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火種

私は、

”動物や獣人は、このままいけば、人に滅ぼされる”

この言葉の意味を考え続けていた。


ちょうどその頃、国境近くの森林地帯では大規模な山火事が進行していた。


隣国の皇太子の一団が、国境近くの保養地でバーベキューを行なったところ、それが乾燥しきっていた山林に燃え広がり、大規模な山火事となった。


初期消火を行えば、よかったものの、あろう事か、皇太子が消火しようとする騎士達を切り捨てた。


ちょうどここは、ビーバーの獣人達の住む森だ。

どうなるのか見ものだと。

そう言ったそうだ。


山火事は私達が住む王国の端の獣人、ビーバー族のテリトリーに引火し、多数のビーバーがなくなり、避難民が多数出た。


隣国からの謝罪はなし、王国も隣国に抗議はしたものの、賠償までいかず、ビーバー族は隣国と王国に激しい怒りを抱いた。


私の元にビーバー族の少女がやってきた。

「村人を救って欲しい」と、

私は荷物をまとめる。


まずは、アロエ。

これは強力な保湿・鎮痛作用があり、やけど後の皮膚再生を助ける。


そして、マリーゴールド。

これは炎症を抑え、皮膚の治癒を促進させ、傷薬の基本となる。


そして、カモミール。

これは抗炎症・鎮静。熱傷の痛みを和らげ、患部の洗浄にも使える。


そして、タイム。

これは抗菌・去痰作用。煙で傷んだ呼吸器の感染予防に有効だ。


さらに、甘草。

粘膜を保護し、咳や喉の炎症をやわらげる作用がある。


あとは、精神安定にラベンダー。

鎮静作用があり、避難民の不眠や不安のケアに有効だ。


念の為に、ミントとセージも持っていく。

ミントは、清涼感と消化サポート。脱水時の倦怠感を軽減させる。


セージは発汗で失われた水分とミネラル補給のサポート。お茶として飲ませやすい。


山火事後の救援は、 火傷・煙の吸入・脱水・精神的ショック が主要な問題だ。


言わば、私は仇の人族。

この私に何ができるのか、そして受け入れてもらえるのかも不安だった。


私はビーバー族を訪問するまでの道中、ビーバーの習性について考えていた。


ビーバーは木を切り、ダムを作り、そこで生活をする。

この習性のため、時にありがたがられ、時に迷惑がられた。


私はビーバー族の少女に質問した。

「お前達は木を切りダムを作るのか?」


少女は答えた。

「当たり前。猫族が毛づくろいをするように、ビーバー族は木を切りダムを作る」


なるほどな。


「ところでお前達は、ずっと国境近くの森に住んでいたのか?」

と私は尋ねた。


「ずっと前は、もっと北。隣国の中で暮らしていた。人間に追われて、逃げてきた」

とビーバー族の少女は答えた。


なるほど、隣国の皇太子には、ビーバー族への積年の恨みがあるらしい。


ビーバーは、その木が経済的に価値があるないに関わらず、木を切りダムを作る。


人間たちは、自分達のテリトリーでそれをやられると、経済的な損害を食う。


お互いに生活の為に、やっていることなのだが、価値観が衝突するために、この騒ぎになっている。


しかし、

ビーバーはモフモフしてない。

それが、私の心を萎えさせる。

ため息をつく私に、スコティがしっぽをぶつけてくる。


あぁカワイイ。


スコティがしっぽをぶつけてくるのに気がついたマーチも、負けじとしっぽをぶつけてくる。


あれ?なにここ天国……。


そんな事を思っていたら、ビーバー族の避難キャンプにたどり着いた。


焦げた森のニオイが鼻をつく。


毛並みに焼け跡の残るビーバー族。


親を探し泣き叫ぶ子どもたち。


スコティと、マーチは、私の腕に身体を寄せ、震えている。


ビーバー族の若い男が私を指差し、

「人間来た。森焼いた。こいつら」

そう言った。


その瞳は、憎悪で真っ黒に染っていた。


同じ人族として、謝罪しないといけないのか?


私は葛藤した。


スコティとマーチ、そして護衛は私の前に来て、警戒している。


(シャー)


毛を立てて警戒している。



(シャー)


毛を立てて警戒している。



(シャー)


毛を立てて警戒している。


なにこの光景……

めっちゃカワイイんだけど。


いやいや、猫族の警戒する姿に萌えているわけにはいかない。



……


「皆のもの。やめんか」

奥から代表者らしき者が出てきた。


ビーバー族の少女と話しをしている。

「この人間白蛇さまの御使いさま」

と少女は言った。


私は、腕の印を見せる。


ビーバー族のものたちは、驚き平伏した。


えっ?これそんなにすごいの。

少し驚いた。


「御使いさま、先ほどは失礼した。私は長老。皆、故郷を追われ、不安、気が立っている」

と言った。


私は、気にしなくていいと伝え、早速治療にかかる。


昼に到着し、治療には夜遅くまでかかった。

野営地は建物もなく、私は猫族のモフモフに囲まれ眠りについた。

正直、心地の良い場所ではなかったが、モフモフに囲まれた幸福感は絶大で、すぐに私を眠りの国にいざなった。


そして翌朝、ビーバー族をスコティ達の村に連れていくことにした。


実は、こんな事もあろうかと、私はここに来る前に、スコティの村の長老と話しをした。

もし必要なら、しばらくスコティの村の森の外れでもいいから、住まわしてくれないかと。

そう依頼した。


長老はビーバー族は魚を食べませんから、別にしばらくなら構いませんよと言った。


ビーバー族の長老に言うと、とても感謝された。


ただ問題はまだある、彼らと共存共栄できる環境があるのかどうかという問題だ。


スコティの村と共存共栄できればいいが、難しいのではないだろうか?しばらくなら大丈夫だろうが、長期となると疑問だ。


私はモフモフが好きで獣医になった。しかし、ビーバーはモフモフではない。


なぜ私はモフモフ以外をモフモフが損害を受けるかもしれない形式で救おうとしているのか?


それは人として以前にモフモフ好きとして、正しい道なのか?

私は苦悩していた。


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