美術部の荊姫が俺の絵ばかり描いている
美術部の荊姫。
それは俺の目の前で絵を描いている柊木荊の異名だ。
柊木はハーフのお嬢様で、とてつもない美少女だ。学校中の男子が色めきだっているのだが、当の本人はまったく相手にしていない。というのも、柊木はことあるごとに男子から告白まがいのことをされているのだが、全て侮蔑を添えて断っている。ついたあだ名が美術部の荊姫。今となっては柊木を恐れて、この美術部に人が来る気配もない。
俺、桐生彩人は溜め息を吐くと、目の前で黙々と絵をかく美少女を伺う。
「なによ」
俺の視線に気づいたのか、柊木が鋭い目で俺を睨む。
「いや、何描いてるのかなーと思って」
「あなたなんかに見せるわけないでしょ」
「だよな」
俺は苦笑して頬を掻く。
柊木は俺に対してもあたりが強い。扱いとしては他の男子たちと変わらない。だが、俺と一緒に部活動をしてくれている。
たった二人きりの部活だが、俺は案外この時間が嫌いじゃなかった。
ただ、今は凄く気になることがある。
実は昼休み、俺は用事があって美術室に来たのだが、ふと柊木のいつも使っているスケッチブックに目が止まった。
俺は美術部に入部してから、柊木がどれほどの画力の持ち主なのか知らない。純粋に同じ絵描きとして柊木の絵に興味があった。
俺は悪いとは思いつつも、柊木のスケッチブックを開いた。
「これは……」
そこに描かれていたのは精巧な人物画だった。というか、俺だった。
「なんで俺の絵を柊木が?」
俺は疑問に感じながら次のページを捲ってみると、そこにも俺の絵が描かれてあった。
「え? マジで? ひょっとしてこれ全部?」
俺はページを繰りながら、スケッチブックを確認してみたが、描かれている絵はすべて俺の人物画だった。
回想から戻った俺はじっと柊木を見つめる。
今もまた黙々と俺の絵を描いているのだろうか。もし俺の絵を描いているのだとしたら、俺はどうすればいいんだ。
「あのさ、柊木。俺と絵を見せ合わないか」
「嫌よ。なんであなたに私の絵を見せなきゃいけないの」
「つってもよ、同じ美術部で相手のことを何も知らないっていうのも寂しいじゃねえか」
「何? 私に興味があるの」
「興味っていうか、同じ部員としてどんなもの描いてるのかなって気になるじゃん」
「ふーん。そ。まあ何を描いているかぐらいは教えてあげてもいいわ」
柊木はそう言うと、頬を赤く染める。
「これは私の好きなものよ」
「え?」
柊木の言葉に俺は絶句する。
今好きなものって言ったか。それってつまり俺のことを好きってことか?
突然の告白に動揺する俺。柊はにやりと笑うと俺を見た。
「ま、あなたには教えてあげないけど」
知ってるんだよ。俺は既にお前が普段何を描いているか!
いや、だってあの美術部の荊姫が、俺のことを好きだなんて、そんなはず。
でも今はっきりと好きなものを描いているって言ったし。
「絵に描くほど好きなんだな」
「ええ。愛しているわ」
「ぶふっ」
「汚いわね」
柊木がきょとんとした目を浮かべる。
あまりの破壊力に俺は噴き出してしまった。
俺は罪悪感に耐えきれなくなり、打ち明ける。
「悪い。その昨日お前のスケッチブックの中身見ちまった」
「え……?」
俺の言葉に柊木が目を丸くする。
「だから柊木が毎日何を描いているか知ってるんだ」
「え、嘘……じゃあ私さっき好きって……」
柊木の顔がみるみるうちに真っ赤になっていく。その表情の変化は初めて見たからとても可愛いと思った。
「ばかぁぁぁぁぁぁっ!」
柊木は俺に飛び掛かって胸をぽかぽかと叩いてくる。その際にスケッチブックが机から落ちて、たった今柊木が書いていたページが広がる。そこにはやはり俺の絵が描かれてあった。
「えっと、ごめん」
「…………」
柊木は涙目になりながら俯く。耳が真っ赤になっている。
「こんな卑怯な手段で柊木の気持ちを知ってしまって本当にごめん」
「うう……あんまりよ」
柊木は泣き出してしまう。俺は柊木をそっと抱き寄せると頭を撫でた。
「私、振られるの?」
柊木は涙を流しながら言う。
「そうよね。私、桐生くんにずっときつく当たってきたし、こんな女可愛くないわよね」
「そんなことない」
「え?」
「俺も柊木のこといいなって思ってた。男が嫌いだって聞いてたからあんまり刺激しないようにはしてたけど」
「桐生くん……」
俺は全身が熱くなるのを感じながら告白する。
「俺も柊木が好きだ。良かったら付き合ってくれないか」
「絶対に振られると思ってたから……涙が……」
柊木の目から大量の涙が零れ落ちる。俺はその涙を指で掬いながら柊木の頭を撫でた。
「私、桐生くんが好きなの。だから私と付き合ってください」
恥ずかしそうに頬を染めながら告白する柊木を、俺は力強く抱きしめた。
これからもきっと俺たちはお互いの絵を描くのだろう。そうして笑い合って、支え合って生きていく。
俺は柊木の絵を描いてプレゼントしようと決めた。
「この絵もらっていい?」
「もらってくれるの?」
「素敵な絵だから」
「ありがとう」
柊木はスケッチブックを俺に手渡してくる。その最後のページにはついさっき描かれたばかりの俺の絵が描かれていた。




