#12
部活動勧誘の直前に風紀委員会にスカウトされたレオポルトはとある部活動のテントに向かう。そこは設計局と呼ばれる部活動であり、魔学院に数多くある各方面に広がっている部活動だ。研究系の部活はゼミ、工作系の部活は設計局と棲み分けがなされていた。
新入生は必ず部活動に入らなけれなならないと言う謎ルールがある為、部活動勧誘も白熱する訳で…
「おい!その新入生はウチのだぞ!!」
「何言っているのよ!先に勧誘したのはこっちよ!!」
大人気なく言い合う様子の先輩方。仕方ないと感じながらレオポルトは制帽を被る。先ほど貰った風紀委員会を表す印の一つ。腕章もそそくさと付けて間に割って入る。
「はいはい、問題起こさないでくださいね」
「あ?」
「誰、あんた?」
「しがない風紀委員ですよ。まぁ、新入りですが…」
風紀委員と聞いて一瞬緊張するも、新人と聞いてホッとした様子を見せた。完全に舐めて居る証拠だろう。
「だったら邪魔しないて貰える?」
「そうは行きません。喧嘩を未然に防ぐのも風紀委員の仕事のうちですから」
女生徒の腕を掴み、軽く問答をすると軽く舌打ちをしながら答える。
「ちっ…分かったわよ」
悪態を吐きながら二人は去って行く。
「やれやれ、風紀委員の入ったのは間違いだったかな…?」
そんな事を口にしながらレオポルトは目的の場所まで歩いて行った。
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九月二五日
部活動勧誘期間が終わり、授業にも慣れてきた頃。
「飯飯〜!!」
午前の授業が終わり、食堂に走るヴァージニア。その様子を見てジャクソンはやや小馬鹿にした様子で呟く。
「餓鬼でもあるまいし…」
「あら、アンタもこの前の部活のハンマー投げでずっこけて泣き出したらしいじゃないの?」
「なっ…?!」
相変わらず喧嘩しやすい事で。まるでネルやヘンリーと同じ構図じゃないか。そういえばあいつら元気にして居るかな?今度カフェにでも誘って会ってみるか。
「相変わらず痴話喧嘩は止まらないと…」
「「痴話喧嘩じゃない(言うな)!!」」
最早テンプレと化して来そうだ。…いや、もうテンプレと化して居るか。
食堂でトレーに昼食を入れながらそんな事を考えて居るとジャクソンが聞いてくる。
「それでどうだ?風紀委員と魔導具設計局を兼部して」
「うまくやっていけて居るの?」
「まぁ、ぼちぼちな」
魔導具設計局、風紀委員と兼部して入った部活だ。名前の通り魔導具の研究を主にする設計局の中でも比較的大きな規模を有する部活動だ。因みにジャクソンは陸上部、ヴァージニアはハンドボール部。アニは魔法史学ゼミに加入していた。
前二人は何の部活かは一目瞭然だが、アニの入った魔法史学ゼミとは主に魔法史の研究を行う…もっと詳しく言うと古代魔法の研究を行うゼミであり、お上から支援金も出て居る人気の部活だ。
現在の魔法界隈において注目を集めて居るのは古代魔法の復活、及び電子化だ。新世界歴になって誕生した現代魔法は拡張性はあるものの発展性が無いのが欠点であった。
現在魔法も元を辿れば古代魔法の亜種ではある。しかし、古代魔法と決定的に違うのは現代魔法は電子化という形でコンパクトにする事が出来るが、古代魔法はそもそもの文献が少なく、電子化出来ない事にあった。
しかし、多数の魔法を融合させて発動できる現代魔法と違い、古代魔法は魔法自体を複合させることが出来ない。しかし、そこから派生する形でより強力な魔法を放てるのが、古代魔法の利点であった。
代わりに現代魔法は威力自体は古代魔法に劣るものの、複数の効果を併せ持った魔法を展開することが可能であり、拡張性には非常に富んでいた。その代わり、複合した魔法は単体の威力は落ちてしまうため、融合させてより強力な魔法を撃つという所業はできなかった。
「魔法史学の方はどうなんだ?」
「ふぇっ?!あっ、そ、そうですね…」
いきなり声をかけられて驚くアニ、その声は過剰なまでにも見えた。
「大丈夫?」
「は、はい。少しぼーっとしてただけなので…」
ヴァージニアの問いにもそう答えると、アニはそのまま答える。
「楽しいですよ。この前、授業の時に見た古代魔法の原理とか。本当はもっと先でする魔法の講座とかもあって…」
「古代魔法ねぇ…俺にはさっぱりだったなぁ…」
「それはあんたが馬鹿だからでしょう?」
「何ぃ!?」
するとヴァージニアはジャクソンを小馬鹿にして言う。
「だって、成績は下の方だって。自分から言ってたじゃない」
「何だと!じゃあ現代魔法の原理を言ってみろよ!」
「上等よ、かかって来なさい!」
「お,おお落ち着いて!!」
どんどん加熱していく二人の言い争いに慌てるアニ。どうしたものかと思ったその時。
「良い加減にせんか」ゴンッ!!
二人の頭にレオポルトが拳骨を喰らわした。まともに脳天から喰らい、二人はその痛みから頭を抱えてカエルを潰したような声が溢れた。
「ぐあぁぁぁあ…」
「いっ痛ぇええ…!!」
一発の拳骨で二人はのたうち回るように頭に軽くたんこぶを作っていた。
「ちょっと!女子に向かって何でことすんのよ!」
「馬鹿、喧嘩両成敗だ。特にジニーは体は頑丈そうだから殴っても痛くねえだろ」
「十分痛かったわよ!!」
半分涙目になりながらヴァージニアはそう嘆くと、レオポルトは涼しい顔で答えた。
「俺は相手が誰であろうと容赦しない主義なんでな」
「うわっ、最低だ!横暴だ!!」
「はんっ、ハンドボールだってのに一二〇キロのボールを投げたジニーに言われたくないね」
横で不満たらたらのヴァージニアを横目に四人はトレーを片付ける。午後の授業はこの前制作した魔導火打石の採点結果が返ってくる。あの火打石はガスバーナー点火の時とかにもよく使うから今後も重宝するだろうと考えていた。
「どのぐらい点数貰えるかなぁ…」
「長く使えるようにレオが改造していたもんな」
実習室に向かう途中、四人はそんな話をする。
「おまけにアニが良い機材を教えてくれたし」
「いえいえ、そんな…ジニーさんだって。魔導はんだをよく使いこなしていましたし」
「それを言うならジャックの見極めも良かったぞ」
レオポルトがそう言うと、ヴァージニアが少し口角を上げて言う。
「じゃあ、みんなのおかげって事で」
「ああ、そうだな」
そう言うと、四人は実習室の中に入って行った。
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放課後
レオポルトはキャンパス内のとある施設に向かう。
此処は学院内工場。小規模であるものの、削り出しやプレス、鍛治などの軽い金属加工ができる設備は一通りできる施設であり、複数の部活動が共用で使用する場所であった。
「レオポルト入りまーす」
つなぎを着て、頭にヘルメットを被って工場に入ったレオポルトは声を上げると、既に中に居た一人の生徒から返答をもらう。
「ちっ、新米しかいねえのかよ…おい!ちょっとこっちに来い!」
「はいっ!」
声をかけられ、レオポルトはその人物に近寄る。するとレオポルトはハンマーを投げられ、彼を飛び出した生徒から叫ばれる。
「叩くのを手伝え!」
「分かりました!」
そしてレオポルトは金床に置かれた真っ赤になった金属をその人物と共に叩く。すると、その生徒はやや愚痴って言う。
「ったく、何でアイツら来ねえんだよ」
「部屋で外注していましたよ。ウィリアム先輩」
「ちっ…これが終わったらレンチで殴り飛ばしてやる…」
よりにもよって新米にやらせやがってと、言い残してその生徒は金属を叩く。
彼の名はウィリアム・シャーマン。この魔導具設計局の部員の一人であり、ここの副局長を務めて居る人物だ。ヘルメットの学年カラーは二年生を表す赤色。口が悪いのが特徴だ。職人を体現したように鍛治が大得意で、主に銃器類の魔導具を作るのが趣味だそうだ。まぁ、自作のウィットワース銃を愛銃にして居る時点で相当イカれて居ると思う。
「テメェら!何外で駄弁っていやがる!」
職人基質のために新米の自分に仕事を基本的にやらせたくないそうで、部室に怒鳴り散らしに行っていた。
すると部室にいた一人の生徒…学年カラーは青色の三年生の生徒。この魔導具設計局の局長であるマリーナ・レイセオン先輩が落ち着かせるようにして言う。
「まぁまぁ、落ち着きたまえよ。ウィル」
「何処がだ!新米に俺の仕事を押し付けやがって!!」
「それだけ大事な品物が届いたんだよ」
そう言い、マリーナ先輩は外に止まる軍の払い下げ品トラックを見る。荷台には木箱が積まれ、恐らくは鉄かなんかの資材だろう。
「中身を見て来な。部費の四割を使って外注に頼んだ資材がやっと来たんだ」
そう言い、何処か誇らしげにも感じる言い方で指を指すとレオポルトもウィリアムの後を追って荷台の中身を見た。
「これは…」
そしてその中身を見て驚く。
「オリハルコンとヒヒイロカネだ。どうだ、珍しいだろう?」
「珍しいも何も…よくこんな量を仕入れられましたね」
「はっはっはっ!どうやら新たに鉱脈が見つかったと聞いたからね。至急取り寄せたんだ」
そう言い、ウィリアム先輩は小箱の中身であるヒヒイロカネの赤色の鉱石を手に取るとルーペを使って本物かどうかや質の確認を取っていた。
オリハルコンとヒヒイロカネ、どちらも前世では希少な鉱物資源だった。ただ、ミスリルと言うこれ以上にもっと希少価値の高い金属も存在するがそれは本当に高級品なのでまず目にすることは無い。
そして、これらオリハルコンやヒヒイロカネは合金であるため人工的に製造することが可能であった。前世では天然物しか無く、一部の貴族か金持ちしか持つことが出来なかったために時代の変化を感じる瞬間だ。
「質は高そうだな」
「当たりよ、信頼できる企業の品物だからね」
そう答え、トラックの荷物を荷卸しながらウィリアムとマリーナは話す。目の前には軍需物資として扱われる合金を運ぶ部活員の姿があった。
「しかし、風紀委員と兼部するなんてなかなか体力には自信があるようだね」
マリーナはそのうちの一人、レオポルトを見ながらそんな事を呟いていた。
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とある寮室
深夜。月が空に上がり、学生寮地区の一室で電話をする者がいた。
『また任務に失敗したか』
「…はい」
カーテンを閉じ、暗い部屋の一室で電話をする。その声は震えて居るようでもあった。
『二度と失敗は許さん。引き続き任務を遂行せよ』
「はい」
電話が切れ、その少女はカーテンを開けると遠く聳え立つ巨大なビルを眺めた。
その目は何処か救いを求めて居るようでもあった。




