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好感度アップアイテムを貢いだのに結婚エンドじゃないってなんですか?一度あげたくらいで結婚することになることもおかしいですが〜物を渡すと求婚扱いになると言われ塞がれたから焼き鳥にしたい〜

作者: リーシャ

乙女ゲーム並みに婚約者に贈り物やマメな電話をしたりして、好感度をあげるために日々コツコツしたことはなんだったのだろう。


現婚約者が突然、恋人を連れてきました。


彼女と結婚するので別れてください。


あ、ちなみに心変わりとかありえないから迫ってこないでね。


何か言うことありますか。


とかなんとか。


言われたことに呆然としていると、代わりにせっせとアルテイシニアの専属侍女が、元婚約者に今までの贈り物や交際費の請求額を、記したものを彼に渡す。


それにビビった男は「君の家は金持ちだからケチくさいことを言うな」という理由にもなってないことをいう。


貢がれていた金額に恐れ慄いたのだ。


それはそうだろう。


彼はふざけたことをいうものの無理。


(はあ、どんな世界でも好感度はものっていうのは常識でしょ)


契約に記されてしまっているのだ。


アルテイシニアを溺愛する父親の都合と嫉妬を滲ませた書類。


契約書は確実に効果を発揮して、彼も彼の家も草一本残らず消える。


家名も資産も継ぐものもない。


「ま、待ってくれ!や、やめる!」


金額を目にした元婚約者が恋人を振り払う。


「ムルゴ!?」


恋人が慌てふためく。


婚約者とは別れるよ、と自信満々に自慢していた結末が、真逆だったからだろう。


ムルゴはいまさらなことをいうけれど、本当に手遅れ。


片方にも片方にも責任は半分ずつある。


二人が別れることはできるが、その場合恋人もただではすまない。


片方にも不貞の罪はあるのだから。


逃げ切れるような、都合のよい展開は起こらない。


後日談になるが、男も女も全てなくしボロを着たまま、街から放り出される。


街にも潤沢にお金を大盤振る舞いで、他の店も恩恵がたっぷり。


追放と同等のことになり、彼らはゆるしてくれと言ってきたとかいないとか。


彼らだけではない。


子の責任は親の責任でもある。


というわけで血縁者たる家族も揃って、恩恵からもなにもかもから外された。





「失敗した失敗した」


馬車に乗ってからひたすらぶつぶつと繰り返す。


「乙女ゲームをやり過ぎた影響で、無意識に好感度上げの真似をしてしまってた……!」


別に婚約者が好きだとか、そういう恋愛模様もない。


とくに好きでも何でもなくても、とりあえずものをあげれば好感度があがるという、反復行為を今もやっているだけだ。


それに、好感度があがろうとまともに攻略してない対象と、結婚エンドにいけるわけがないことにも、気付くのに遅れた。


乙女ゲームでさえ、一つでもイベントを逃したら告白しても友達エンドなんて、嫌というほどあったというのに。


「はあ、これがぞくにいうセーブして始めからやるってやつだ」


婚約解消となったのだから、なにもかも始めからとなる。


「お嬢様、おいたわしや」


専属侍女が泣いている。


何で泣いているのか。


「上げすぎも攻略的には失敗するかもね」


肥料や水のあげ過ぎが原因で根を枯らす、という知識を思い出して納得した。


あの婚約者は、根が枯れてしまったということらしい。


いや、根が腐っていたのだろう。


始めの頃を思い出すと「ぼくになんか」「毎回悪いです」「ありがとう」といったおまけボイスを毎回提供してくれたのに。


それが今では「ふーん?」「まぁまぁ?」「前と色がかぶるんだけど」「化粧してこれば?」などといった方向に捻じ曲がってしまったらしい。


もしや、だが。


アイテムを渡すアルテイシニアの行動を、自分に惚れているからという勘違いを、起こさせてしまっていたり?


「ありえる。好感度高くあげるには値段が高いアイテムがやっぱりいいかと思ってたしぃ」


育て過ぎて枯らした。


よいものをくれるから、婚約者は自分が好きと思い違いをしたんだ。


アルテイシニアはド下手飼育者だった。


ものを渡し過ぎたのだ。


しかし、アプリゲーム完熟期においてゲームをいくつも掛け持ちなどだれでもやってたろう。


簡素に済ませるのは掛け持ちの基本。


今だって、恋愛ゲーム+令嬢生活ゲーム+経営ゲーム+スローライフ+アルファ状態だ。


それなのに恋愛ゲームで毎回同じシナリオを読まずにプレゼントあげまくるなにが悪いっての??


相手から愛されているとかならまだしも、全然そんなの感じなかったし。


溺愛の正反対である無関心は、向こうも同じ。


それに、勝手に浮気して婚約を破談にしたのもあちら。


浮気したかったらまず、別れればよいのだ。


アルテイシニアはぼんやりして、お店に寄ることにした。


馬車を停めてもらって、フラフラと入る。


「わ」


どんと胸板にぶつかり、パッと前を向くと大柄な男がこちらを見下ろしていた。


当たってしまったことを謝ると、共に私物を取り出す。


「すみませーん。お詫びにこれあげます」


「……は!?」


相手の仰天する声を聞きながら手放した高級なもののことは、その瞬間忘れる。


やはりアイテムを無闇に渡すのはゲームのせい。


もうくせみたいなもの。


そうして、傷心というわけでもなく。


ただ水やりし過ぎていたという事実に軽くショックを受けただけのアルテイシニアの心はすぐに持ち直した。


掛け持ちしていたゲームデータが、一つなくなっただけだ。


「それにしても一年以上だったから、名残惜しくはある」


勝手に消えるデータなどは不良品だ。


体をぶらぶらさせて、また買い物に出かけようと馬車を出させた。


金持ちだが、アルテイシニアは忙しいので溺れることは今の所ない。


「おい!」


馴染みの店に向かうと近寄る男。


銀色のようにも見える髪が特徴的だ。


護衛がサッと盾になる。


「はいはい。私でしょうか」


護衛越しで対応。


これでも国では上位の資産家の娘。


「ああ。お前の気持ちはわかった。お前と結婚する」


結婚……?


「いつのまに結婚RTAやってたんだっけ私??」


そんなものに着手した覚えはない。


「何言ってる。早く行くぞ。挙式はもう予約しているからあとはウエディングドレスを選べばいい」


「コーデゲーム始まった???」


挙式?


ドレス?


彼は、こちらの困惑をものともせずに話しを進めていく。


「なんのことかわからないといいますか。本当になぜ、どこから結婚のお話に??私には身に覚えがなくて」


本当に突然のプロポーズは、あまりに唐突なできごと。


「この前おれとぶつかったときにものをくれただろ。おれの種族の決まりごとに、貢がれたら求婚というものがある」


「異世界あるあるだああああ」


うっかりをまたやらかしたようだ。


「銀鳥族では皆そうやって求婚する。はあ、やっとまともに話しがわかるやつがいてよかった。ここら辺じゃ、言葉だけ告白してものをくれないのに、やれ……なんで告白を受けてくれないとか、付き合ってくれとか、こっちの台詞なのにな」


告白はすごくあったらしいが、必須アイテムなしでの告白だったので、彼は受けたくても受けられなかったらしい。


逆に自分は告白してないのにものを渡してしまった。


短縮スキップして、ズルした気持ちになるんだが!


「しかも、銀鳥族では最愛を示す銀色のものを渡してきた。それはおれだけのものになるっていう意味でな」


銀色のアイテムは高級品としての色として多いので、たまたまだ。


「あー、えーっと、すみません。ただお詫びとして私物を渡しただけなので求婚してません」


「……は?」


「ほんと、すみません。ごめんなさいって気持ちで渡しただけであなたにこれっぽっちも好意を抱いてません」


「はぁ?」


怒りというより、悲しみのある声音。


「ほんと、本当に違います」


言い切ると男は俯き、顔をあげる。


「無理だ。おれはお前を最愛にすると決めたから、お前以外愛せなくなった」


「おっもおおお」


気持ちが重過ぎて背負いきれない。


「絶対お前と結婚する」


絶対結婚する意識が強火。


「いやぁすみません。無理です」


「なんでだ?どこらへんだ」


「私婚約者なくしたばかりなので、すぐには無理なんですよ」


「嘘つくな。調査によれば大して興味がなかったらしいじゃないか」


もう調査してるとか、怖い。


「間違って求婚したことは理解してもらいましたよね」


「理解するのと別れるのは別」


「ですよねぇ」


彼は諦めてくれそうにない。


「帰りますけど、断るのでお忘れなく」


しないったらしない。


家に帰って三日後。


父が部屋に来て、だくだくと涙を流して娘に懇願する。


「お願いだアルテイシニア」


「どうしたの父さん!?」


こんな父を見るのは初めて過ぎて、夢かと思える。


「銀鳥族のフルメロネラと結婚してくれ」


「え!?私が政略結婚?」


ありえない。


父の資産ぶりは誰にも揺るがせられない筈なのに。


「銀鳥族は、商売や資産に紐づくくらい神格化されている種族なんだ。結婚を断ったら父さんはお前を養えなくなるかもしれない」


父は、娘をこれでもかと溺愛しているのを知っているからこそ、父が保身で言っているわけじゃないことがわかる。


ということは、かなりガチな無一文になるコースだ。


こええ、銀鳥族こええ。


確かに、名前からしてありがたーい当て字にはなってそう。


もしかして銀行や金を管理する一族なのかもしれない。


「嫌だ」


が、これとそれとは違う。


「あのね。父さん。私は自分だけが助かりたいから、嫌だって言ってるんじゃないよ。卑怯なことをする人の妻になりたくないだけ」


「ありとあらゆる商売から排除される。ああ、すまない。力のない父を許せ」


嘆く父に背を向けて手紙を認める。


したためた手紙を父に預けて、フルメロネラとやらに届けてもらう。


その日、アルテイシニアは庭園にいた。


うちの自慢の庭だ。


「待たせた。待たせるつもりはなかったが」


「いえ、私が早く来ただけですから」


「これ、手土産に持ってきた」


言外に脅してきた人とは、思えないような態度。


庭園に現れたのはフルメロネラ。


銀鳥族だ。


「座ってください」


「もっと怒っているかと」


「ふふ。怒ってますよ。とっても」


「そうか」


「ええ」


少し間が開く。


「脅しているつもりはない。ただ、結婚を申し込もうと」


「そうでしょうか?私のことを調べたのなら、父の資産や商売のことも調べてないはずありませんよね」


「ああ。嘘だ。嘘をついた。わかってて、結婚を申し込んだ」


おかげでこの人と結婚するしかなくなった。


おそらくもう、嫁の貰い手がなくなっている。


銀鳥族は商売に太く関係している種族らしく、商人の基礎を築いた種族とも言われているほどの存在。


いわゆる、商いの祖。


「あなたほどの人ならば私ではなくとも結婚できると思うのですが、私でない方々のどこに不満を?」


「そうじゃない。その、色々言ったはしたが、二度目に会った時、会話した時に一目惚れというか二目惚れした」


「はぁ、二目惚れですか……?」


独特な言い方するなぁ。


「銀鳥族は通貨になるほど有名なんだ」


「あ、あれって銀鳥なんですか?ハトと思ってました」


「ハト?」


「はい。異世界の鳥ですよ。平和の象徴なので、ここでもそうなのかなって」


「異世界。そうか。お前がとても意欲的なのは異世界の転生者だからか」


「ですねえ」


この世界は割とそういうのがいる。


アルテイシニアもその一人。


「まぁ、おれは白いから余計に神格化されて、一族でも尊敬と敬遠を同時に受けている」


「白いんですね。ハトも白いのはさらに平和の象徴なので、よく式典とかで羽ばたかせるのを見ましたよ」


「もっと驚くかと思ったが」


「ああ。遺伝子関係は異世界じゃすでに解明されてるんで。白かろうが他と違ってもとくにこれといっていうことはありません。私の知る世界じゃ皆驚きはしますけど、それだけですね」


「敬わないのか」


「敬うのは、ないですね」


精々が、その人と一緒に写真を撮る程度なのではないのかな。


「お前はおれが怖いか?」


「強引に婚姻を捻じ込むところが、殴りたいです」


「それだけか」


「はい。ぶん殴っていいですか?断ってもリスクを負うのなら。どうせなら殴って同じように一家離散しますので!」


「!……構わないが、別に離散させようとは思ってない。誤解だ」


この人がそう思わなくとも、別の人が勝手にやらかしそうで、なんだかなぁ。


「羽毟られたくなかったら、黙って頷いてもらっていいですか?」


「……!」


男は黙って頷く。


アルテイシニアは静かに父のコレクションの一つ【あなたは国に貢献しましたで賞】のトロフィーを持ち上げる。


父に話しを経由させた王家から、もらったコレクショントロフィーでこの人を殴りつける。


なんという復讐。


ふふ!


これで殴ったとあとから知れたら、あっちもタダでは済まない!


「この凶器はですね。王家から貰い受けた凄いものらしいです。これであなたを殴りますね?この王家のトロフィーで。ということは、これは王家が殴ったということにもなります」


「こじつけが凄い」


「いいんです。あなたも覚えておいてください。半分王家があなたを害したと」


「ああ。わかった。王家にも恨みを抱えていることが」


男は目を閉じて衝撃に備えた。


しかし、痛みはやってこない。


代わりに頭の上に重みを感じる。


目を開けると女が座っており、紅茶を飲んでいた。


「殴らないのか」


「殴りましたよ。頭に乗っているでしょう」


「乗ってはいるな」


乗っているだけ。


殴りつけたわけでもなく、置かれただけ。


「殴るといっても人によって認識が違います。私の殴るは精神的な意味が強いです。私が殴ると言えばあなたは殴られることを覚悟して目を閉じました。その時点で精神的にもうあなたを殴っているというわけですよ」


「お前は、それでいいのか?おれが恨めしいと言っただろ」


「強引で、家族を巻き込んだのですから誰だって怒るし恨みます」


「そうだな。お前の家族を人質に取ったようなものだ」


「ですので、これからは私があなたに対する人質になることにしました。あなたが次に私の自由を奪おうとしたら、私は自分を盾にしてあなたの自由を奪いますね」


「傷付けるのはやめてほしい」


「私の心を片付けておいて、いまさらですよ」


「ぐ……好きなんだ。こうやって対等に話してくれるところとかをな」


降参するようにテーブルへ額をべったりと付ける男。


大柄なので動作が一々目立つ。


「どうか、頼む。結婚して欲しい」


「うーん。そんなに望まれるのなら頷きたいところなのですがね。問題が」


「なんでもしよう」


なよっとした顔から一変、キリッとさせた。


「王家に一度押さえつけられた屈辱が忘れられなくて……そうだ。フルメロネラさん。提案があるのですが」


アルテイシニアは悪どい顔を隠さずに、彼へ囁く。


「王家はもううちの資産も商品もいらないってことで受け取ってますので、最大報復発射します。なのであなたは王家へ借金として融資してください。一緒に国取りをやってみませんか?」


悪いことを言ったのに男は目を輝かせる。


「それは、結婚してくれると?」


「うーん……婚約はするしかありませんよねぇ。もう情報が行き渡っていて私の嫁の行き場がないみたいなので」


銀鳥族の申し込んだ相手に、申し込む猛者はいない。


一生嫁にも行けないこと確定。


他国で探しても似たようなことになるだけだろう。


「まあ、消去法ですし。結婚するには歩み寄りますけどね。愛とか恋とかになるかは、未来の私に任せるとしか」


好きにならないかも知れないということも、肝に命じておいてほしい。


「ああ、大切にする!」


「ありがとうございます」


「アルテイシニアと呼びたい」


「アルテイでも構いませんよ」


「お前のために記念の劇場も作る予定だ」


「なら、面白いお話があるので公開して欲しいです」


熱量の差があり過ぎるよ、と庭園の片隅で見守っていた父が、後日娘に対して嫁に行くことになったと、大泣きしながら評価した。

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