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対立

隣国で人間とビーバー族の間で対立が深まる。

 

一部のビーバー族が報復として、代表的な河川にダムを構築し、農業のインフラを機能不全にした。


干上がった田畑、飢えた子供たち、のどかだった村は、今では怒号が飛び交う地獄のようなありさまだった。


子供たちは、人減らしのために、売られていった。

干ばつがあったわけではない。

ただ、水がせき止められただけだ。

たったそれだけで、この国の農業は機能不全を起こした。

現代農業の限界がそこに見えた。


この時期、あちこちの農村で泣き叫ぶ子供と、泣き崩れる母親たちの姿が目撃された。


話によると、子羊1頭にも満たない金額で連れていかれたとか、借金の利子にも足りなかったと聞く。


慢性的な人手不足だった隣国の都は、人手不足が解消され、商業は活発化したが、農業生産の落ち込みで、食料価格は高騰した。


農民達は憤った。

悪いのは皇太子だ。しかし手を下したのはビーバー族だ。

なぜ何も関係のない我々がこんな目にあう。


想定される被害総額は、半年分の税収と同じくらいの規模だったそうだ。

ビーバー族の報復は、皇太子の行った行為が原因だとされ、皇太子は王位継承権をはく奪され、追放された。


皇太子一派の貴族達は、皇太子を擁護したとして、粛清され追放された。

皇太子一派の貴族や関係者の一部が、王国へ亡命を打診をしたが、王国は断固拒否した。


ビーバー族の作ったダムには、多量の兵士や住民が導入され、ダム撤去がなされた。

しかし、ダムは作るより、壊す方が難しい。

せき止められた水は、ヘタに壊すと、災害級の被害を下流に及ぼす。


結果、せき止められたことでの被害よりも、ダムを撤去するために、かかった被害のほうが大きかった。


ダム撤去による洪水で、15の村が壊滅的な被害を受けた。


ある地方都市の長官はこう嘆いたそうだ。

「水を戻せば助かると思った。だが……戻ってきたのは洪水と死者だった」


発端は、皇太子が国境近くの保養地で、バーベキューをし、それが乾燥していた森林に引火し、消火活動に動いた騎士たちを止めたことだった。


皇太子の愚行一つで、全国民に影響を及ぼす悲劇が起きたのだ。


農民や住民たちには、王族への怒りとビーバー族への強い怒りの感情が芽生えた。

しかし、王族は巧みに世論を誘導し、ビーバー族が悪いという空気を作った。

王族への怒りを口にするものは、次々に粛清された。

隣国ではビーバー族と農民たちが一触即発の状態に陥り、ビーバー族は王国に亡命した。

行先は、スコティの村だった。

私はスコティの村に申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

はやくビーバー族の定住先を見つけないと。

気持ちばかりが焦った。


そんな中、スコティの村の長老から、意外な申し出があった。

「ビーバー族の少し、村で引き取りたい」

との要望だった。


「迷惑ではないのか?」

と私は尋ねた。


「全員はムリ。少しなら助かる」

と長老は言った。


「詳しい状況が知りたい」

というと、長老はビーバー族が仮住まいを作る場所に案内してくれた。


そこは以前はうっそうとした森だったが、今は湖のような湿地帯が広がっていった、


「ここは以前は森だったはず。なにがあった?」

と私は尋ねた。


「ビーバー族がやった」

を長老は答えた、


「いや、申し訳ない。こんな状態にしてしまって」

を私は謝罪した。


「違う、これ見ろ」

と長老は湖を指さす。

そこには魚の群れがいた。


「これは?」

と私が聞くと、


「ビーバー族。木を切ってダムにする。湖できる。魚生まれる。ビーバー族、魚食わない。私達に魚くれる。猫族、草食わない。ビーバー族草食う。共にニコニコ」

と長老は言った。


なるほど、そういう事か。

ビーバー族は水草などが主な食事、対して猫族は魚が主な食事。

これは衝突を起こさない。

ビーバー族は土地を追われ、猫族はここに定住している。

猫族は土地を貸し、魚をもらう。

ビーバー族はダムを作り、水草を食べる。

お互いにWinWinの関係だ。


よく見ると、あちらこちらで、ビーバー族が猫族に魚を渡している。

以前は食料の供給が少し不安だったが、この様子なら、もう少し村の規模が大きくなっても大丈夫そうだ。


私はマーチの村の長老を、この現場に連れてきて、相談した。

するとマーチの村でも、ビーバー族を引き取ることを約束してくれた。


それから交流のなかった、他の猫族からもビーバー族の引き取りと医療協力の打診があった。

そしてなんと、一気に合計22の村まで広がった。


これでなんとか、ビーバー族全ての受け入れが決まった。


人間関係にしても、他種族間の交流にしても、互いに衝突しない関係が望ましい。

今回上手くいったのは、猫族が魚を食う。ビーバー族が魚を食わないという関係だったからだ。

もし仮にビーバー族が魚を好む種族だったらどうだろか?話はまったく違っていたと思う。

だからある種、好き嫌いはあったほうがいいのだ。

たとえば、食文化にしても、安易に輸出してしまい、外国でブームになってしまったり、根付いてしまうと、輸出した国の民が価格の高騰で食うに困ることになる。


お互いの文化に干渉せず、自分の好みを押し付けず、領域を守ったうえで、協調関係を模索するのが賢い選択なのではないだろうか?


少なくとも、今回の猫族とビーバー族の件は、その教訓となったのであろう。


今回の騒動は、ビーバー族と隣国のアイデンティティとの衝突。ビーバー族と猫族のアイデンティティの共生というのが本質なのかもしれないな。

と私は思った。


そして施政者は、自らの名誉や思い込みだけではなく、その行動や言動が将来国や人民に及ぼす影響まで見据えねばならない。

少なくとも、その責任はあるという事を自覚せねばならない、責任を持つのだと知った。


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