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3-1 ヘクタドラクマコインの秘密

「ちょっと待って」


 俺の屋敷。晩飯の席で、シャーロットは飛び上がった。俺ひとりのときは自室――つまりゲーマの居室で食うんだが、今日はシャーロットがいる。だから商談用の豪勢な客間に食事を運ばせている。


「それじゃあゲーマ、あなたは転生者で、モブーとかいうもうひとりのあなたを助けながら生きていくっていうわけ?」

「ああそうだ」

「嘘っ! 転生とか、聞いたことないし。しかも二周目がどうのこうのとか……」


 驚きのあまり、箸が……じゃないか、フォークが止まっている。まあそりゃ信じられないよな。これから冒険を共にする仲間だ。隠しながらのクエストは困難だし面倒だ。だから全部話すことにした。エミリアにだって、転生翌日には話したからな。


 まあ……ここがゲーム世界だってのだけは秘密にしてあるけど。ここに暮らす人間にとって、それは最大の衝撃だろ。自分が登場人物だなんてわかったら。


「どういうことよ」

「いやどういうもこういうもな……。妖精なんて貴重な存在を俺が連れてるのが、その証拠だ」

「そうだよー。ボク、女神様に遣わされたんだからね。ゲーマを助けるようにって」


 ルナは胸を張った。エミリアも食事の手を止め、俺とシャーロットの会話を聞いている。唯一、飯をもぐもぐかっこんでるのは、テーブルにあぐらをかいた妖精ルナだけだわ。こいつ、女神に似て食い意地張ってるからな。


「それにわたくしが驚いたゲーマの大魔法が、実はルナの技だったなんて……」


 絶句したな。あれで俺のこと、大魔道士と思い込んだしな、シャーロット。


「俺のせいじゃないぞ。勝手にお前が誤解したんだ」

「それは……そうだけれど」

「俺は、大魔道士でもなんでもない。ただの悪徳金貸しだ。世間の噂どおりにな。そうとわかっても、シャーロット、お前は俺と行動を共にしたいのか」


 ここ、はっきりしとかないとな。嫌われるなら、そこまでだ。離脱されても構わない。どうせ俺は悪役だ。人に好かれるはずがない。たった独りで生きていくのも仕方ないと覚悟はしている。ルナとエミリアがいてくれるだけ、まだマシだ。


 いずれにしろ懸念の芽は、早いうちに潰しておきたいからな。シャーロットの性格からして、別れてもこの秘密を誰かに明かすとは思えないし。


「それは……」


 俺の目を、ちらりと見る。迷うように、瞳が揺れている。


「どうしよう……。でも、ゲーマは悪い人には思えないし……」


 それきり、言葉を発しない。


「まあ、今晩ひと晩、ゆっくり考えろ。明日の朝に返事を聞く」

「う、うん……」

「ほら、食べろ。エミリアの料理、うまいだろ」

「た、たしかに……」


 ようやくフォークが動き始めた。それを見て、俺もエミリアも飯を再開する。


「ゲーマ様……」


 遠慮がちに、エミリアが声を発した。


「なんだ、エミリア」

「その……コイン」

「コイン?」


 なんだ。小遣いでも欲しいのかな。ゴスロリメイド服用のヘッドドレスが欲しいとか……。


「その……ヘクタドラクマコイン」

「ああ、それか」


 あの古城でさっき、ノイシュ王の幽霊が言ってた奴な。古の魔道士が作製したとかいう魔導コインで、七つ全部集めると特別な力が使えるとかなんとか。


「それ、エミリアに聞きたかったんだよ。俺、なんでそんなの一枚持ってたんだ」


 エミリアはそのこと知ってたからな。俺……というか俺が憑依転生する前のゲーマ、七枚集めて世界を支配するとか考えてたのかな。悪党だけに、あり得る話だ。


「ゲーマ様は、王家……いえ王女のために動いていた……」


 エミリアが爆弾を放り込んできた。


「はあ? どういうことだよ」


 わけがわからない。


「ゲーマ様は昔、フィオナ姫と……関わり……が」

「そうなの!?」


 本人が知らんのも情けないが、知らんものは知らん。


「呪いでフィオナ姫が昏睡して……」

「それから」

「ゲーマ様は……呼び出された」

「誰に」

「国王」


 無口なエミリアだけに途切れ途切れだったが、話は長く続いた。なんとか聞き出してまとめると、要するにこういうことだった。


 その頃のゲーマは、早世した親の家督を継ぎ、金融屋になった。その際、没落貴族の婆さんから、貴族爵位を譲り受けた。多額の資金援助の見返りとして。婆さん、泣いて喜んだってよ。


 大枚はたいて爵位を手に入れたのは、特異な貴族職に就けるからだ。いやつまり、王族や貴族相手の金融屋、金貸しってことさ。


 封建社会では金の流れが滞る。貴族には面子があり、自由な資金の往来ができなかったからさ。貴族社会では金銭は汚らわしいものとされ、表立って語ることすら難しかった。金融貴族は、その欠点を補完するための必要悪とされた。


 だから金融貴族は便利屋として使われながらも、軽蔑され侮蔑されていた。もとは商人だったゲーマの貴族成りが暗に認められたのも、そのため。下々の存在たる商人から金を借りるのは貴族や王族の恥……という認識があったからだ。その点、同じ貴族からの借金なら、「誇りある貴族間の、友情に基づく資金提供」という形になる。早い話、貴族のプライドを満たすためだけの措置だったわけだ。


 国王はゲーマにこう頼んだ。金融業務の手を一気に広げよと。そうして世に流通する大量のコインを授受し、その中から幻のヘクタドラクマコインを探してほしいと。


「ならなにか、俺が転生する前のゲーマが意地汚く金カネ言ってたのは、ヘクタドラクマ収集のためだったってのか」

「はい」


 エミリアは頷いた。


 大衆や貴族から蛇蝎のように忌み嫌われても、ゲーマは意に関さなかった。すべてはフィオナ姫を救うため。そのためなら自分ひとりの評判など地に落ちて構わないと。


「はあ……」


 よくそんな辛い仕事ができたな。俺なら無理だわ。悪評を甘んじ、命の危険すら感じながら毎日大量のコインを集め、鑑定するとか。


「そうしてついに、ゲーマは一枚のヘクタドラクマコインを入手したってわけね」

「はい、シャーロット様」


 シャーロットのフォークは、また止まっている。


「それでゲーマ、あなたこれからどうするの」


 シャーロットに振られた。エミリアもルナも、俺の言葉を待っている。


「ちょっと待て……」


 考えた。どうやらこの世界、表立ってのゲーム設定とは異なる、膨大な裏設定がありそうだ。単に正義の味方が悪の魔王を倒す――という、ありきたりなストーリーとは違う。プレイヤーとしての血が騒いだ。楽で儲かって女付きの人生を目指すのは今だって変わらんが、どうせならついでに、世界の謎も探りたい。


 いや別に俺は、魔王を倒すとかなんとかは関係ない。そんなのはあのアンドリューに任せとけばいい。俺は俺で、一周目モブーを助け自分の死亡フラグを折りながら、この世界を楽しめばいいよな。


「俺は……」


 見回した。俺には仲間がいる。忠実なエルフのエミリア。生意気でやかましいが、頼りになる妖精ルナ。それに……もしかしたらパーティーに加わるかもしれない魔道士シャーロット。なら……ゲームを少しは遊んでもいい。なに、嫌になったらすぐ止めちまえばいいんだ。


「この世界を見て回りたい。謎と秘密に満ちた、この世界を。最初の目標は、モブーの動向を探ること。そして眠りドラゴンの巣、探索だ」

「ゲーマ様……」


 エミリアは頷いた。


「いいね、ゲーマ。ボクも力になるよ。この妖精女王ルナ様がねっ」


 嘘つけ。どこが女王だ。支配する国すらないのに。お前さっきも俺の守護神だとかなんとかホラ吹いて、またかよ。


「……今ので決心が着いたわ。わたくし、ゲーマのパーティーに入る」


 シャーロットは宣言した。


「アンドリューの独善パーティーなんかより、よっぽど面白いことがありそうだもの」


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