エレオノーラの告白 4
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できるだけかいつまんで説明したつもりだったが、何分長い年月の話だったので、説明がすべて終わるまでに一時間もかかってしまった。
わたしが千年前の魔王の娘サンドリアの転生者であること、千年前の聖魔戦争、そして現在でも魔力を有していて魔術が使えること、さらには彼らがどうやら魔族の生き残りであることを告げると、ディートリヒは驚きながらも、少しずつかみ砕いて理解してくれた。
「……君に何か力があるんだろうなということは、なんとなく気がついていたよ。でもまさか、千年前に滅びたと言われる魔族の転生者だとは思わなかった」
ディートリヒの声には驚きがあったが、そこに侮蔑も嫌悪もないことにわたしはホッとする。
話した瞬間に、わたしを魔族だ化け物だと罵り剣を向けられる覚悟は多少なりともしていたが、ディートリヒがいつも通りであることがこの上なく嬉しかった。
「ユリアたちのように、わたしのことを化け物だとは思わないんですか?」
気がつけば、探るようにそんなことを訊ねていた。
ディートリヒは目を丸くして、ゆっくり首を横に振る。
「エレオノーラはエレオノーラだろう? それに、君の話を聞いて、私にだって思うところができた。私たちは過去の行動を正当化するためか、千年前に滅びた魔族は悪だと教えられる。そしてそれを滅ぼした勇者や聖女は正義だと、英雄だと語り継がれている。……でも、私には目の前にいる君が悪だとは思えないし、君の話を聞いて、語り継がれている話は正しくはないのだと言うこともわかった。すぐにすべてを消化することはできないけど、君は君で、特別な力があるだけで、私と何も変わらない女の子だ。私が守りたいと思ったあの時と同じ、ね」
聖魔戦争は、人間の歴史書には魔族が攻め入り人間を滅ぼそうとしたから起きたことだと書かれている。それはわたしも知っていた。何を勝手にと思ったが、歴史書なんてそんなものだ。生き残った方――勝者に都合のいいようにしか書かれない。だから憤るだけ無駄だと思っていたけれど、やっぱり心の底では納得していなかったのだろう。ディートリヒがそう言ってくれて、わたしはなんだか安堵に似た気持ちを抱いてしまった。
わたしはそっと視線を巡らせて「同胞」たちを見る。
彼らはわたしとディートリヒが話すのを不安そうに見ていた。
ディートリヒがいつわたしに危害を加えるかもと心配しているようだ。
ちなみにあまりに痩せすぎて、明らかに飢えていそうな彼らには、ディートリヒが馬車に積んでいた食料を分け与えてくれた。
基本的に宿をとるが、万が一野宿をすることになってもいいように、馬車には携帯食が積まれているのだ。
彼らはディートリヒが差し出した食事を警戒していたようだが、ディートリヒが一口食べて見せると安全だとわかったようだった。
……彼らにも話を聞かないといけないわね。
ディートリヒに話を終え、そして彼がわたしへの態度を変えないとわかったところで、わたしは同胞たちに話を聞こうと考えた。
けれども、それに待ったがかかる。
「エレオノーラ。君が秘密を打ち明けてくれたように、私も君に秘密にしていることがある。……これを聞けば、君は嫌な気持ちになるかもしれない。でも、秘密のままにしておくのはフェアじゃない気がするから……聞いてくれる?」
真剣で、それでいてどこか不安そうな顔をしたディートリヒは、わたしが小さく頷くと大きく息を吸ってから話しはじめた。




