表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元魔王の娘が聖女に転生っておかしくないですか?~前世でわたしを殺した勇者の末裔に言い寄られても困ります!~  作者: 狭山ひびき


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

38/42

シュタウピッツ公爵領の秘密 1

お気に入り登録、評価などありがとうございます!

 ディートリヒの腕の中で目を閉じていたわたしは、ハッと我に返った。


「ディートリヒ様、今はこんなことをしている場合ではありません!」


 恥ずかしいのもあって、わたしがディートリヒの胸をそっと押すと、彼はちょっと不満そうな顔をしつつも腕の力を緩めてくれる。

 呑気に抱きしめあっている場合でないことは、ディートリヒも理解しているのだろう。

 何故なら馬車の外ではいまだに騎士たちが気を失ったままで、そしてその横で、ボロボロの格好の「魔族」たちが食事をしているという何ともシュールな状況だ。

 千年のときを経て命を繋いで来た彼らから聞きたい話もたくさんある。


「そうだったね。彼らがどうして馬車を襲ってきたのかも知りたいし」

「ああ、それはたぶん、わたしのせいだと思います」


 魔王の娘の転生者であるわたしは魔力量が多い。

 魔族は近い場所にいたら魔力を感知することができ、相手の魔力が強ければ強いほど離れたところからも感知しやすくなる。

 おそらくだが、わたしの魔力を感知した彼らは、わたしが馬車に囚われていると勘違いしたのだろう。


 ……来てみればわたしは別に捕らえられてなくて驚いたみたいだけど。


 跪いたのは、恐らく彼らとわたしの魔力量の差からだ。彼らは魔力量の多いわたしを、魔王家の末裔か、それに準ずるものの末裔だと思ったに違いない。


 ……実際は転生者だけどね。


 魔王家は滅びた。両親も、兄や姉も、わたしも、小さかった弟も全員殺された。

 わたしは家族の中で最後に殺されたから、彼らの亡骸が積みあがっていたのをこの目で見ている。


「エレオノーラ、どうした?」


 ディートリヒに手を握られて、わたしは慌てて首を横に振った。

 昔のことを思い出したせいで険しい表情になっていたようだ。


「いえ、なんでもありません。ええっと、彼らはわたしがここに捕らえられていると思って救い出そうとしてくれたのだと思います」

「なるほどね。……でも、ずいぶんな格好だったけど」

「そうですね。それも気になります……」


 黒い髪や瞳に敏感な人たちの中では、その色を持った魔族が生活しにくいのはわかる。

 しかし、どこかに隠れ住んでいたとしても、彼らの格好はボロボロで、そしてひどくやせ細っていた。


「ええっと、わたしが話を聞いてくるので、ディートリヒ様はここにいてください」


 勇者の末裔で、さらには聖女の力を有しているディートリヒは、彼らを下手に刺激してしまうかもしれない。

 そう思ったのに、ディートリヒは一緒に話を聞くと言って譲らなかった。


「彼らが君に危害を加える可能性は低くても、心配だからそばにいたい」


 こんな風に言われたら、さっきの告白のことを思い出してしまってダメだとは言えない。

 熱くなった頬を抑えて渋々頷くと、ディートリヒが嬉しそうに微笑んだ。


 ……ああもう、調子が狂うわ。


 恋人になるのとならないのでは、こうも違うものだろうか。

 ディートリヒの発言や行動の一つ一つに照れてしまうのは何故なのだろう。

 わたしは気を取り直すようにコホンと咳ばらいをして、ディートリヒとともに馬車の外に出た。

 すると、ほとんど食事を終えていた彼らが顔を上げて頭を下げようとしたので、わたしは慌てて止める。

 彼らの説明を受ける前にもわたしのことを説明しておくべきだろうかと考えて、けれども何から話せばいいのかわからなくて、結局わたしは、ディートリヒにしたように、千年前の魔王の娘サンドリアの転生者であることを説明した。


「ええっと、だからわたしはずっと王都で暮らしていたのであなたたちのことは知らないんです。魔族が生き残っていたことも知らなかった……。だから、あなたたちのことを教えてもらえないでしょうか?」


 この千年、どうやって生きてきたのか。

 どこにいたのか。

 わたしが問いかけると、彼らの中から、リーダー格なのだろう。一人の男が前に出てきて、わたしの前にひざまずく。


「あの、だからそういうことは……」

「魔王陛下のご息女の転生者なのであれば、我らにとっては王に等しい方です。どうか、姿勢についてはお許しください」


 どうやら彼にとっては、跪いていたほうが落ち着くらしい。

 無理やり「やめてください」というのも何か違う気がして、わたしはあきらめて彼の好きにさせることにした。


 彼は、バルドゥルと名乗った。

 短く刈った黒い髪に同じく黒い瞳。年のころは三十をいくつか過ぎたくらいか。

 予想通り、魔族たちをまとめるリーダー格の男のようだった。


「まず、我らは魔族の生き残りです。我らの祖先は千年前の聖魔大戦の際運よく逃げ延びた魔族たちです。住む場所を変えながら、人間たちに見つからないように息を殺して生き延びて来ました」

「やっぱりそうだったんですね。では、今はこのあたりに隠れ住んでいるのですか?」


 すると、バルドゥルはぎゅっと眉を寄せた。


「それは、半分正解です」

「……半分?」


 バルドゥルは背後の男たちを見て、唇をかむ。


「我らは、いえ、我らの多くは、ずっと、数百年も前から捕らえられていたのです。後ろの彼らは俺が隙を見て逃がした者たちです。そしてまだ多くの同胞が、捕らえられ、家畜のような、実験動物のような、ひどい扱いを受けています」


 わたしはひゅっと息を呑んだ。








お読みいただきありがとうございます!


カクヨムWEBコンテスト9に以下の作品で参戦しています。

もしよかったら、フォロー、評価などで応援いただけると嬉しいです!

(現在カクヨムさんだけに投稿している作品です★)


★すべてを奪われた少女は隣国にて返り咲く★

https://kakuyomu.jp/works/16817330667744499608



どうぞよろしくお願いいたします!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ