かに警官とも来ていたな。
「俺も、あんまり詳しくは知らないけど。今後は風紀委員とプログラミング設計局が交代であそこを警備するって話だから面倒な事になったよ」
「うわぁ、大変だねぇ」
「そんな事になっていたんだな」
「ったく、俺も設計局に入り浸りたいってのになぁ…」
するとヴァージニアは至極真っ当な意見を提案する。
「じゃあ風紀委員辞めれば?」
「出来たらとっくにやっているよ」
「辞めれないのか?」
「よりにもよって風紀委員長に阻止されているよ」
「うわぁ…御愁傷様」
ヴァージニアはその惨劇を想像して思わずそんな言葉が漏れる。そりゃ俺だって初めの頃は退部届出したよ。だけど、風紀委員会には必ず所属しろって言われるんだもん。何なら名前を貸すだけで良いって言われる始末だし。
「やってらん無いよ。本当…」
レオポルトは肩を落としながらそんな事を呟いていた。




