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元魔王の娘が聖女に転生っておかしくないですか?~前世でわたしを殺した勇者の末裔に言い寄られても困ります!~  作者: 狭山ひびき


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シュタウピッツ公爵領の秘密 2

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「俺も伝え聞いたことなので詳しくありませんが、今から数百年前、このあたりの地域で『魔族狩り』があったそうです」


 バルドゥルは話すのも苦痛そうな厳しい顔で続けた。


「魔族たちは住む場所を転々としていましたが、海が近く、山も多いこのあたりは隠れ住むのに持ってこいで、このあたりに長らく住み続けている魔族たちがいたのです。そんな彼らは人が入り込まない山の奥深くの谷間に小さな集落を作って生活していました。けれど、どこから聞きつけたのか……魔族がこの地にいると知ったこの地の権力者は、住民たちに魔族を捕まえてくるようにと指示を出し、同胞たちの多くが捕らえられたそうです。俺の先祖は運良く逃げた側でしたが、この地は危険だと、しばらく住処を変えました。けれど、やっぱり捕らえられた同胞たちがどうなったのかが気になり、遠くに逃げた俺たちは今から二十年ほど前にこの地に戻ってきました」


 バルドゥルたちは、それからかつて捕らえられた魔族がどうなったのかを調べたらしい。

 殺されている可能性が高いと考えていたので、せめて彼らが殺された場所に花を手向けたかったのだという。

 彼らは同胞たちが捕らえられた際に立ち向かわず逃げ出したことを後悔していたのだ。

 もちろん数百年前のことだ。記録になんて残っていないし、調べるには困難を極めた。

 十何年もかけて必死に調べていたバルドゥルたちは、ふと、おかしなものを見つけたという。


「ある邸の庭に、本来生息しているはずのない植物を見つけました」


 わたしの心臓が、どくん、と大きく脈打った。


 ……植物。


 それは、幻惑草をはじめとする、魔力ある土地でしか生息できない植物を言っているのだとわかったからだ。

 ドクドクと脈を打つ心臓とはやる気持ちを抑えて、わたしはバルドゥルの話の続きに耳を傾ける。


 ある邸の庭で本来人間の住む土地に生息するはずがない植物を見つけたバルドゥルたちは、その邸を調べることにしたそうだ。

 そして、見つけた。

 その邸の地下深くに捕らえられている同胞たちを、だ。


 バルドゥルはぎゅうっと拳を握り締めた。


「あいつらは俺たちの同胞を実験に使っていた。魔族の実験です。魔族の持つ魔力を有効活用できないかと、同胞たちを閉じ込め、時に実験と称して嬲り殺し、ずっとずっと、何百年も……!」


 ……そんな。


 わたしは、体をめぐる血が沸騰しそうなほど熱くなるのを感じた。

 血とともに体を駆け巡っているのは魔力だ。

 バルドゥルの話に自制できないほどの怒りを感じたわたしは、体中を駆け巡る魔力にどうしていいのかわからなかった。

 わたしの魔力が暴走寸前だと気づいたバルドゥルがハッと息を呑む。

 さすがにここで魔力を暴走させるのはまずい。

 わたしは何度も何度も深呼吸を繰り返すが、体をめぐる怒りはなかなかおさまってくれない。


「エレオノーラ様……」

「エレオノーラ」


 バルドゥルとディートリヒの声が重なる。

 そして、わたしの隣にいたディートリヒが、わたしをぎゅっと抱きしめて、ぽんぽんと背中を叩いた。

 わたしは大きく息を吸い込んで、そして吐き出す。

 ぽんぽんと一定のリズムで背中を叩かれていると、早鐘のようだった心臓が少しずつ、少しずつ落ち着いていくのがわかった。

 暴れていた魔力が小さくなっていく。


 ほっと体の力を抜くと、ディートリヒが「落ち着いた?」と優しく声をかけてくれた。

 わたしは大きく頷いて、ディートリヒの胸から顔を上げる。

 冷静にならなくてはならない。

 ここで怒りを爆発させても、まだ捕らえられているという魔族たちが解放されるわけではないだろう。


 バルドゥルによると、先日、その邸に何者かが連れてこられたという。

 そして、魔族たちが閉じ込められている地下に続く扉が開けられたそうだ。

 バルドゥルはその隙をついて、そこに捕らえられていた数名の男たちを救出するに至ったらしい。


「まだ多くの同胞が閉じ込められています。俺たちは同胞たちを助けたい」

「……ええ」


 わたしだって、助けたい。

 わたしは生まれ変わりだが、千年前の記憶が彼らを「仲間」だと、「家族」だと告げる。

 家族は助けたい。

 これ以上そのような暴挙を許したくない。

 わたしがディートリヒを振り返ると、彼も大きく頷いてくれる。


「魔族だろうと人間だろうと、誰かを拉致し監禁することは罪だ。しかも何百年も前から閉じ込められ家畜のような扱いをしていたなどという非人道的な行動は法に触れる。私はまだ王太子候補の一人だ。王太子候補として、この状況を見過ごせるはずがない」


 ディートリヒならそう言ってくれると思っていた。

 わたしは大きく頷き、バルドゥルに訊ねる。


「それで、その邸は?」


 バルドゥルはその邸のある方角を示すように振り返り、告げた。


「領主の館――シュタウピッツ公爵家です」









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挿絵(By みてみん)

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