#11
レオポルトが風紀委員会に入り、そこで父親の愚行の数々を聞かされた翌日。レオポルトはやや疲れた様子になりながら風紀委員会本部に足を踏み入れていた。今日から部活動勧誘が始まる。人数の多い部活ほど部費も増える事から毎年生徒の取り合いが絶えないと噂の部活動勧誘である。
風紀委員会はスカウトや自主申請で入ってくる上に予算は変わらないのでよっぽど揉めることは無いそう。
「では、これより巡回ルートの人選を行う」
卓上の電子ボードに地図を浮かべ、シュライクがそれぞれ指示を出す。そんな中、真っ先にスカウトをされた今。一人しかいない一年生である自分は注目の的であった。何せ、あの伝説を残しすぎていまだの語られることのあるカール・ウリヤノフの息子だ。色々と風紀委員会内では目立つ訳で。
「では、新人はエイブラハムと旧校舎を巡回しろ」
「「了解」」
すると、その巡回ルートに際して一人の風紀委員会の生徒が言う。
「委員長殿。幾ら副委員長がいるとは言え、新人に旧校舎を巡回させるのですか?」
「そうだ」
「それは危険では?」
その問いに、シュライクは納得した上で言う。
「経験を積ませる上でも必要な事だ。それに、エイブラハムがいれば問題は無い」
「…了解しました」
シュライクに意見する事なくその生徒は意見を飲み込んだ様子で頷いた。
「?」
その問答にレオポルトはやや首を傾げていた。
「やれやれ、会長もなかなか鬼だねぇ〜」
「どう言う事ですか?」
巡回中のキャンパス内の森林地区で、エイブラハムが最初に口を開く。
「この先には旧校舎って言う今は使われていないほぼ廃墟みたいな校舎があるんだけどね」
移動中、エイブラハムは旧校舎について詳しい話しをしてくれた。
「そこの校舎って人目とかにつかないから不良とかが居るわけよ」
「自分、今日が初めての仕事なんですが…」
「大丈夫大丈夫。僕が居るから」
そう言い、エイブラハムは背中に担ぐ《ZVI ファルコン》を見せる。それ対物ライフルなんですが。人に向けて撃って良い物なんですか?
「学生証の加護を受けて居る子なら問題ないよ。それに、これはどっちかって言うと対テロリスト用の物だし」
「あぁ、テロリスト用ですか」
それって良いのか?まぁ、戦時条約に違反して居るのかどうか怪しいところだが…あっ、そもそも戦時条約にテロリストは入っていないか。
「かく言う君も武器を持って居るじゃないか」
「…」
「何の武器だい?」
そう問われ、レオポルトは白衣の下から短機関銃を取り出した。
「おぉ、良い奴じゃん」
「父に言われて事前に銃は購入していたので…」
「流石だねぇ」
何でだろう。昨日の話を聞いたからかあんまり嬉しく感じない。
「まぁ、碌でもなかったのを昨日知りましたが…」
「まぁ、君のお父さんは大学に入ってからの活躍もすごかったけどね」
そう話して居ると、森の中にとある建物が目に入った。
「あそこが旧校舎ですか?」
「そう。うわぁ、屯っているねぇ〜」
遠くで確認したエイブラハムとレオポルトはそこに居る明らかにガラの悪い生徒達を確認した。
「今から何をするんです?」
「ん?そうだねぇ、簡単に言うとアイツらをとっちめるのが一番早いかな。苦情が来ていた場合は一瞬で制圧にかかるんだけど、今日は特にそう言う連絡もないよ」
「じゃあ何でわざわざ喧嘩を売りに行くんですか…」
ジト目になりながら聞くと、エイブラハムは親指と人差し指で輪っかを作って答える。
「そりゃ、捕縛金を貰うためだよ」
「捕縛金?」
聞くと、エイブラハムは携帯の画面を見せる。
「あんまりにも素行の悪い生徒に掛けられる。まぁ、所謂指名手配みたいな奴だ」
「こんなものがあるんですね」
「因みに君のお父さんがあまりにも暴れたから始まった制度だよ」
「…」
最後の一言で一瞬で黙り込んでしまい、一瞬エイブラハムはしまった顔をしていた。まぁ、それほど高校では大暴れしていた訳だ。
「まっ、こんな捕縛金を貰うために僕はちょっかいかけて居るんだ」
「えぇ…」
「これが結構儲かるんだよ。十人くらい倒したらその中にいたりするからね」
「そうなんですか…」
するとエイブラハムは片手に警棒型スタンガンを持つと、その電源を入れた。
「スタンガンなんか使って良いんですか?ってか、本当に喧嘩売るんですか?」
「大丈夫。心臓の弱い子とかは居ないから。まぁ、見てなって」
そう言うと、エイブラハムはファルコンをレオポルトに渡し、そのまま森から飛び出して行った。
「あーあー、行っちゃった…」
多分此処に居た方が絶対安全なので、レオポルトは遠目でエイブラハムの動きを確認する。もし何かあったらすぐに連絡入れよ。
そう思いながらレオポルトは眺めて居ると、エイブラハムを囲うように複数のヤンキー生徒がそれぞれ拳銃やバットを持ち出していた。
「今日こそ借りを返させてもらうぞ!!」
「来てみな〜」
短い問答の後、先に仕掛けたのはヤンキー生徒だった。
「でりゃあっ!!」
しかし、その攻撃は軽くあしらわれ、逆に膝蹴りを喰らっていた。
「ごはぁっ!?」
そして三メートルは飛んで行ったのだろう、放物線を描いてその生徒は気絶していた。
「うわぁ…」
あの先輩、思っていたよりずっと強えや(確信)。なるほど、ミーティングで『副委員長がいるとは言え』と言われる訳だ。そしてあっという間に警棒片手に十人のヤンキー生徒を倒していた。
「あちゃー、手配書の子はいなさそうだね…」
そう呟き、エイブラハムは倒したら生徒の顔を確認してやや残念がる。お目当ての生徒はいなかったようだ。
「レオ君も出て良いよ〜」
そう言われ、森の外から先輩の銃を持って出ると開口一番。
「先輩、チンピラよりもチンピラしていますね」
そう言うと、エイブラハムは笑って答える。
「そう見える?」
「ええ、客観的に見ると普通にチンピラですよ?」
「あちゃー、後輩にそんなこと言われちったや」
そう答え、エイブラハムは笑いながら軽く頭を掻いていた。
「まぁ、僕はいつもこんな感じで違反者を叩き潰したり捕縛金で儲けて居るよ」
「こっちからしてみたら単なる弱いものいじめにも見えましたがね…」
「これこれ、そんなこと言わない」
そう言うと、二人は旧校舎を後に巡回作業を続けた。
そして巡回が終わり、エイブラハムとレオポルトは風紀委員会本部に戻ってくる。
「あっ、言い忘れるところだった」
エレベーターの中で思い出したエイブラハムはレオポルトに注意して言う。
「捕縛金の話はあんまり委員長には言わない方がいいよ」
「何故です?」
「捕縛金で小遣い稼ぎなんてしていたら制度が無くなっちゃう可能性があるからね」
「そうですか」
「あと、捕縛金もらう時はその場で直接貰うようにして風紀委員である事を隠しておかないと捕縛金はもらえないよ」
なるほど、でもよくよく考えると捕縛金は腕のある奴だといい稼ぎ柱になるかもしれない。ちょうど、パソコンの部品を買った影響で金欠だし。
なんて考えながら風紀委員会本部に到着するとエイブラハムは扉を開ける。
「ただいま戻りました〜!」
そう言って部屋に入ると、そこではシュライクがレオポルトを待っていた。
「お疲れ様。初仕事終えたな、レオポルト」
「はいっ!」
レオポルトは答えると、シュライクはレオポルトに腕章と制帽を渡した。
「先ほど入部届が受理された。これで君は風紀委員会の一員だ。宜しく頼むぞ」
「はっ!」
帽子を受け取りながら答えると、エイブラハムが更に補足情報を伝える。
「その腕章と帽子は風紀委員会として活動する時間限定でつけて来てね。帽子は自由だけど、腕章は活動中は必ずつけてきてね」
「分かりました」
そう答えると、レオポルトは今日の仕事は終えたのでそのまま風紀委員会本部を後にした。今日は部活動勧誘が行われる日だ。この後、アニ達と合流して部活動を回る予定であった。
「へぇ、風紀委員会にスカウトねぇ…」
「何の仕事すんだ?」
「基本的には巡回だけだな」
まぁ、あの喧嘩は絶対例外だ。うん、そうに違いない。
「でも風紀委員会からスカウトだなんて凄いです」
「ほぼ親父の悪名のせいだがな…」
「「?」」
ややゲンナリしているレオポルトにジャクソンとヴァージニアは首を傾げていた。
「それで、レオは設計局に行くんだっけか?」
「え?風紀委員もして居るのに?」
「兼部はいいんだってさ」
「大変じゃないんですか?」
「まぁ、兼部自体は珍しくないし。エイブラハム先輩も兼部して居るしな」
そう言うと、四人は半分お祭り騒ぎとかして居る部活動勧誘の会場に入る。
「うわぁ…」
「すげ、祭りじゃんもう…」
そこにはただひたすらに新入生を狙う部活動のテントがあった。それぞれが魅力的な広告を出して新入生をかき集め、新入生の奪い合いをしていた。
「実は入る部活決めたのよね〜」
「どんな部活だ?」
「私はソフトボール部かな」
「へぇ、ジニーさんらしい」
「そうかな?」
行く部活を決めたヴァージニアは少し照れ臭く答えると、ジャクソンが口をを開く。
「良いんじゃね?お前にそっくりの競技だ」
「なんかあんたに言われるとムカつくわね」
「ひっでぇや」
ジャクソンは軽く肩をすくめながら答えると、今度はヴァージニアが聞いた。
「あんたは何処に行くのよ?」
「俺は陸上だよ。中学校の時に鉄球投げしてから今度はハンマー投げで、とかな」
「うわぁ、イメージぴったり」
うん、ジャクソンがハンマー投げして居るのが容易に想像できる。だからヴァージニアの意見も納得だ。
「アニは何にするんだ?」
「そうですね…私、実はあんまり決まっていないんですよね…」
「なーんだ。てっきり設計局に行くのかと思っていたや」
アニの機械フェチは知って居るためにてっきり工作機械をよく使う設計局に行くと思っていたから驚きだ。すると、アニは考えながら答える。
「何となくと言いますか。その…機械は好きですけど、なんか別のことをしたいと言うか。そんな感じで悩んでいますね」
「良いんじゃない?好きな事をすれば良いし」
「そうだな。部活くらい好きにすれば良い」
そう言うと、アニは短く頷いてさまざまな部活動を見ていた。




