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スコティ

家で休んでいると、小鳥の鳴き声が聞こえる。

ちゅんちゅん……

うん?

「いやぁ、まじであの獣人の女の子、たぶんあのままで終わるよな。もうそろそろカラスが狙う頃だろ」

なに?誰が言っている。

窓辺にいる小鳥同士が話している。


あぁまさか、あの白蛇の話…本当だったのか。


私は、小鳥に話しかける。

「あの君たち、獣人の女の子ってどこにいるんだい」


「なんだ。この人間。俺らの言葉をしゃべってるぞ。おい人間、お前は何者だ?」

小鳥は言った。警戒しているようだ。


「私は、獣や動物を治す医者だ」

私はそう言った。


「動物や獣を治す医者?なぜ言葉をしゃべれて、なぜ言葉がわかる?」

と小鳥は言った。


「白蛇に噛まれて、言葉をしゃべれて、話もわかるようにされた。動物と獣人を頼むと……。

これが証明だ」

と私は、噛まれた跡を見せた。


「そうか。白蛇さまか。じゃあ、教えよう。でも俺らはお腹がペコペコだ」

と小鳥は言った。


「じゃあ、パンの残りで良かったらあるから、こっちで食べてくれ」

と私は、小鳥たちにパンの残りをふるまった。


「うん。なかなか。うまい」

小鳥たちはたらふく食ったあと、私の肩に乗った。


「あっちだ」

私は小鳥たちの指示通りに現場に向かう。

10分ほど歩いて、森の中のすこし開けたところに、ついた。


そこには、一人の少女が足を怪我をして倒れていた。


心の中がざわつく。

(こいつは獣人だ。憎い憎い憎い)

声は頭の中をぐるぐる回る。


(パーン)

私は、自分の顔を思いっきり両手ではたく。

頭の中の声は消えた。


少女の年齢は18歳くらいか?

しかし栄養状態が悪いのか、痩せすぎている。

なに…モフモフのしっぽがついている。

それにビロードのような毛並み、

垂れた耳。

まるで、猫のスコティッシュフォールドのようだった。


耳元で小鳥がつぶやく。

「これ獣人。猫族。お前、白蛇さまの印みせろ」


「あぁそうか。ありがとうな」

と私は鳥たちに礼を言った。

鳥たちはどこかに去っていった。


少女が薄っすら目を開ける。

「怪しいものじゃない。白蛇さまに言われて救いに来た。これが証明だ」

と印をみせた。


少女は一瞬、眉間にしわを寄せたが、印を見ると警戒を解いた。


状況を把握する。

足にトラばさみのあと。

そうか、罠に引っかかったのか。


私はトラばさみを外し、持ってきたボロ布で止血をする。

そして、少女をおぶり、町はずれの我が家に連れて帰る。

ここが町はずれで良かった。

獣人と人間は、それほど仲が良くない。

獣人を憎んでいるものさえいる。

私の依り代がそうであったように。


傷は想像以上に深かった。

まずは、私は湯を沸かす。

その間に、ナス科 の薬草マンドラゴラを用意する。

マンドラゴラの成分はスコポラミン、ヒヨスチアミン、これは鎮静・鎮痙作用があり、傷口を縫合する際の麻酔として使う。

あとは、絹糸と縫合用の縫い針だ。

湯が沸いた。

火から鍋を降ろし、もう一つ鍋に湯を沸かす。

10分ほどたち、湯が沸いた。ここに針と糸をいれ煮沸消毒する。

獣人の少女をマンドラゴラの根を刻んで匂いで眠らせ、傷口を確認する。

そしてぬるま湯で丹念に傷口を洗浄する。

特に石や毛などは丁寧に取り除く。雑菌が残っては、生存率が下がるからだ。

洗浄後、ふたたびぬるま湯で傷口を洗浄する。

一度目で落ち切ってない残渣を取り除くためだ。

そして蒸留酒で患部を洗う。

その後、針と糸で傷口を縫合する。

1時間ほどで、完了した。

縫合後、再び蒸留酒で洗い流し。患部を清潔な布で巻く。


どうにか、一人でできた。

いつもアカネに手伝ってもらっていたからな。

やはり勝手が違う。


……

私は、獣人の少女の寝顔を見ながらぼんやりと考えていた。


獣医は孤独だ。

いや、獣医だけじゃないだろう。

おおよそ、先生と呼ばれる連中はみな孤独なんじゃないだろうか。

獣医はペットや家畜を治す者。

医者は人を治す者。

作家ならまだ見ぬ物語の提供者。

そこには、肩書きだけで、その人自身の個の発露がない。

ある種、個を認めてもらえないという寂しさがある。

まぁこんな事を言い出すと、無限にあるだろうな。

動物看護師、看護師、編集者もそうだろうし、コンビニ店員、公務員、主婦なんかもそうだ。

みんな、社会的な役割を設定されて、その仮面をつけて、働かなければいけない。

私は獣医という立場を好んではいるが、その仮面をつけて、その仮面として使われるのが、どうも寂しい時がある。

神さまに

「その決断はお前、個人の発露がなされた決断なのか?」

と問われたら、答えに困ってしまうんだろうな。


動物看護師は、そういう苦しさにもがく私を救ってくれる存在だ。

医者に看護師がつくように、

作家に編集者がつくように、

偉大な人物の影に才能を信じてサポートした人々がいたように、

作家に編集者がつくように。

ヘミングウェイにパーキンズが、太宰治に井伏鱒二がいたように。

偉大な作品の陰には、必ずその才能を信じ、支え抜いた人がいる。

たとえそれが神や天才であっても、ただ一人で世界を築いた者などいない。

私はそう思う。

……


気が付くと、外が薄暗くなっていた。

うとうとしていたのか。

獣人の少女はまだ眠っている。

獣人は何を食べるのだろうか?

パンやチーズは食べたかな?

猫ならダメだよな。

やっぱり、魚か肉だよな。

しかし干し肉は塩分が強すぎてダメだしな。


「にゃーあぁ」

獣人の少女から声がした。

うっすら目を開ける。


「気が付いたか」

と私は尋ねる。


「人間?」

と獣人の少女は言った。


私は白蛇さまの印を見せ、

「白蛇さまに言われて、 お前救った」

と言った。


(ぐー)

獣人の少女のお腹がなる。


「いつも何を食べてる。人間の食べ物は合わないだろう。なにか探してきてやる」

と私は言った。


「魚」

と獣人の少女は言った。


「わかった」

と私は街に魚を買いに行く。

干し魚は塩分が強く、猫向けではない。

だから生魚を買う。

街で一軒だけ扱っていた店があった。



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