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コンダクターへの就任

これまでの経緯で22の村との医療協力体制ができ、それぞれの村にビーバー族を預けたことで、食料自給率を向上させることができた。


ちょこちょこ、人間の偵察らしきものや、貴族階級からの接触もでてきた。


基本的に商会経由は、有能な人材のお陰で、なんの問題もない。

ただ面倒なのは、尾行や偵察などだ。


これに関しては、背格好の似ている獣人に、私の服を着せて偽装を行い、無関係の場所に誘導したり、尾行を小鳥たちを使い監視したりした。


これで、王国や貴族からの干渉は避けてきた。

22の村に医療施設を作ったり、各地域でビーバー族のテリトリーなどができると、目立ちそうなものだが、王国は国土が広く、ほとんどが未開拓で獣人たちのテリトリーなので、それほど問題はなかった。


問題があるとしたら、人間と獣人が接触する地点だが、それは契約と利益で縛り、情報は洩れないようにした。


今日は各村の長老がスコティの村に集結した。

いろんな猫族の長老が一堂に集まる姿は、まるで猫カフェ風のコンセプトカフェのようだった。

長老の獣人なので、萌え要素はまったくないだろうが、なかなか面白い絵だった。


各村の長老が、私の目の前でヒゲを一本抜き、私に捧げた。


「ちょっと待て。何してるの」

と私は聞いた。


猫にとってヒゲの役割はイロイロある。

空間把握センサー

狩猟・夜間活動のサポート

感情表現

バランス感覚

が主な機能だ。


猫がヒゲを失うとどうなるかというと、

空間認識が狂う

獲物が仕留められない

精神的に不安定になる

つまり ヒゲは猫にとって、第六感的なものだ。


これを自ら抜き、捧げるとは……

いったい何を考えているのか。


スコティの村の長老は長老たち全員のひげを集め、小さな皮の袋にいれ、私に捧げた。

そこにはビーバー族の長老のひげも含まれていた。


スコティの村の長老は言った。

「我らにとってひげは力の証。これをささげるのは忠誠の証であり、共にあらんことを願う印でもあります」


スコティの村の長老も、他の長老も、ひげを抜いたせいか、すこしフラフラしている。


「だいじょうぶ?」

と私が聞くと、


「もちろん、大丈夫」

と長老たちは口々に答えるが、

その足元はおぼつかない。


私は、革袋を胸にあて、誓った。


獣人達と、動物たち、そしてモフモフを守り抜くと。


ふとアカネの顔が思い浮かぶ。

アカネは今ごろ何をしているのか?

モフモフ好きのヘンタイ獣医が亡くなって、少しは悲しんでくれたのか。


そんなことを考えた。


(ひひーん)


遠くで馬のいななく声が聞こえた。


「たいへん。御使いさま。馬が暴れている」

とスコティの村の若い獣人が言った。


私は現地に向かう。

白馬が泡をふいて、暴れている。

近くには、腰を抜かす身分の高そうな男がいた。


「おい。あんた。こっちに逃げてこい」

私はそう声をかけて、男をこちらに誘導する。


男は取り巻きの騎士たちに連れられ、こちらに来た。


「なにがあった?」

と私が聞くと、


「木の葉っぱを食ってたら、急に暴れ出した」

と身分の高そうな男は答えた。


「スズランのような花が咲く木か?」

と尋ねると、


「あぁそうだ」

と答えた。


「馬酔木だ。それは毒だ。ほっておけば馬は亡くなる」

と私は答えた。


「なに?あの馬は貴重な馬なんだぞ。はやくお前助けろ」

と身分の高そうな男は、私に命令した。


周りの騎士たちは剣に手をやる。


「お前はいったい何者だ」

そう聞くと、


「私は隣国の皇太子だ」

と男は答えた。


「皇太子?身分をはく奪され、追放されたと聞いたが……」

と私は聞いた。


「なにを愚弄する。追放されようが、お前なんかより偉いんだ」

と元皇太子は言った。


私は無視をした。


騎士たちが詰め寄る。


「いいのか?お前らは流浪の民だ。国民が流浪の民に剣で脅され、危険な強制労働に従事させたと国が知ればどうなると思う」

と私は言った。


騎士たちは剣を鞘に戻した。

「殿下。参りましょう」

そう言って、森を去っていった。


白馬は相変わらず暴れている。


モフモフはしてないが、キレイな馬だ。

いま持ち主はいない。

これは野生の馬か……。


私は近くの木に登り、そこから馬に話しかけた。


「おい、白い馬。私は白蛇さまの御使いだ。いまどんな状態だ」

と私は聞いた。


「あぁ御使いさまですか。やっやっややややあぁ。すすすすうすすいません。なんか身体が止まらぬのです」

と馬は言った。


「助けてやりたいが、近づいたら、危ないからな。薬をやるから、自分で飲めるか?」

と私は聞いた。


「ありがととととおっととおとござざいます。飲みます飲みます」

と馬は言った。


私は木炭を粉末にしたものと、ぬるま湯を多量に準備させた。


「この黒いのは木炭だ。木の炭だ。これで体の中の呪いを吸着する。そしてぬるま湯を多量に飲んで、胃の中をキレイにする」

と説明した。


馬は、

「わかりましたたたたた」

といい、ふらつきながらも、指示にしたがった。

それから30分ほどして、馬は多量に嘔吐をし、復活した。

白い美しい毛並みは、炭で真っ黒になり、見るも無残な姿だった。


「あなたにお仕えします」

と馬がいうので、スコティの村で管理してもらうことにした。

いざとなったら、使おう。


3時間ほどして、ビーバー族の獣人3人が、荷物を持ってやってきた。

拾いものを献上したいという。


どこかで見たことのある鎧や剣だ。

あっさっきの元皇太子の一団の荷物か。


「これをどうした?」

と聞くと、


「長老に、奴らのあとをつけろと命じられました。あとをつけていると、奴らが水浴びを始めたので、そこに落ちていた荷物を拾って参りました」

と言った。


鎧や剣はどれも一流のものだった。

カバンのなかには、多量の金貨や宝石類があった。


私は思った。

なかったら、これから困るだろうな。


ビーバー族の長老を見る。

「それは主様がお使いください」

と長老は言った。


返してやろうなどとは、言えないよな。


鎧や剣は、高価なパーツを外し別途売りさばき、その他は全部金属として使い鍋などにした。

剣や鎧は、人間のものだ。これは人を守りもするが、獣人達を、そして人間自身も傷つける。

誰かを傷つけるよりも、誰かを養うもののほうがはるかにいい。

そう思った。


宝石類は、少しずつ、少しずつ流通させることにした。

あまり一気に流通させると、出所を探られる可能性もある。

その点少量であれば、気取られずに済む。


そうやってできたお金を獣人たちの生活向上のために使う。

もちろん、私のためにも使う。


私は最近街のパン屋を買収した。

なんでパン屋かって?

簡単だ。

チョココロネを開発し売るためだ。

この国には、チョココロネが売っていない。

理由はカカオがなくチョコレート事体が存在しないからだ。


この世界にカカオがあるかどうかはわからない。

しかし代替え品なら見つかるだろう。

私は前世のように、朝ごはんにコーヒーとチョココロネを食べる夢を抱いた。


チョココロネを食べながら、モフモフを愛でるのは最高の幸せなのだから。


END

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