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元魔王の娘が聖女とか笑えません! 1

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 ヘレナ教の大神殿にある女神像が光ったのは、わたしが十七歳になった冬のはじめのことだった。

 その日は朝から大砲の音が轟き、わたしは戦争でも起こったのかと驚いて飛び起きた。

 わたしの小屋にご飯を食べにくる雀たちに何事か知っているかと聞くと、雀たちは大神殿の女神像が光ったと人間たちが騒いでいるのを聞いたと教えてくれた。


 ……女神像が光ったってことは、聖女選定が行われるのね。


 今からおよそ百年前に聖女が死んでから、聖女は誕生していない。

 今生きている人間の誰もが聖女を見たことがなく、ましてや聖女選定を経験したことがないのだから、それは大騒ぎになっても不思議ではなかった。

 大砲を打ち鳴らしたのも、慶事だからだろう。心臓に悪いのでせめて予告をしてから大砲を鳴らしてほしかったが。


「聖女ね。いったい誰が聖女に選ばれるのかしらね」


 一つわかっていることは、それはユリアではないだろうと言うことだ。

 ユリアからは何の力も感じない。だからわたしは彼女が暮らしている邸の目と鼻の先で平然と魔術を行使することができているのだ。ユリアが聖女だったら、わたしが魔術を使えば何かしらの気配を察知するはずなのである。


「……聖女が選ばれたら、極力近づかないようにしないといけないわね」


 聖女の力にもよるだろうが、魔力と相反する力を持っている聖女ならば多少なりとも魔力を感知することができるだろう。魔力を持っているなんて騒がれでもしたら、わたしは千年前の魔族の生き残りとして処刑されるのが関の山だ。


 ……魔族は全員殺されたみたいだから、生き残りなんていないだろうけど、ある意味転生したわたしは生き残りと同じようなものでしょうし。


 わたしは雀たちに、もし聖女が選ばれたら誰が選ばれたのかを教えてほしいとお願いして、棚からパンの残りを出すと、細かく砕いて皿の上に乗せてやる。


『ありがとう』

『任せておいて!』


 雀たちがパンを啄みながら答える。


『でも、聖女選定は貴賤問わず女性は全員受けなければならないって言ってたよ』

『エレオノーラも受けないといけないんじゃない?』

「そうだったわ……」


 わたしは額を抑えた。

 そういえばそんな決まりだった。

 生まれて国に登録されていない特殊な人間ならいざ知らず、一応クラッセン伯爵令嬢であるわたしは国に出生登録が出されている。

 わたしのことを化け物だと蔑んでいるゲオルグやカサンドラでも、国の定めを無視するわけにはいかないので、わたしは強制的に神殿に連れていかれることだろう。


 元魔王の娘であるわたしが聖女に選ばれるはずなんてないのだが、決まりである以上、それを破れば罰則がある。わたし個人への罰則だけであればゲオルグたちは無視するだろうが、その罰は家族も対象なので、たとえわたしが拒んだとしても引きずってでも連れて行くだろう。


「うわ、行きたくないなぁ……」


 勇者に対してもだが、千年前の聖女ヘレナにも恨みがある。

 そんなヘレナを祀っている神殿になんて行きたくもなかった。


 なんとか行かなくてすむ方法はないものかと頭を悩ませていると、突然、ドンドンと小屋の扉が叩かれた。

 何事かと思って扉を開けば、仏頂面をした使用人が立っていて、明日の午後に神殿へ向かうというゲオルグの伝言を告げて足早に去って行った。

 神殿に行くのは順番があると聞いていたが、どうやら選定は貴族女性から行うようだ。


 ……どうか貴族女性の中から聖女が選ばれませんように。


 わたしはため息を吐いて、心の中でそっとご先祖様の初代魔王陛下に祈った。


 わたしは魔王の娘なので、人間が信仰している神になんて祈ったりはしないのだ。



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