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獣人村の不思議な病

スコティの村に来て、1か月がたつ。村にはあちらこちらにローズマリーが植えられ、それと共に、獣人たちのモフモフ具合が良くなった。


スコティは、村には帰らず、私のもとで助手として生活している。

もちろん毎日モフモフさせてもらい、発作が起きないように、ケアをしている。


スコティからは

「他の村の獣人は、モフモフしないように」

と釘を刺された。


私は一応うなづいてはみたが、理性が耐えれるかどうかはわからない。

ただ何度も説明するのは、面倒なので、当面はスコティだけにしておこう。


1か月ほど村に通い、この村の現状が見えてきた。

この村の獣人は、比較的突然死が多く、短命で、骨の異常や関節炎などを起こすことが多いみたいだ。


やはり魚だろうな。

と私は思った。


魚の内臓は、寄生虫や細菌の温床になる。

生の内臓にはトキソプラズマ、回虫、サルモネラなどが潜む。

野生猫はある程度耐性があるが、病気で死ぬ個体も少なくない。

また、ビタミンA過剰症という問題もある。

肝臓を食べすぎると、骨の異常や関節炎を起こす。


問題はこれをどう伝えるかだ。

食文化を変えるというのは、なかなか困難だ。


村を見て回ったが、調理器具自体はあるし、火で調理を行うことも多かった。

ただやはり生食が一番多いようだ。

理由は美味しいし、これが一番栄養があるという認識だった。


私は集会場に獣人たちを集めた。


「今日は突然亡くなる呪いの正体を見せる」

と私は言った。

一同静まり返る。


「それはこの魚の中にある」

と魚を指さし言った。


「それ俺らの食い物。それが呪い?」

と集会場はざわつく。


「静まれ」

と長老は言った。


私は包丁で魚をさばき、中の内臓から、回虫を取り出す。


「これを見てみる。この白い虫。これが呪いの正体だ」

と私は言った。


「あっこれ見た事ある。親父亡くなる前、この虫吐き出した」

と男の獣人は言った。


「たしかにこれは見たことがある虫」

と長老は言った。


「でも。魚は俺たちの食い物、なくなったら生きれない」

と声がする。

一同から、そうだそうだとの声がする。


「この虫は炎で浄化できる。浄化すれば問題ない」

と私は言った。


「では焼けばいいという事か?」

と長老は尋ねた。


「そうだ。焼けばいい。ただし、これくらいは焼かないといけない」

と私は見本を見せた。


「なるほど、生焼けは良くない。完全に火を通せばいいという事」

と長老は言った。


「そう。長老の言う通り、完全に火を通せばいい。あともう一つ骨の異常や関節炎 も、これが原因だ」

と私は言った。


「どういう事か?」

と長老は言った。


「この内臓には、エネルギーが集中している。だから上手く感じるし、栄養を取るには効率がいい。しかしだからこそ、骨が異常を起こしたり、関節が炎症を起こす呪いがでるのだ」

と私は言った。


獣人たちがざわつく。どうやら意味が通じていないようだ。

栄養を摂り過ぎてはいけない、という事を伝えるのは実に難しい。


さてどうしようか……

過ぎたるは及ばざるがごとし、といっても通じないだろうしな。


「”マタタビは嗜む程度に”っていうのと同じ意味ですか」

と若い獣人が質問してきた。


一同それならわかるという反応だ。

私はスコティに聞いてみる。

「あれ、どういう意味なの?」


「マタタビは多少にしておかないと、生活が成り立たなくなるよっていう意味。たぶんこれでいいと思う」

とスコティは言った。


「そう。”マタタビは嗜む程度に”っていうのと同じ意味だ」

を私は答えた。


一同納得している。

よかった。


「では、どのくらいならとってもいい?」

と長老が聞いてきた。


「まず、呪いが解除されるまで、つまり関節の痛みが取れるまでは内臓を食べてはいけない。そして痛みが取れたら、5匹に1匹程度の内臓はとっても良い」

と私は言った。



一同ざわつく。

「内臓は美味いから、ちょっと嫌だけど、関節が痛いのもな……」


「俺は今日からもうしばらく内臓はやめておく」


「私も、そもそもそんなに好きではないし」

そんな声が聞こえた。


そんなこんなで、魚は焼いて食う。関節の痛いものは、治るまでは内臓を食べない。

健康なものも、内臓を食べるのは、5回に1回までにしたところ、まず新規で関節痛を訴えるものがいなくなった。

そして関節痛がひどかったものも、徐々に緩和されていった。

そして何より大きかったのは、子どもの死亡率が大幅に縮小した事だった。


そんな事があって、私は村人から、御使いさま、いや神さま同然に扱われるようになってきた。


そんなある日、長老から、


「なにか、お礼はできないか?」

と聞かれた。


なかなか難しい問題だった。


獣人の間では貨幣の流通はない。魚も別にいらないし、獣人は農業をするわけでもない。


散々考えた挙句、

森で薬草を採取し、そして薬草を育ててもらう事にした。

これを通常の薬師が仕入れる値段より、安くしてもらう。

その差額を診療所での報酬とする。

そして、その獣人達に支払う金額で、人間の道具を買い、村に導入していく。


獣人達の生活も楽になるし、健康にもなる。

私は薬師として稼げるし、みんながハッピーだ。


はじめて村を訪れて1年ほどたったある日、私のもとに別の獣人族の少女がやってきた。


小柄で足が短く、ちょこちょこ歩く獣人だった。


まるでマンチカンだな。

私はモフリたいと思った。

スコティが、ムッとした顔をして、猫パンチをしてくる。

痛くはない、むしろカワイイ……


「うちの村も救ってほしい」

と、

その獣人の少女は言った。

私とスコティは、荷物をまとめて、獣人の少女の村に向かう事にする。



今度はなんだろう。マンチカンなら、腰痛か、関節痛あたりか?



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