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2-2 エルフのネームドアーティファクト

「全部……全力で攻撃できる装備にして下さい。武器は短剣と弓。それに魔道士の服。あと……魔法効果を高める、アクセサリーも」


 はっきりと、エミリアが言い切った。


「そ……そうですか」


 困ったように、武器屋の親父は俺の目を見てきた。


「エミリアの言う通りにしてくれ」

「は、はあ……」


 困惑しながらも、親父は丁稚にあれこれ指示している。


 いや俺も、エミリアを連れて行く気はなかったんだ。留守宅の管理だけしてもらって、旅は俺とルナでいいか、とな。でも、俺がクエストの旅に出ると知ると、自分もついていくとエミリアは言い張った。そもそも屋敷の維持などやることもないので、同行したいと。


 いやそれなりに大きな屋敷だから、ちょっと不思議だったんだわ。でも聞いてみると、ゲーマがしっかり手を入れさせていたのは、前庭と玄関ホール、貴族と交渉する応接室だけだという。後は荒れ放題。せいぜい、応接までの廊下とゲーマの居室を多少整える程度。残りの部屋は廃墟も同然だという。だから手間は掛からないと。


 どうやら、ゲーマはとことんケチ……というか実利的プラグマティックな人生観を持っていたようだ。商売に必要な部分だけは金を掛けるが、自分の生活などどうでもいい。贅沢をする気もなく、その時間があれば余った金の運用先を探していたらしい。途切れ途切れになりがちなエミリアの話ではそうだった。


 どうにも、俺がゲームで知っているゲーマの表の姿とはかなり違う。単に金に汚いクソ悪党だと思っていたのだが……。


 ともかくそんなわけで、エミリアも旅に同行させることにしたのだ。いくらチート妖精がいるとしても、残りデブひとりじゃあな。エルフならそこそこ戦闘でも使えるだろうと思ったわけよ。まあ……弓矢と剣、魔法までこなす万能キャラとは想像だにしてなかったけどさ。


「こんな感じですかね」


 大量の装備を倉庫から持ち出して、ああでもないこうでもないこっちのが絶対いいとかなんとか、武器商はエミリア着せ替えを繰り返した。ようやくまとまったようだ。


「どうですゲーマ様。見事なエルフの上級冒険者姿」


 自分の娘を自慢するかのように、エミリアの肩を持って、くるっと俺に正面を向けた。


「うっ……きれいだ」


 思わず、本音が漏れた。いやエミリア、相当の美少女とは思ってたけどさ。真っ黒のゴスロリメイド服でなく、きらびやかな特級装備を身に着けると、まるでエルフの王族のようだわ。


「ゲーマ様……」


 うつむき加減で俺を見上げるエミリアの頬が、微かに赤くなった。


「きれいだ……」

「あのエルフ、相当強いぞ。装備からオーラが漏れてる」

「ただの小娘なのに……」


 背後の冒険者達も、思わずといった様子で、エミリアの美しさを認めている。


「エミリア様に揃えましたのは、まず『ガラドリエルの剣』。マジックスキル持ちの短剣で、ネームドアーティファクトです。続いて『イェルプフの大弓』と『イェルプフの矢筒』。太古エルフの装備と伝えられる逸品で、これもネームド。遠距離まで届く大弓のため、膂力りょりょくに優れた大男でも引けません。ただ使い手がエルフであれば軽々と扱えるマジックスキルがある。矢筒は矢の補給が不要。エルフのヴァルハラから、祖霊が自動で補給してくれるようです」


 エルフでないと生かせない装備な上、とてつもなく高価なので、先代の頃からずっと倉庫に保管されていたんだと。


 エミリアが身に纏った防具は、ミスリルのチェインメイル。というかチェインスカートと、チェインタンキニの組み合わせ。要するに、シルバーのかわいい水着みたいなもんだ。こちらはネームドではないものの、やはりアーティファクトだという。


 あと、魔力を補填し強化する、各種のアクセサリー。かわいい指輪が三つに頚飾けいしょく――つまり首飾りがひとつ。もちろん特別な品だ。なんか色々名前とか由来とか教えてくれたけど、覚えてない。いやタンキニスカート姿のエミリアに見とれていたからだけどさ。あれめくったら、どんな下着が見えるんだろうかな、とか……。


「ゲーマ様」


 帳場のテーブルに、店主は宝石を幾つか転がした。それを左右や上下にあれこれと動かしてから、俺に見せてきた。


「総額はこちらになります」


 どうやらこの世界のそろばん的な奴だな、これ。


「ゲーマ様から仕入れと運営資金にと貸し付け頂いた資金の八割ほどにもなってしまいます。……いかがでしょうか」


 はあゲーマ、随分貸し込んでいたんだな、ここに。


「いいよ。これ全部で借金総額と相殺しよう」

「えっ!」


 武器屋の親父が絶句した。


「それでは……ゲーマ様が大損では……」

「構わん。貸金の管理も面倒でな」


 つい本音が漏れた。とにかく貸出先、減らしたいんだ。ゲーマの奴と違って俺は、どんぶり勘定で生きてきた底辺社畜&即死モブだからな。二周目転生は、楽して生きたいんだわ。目標は、楽で儲かって女付きの人生な。


「あ、ありがとうございます」


 俺の手を両手で握ると、ぶんぶん振ってくる。


「この御恩は、一生忘れません」


 そのとき、俺の胸がどんと叩かれた。服の内側から。


「ああルナ、忘れてたよ。悪かったな」

「へ?」


 親父が口をぽかんと開ける。


「今、なんと……」

「いや独り言だよ、悪いな。実は残りの貸付金であとひとつだけ、揃えてもらいたいものがあるんだが……」


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