マンチカンっぽい獣人
マンチカンっぽい獣人についていくことにした、スコティの村の近くだそうだが、歩いて30分ほどはかかった。
スコティの村は明るい印象だったが、こちらはうっそうとして、すこし陰気が強い印象だ。
マンチカンっぽい獣人の村に到着すると、いきなりマンチカンっぽい獣人の集団に囲まれた。
みんな興味津々でこちらを見ている。
マンチカンどうよう、人懐っこそうな雰囲気だ。
それにしても、みんな小柄で足が短い。
私とスコティは長老のところへ案内された。
長老と言っても、まだ比較的若い獣人だった。
この村は短命なのだろうか?
「わざわざ、すまない。人間と女」
と長老は言った。
「話を聞こう」
と私は言った。
「この村は呪われている。そこの女の村、御使いに救われた。この村も困っている。救ってくれ」
と長老は言った。
「状況を聞かないと、救えるかどうかはわからない」
と私は言った。
「まず、皮膚がかゆくなる呪い」
と長老は言った。
「患者を見せてもらおう」
と私は言った。
3人ほど診察して、ハッキリした。
ダニだ。
「この呪いは解ける」
と私は言った。
長老は安堵した表情で続ける。
「関節が痛くなる呪い、子供が早く亡くなる呪い」
長老はそう言った。
まるっきりスコティの村と同じだ。
「お前たちは普段、何を食っている」
と私は尋ねた。
「魚だ」
と長老は答えた。
「火は通しているか?あと内臓は毎回食べるか?」
と私は聞いた。
「生のまま。内臓は美味い、毎回食う」
と長老は言った。
「それであれば、呪いを解ける」
と私は言った。
私は、獣人たちを集めさせ、ダニの事と、その取り除き方を教えた。
獣人たちは、こんなに小さい悪魔がいたのかと驚いた。
私たちは、村でハーブを煮だした汁を作り、薄めて獣人たちの身体に塗った。
皆、かゆみがマシになったと喜んだ。
次は魚だ。前回同様に、魚の内臓を取り出して、回虫を見せる。
そしてこれが悪魔の正体で、十分に火を通せば、悪魔は滅びると伝えた。
そして関節が痛いものは、関節が治るまで、内臓を食べない。
食べても5回に1回にするように伝えた。
みんな納得した。
ただ問題なのは、この村が薄暗いことだ。このままであれば、日が通らず、ローズマリーなども栽培できない。
「この村の問題は他にもある。この光が届かず、薄暗い事だ。
このままの状態が続けば、いずれ森は滅びる」
と私は言った。
長老は驚いた。
「どうすればいい?」
と長老は尋ねた。
「下に光がとおるように、木を切る事だ」
と私は言った。
「しかし、私達、木を切ること、できない」
と長老は言った。
「では。私が木こりを連れてこよう。
そして私が間に入って、この地区の木を切るのを手伝おう。
木こりから、金をとり、一部を診療代として、私がもらう。
そして残りで、この村を生活しやすくする道具をそろえよう」
と私は言った。
長老は納得した。
後日、私は知り合いを通じて、木こりを30人ほど手配した。
この世界で木は貴重品だ。
そして獣人族の縄張りの木を切ることは、タブー視されている。
理由は簡単、争いが起きるからだ。
獣人族が許可し、襲ってこないという確約が取れれば、木を伐りたい木こりなど山ほどいる。
私は木こりたちに、情報を漏らさない代わりに、これからも木を融通してやると約束し、神と先祖に誓わせ、森に連れてきて、木を切らせた。
1週間ほどで、村の風通しは良くなり、日の光が入るようになった。
木も想像以上に高値で売れた。
私はその売れた金で、ダニ除け用のハーブや、暖炉を作る用のレンガ、魚をさばく用のナイフなど、生活が改善するものを仕入れてきて、獣人たちに配った。
また、村の構造が短い足には不向きな構造をしていたので、大工を連れてきて、修繕を行った。
もちろん大工たちには、普段より高めの報酬を支払い、また獣人関係の仕事を紹介してやるからと、神と先祖に誓わせ口止めをしておいた。
この世界で神と先祖に誓わせるというのは、現代社会とは、また別の意味を持つ。
神と先祖とは、絶対的なもの。
その誓いを破るとは、神罰や天罰も受けても構わないという意味であり、この世界の者であれば、おいそれと破ることはない。
そしてまた獣人とは、基本的に畏怖の対象でもあり、敵対すると、街全体が滅びかねないということもあり、まず基本的には裏切ることは考えれない。
こういう事情があるから、私も人間を入れた。
それにこのように、少しずつ交流ができると、獣人と人間の垣根も取れるかもしれない。
とまぁ、マンチカンっぽい村の問題は、解決したのだが、別の問題が浮上してきた。
あのマンチカンっぽい獣人の少女が、やたら私に甘えてくる。
モフモフしていいよと、ばかりに、体を擦り付けてくる。
なにこれはマーキングなのか?
そして、マンチカンっぽい獣人の少女は、
「私にも名前欲しい」
と言い出した。
「そうだな」
と私が考え出すと、
「ダメ。スコティだけ特別」
とスコティが怒り出す。
「私、この村と獣医との間。名前いる。だれかわからない」
とマンチカンっぽい獣人の少女は言う。
私はなんとか、スコティをなだめ
「じゃあ君はマーチだ」
と名前を付けた。
マンチカンからマとチを取っただけだが、マーチは気に入ってくれた。
マーチの村は、うっそうとした森から、いっぺんして日の入る気持ちのいい森に変貌した。
健康状態もよくなり、モフモフしがいのある毛並みになった。
ただ問題は、スコティが、マーチと対立していることだ。
獣医時代、あんなにモフモフしたくて、ヘンタイ扱いされたのに、今はだれをモフモフされるかで、揉める。
そんなモフモテ期がこようとは……